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【UFC302】マカチェフ×ポイエー=展望 サウスポー同士の打と組のプレス、極まらないギロチンの思惑

【写真】ギロチンが頭にあることで、両者の動きにどのような影響がでるのか……(C)Zuffa/UFC

1日(土・現地時間)、ニュージャージー州ニューアークのプルデンシャル・センターにてUFC 302が行われる。コメインで元UFC世界ミドル級王者ショーン・ストリックランドとパウロ・コスタの注目の一戦が実現する本大会のメインは、P4Pランキング1位を独走するイスラム・マカチェフにダスティン・ポイエーが挑むライト級タイトルマッチだ。
Text by Isamu Horiuchi

王者マカチェフは、UFCで実に10連勝を達成した後の22年10月にシャーウス・オリヴェイラと王座を賭けて対戦。2R肩固めでタップを奪い、兄貴分であり無敗のまま引退したカビブ・ヌルマゴメドフが保持していたライト級ベルトを戴冠した。

さらに翌年2月には当時P4P、1位の座にあったフェザー級王者アレックス・ヴォルカノフスキーの母国・豪州に乗り込み、P4P1位×2位の頂上決戦を敢行。5Rの激闘を制したマカチェフは初防衛に成功したものの、あまりに僅差だったためP4Pランキングのトップは奪えずに終わった。


世界最高峰のパウンド・フォー・パウンド=王者マカチェフ
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キャリア30戦目の3度目の正直=ポイエー

続く10月、挑戦者として予定されていたオリヴェイラの負傷欠場を受けてヴォルカノフスキーとの再戦が急遽実現た。この試合は見事な左ハイをヒットさせたマカチェフが、倒れた挑戦者に鉄槌の雨を浴びせ、初回TKO勝ちを収めている。

世界最強のMMAグラップラーの名を欲しいままにする男が、世界最高峰のMMAストライカーをあっさり打撃で葬るというまさかの衝撃的な結末をもって、マカチェフは世界の誰もが認めるP4P1位の座に輝いた。

対する挑戦者ポイエーは、今回が何とUFC30戦目にして3度目の正規王座挑戦となる。その戦績を改めて眺めると目が眩んでしまうほど、長年に渡りライト級の並み居る超強豪たちと激闘を重ねてきている。

ポイエーが初めてUFCタイトルに絡んだのは、実にUFC22戦目のことだ。2019年4月、当時のフェザー級王者マックス・ホロウェイとの壮絶な殴り合いを判定で制し、ライト級暫定王座に輝いた。続く9月にポイエーは、(コナー・マクレガー戦後の乱闘による出場停止処分を解かれた)正規王者のカビブ・ヌルマゴメドフとの王座統一戦に臨む。が、初回からテイクダウンを奪われパウンドで削られた上、3Rにチョークで完敗を喫してしまい「俺はこの瞬間のために全てを賭けてやってきたのに」と涙にくれた。

復活を期したポイエーは、2020年6月にダン・フッカーとの大激闘を制すと2021年の1月と7月にMMA史上最大のメガスター、コナー・マクレガーとの2連戦へ。一度目はカーフを効かせてパンチの連打で倒し、二度目は上からのヒジで大ダメージを与えた挙句、打撃の交換時に足首を骨折したマクレガーを1R終了続行不可能に追いやって2連勝。王者シャーウス・オリヴェイラへの挑戦権を手に入れた。

そして迎えた12月の二度目の王座挑戦は、1Rから両者がノンストップで打ち合う大激闘に。左右の強烈なパンチを当ててフラッシュダウンを奪ったポイエーだが、2Rから組みで勝負してきた王者に主導権を奪われる。そのまま3Rにも組みつかれて背後を許すと、飛びついてきたオリヴェイラにチョークを深く入れられて万事休す。一度目の世界挑戦と同じ技で無念の敗北となってしまった。

約1年後の2023年11月、ポイエーはマイケル・チャンドラーと壮絶な撃ち合いの末に3Rチョークで仕留め、またしても復活を遂げる。が、続くジャスティン・ゲイジーとのBMFタイトル戦ではまさかのハイをもらい2RKO負けを喫してしまった。

長年君臨してきたトップコンテンダーの座からついに滑り落ちたかに見え「暗い精神状態に陥り、人生で最も辛い数ヶ月を過ごした」と語った35歳のポイエーは、今年3月に5連勝中と波に乗る28歳のフランスの気鋭ベノワ・サンドニと対戦。ランキング3位のポイエーが12位のサンドニの挑戦を受ける形であるにもかかわらず、オッズではサンドニが-225、ポイエーは+185、はっきり不利と予想されたリスクの大きい試合だった。

実際、凄まじいペースで攻撃を仕掛けるサンドニに1Rに腕を伸ばされかけ、2Rにもチョークを取られかけたポイエーだが、ここを凌ぎ切るとカウンターの左、さらに右フックをスマッシュヒットして逆転KO勝利。ベテラン健在を見せつけた。

そして翌月のUFC300にて、事態は思わぬ展開を見せる。この日シャーウス・オリヴェイラとのトップコンテンダー対決を僅差で制したアルマン・ツァルキャンは、それから2カ月以下の準備期間となるこのUFC 302大会での挑戦を見送ることを決定。そしてもう一人の有力なタイトルコンテンダーだったBMF王者ジャスティン・ゲイジーは、階級下のマックス・ホロウェイ相手にUFC史上に残る壮絶かつ劇的なKO負けを喫してしまう。結果として、サンドニに勝利して復活したばかりのベテラン、ポイエーにまさかの3度目の正規王座挑戦の機会が舞い降りてきたのだった。

ポイエーがその長く輝かしい激闘のキャリアの中で最も欲し、しかし唯一手に入れることができていないUFC正規王座。そこに挑むおそらく最後のチャンスが、本人が「これぞまさにセレンディピティ(偶然もたらされる幸運、またはそれを引き寄せる能力)だよな!」と語るような形で巡ってきたのが、今回のタイトル戦というわけだ。

圧倒的なテイクダウン&コントロール力で、下馬評は王者有利

しかし、下馬評では当然P4P絶対王者のマカチェフが圧倒的有利だ。両者のファイトスタイルを考えても、打撃が主武器であり、過去さまざまな相手にテイクダウンを許しているポイエーは、圧倒的なテイクダウンとトップコントロールと極め力を誇り、なおかつ打撃でも穴のないマカチェフには相性が悪そうだ。

実際にマカチェフも「僕は彼にとって相性最悪の敵だと思う。というか僕のスタイルは誰にとっても困難なものさ。彼はベストストライカーだから、他のストライカーを倒す力はある。でもプレッシャーを受けてテイクダウンされると、いつも同じ問題を抱えている。僕は別に彼とスタンドでも打ち合えるけど、望む時にはいつでも試合を楽なものにすることができる」と自信を漲らせている。

この言葉には他ならぬポイエー自身も「同意するよ。確かに相性は悪い。トップからヘビーなプレッシャーをかけてくる奴らレスラーは、試合を自分の望む方向に持ち込むことができるから。対して俺は『ファイト』の時に一番強い。でも向こうはそれをスローダウンして『試合』にしようとしてくる。俺はそこを『ファイト』にしなくてはならないんだ」と語っている。

そこでこの試合の大きな見どころは、スタンドの打撃戦をキープしたいポイエーと、距離を詰めて試合をグラウンドに持ち込みたいマカチェフの攻防、特に両者のケージ内での位置取りだ。

王者陣営には(今回久々にセコンドとして現場に戻る予定の)ヌルマゴメドフが5年前にポイエーから何度もテイクダウンを奪い完勝した実績があるが、その際に鍵となったのは、金網側にポイエーを追い込んだヌルマゴメドフのプレッシャーだった。オーソドックスのヌルマゴメドフは、サウスポーのポイエーと喧嘩四つであることを意に介さず、迅速のシュートインから金網に押し込み動きを封じ、テイクダウンを奪っている。

もっともマカチェフがポイエーをテイクダウンする道筋は、ヌルマゴメドフのそれとはやや異なる。サウスポーとオーソの戦いでは、前手と前足が近い。対して、サウスポーのマカチェフはポイエーとは合い四つで、自分からシュートインで飛び込むよりも距離を詰めて首を取る、あるいは胴に組みついてからのトリップを多用する。

が、一度距離を詰めて金網まで相手を押し込んでしまえば状況はあまり変わらない。そこからのマカチェフは、兄貴分のヌルマゴメドフに勝るとも劣らない圧巻のテイクダウン&バックテイク力を持つ。5年前に一敗地に塗れた後「カビブがプレスをかけてくるのは分かっていて、ケージに追い込まれない練習をしてきたのに、思うようにできなかった」と唇を噛んだポイエー。今回のスタンド戦でいかに金網際を避け続けられるかは、勝利への重大な鍵だろう。

そして当然──組みつかれても振り解き、振り解けずに倒されても立ち上がり、立ち上がれなくてもラウンド終了まで耐え続けることがポイエーが勝利するもう一つの鍵だ。今回、ATTのもう一人のライト級ランカーであるマテウス・ガムロもキャンプに入れて「アンチ・レスリング」を練るポイエー陣営。

コーチのマイク・ブラウンは「ダスティンの特性は、パワーを失わないことにある。25分という試合時間は十分に長い。そのどこかで強烈なのを当てればいいんだ。開始1分でも、24分でもダスティンは相手を倒す威力のある打撃を打てるんだよ」と語る。

左右どちらからも、長い距離でも短い距離でも強烈な拳を持つポイエーだけに、試合が持続する限り、大アップセットを起こす可能性はあるだろう。

ポイエーのギロチン・シンドローム

さらに──実はもうひとつ、現在ファンたちの間でポイエーの悲願達成のための「隠れた鍵」と囁かれている技がある。それは、ギロチンチョークだ。

前回のサンドニ戦では何度もギロチンを狙っては失敗して下になり、自らピンチを招いていたポイエー。ラウンド間のインターバルにてコーチのマイク・ブラウンに「もうギロチンはやめろ」と言われても指示を聞かず、次のラウンドも狙い続けては極め損ねている。結局なんとか勝利した試合後のインタビューでは、「俺は試合で一度もギロチンを極めたことはないけど、これからもトライし続けるぜ!」とまったく悪びれていない様子だ。

実は5年前のヌルマゴメドフ戦でもポイエーはギロチンを狙っており、これが深く入ってヌルマゴメドフは何度かトップを一瞬譲るような形での対処を強いられた場面があった。なので、今回のマカチェフ戦でもポイエーは懲りずにギロチンを狙うのではないか、という期待がファンの間で盛り上がっているのだ。

この件についてブラウン・コーチは「ダスティンのギロチン病は前回のサンドニ戦に始まったことじゃないんだ。その以前から狙い続け、こっちはもう何年もやめろと言い続けているんだ。でも奴は聞きゃしない」とぼやいている。

実際今回の試合前のメディアインタビューでも「ポイエーのギロチンは警戒しているか?」との質問がマカチェフに飛ぶ場面があり、マカチェフが静かに「もちろん。今日もその対処を練習してきたよ」と答える場面まであったほど、この技は妙に話題となっている。

ちなみに筆者は以前、マカチェフとよく練習をし、階級下ではあるがおそらくMMA界世界一のギロチンの使い手であるパッチー・ミックスにインタビューをした際に「あなたが練習でマカチェフからギロチンを取れるようなことはあるのですか?」と尋ねたことがある。

その時にミックスは即座に「ノー、絶対無理だ。首がとんでもなく太いし、あれほどギロチンを極めるのが不可能な男はいない。そもそもイスラムが練習で極められるシーンすら一度も見たことがない。上に乗られたらトラックが胸の上にあるようなもんで、とんでもないプレッシャーだ。イスラムは僕の知る限りパウンドフォーパウンド世界一のグラップラーだよ」と答えてくれた。

それほどギロチンを極めるのが不可能な恐るべき最強グラップラーのマカチェフに、これまで一度も試合で極まったことのないポイエーのギロチンが炸裂するという、とてつもない奇跡が起こる可能性はあるのだろうか。 

味方であるはずのブラウンコーチでさえ「もし今回ダスティンがギロチンで勝ってしまったら、地球が爆発するだろうね! 少なくともインターネット界は爆発するね!」と語るこのネタも、今回の試合を楽しむささやかな要素としたい。

■視聴方法(予定)
6月2日(日・日本時間)
午前7時30分~UFC FIGHT PASS
午後11時~PPV
午前7時00分~U-NEXT

■UFC302対戦カード

<UFC世界ライト級選手権試合/5分5R>
[王者]イスラム・マカチェフ(ロシア)
[挑戦者]ダスティン・ポイエー(米国)

<ミドル級/5分3R>
ショーン・ストリックランド(米国)
パウロ・コスタ(ブラジル)

<ミドル級/5分3R>
ケビン・ホランド(米国)
ミハウ・オレキシェイジュク(ポーランド)

<ウェルター級/5分3R>
ニコ・プライス(米国)
アレックス・モロノ(米国)

<ウェルター級/5分3R>
ランディ・ブラウン(ジャマイカ)
エリゼウ・カポエイラ(ブラジル)

<ミドル級/5分3R>
ロマン・コピロフ(ロシア)
セザー・アルメイダ(ブラジル)

<ヘビー級/5分3R>
ジャイルトン・アルメイダ(ポーランド)
アレクサンドル・ロマノフ(モルドバ)

<ライト級/5分3R>
グラント・ドーソン(米国)
ジョー・ソレツキ(米国)

<ウェルター級/5分3R>
フィル・ロウ(米国)
ジェイク・マシューズ(豪州)

<ウェルター級/5分3R>
ミッキー・ガル(米国)
バシル・ホフェス(米国))

<女子バンタム級/5分3R>
ホセリン・エドワルツ(パナマ)
アイリン・ペレス(アルゼンチン)(アルゼンチン)

<130ポンド契約/5分3R>
アンドレ・リマ(ブラジル)
ミッチ・ラポーゾ(米国)

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