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【UFC320】展望 デヴァリシビリ×サンドハーゲン 愉しむから強くなるのか。それとも穴ができるのか

【写真】この身長差。何かが起こるのか。それとも王者は隙を全く与えないのか(C)Zuffa/UFC

4日(土・現地時間)、ネバダ州ラスベガス近郊のパラダイスのT-モバイルアリーナにて、UFC 320「Ankalaev vs Pereira 2」 が開催される。ライトヘビー級新王者マゴメド・アンカラエフに、前王者アレックス・ペレイラがダイレクト・リマッチを挑む重量級頂上対決をメインとする今大会のコメインは、圧倒的な強さを見せる王者マラブ・デヴァリシビリに、コリー・サンドハーゲンが挑むバンタム級タイトルマッチだ。
Text by Isamu Horiuchi

デヴァリシビリは、昨年9月ラスベガスの球体建造物スフィアで行われた空前のメガイベント=ノーチェUFC 306のメインにて、当時の王者ショーン・オマリーのタイトルに挑戦。遠い距離から一瞬でオマリーの懐に飛び込むと、突進を止めずに倒し切るテイクダウンを何度も決め、そのまま強烈な圧力で上をキープし、判定3-0にて悲願の王座奪取に成功した。

新王者は今年1月、18戦全勝の戦績を誇る最強の挑戦者ウマル・ヌルマゴメドフとの初防衛戦に臨んだ。序盤はテイクダウンを切られバックを奪われる場面もあったがデヴァリシビリだが、なんら動じることなくテイクダウンを試み続けてウマルを疲弊させ、中盤から形成逆転。後半も全くペースを落とさず攻撃を続け、最終ラウンドに至っては10秒に3回テイクダウンに入り、その10秒後にもまた仕掛けるという場面まで見せた。

さらに強烈な右を当てた王者は、最後にダメ押しのテイクダウンも奪取して試合終了。途轍もない意志の力による日々の鍛錬の継続のみが可能とする超人的なスタミナをもって、UFCバンタム級史上最高のグラップリング戦を制したのだった。


圧巻のテイクダウン波状攻撃と無類のコントロール力に加え、オマリーと打撃でも渡り合うスキルと度胸

6月にオマリーと再戦したデヴァリシビリは、前戦と異なり序盤から前に出て圧力をかけていった。前王者の一撃必殺の拳を怖がる様子など微塵も見せずに前進し、右を何度も当てた王者は、3Rに抑え込むことに成功。スクランブルを試みたオマリーを上からがぶり、RNCのようなグリップでその首を捕らえると、最後はノースサウスの形で絞め上げてタップを奪った。

圧巻のテイクダウン波状攻撃と無類のコントロール力に加え、オマリーと打撃でも渡り合うスキルと度胸を見せた上に、凄まじい極めの力まで見せつけての完勝。同階級にはもはや敵がいないのではないかと思わせるほどの強さを見せ、2度目の防衛に成功したドヴァリシビリだった。

対するサンドハーゲンは、キックボクシングをバックグラウンドに持ちつつ、多彩な極めも武器とするウェルラウンダー。今回が、UFC16試合目にして初の正規王座挑戦となる。過去には2020年6月、アルジャメイン・ステーリングとの挑戦者決定戦に挑むも1Rチョークで完敗。2021年にはピョートル・ヤンとの暫定王座決定戦を組まれるも、5R判定で惜敗している。

その後ソン・ヤードン、マルロン・ヴェラとのサバイバルマッチに勝利してランキング4位に付けたサンドハーゲンは、当時16戦全勝ですでにバンタム級最強と噂されていたが、上位ランカーたちがこぞって対戦を避けていたせいでランキング11位に留まっていたウマル・ヌルマゴメドフとの対戦を受諾。賞賛と同時に「なんと愚かな決断を…」という声も囁かれるなかで――。

「いいか、アンチどもは『なんでお前はそんな下位のランカーと戦うんだ』とか『お前はウマルにぶちのめされるぞ』とかホザきやがるが、(試合を受けたのには)二つ理由があるんだよ。一つ目。ウマルはグレートファイターで、俺は自分が実際に世界最強でないのに世界王者になろうなんて思ってねえんだ。ウマル戦は最高のチャレンジだ。二つ目の理由2 それは俺がビースト(獣)だからだ、クソ野郎どもが!」と、痺れるコメントを残したのだった。

その後ウマルの怪我による延期を経て、昨年8月に実現したこの試合。積極的に前に出たサンドハーゲンは、ウマルに幾度もテイクダウンを取られて背中に付かれてしまう。しかしその度に動き続けて脱出しスタンドで打撃を繰り出してゆき、ウマルも真っ向から応じる大激闘に。各ラウンドともきわめて僅差ではあるものの、どちらかを勝者とするなら組技で攻勢を取ったウマルか…という展開が続き、結局5R判定3-0でサンドハーゲンは敗れた。

評価が下がることはなかったものの、タイトル戦からはから遠のいてしまったに見えたサンドハーゲンだが、今年の5月には元フライ級王者のデイヴィソン・フィゲイレドと対戦。初回の足関節の仕掛けを巧みに凌いでパウンドで大ダメージを与えると、2Rは逆に50/50ポジションから足を絡めていった。上に留まろうとするフィゲイレドをサンドハーゲンが下からスピンして崩すと、フィゲイレドはヒザを負傷してタップ。

最後はアクシデント的な要素もあったが、MMA界屈指の50/50スペシャリストであるライアン・ホールと練習を重ねているが故の、足関節技術の知識と運用の確かさを見せつける完勝劇だった。

下馬評では圧倒的に3度目の防衛戦となるデヴァリシビリが有利

こうしてタイトル戦線に再び名乗りを上げたサンドハーゲンは、王者が1~3位ランカー全員を倒してしまっていることも幸いし、今回デヴァリシビリの持つ正規タイトルへの念願の初挑戦権を得た。「(以前に挑んだ挑戦者決定戦や暫定王座決定戦と比べても)今回は特別な試合だ。王者になることを毎日夢想しながら過ごしているよ。自分の全てのスキルを高め、キャンプでもきわめてハードに追い込んできた。単に派手な柔術の極めを持ったストライカーではなく、レスリングでもスーパーグットになれるよう準備している」と、過去最高に闘志を漲らせている挑戦者だ。

初対決となるこの試合だが、下馬評では圧倒的に3度目の防衛戦となるデヴァリシビリが有利と出ている。それは両者の戦績を比べても当然だ。王者は2018年の9月からUFC13連勝中にして、全ての試合を完勝している。対して挑戦者はその間4敗しており、近年の試合でも昨年ウマルに敗戦後、一つ白星を挙げただけだ。

戦闘スタイルを考えても、王者有利は否めない。超人的なスタミナでノンストップ・テイクダウン攻勢を5R続けることのできるデヴァリシビリに対し、サンドハーゲンは被テイクダウン率が高く、ウマル戦はもちろん、ストライカーのフィゲイレドにも2Rで2回テイクダウンを許している。倒されたところからのスクランブル&エスケープに長けている(それ故にテイクダウンを気にせずスタンドで前に行ける)挑戦者だが、王者の真骨頂は何度エスケープされても、試合が続く限り無限にテイクダウンに入り続け、やがて呑み込んでしまうことにある。

「今回は打撃の練習に力を入れているんだよ。ぜひノックアウトを狙いたいね」(デヴァリシビリ)

今回の試合でも、デヴァリシビリがテイクダウンを取るたびにサンドハーゲンがそれを振り解いては前進し、また王者がテイクダウンに入る…という攻防が延々と繰り返され、挑戦者は攻め手を封じられ続けるというのが大方の予想だろう。

「結局彼はテイクダウンに来ると思うし、ハードに戦う覚悟ができている」(サンドハーゲン)

もちろんその過程でサンドハーゲンが──かつてフランキー・エドガーを一瞬で沈めた飛びヒザや、マルロン・モラエスをなぎ倒したスピニングホイールキックのような──ビッグヒットを当てる可能性はある。

とはいっても、王者は致命的な被弾を回避してテイクダウンを奪うことにかけては天下一品だ。同時に他ならぬ王者自身の心の在り方が、予想を裏切る展開をもたらす可能性もあることにも留意したい。

デヴァリシビリは今回、従来ほどテイクダウンに頼らない戦いを予告している。曰く「コリーが僕のテイクダウンをディフェンスしてくるのは分かっている。だから今回は打撃の練習に力を入れているんだよ。ぜひノックアウトを狙いたいね」。

もっともそれを聞いたサンドハーゲンは「そりゃあ最悪のアイディアだ。頼むからそんなことはしてこないでくれよ(笑)。まあ結局彼はテイクダウンに来ると思うし、こっちはそれに対してものすごくハードに戦う覚悟ができている」と、あまり真に受けてはいない様子だ。

それでも王者がここ2試合において、今まで以上に相手と間合いを詰めて相手と打ち合う姿勢を見せているのは事実だ。本人も「王座を獲るまで、僕はスマートな(=勝利確率を最大化するような)戦い方をしてきた。オマリーとの最初の試合もそうだ。でも、最近はただ戦いをエンジョイするようになったんだ。だからウマル戦やオマリーとの2戦目は打撃でも勝負したんだよ」と話す。

勝利への最も確実な道をゆくのではなく、戦いを愉しむ──そんなマインドセットの変化により、ここ2試合のデヴァリシビリの強さはより際立ち、異様なまでの輝きを放った。前戦の2R終了時、オマリーの拳が顔面を掠める危険な距離に平然と踏み込んで猛攻をかけていたデヴァリシビリは満面の笑みをみせた。それは全身を駆け巡る戦いの悦びが、一切の恐怖心を凌駕してしまったかの如きだった。

あまりにも過剰な戦う心を持つ王者デヴァリシビリ。もし彼が今回、天下無敵のノンストップ・テイクダウン攻勢に飽き足らず、戦いの悦びに身を任せるが如く打ち合いに臨むなら…予想をはるかに超えるリスキーにしてスリリングな光景がオクタゴンに展開するだろう。


■視聴方法(予定)
10月6日(日)
午前7時00分~UFC FIGHT PASS
午後11時~PPV
午前6時30分~U-NEXT

■UFC320対戦カード

<UFC世界ライトヘビー級選手権試合/5分5R>
[王者] マゴメド・アンカラエフ(ロシア)
[挑戦者]アレックス・ポアタン・ペレイラ(ブラジル)

<UFC世界バンタム級選手権試合/5分5R>
[王者] マラブ・デヴァリシビリ(ジョージア)
[挑戦者] コリー・サンドハーゲン(米国)

<ライトヘビー級/5分3R>
イリー・プロハースカ(チェコ)
カリル・ラウントリー(米国)

<フェザー級/5分3R>
ジョシュ・エメット(米国)
ユーゼフ・ザラル(米国)

<ミドル級/5分3R>
ジョー・パイファー(米国)
アブス・マゴメドフ(ドイツ)

<ミドル級/5分3R>
アテバ・グーティエ(カメルーン)
トレストン・ヴァインズ(米国)

<フェザー級/5分3R>
ダニエル・サントス(ブラジル)
ユ・ジュサン(韓国)

<バンタム級/5分3R>
パッチー・ミックス(米国)
ヤクブ・ヴィクワチ(ポーランド)

<ミドル級/5分3R>
エドマン・シャバジアン(米国)
アンドレ・ムニス(ブラジル)

<ウェルター級/5分3R>
プナヘラ・ソリアーノ(米国)
ニコライ・ベレテンニコフ(カザフスタン)

<女子バンタム級/5分3R>
メイシー・シェエソン(米国)
ヤナ・サントス(ロシア)

<バンタム級/5分3R>
ファリド・バシャラット(アフガニスタン)
クリス・グティエレス(米国)

<ウェルター級/5分3R>
ラムズ・ブラヒメジ(米国)
オースティン・ヴァンダーフォード(米国)

<女子フライ級/5分3R>
ベロニカ・ハルディ(ベネズエラ)
ブローガン・ウォーカー(米国)

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