【ONE173】タイ・ルオトロを迎え撃つ三重県の教員ファイター、磯嶋祥蔵「生徒が学校に直談判して――」
【写真】10月のONE初戦でTKO勝ちした磯嶋。1カ月のスパンで日本大会に臨む(C)ONE
16日(日)に東京都江東区の有明アリーナで開催されるONE173で、磯嶋祥蔵がタイ・ルオトロと対戦する。
Text by Shojiro Kameike
磯嶋は2023年9月にグラジエイターでプロデビューし、5連勝を収めた。そして2025年3月、ONE日本大会出場が発表される。しかしエイドリアン・リーと対戦予定であったが、ヒザの負傷により試合はキャンセルに。改めて10月にONE初戦を迎え、ニコラス・ビグナを流血に追い込んだ末、TKO勝ちに加えファイトボーナス――さらに今大会でタイ・ルオトロと対戦する機会をゲットした。
普段は私立の中高一貫校に勤務しながら、三重県名張市のMMAジム「N☆TRUST(エヌ・トラスト)」でMMAの練習に励む磯嶋。今回のインタビューでは、そんな彼のキャリアと教員らしいエピソードも語ってくれた。
前の試合は僕が勝ったことで、生徒たちはすごく盛り上がってくれていたみたいです
――10月のビグナ戦は試合後に「相手のスタミナの消耗度を見てプランを変え、ダメージを取ってフィニッシュに向かおうと考えて動きました」と語っていました。ビグナは初回から出血しており、その時点で仕留めたくはならなかったですか。
「いやぁ……、そういう意識は僕にないんですよね」
――まさに、それこそが磯嶋選手の勝因だったかと思います。
「もともと僕は相手のことを大きくも見ないし、かといって小さくも見ないんです。実際に肌を合わせて、相手の様子を見ながら元のプランと合わせていく。それはプロデビュー当時からずっと同じだと思います。
前回の試合も2Rめにテイクダウンを取ったあと、相手にダメージが見えたので、そのままフィニッシュに向かおうと思ったんです。まだ相手が下から暴れてくるようであれば、そのまま押さえ込み続けていました」
――ということは、最後まで押さえ込み続けるスタイルを貫くつもりだったのですね。
「はい。リスクを考えないというわけではなく、いつもフルラウンド戦って最終的に勝つという考えが頭の中にあります。ただあの場面では『ここで取らないといけない』と考えただけですね」
――なるほど。MMAPLANETで磯嶋選手のインタビューは初となります。これまでのキャリアについてお聞きしたいのですが、格闘技のベースは柔道なのですね。
「中学校から柔道を始めました。中学では何か部活に入らないといけない。でもそんなに部活も多くない。水泳かバスケか柔道かと思っているなかで、柔道を選びました」
――水泳、バスケと比べて柔道を選んだ理由は何だったのでしょうか。
「それほど大きな理由ではないですけど……兄弟が柔道をやっていて道着が家にあるので、とりあえず自分も柔道をやってみようと思いました(笑)」
――アハハハ。そこから大学まで柔道を続け、教員免許を取得すると。
「大学も教員を目指して、教育学部に入りました。教員免許を取って大学を卒業した後のことを考えた時、2つの選択肢がありました。青年海外協力隊に参加し、海外で柔道の指導をするか。あるいは日本で教員になるか。
青年海外協力隊には柔道指導者の枠があり、自分は応募して合格もしていたんです。でもちょうどコロナ禍の時期で、いつ行けるか分からない状態になり――それで教員として就職しました」
――MMAは教員になる前から始めていたのですか。
「いえ、教員になったあとエヌ・トラストに通い始めました。もともと柔道をやっていたので、大学を卒業したあとも何か体を動かしたいと思っていたんです。その頃、エヌ・トラストが出来たばかりで体験に行き、入会して。当時はちょっと体を動かすだけのつもりだったものが、だんだん試合にも出て今に至ります(笑)」
――趣味として通うだけでなく、MMAという打撃のある試合に出ることを学校サイドも認めてくれたのですね。
「それはもう――いろんなところに許可を頂き、続けさせてもらっています。最初は『仕事に支障がない範囲でしたら大丈夫ですよ』と言ってもらえたぐらいでしたけど、プロデビューする時もONEに出る時も、温かく送り出してもらえました」
――そんななかでまさかのヒザ負傷で、今年3月のONE出場はキャンセルとなりました。
「練習中に、外側を損傷していましました。2月中盤に負傷して3月の試合をキャンセルし、本格的な練習を再開したのは5月で、9月か10月には試合できたら良いなという話をしていました」
――その試合がタイで行われるとは……。
「学校のほうは、すごく驚いていましたね(笑)」
――磯嶋選手がMMAを戦っていることに対して、生徒さんたちの反応はいかがですか。
「前の試合は僕が勝ったことで、生徒たちはすごく盛り上がってくれていたみたいです」
――おぉっ!!
「試合当日——日本でライブ中継されるのが土曜日の午前10時ぐらいでしたよね。あの時、ちょうど期末テストの最終日で、僕の試合は学校だと1限目と2限目と間ぐらいの時間でした。そこで何人かの生徒たちが学校に『先生の試合があるからテストの時間をずらしてほしい』と直談判していたみたいです。『そんなのはアカン』と断られたようですけど……」
――さすがにテストの時間をずらすのは難しいかと思いますが、素敵ですっ!! 生徒さんからも応援してもらっているのですね。
「はい、そうですね。グラジの時も三重から同僚や生徒が会場に来てくれたこともあり、本当に嬉しいです」
投げ切らない、というか。一度バランスを崩して相手が倒れそうだったら、もうその次のことを考えている
――先ほどファイトスタイルは変わらないという話もありましたが、アマチュアからプロとキャリアを積んでいくうえで、マイナーチェンジはなかったですか。
「自分ではあまり分からないですけど、練習している人たちや代表のNavEさんからすると、『MMAの動き自体が良くなっている』と言ってもらえています。もともと柔道のスキルに頼りがちだった部分が抜けて、MMAファイターとしての動きができるようになっている。おかげで同じ組みの展開でも、少しずつ変わってきているとは思います」
――グラジ時代からテイクダウンとポジショニングの強さは見せていましたが、ONE初戦のビグナ戦ではヒジやパウンドの威力が増しているように感じられました。
「3月の試合をキャンセルしたあと、次の試合まで準備期間をしっかり取ることができました。そこで何かいろんなことを積み上げることができたんじゃないかと思いますね」
――磯嶋選手のテイクダウン&コントロールの場合、たとえばテイクダウンの時からポジションを取ることができているように思いました。ただ倒すだけでなく、その先を想定して倒し、試合を進めることができる。
「それはあると思います。投げ切らない、というか」
――投げ切らない!
「投げの途中で止めるわけじゃないけど、一度バランスを崩して相手が倒れそうだったら、もうその次のことを考えているという感じです」
――ビグナ戦で勝利した時点で、今回のONE日本大会に出場することは決まっていたのですか。
「いや、まだ決まってはいなかったです。1カ月という試合間隔ではありましたけど、対戦相手のルオトロは注目度も高いですし、相手の名前のある選手だったので出たいと思いました」
――ルオトロは9月にMMA初戦で、エイドリアン・リーを下しています。自身が戦う予定だった相手を下していますが、そのルオトロに対する印象を教えてください。
「やはりグラップリングの能力は圧倒的ですし、それに伴って身体能力やパワーも圧倒的に強いです。でも前回の試合を視るかぎり、まだ雑なところがある。それとまだ若く、勢いでドンと戦っている部分もいうところもあると思います。そういう面を意識して戦いたいですが、自分としては試合でやることは変わらないと思います」
――ここでルオトロを倒し、来年あたりにはONEのベルトに挑みたいという気持ちはありますか。
「どんどん上の選手と戦っていきたいし、今回同じ大会に出るクリスチャン・リーにも絡んでいきたいですね。自分が住んでいるのは三重県伊賀市という山の中ですけど、その場所から世界でも戦えるところを見せます」
■放送予定
11月16日(日)
午後12時00分~U-NEXT PPV
■ONE173対戦カード
<ONEキック世界フェザー級王座統一戦/3分5R>
スーパーボン・シンハ・マウィン(タイ)
野杁正明(日本)
<ONE世界フライ級(※61.2キロ)選手権試合/5分5R>
[王者] 若松佑弥(日本)
[挑戦者]ジョシュア・パシオ(フィリピン)
<ONEムエタイ・アトム級王座決定戦/5分3R>
吉成名高(日本)
ヌンスリン・チョー・ケットウィナー(タイ)
<ONEムエタイ世界フライ級王座決定戦/3分5R>
ロッタン・ジットムアンノン(タイ)
ノンオー・ハマ(タイ)
<ONE世界ライト級(※77.1キロ)選手権試合/5分5R>
[王者] クリスチャン・リー(米国)
[挑戦者] アリベク・ラスロフ(トルコ)
<キック・フライ級/3分3R>
武尊(日本)
デニス・ピューリック(カナダ)
<キック・フェザー級/3分3R>
マラット・グレゴリアン(アルメニア)
安保瑠輝也(日本)
<キック・バンタム級/3分3R>
与座優貴(日本)
スーパーレック・キアトモー9(タイ)
<キック・フェザー級/3分3R>
ナビル・アナン(アルジェリア)
和島大海(日本)
<キック・女子アトム級/3分3R>
スタンプ・フェアテックス(タイ)
KANA(日本)
<ライト級(※77.1キロ)/5分3R>
タイ・ルオトロ(米国)
磯嶋祥蔵(日本)
<サブミッショングラップリング・ミドル級(※93.0キロ)/10分1R>
ジャンカルロ・ボドニ(米国)
ラファエル・ロバトJr(米国)
<ムエタイ・バンタム級/5分3R>
ジェイク・ピーコック(カナダ)
スアキム・ソー・ジョー・トンプラジン(タイ)
<ヘビー級(※102.01キロ)/5分3R>
竹内龍吾(日本)
シャミル・エルドアン(トルコ)
<ライト級(77.1キロ)/5分3R>
青木真也(日本)
手塚裕之(日本)
<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R>
澤田千優(日本)
平田樹(日本)
<キック・バンタム級/3分3R>
ウェイ・ルイ(中国)
秋元皓貴(日本)
























