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【Special】月刊、良太郎の一番:5月 モハメッド×JDM「JDMは”強い”というより”うざい”(苦笑)」

【写真】構えてから動くではなく動きに合わせて構えが変わる。究極のスイッチファイターと言えるJDMだ(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2025年5月の一番──5月10日に行われたUFC315のベラル・モハメッド×ジャック・デラ・マダレナのUFC世界ウェルター級選手権試合。強烈なテイクダウン能力を誇るモハメッドをJDMがどう攻略したのか。スイッチを主体とした相手を翻弄するJDMの打撃スタイルについて語らおう。


――5月はジャック・デラ・マダレナがベラル・モハメッドを下して新UFC世界ウェルター級王座に就いた一戦をセレクトしていただきました。良太郎さんはJDMの勝利は予想されていましたか。

「僕は7:3くらいでJDMが有利の試合だと思っていました。展開的に5Rはモハメッドもものすごくよかったじゃないですか。あの展開を3Rくらいからやれていれば結果は変わったかもしれないですよね。逆に言えばよくJDMが5Rまでモハメッドに距離をセットさせずにテイクダウンされずに守りきったと思います」

――JDMはスイッチするファイターですが、構えをスイッチするというよりも動きながら常に構えを変えている印象があります。JDMのファイトスタイルにはどんな印象を持っていますか。

「構えがオーソドックスとサウスポーというよりも、ムーブメントの中で構えが変わっているという感じですよね。例えばJDMは相手がオーソドックスに構えてキープしている状況の場合、自分がポジションを取る際に自分と相手のラインを取って、そこから右・左に構えを変える感じでやっていますよね。あとは必ず動く前に前蹴りを刺して距離感をずらすし、手の位置もすごく嫌なところに置いているんですよ。通常構えた時、ジャブを打つ前手を自分の前に、ストレートを打つ後手を自分の後ろに置くじゃないですか。JDMはわざと後手を前に出して、前手と並べたりするんですよ。それで距離感をずらしておいて、長いジャブを打つ・ポジションを取る・蹴りを出す……そういう動きをやり続けています。これはアレックス・ペレイラなんかも使うテクニックですね。しかもJDMは必ず上体を動かしていて、他のスイッチする選手と比べるとかなり上体を動かす、ずらす動きが多いです」

――あそこまで複雑に構えを変えることは効果的なのでしょうか。

「僕はあれがスイッチにおいては一番の理想というか、MMAにおいてはあのスイッチをベースに考えてもいいぐらいだと思っています。キックやボクシングでは自分の歩幅の中で戦うことを基本として、オーソドックスとサウスポーに構えるのですが、そのなかでナチュラルに構えを変えつつ、テイクダウンやタックルを切ろうと思ったら、JDMのようなスイッチが出来なければいけないと思います。もっと言えば右利きはオーソドックスに構える、左利きはサウスポーに構えるという教えではなく、まずはじめに動く・ムーブメントありきで、そのなかで構えがオーソドックスとサウスポーになっているという印象ですね」

――構えてから動くではなく動きに合わせて構えが変わる、と。

「そうです。だから動きが止まった状態で、どちらかの構えをキープしている時間が短いですよね。例えばオーソドックスでワンツーを打ったら、すり足で歩きながらポジションを変えてサウスポーになっている、というように」

――なるほど。

「構えた状態でバックステップするのではなく、バックステップしながら足の位置が変わる=スイッチしている。サークリングして相手の死角に入ったら、その時には自然に構えがスイッチされている……そういったイメージですね」

――JDMの場合は構えを複雑にスイッチして動いているだけでなく、どちらの構えからでも打撃を出せるじゃないですか。

「そうなんですよ。構えをあれだけ変えているのに、どちらでも長いジャブと蹴りが出せるし、そのなかで上体を振りながら自分のいいポジションに入ってパンチを打つことも出来る。たまに腰が浮いてしまって相手の打撃を被弾することもありますが、ずっと自分のいい距離で戦っているので、相手からしたらものすごいやりづらいですよね。モハメッドとの試合で言えば5Rにモハメッドが腹をくくってJDMのスイッチ関係なくパンチを振ってテイクダウンに持っていって、あれをやるとJDMも疲れて削れていくんですけど、それを仕掛けるタイミングが少し遅かったかなと思います」

――現在のMMAではスイッチを使う選手が非常に多いですが、そのなかでもJDMの動きは独特ですか。

「スイッチする動き自体はベーシックなものですが、そこに上半身の動きもミックスされているので、やりづらいことは見ていても分かりますよね。相手の動きに合わせて細かく構えを変えて、適材適所でジャブを出して、距離を取る時は前蹴りも刺してくる。常に自分の制空権を保っているようなスタイルなので、やっている相手からすると“強い”というよりも………“うざい”というか“こざかしい”戦い方ですね(苦笑)」

――向かい合っているとイライラしそうですね。

「まさにそうですね。見方によっては下手に見えるかもしれませんが、しっかりとした基礎がなければ出来る動きですし、それをUFCのタイトルマッチで25分間もやるわけなので、並みの選手ではないですよね」

――圧倒的に強いというよりも攻略が難しいチャンピオンが生まれた印象です。

「このタイプはやりづらいですね。リズムに乗らせちゃうとよくない」

――戦績を見直してみるとフィニッシュする試合も多い反面、スプリット判定も多かったりしますよね。

「あの動きがハマる、死角に入って打撃を出せるときはいいんですけど、JDMからしても攻めあぐねている時があるんですよ。弾を打っている(攻撃を出している)んだけど、倒しきるにはどうしたらいいのかな?と考えているような展開がたまにあるので。はっきり言って一般受けして人気は出ないタイプですが(苦笑)、スイッチやムーブメントを研究・参考する上では最高の選手ですね」

――まさに玄人好みで難攻不落のチャンピオンかもしれません。

「一見何をやっているか分からない動きですが、そこにはしっかりとしたベースがあるし、細かい技術もたくさん散りばめられているので、僕はよくJDMの試合映像を見て参考にしています。ただ繰り返しですがお客さんがJDMの試合を見て楽しいかと言われたら…それは微妙だと思います(笑)」

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