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【UFC304】展望 この惑星一の地味強決定戦。ウェルター級王者エドワーズ✖モハメッド=制空権✖突破力

【写真】MMAの軸となる攻防が、25分間続く──かもしれない世界の頂上争いだ(C)MMAPLANET

27日(土・現地時間)、英国・マンチェスターのコープライブにてUFC 304「Edwards vs Muhammad 2」が行われる。アーリープレリムにムハマド・モカエフ×マネル・ケイプという注目のフライ級ランキング戦、そしてコメインに王者トム・アスピナルがカーティス・ブレイズの挑戦を受ける暫定ヘビー級タイトル戦を従えた今大会のメインイベントは、地元英国出身の王者レオン・エドワーズがベラル・モハメッド相手に3度目の防衛戦を行うウェルター級タイトル戦だ。
Text by Isamu Horiuchi

エドワーズは、 2022年8月のUFC 278にて当時絶対王者として君臨していたカマル・ウスマンに挑戦。王者のテイクダウン&コントールの前に劣勢を強いられる展開のなか、最終5R残り約1分のところで左ストレートからの左ハイ一閃。ウスマンは昏倒し、まさに世界を震撼させる大逆転劇となった。

直後に感涙とともにエドワーズがオクタゴンで発した「誰もが俺には無理だと言った。人生でずっと虐げられてきたんだ! でも今の俺を見ろ! 今の俺を見ろ! 俺を見ろ!」という魂の叫びは、鮮烈なKOシーンとともにUFC史上に残る名場面だ。


勝てば、GSPに並ぶ王者エドワーズ

新王者は、昨年3月のUFC 286でウスマンと再戦。今度はテイクダウン防御に何度も成功して打撃を当て、2-0の判定勝利で堂々の初防衛に成功した。さらに昨年12月のUFC 296では、暴言王コルビー・コヴィントンと対戦。終始距離を支配してテイクダウンを許さず、3-0の判定で完勝して二度目の防衛を果たした。

この試合後インタビューでもエドワーズは「俺にとってすごく感情的な試合だった。奴は俺の父が殺されたことをエンターテインメントに使いやがった!(※) あの後俺は怒りのあまり号泣し、感情を沈めるのに苦労したんだ。奴は優れた選手だけど、汚い人間だ」と生々しい感情を吐露した。

(※試合前記者会見の言い合いにてコヴィントンは、13歳の頃に父親を射殺されて失っているエドワーズに対し「お前を地獄の7丁目に引きずり込んでやる。そこでお前の父親に一緒に挨拶しようじゃないか」と発言。激怒したエドワーズは次の瞬間ペットボトルを思い切りコヴィントンに投げつけた)

試合ぶりは理詰めで堅実。普段は派手な言動もなく、ボソボソと聞き取りにくい独特の話し方をすることもあり、あまり注目を集めない王者エドワーズだが、試合後に溢れる感情をぶつけるように吐き出すその言葉には、多くの人の心を揺さぶる力がある。

ここまで(一つのNCを挟んで)ウェルター級で11連勝中。今回の試合に勝てば、伝説の王者GSPが残したUFC同級12連勝の記録に並ぶことになる。

対する挑戦者モハメッドも、この5年間負けなしだ。2022年10月のUFC 280ではデビュー以来15戦全勝のショーン・ブレイディのテイクダウンを切ってはスタンドで強烈な圧力をかけ続けて2Rに強烈な右をヒット。そのまま畳み掛けて見事なTKO勝利を挙げている。昨年5月のUFC 288ではタイトル挑戦経験もあるジルベウト・ドゥリーニョ・バーンズと対戦。スタンドの圧力と手数で終始上回って3-0で勝利し、こちらも王者同様に「一つのNC」を挟んで9連勝目を記録。今回満を持してのタイトル挑戦となった。

両者の連勝に挟まれる「一つのNC」こそ、2021年5月の二人の初対戦によるものだ。この時モハメッドは、カムザット・チマエフの代打として試合3週間前のオファーを受諾し、初のメインイベントに臨んだ。

同病相憐だったはず?──王者に対する、挑戦者モハメッドの複雑な心境

が、試合はエドワーズが初回から終始距離を支配。なかなか前に出られないモハメッドにガードの上から強烈な左ハイをヒットさせてぐらつかせ、その後も左を中心にプレッシャーを掛けて続けて試合を優位に進めた。しかし続く2R開始早々、左ハイを出す際に伸ばしたエドワーズの左手の指先がモハメッドの目に痛烈にヒット。完全に視界を失い、生涯初のビッグチャンスを失う悔しさにモハメッドが泣き叫ぶなか、無情のNCが告げられた。

試合後、(意図的ではない)反則決着については遺憾の意を示したエドワーズだが、モハメッドとの決着戦については「1Rは自分が圧倒していたし、どちらが上かはすでに証明した」と興味を示さず。その後ネイト・ディアスとのビッグファイトを制し、絶対王者ウスマンへの挑戦を実現。前述の通りの大番狂わせを演じて世界の頂点に立ち、その後二度の防衛に成功して現在に至る。

この件をいつまでも引きずっているのがモハメッドだ。エドワーズに対する敵愾心を隠そうとしないモハメッドは、その理由を改めて聞かれると

「奴と俺は、これまでタイトルに向けて非常に似た道を巡ってきた。お互い誰からもリスペクトされず、なかなかチャンスを与えられないまま戦い続けた。そんな俺は(エドワーズとの初対戦で)初めてメインイベントのチャンスを提示された。だからショートノーティスで試合を受けた。そこで奴は反則を犯し、俺のチャンスを奪った。なのに奴は俺とのリマッチを受けなかった。『どうせ自分が勝っていた』とか言いやがって。俺はその後も連勝を続けたのに、奴もそのコーチも俺のことを認めず、別の相手との試合を選び続けたんだ」と語っている。

アイポークへの恨み節もさることながら、いくら勝ち星を重ねても十分な評価を得られなかったことへの不本意さ、何より同病相憐れむ──ではないが、自身と同じように「地味強」だったのに頂点を制したエドワーズへの複雑な感情が入り混じった、リアルにして強い思いがそこにある。

この試合の下馬評は、王者エドワーズ有利の声が大きい。3年前の両者の対戦においてエドワーズが明らかに優勢だったこと、そしてエドワーズがここ2戦、モハメッド以上に強力なレスリングベースを持つ──ウスマンとコヴィントンのテイクダウンを見事に防いで完勝していることを踏まえれば、自然な評価だ。

特に近年のエドワーズが見せる空間の支配力は圧巻だ。巧みなスイッチや横へのステップで優位な角度を作っては、鋭く強烈無比な左の蹴りとパンチを繰り出し、それまでウェルター級のツートップだったウスマン、コヴィントンを寄せ付けなかった。

よって、この試合の最初の見どころはモハメッドが、3年前には全く突破できなかったエドワーズの制空圏をいかに切り崩し、圧力をかけてゆくことができるかだ。

モハメッドの真骨頂は、洗練を極めたエドワーズの足捌きと比べると遥かに無骨ながらも、巧みにスイッチを駆使して相手の逃げ道を塞ぎつつ、前に出て手数を繰り出し、相手を追いつめてゆくところにある。

もしモハメッドがスタンドでエドワーズに圧力をかけて下がらせることができれば、いずれテイクダウンに入るチャンスが出てくる。金網際のテイクダウンディフェンスの上達も著しいエドワーズだが、下がらされ守勢を余儀なくされる展開が続けば体力は徐々に消耗してゆくだろう。

そうなった時に、それまで圧倒していたネイト・ディアス戦で試合終了直前に攻め込まれた時の、またウスマンに挑戦した際に4Rまで試合を支配されていた際の、相手に気力で圧されて覇気のないエドワーズが再び顔を出す可能性は否めない。

対するモハメッドは、全ラウンドを通して止まらず前に出続ける体力と意志の力では誰にも負けないと自負を持っている。

「3年間ずっと奴のことを研究してきた」と語り、親しくするカビブ・ヌルマゴメドフからも作戦を授けられたというモハメッド。どのような方法で距離感の達人エドワーズとの間合いを制するつもりなのか、刮目したい。

ところで今大会は、王者エドワーズにとってはウスマンとの初防衛戦に続く母国凱旋マッチだ。家族や友人が見守る中、地元の期待を背負っての試合となるだけに負けられないという意識は強いだろう。

対する挑戦者は、戴冠を果たして自分のルーツであるパレスチナの旗を掲げることを至上の目標としている。実際に最近ガザで爆撃を受けて重傷を負い、母親を失ったパレスチナ人の幼い少年と父親を米国に呼び、家族同然に面倒を見ている姿が共感を呼んでいるモハメッドは「日々苦しんでいる彼らの戦いと比べたら、俺らファイターの戦いなどなんでもない。自分が勝つことで、せめて彼らに何らかの形の勝利を捧げることができればと思う。そのために全てを賭けて戦う。スタミナも全て使い果たす」と話す。

派手なパーソナリティも大きな話題性もないが、実力で世界最高峰の舞台に上り詰めた両者の戦いが、この21世紀の国際社会の現実の中で行われているという事実は、我々格闘技好きも改めて留意しておきたいところだ。

■視聴方法(予定)
7月28日(日・日本時間)
午前7時分~UFC FIGHT PASS
午後11時~PPV
午前6時30分~U-NEXT

■UFC304対戦カード

<UFC世界ウェルター級選手権試合/5分5R>
[王者]レオン・エドワーズ(英国)
[挑戦者] ベラル・モハメッド(米国)

<UFC世界暫定ヘビー級選手権試合/5分5R>
[暫定王者]トム・アスピナル(英国)
[挑戦者] カーティス・ブレイズ(米国)

<ライト級/5分3R>
ボビー・グリーン(米国)
パディ・ピンブレット(英国)

<ミドル級/5分3R>
クリスチャン・レロイ・ダンカン(英国)
グレゴリー・ホドリゲス(ブラジル)

<フェザー級/5分3R>
クリスチャン・アレン(英国)
ギガ・チカゼ(ジョージア)

<フェザー級/5分3R>
ナサニエル・ウッド(英国)
ダニエル・ピネダ(米国)

<女子ストロー級/5分3R
モリー・マッキャン(英国)
ブルーナ・ブラジル(ブラジル)

<バンタム級/5分3R>
キャオラン・ローラン(アイルランド)
ジェイク・ハードリー(英国)

<ライトヘビー級/5分3R>
モデスタス・ブカウスカス(リトアニア)
マルチン・プラチニオ(ポーランド)

<ウェルター級/5分3R>
オーバン・エリオット(英国)
プレストン・パーソンズ(米国)

<フライ級/5分3R>
ムハマド・モカエフ(英国)
マネル・ケイプ(ポルトガル)

<ウェルター級/5分3R>
サム・パターソン(英国)
キーファー・クロスビー(米国)

<ヘビー級/5分3R>
ミック・パーキン(米国)
ウーカシュ・プジェスキ(ポーランド)

<女子ストロー級/5分3R>
ショーナ・バノン(アイルランド)
アリチェ・アルデラン(ルーマニア)

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