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【UFC318】展望 BMFタイトル戦。ライト級の頂点へ=ホロウェイ×現役引退、激闘の歴史に終幕=ポイエー

【写真】ホロウェイは155ポンド、ポイエーは156ポンドで計量を終えている(C)Zuffa/UFC

19日(土・現地時間)、ルイジアナ州ニューオリンズのスムージーキングセンターにて、UFC 318:「 Holloway vs Poirier 3」 が行われる。メインイベントは、この日を最後に現役を去ることを表明している地元ルイジアナ州出身のダスティン・ポイエーが、マックス・ホロウェイが保持するBMF(Baddest Mother Fxxker =最高にヤバい奴)タイトルに挑む一戦だ。
Text by Isam Horiuchi

2017年にジョゼ・アルドを破ってフェザー級王座に就いて以来、長年同級のトップ戦線で戦い続けるホロウェイは、昨年4月のUFC 300にて階級を上げてジャスティン・ゲイジーのBMF王座に挑んだ。1R終盤にバックスピンキックでゲイジーの鼻を破壊し終始優位に試合を進め、迎えた最終R残り10秒。勝利が確定したはずのホロウェイは、オクタゴン中央で床を指差し「俺と打ち合え!」と叫ぶ。

(C)Zuffa/UFC

それに応じたゲイジー――。

振り回す拳を上回る回転力で連打を繰り出し、最後は凄まじい右フックをヒット。残り1秒でゲイジーが前のめりに崩れて失神するUFC史上最高のKOシーンをもって、ホロウェイはBMF王座に就いた。

さらに10月には、無敗の新王者イリア・トプリアのフェザー級タイトルに挑戦。スイッチと関節蹴りを有効に使って超弩級の強打者と渡り合っていたホロウェイだが、3Rに思い切り踏み込んでの右をもらってしまい、ぐらついたところに詰められて強烈無比な左フックを被弾。ダウンしたところにパウンドの連打を受けて生涯初のKO負けを喫してしまった。

この敗戦後まもなく、ホロウェイはライト級に階級を上げて新たな挑戦に踏み出すことを宣言。半年位以上の充電&準備期間をもっての復活となる。


対するポイエーは昨年6月、イスラム・マカチェフの持つライト級王座に挑戦。今まで2度失敗しているUFC正規王座奪取の最後のチャンス、と覚悟を決めて臨んだこの試合で、見事なテイクダウンディフェンスを見せて絶対王者と渡り合った。しかし最終ラウンドにシングルに入ったマカチェフは、ポイエーの左足を掴むと大きく旋回させるように引き付けて体勢を崩す。この見事な「奥の手」でポイエーをがぶってみせたマカチェフは、そこからダースチョークを極めてタップを奪った。

敗れたポイエーは試合直後のインタビューにて「僕はまだ戦えるけど、もうこれ以上何のためにやるのか。完全に決めたわけじゃないけど、これで終わりかなって思うよ」と語った後、祖母と母親、妻に感謝の気持ちを述べ、さらに父親の敗戦をケージサイドで目の当たりにし悲しげな顔の7歳の一人娘のパーカーちゃんに「パパは大丈夫だ。愛しているよ。誇りに思うよ。僕らは大丈夫だからね。常に夢を追いかけるんだ。美しいことなんだから!」とメッセージ。聞いていたパーカーちゃんがお母さんのお腹に顔をうずめて泣き出してしまう、きわめて心揺さぶられるシーンとなった。

(C)Zuffa/UFC

そのまま引退も考えていたという本人だが、熟慮の末UFCに最後の試合を故郷のルイジアナ州で行えないかと打診。

それを受けたUFCは、ポイエーの引退興行として、当初予定されていなかったルイジアナ州ニューオリンズでのPPV大会を決定した。ルイジアナ州では2015年6月以来実に10年ぶりのUFC大会であり、さらにナンバーシリーズということでは2002年5月のUFC 37以来、23年ぶりの同州での開催となる。

完全に一人の選手に焦点を当てたご当地興行にして、しかも世界タイトルも掛けられていない試合をメインとする大会をUFCがPPVイベントとして開催するのは異例のこと。ダスティン・ポイエーという選手がどれだけファンから敬愛され、UFCからも大切にされているかが窺えるというものだ。

(C)Zuffa/UFC

ポイエーがこれだけ高い評価を得ている理由は、その戦績をざっと見るだけでも一目瞭然だ。

2016年にはじめて大会メインを務めた後には、エディ・アルバレス戦アンソニー・ペティス戦ジャスティン・ゲイジー戦、ホロウェイ戦、カビブ・ヌルマゴメドフ戦コナー・マクレガー戦シャーウス・オリヴェイラ戦マイケル・チャンドラー戦、イスラム・マカチェフ戦という風に名だたるトップファイターたちと戦い続けた。

しかもそのほとんどで打ちつ打たれつという大激闘を展開し、獲得したボーナスは10度に渡る。しかもキャリアを通して連敗は一度もない。超強豪との激闘に敗れた次の試合では、別の超強豪を相手に必ず勝利してカムバックを果たしているのだ。

にもかかわらず──ポイエーはUFC正規王座獲得という、自身最大の夢を叶えることはできなかった。2019年にヌルマゴメドフに、2021年にオリヴェイラに挑んでは敗れ、その度に復活を遂げたものの昨年6月の3度目の挑戦も絶対王者マカチェフの厚い壁に跳ね返された。

だからこそ、ポイエーの激闘のキャリアが人々に伝えるメッセージは、一度は頂点を極めた王者たちのそれとは異なるものとなる。マカチェフに敗れた直後、上述のように7歳のパーカーちゃんにオクタゴンから語りかけた父親は、さらに彼女の頭を抱き寄せて控室に入る時にこう話している。

「もう気分は良くなったかい? 泣くことなんか何もないんだよ。これはお祝いなんだ。ダディは夢を生きているんだから!」

ポイエーの戦いの軌跡が物語るのは「努力をすれば夢は叶う」ということではない。彼の戦いは我々に「全力で夢に向かって生きること」自体の素晴らしさを伝えてくれていたのだ。

「僕は結局アンディスピューテッド(=議論の余地がない/誰もが認める)王者にはなれなかった。やれることは全てやったつもりだし、勝てばタイトルを獲得できるところまで何度か到達した。でも、できなかった。とんでもなく強い男たちと戦い、ミスを犯して目標を達成できなかった。でも、それが僕の物語なんだよ。(もしもう一度人生を生きられるとしても)重ねてきた努力を何も変えるつもりはない。誇りに思っているんだ。僕自身に、そして僕の家族にしてきたことをね」

さまざまな想いを抱きつつも、それらと折り合いを付けてオクタゴンを去ろうとしているポイエー。その引退試合にて我々は、彼が長いこと見せてくれた戦うことそのものの美しさを、最後にもう一度だけ目にすることができる。

その相手として、ポイエーと同時代を生き、劣らず激闘を重ねてきたBMF王ホロウェイほど相応しい選手はいないだろう。ただしポイエーにとってラストダンスの舞台となるこの試合は、ホロウェイには生涯初のKO負けからの復活を賭けた戦いだ。このハワイの英雄もまた、戦うことを通して我々に熱いメッセージを伝えんとするファイターだ。

「一度失敗したからって恐れることなどない。MMAはマラソンなんだよ。僕は生きているんだから。フェニックス(火の鳥の復活)モメントを見せるよ。新たに生まれ変わるんだ。Never fxxing give upだ。ファイターの価値は、どん底に落ちた時にこそ問われるんだ」

そう語るホロウェイにとっては、ライト級という新しい舞台で未来を切り開くためにも、ポイエーは是が非でも超えなくてはならない壁だ。

(C) DAVE MANDELL

実際にホロウェイはこれまで2度、ポイエーの軍門に降っている。

1度目は13年前の2012年2月、デビュー以来4連勝し20歳にして当時の最年少UFCファイターとなったホロウェイのオクタゴンデビュー戦だった。迎え撃ったポイエーは当時UFC3連勝中の23歳で、対戦相手の無名の若者のことを「ハワイのベリーグッド・キックボクサー」とだけ認識していた。試合は初回にテイクダウンからマウントを奪ったポイエーが、腕十字、三角絞め、マウント三角と流れるように展開した後に腕を伸ばして一本勝ち。ホロウェイにとっては、MMAの厳しさを見せつけられたプロ初黒星だった。

2度目の対戦は6年前の2019年3月。ライト級王者カビブ・ヌルマゴメドフがコナー・マクレガー戦後の乱闘騒ぎで出場停止となったことを受け、当時ライト級3位のポイエーと、フェザー級絶対王者として君臨していたホロウェイの間で暫定王座決定戦が行われた。試合まで約一ヶ月半のオファーでライト級に上げたホロウェイは、手数とヒット数では上回るものの、随所でポイエーの強烈な拳をもらい効かされての判定負け。腹回りの脂肪を「マフィントップ(カップから溢れ出るマフィンのような腹の)・マックス」とファンから揶揄されてしまった急造ライト級戦士のホロウェイと、4年前からライト級で戦っているポイエーとの一発の威力差が大きく響いた戦いだった。

上記の2試合とは違い、今回のホロウェイはライト級MMAファイターとして万全の準備を経て臨めると語る。

「今の僕は、(2019年の)ポイエー戦の時のように、無駄な10パウンドの肉を付けたマフィントップじゃない。あれから長い時間をかけてパワーを付けてきて、体もはるかに大きくなった。実際、(昨年4月の)ジャスティン(ゲイジー)戦では十分な準備をして、上手く体重を上げることができた。でも、あの時はまだその後フェザー級に戻すことを考えていたから、(ライト級の)フルバージョンではなかったんだよ」

大打撃戦となることが容易に予想されるこの試合。従来の圧倒的な手数に破壊力が加わった「ライト級フルバージョン」のホロウェイは、6年前には明白だった一撃の威力差をどれだけ埋められるのか。

またホロウェイの進化は、ライト級の身体を作り込んだことによるパワーの増加だけではない。近年は左右の動き、スイッチ、バックスピンキックや関節蹴りを有効に使う等、試合ごとに新しい側面を見せている。6年前の両者の試合では、オーソに構えるホロウェイがサウスポーのポイエーの前足の外側を取って小刻みなパンチを当てて行ったのに対し、ポイエーは要所で──そしてきわめて予想困難なタイミングで──インサイドに入り込んでの強打を当て、強引に試合の流れを取り返す場面が目立った。柔軟な肩の回転を利して見えにくい角度から突然飛んでくるポイエーの強烈な拳を、はるかに立体的かつ多様な武器を手に入れた今のホロウェイが、いかに捌いてゆくかも勝負のポイントとなる。

(C)Zuffa/UFC

そして、もしこ試合が5R終盤までもつれこむならば──観る。

観る者の多くが期待するのは、昨年のホロウェイvsゲイジー戦の試合終了間際における、あの10秒間の再現だろう。実際ホロウェイはその可能性について「(もし自分が最後に殴り合いを要求したら)100パーセントの確信があるよ。ダスティンは応じてくれるとね。ラストダンス、ラスト10秒。地面を指さそうじゃないか。向こうの方からそれをしてくる可能性さえある。間違いなく、全てを賭けてくるだろうね」と語っている。

それまでのポイエーの激闘の歴史の全てを凝縮するような、また敗北を乗り越え復活を遂げんとするホロウェイの魂が具現化するような、至高の10秒間が出現する可能性に胸を高鳴らせつつ、両レジェンドの戦いを凝視したい。

■視聴方法(予定)
7月20日(日・日本時間)
午前7時00分~UFC FIGHT PASS
午後11時~PPV
午前6時45分~U-NEXT

■UFC318対戦カード

<BMF選手権試合/5分5R>
[王者]マックス・ホロウェイ(米国)
[挑戦者]ダスティン・ポイエー(米国)

<ミドル級/5分3R>
パウロ・コスタ(ブラジル)
ロマン・コピロフ(ロシア)

<ウェルター級/5分3R>
ケヴィン・ホランド(米国)
ダニエル・ロドリゲス(米国)

<フェザー級/5分3R>
ダン・イゲ(米国)
パトリシオ・ピットブル・フレイレ(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
マイケル・ジョンソン(米国)
ダニエル・セルフーベル(メキシコ)

<バンタム級/5分3R>
カイラー・フィリップス(米国)
ヴィニシウス・オリヴェイラ(ブラジル)

<ミドル級/5分3R>
マーヴィン・ヴェットーリ(イタリア)
ブレンダン・アレン(米国)

<ウェルター級/5分3R>
フランシスコ・ペドロ(アルゼンチン)
ニコライ・ベレテンニコフ(カザフスタン)

<ミドル級/5分3R>
アテバ・グーティエ(カメルーン)
ロバート・ヴァレンティン(スイス)

<ウェルター級/5分3R>
アダム・ヒューギット(米国)
イスラム・ドゥラトフ(ドイツ)

<ライトヘビー級/5分3R>
ジミー・クルート(豪州)
マルチン・プラチニオ(ポーランド)

<ヘビー級/5分3R>
ライアン・スパン(米国)
ウーカシュ・プジェスキ(ポーランド)

<ミドル級/5分3R>
ブルーノ・フェヘイラ(ブラジル)
ジャクソン・マクヴェイ(米国)

<女子フライ級/5分3R>
カーリー・ジュディシー(米国)
ニコーリ・カリアーリ(ブラジル)

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