【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:3月 ブレイディ×エドワーズ「心を折るサブミッション」
【写真】サブミッションはコントロールであり抑え込み。そして対戦相手の心を折ることもできる(C)Zuffa/UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura
大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣氏が選んだ2025年3月の一番──3月22日に行われたUFN255のショーン・ブレイディ×レオン・エドワーズ、ブレイディのサブミッションを交えたコントロール、そして心を折るフィニッシュについて語らおう。
――今回はゴールデンウイーク特別企画として3月・4月の今月の一番を一気読み…ということではなく、取材そのものが遅れてしまって申し訳ありません!改めて3月の一番ではレオン・エドワーズとショーン・ブレイディの試合を選んでいただきました。この試合を選んだ理由からお願いします。
「僕がMMAを見るにおいて一番好きなのが派手なフィニッシュよりもドミネート感なんですよ。この試合はそのドミネート感が詰まった試合だったかなと思います」
――水垣さんはこういう試合展開を予想されていましたか。
「正直エドワーズがコルビー・コヴィントンやマル・ウスマンとやった時、なかなかテイクダウンされなかったんですよ。ただベラル・モハメッドとやった時に思ったよりテイクダウンされるんだなと思ったので、実際のところエドワーズのテイクダウンのディフェンス力はどうなのかなと思っていました。純粋なレスリング力だけで言えばベラルよりもコヴィントンやウスマンの方が若干上だと思うのですが、打撃を見せてからテイクダウンやタイミング・駆け引きしながらのテイクダウンはベラルの方が上手い。ブレイディのテイクダウンもベラルに近いタイプのテイクダウンだと思っていたので、それが結果的に当たってああいう試合展開になったと思います。そこがやっぱりMMAの面白さなのかなと思いましたよね。実はブレイディは1Rに1回も自分からタックルに行ってないんですよ」
――確かにそうですね。僕は1Rを見てエドワーズがブレイディにテイクダウンさせない展開が続いて、このままエドワーズがスタンドで自分のペースをキープして判定までもつれる展開を予想していました。それが2R開始直後にブレイディがテイクダウンを取って、それからグラウンドコントロールする展開になって驚きました。
「あれはある意味ブレイディの上手さというか、1Rはタックルを見せないと決めていたんじゃないかなと思うんですよ。タックルに入れなかったんじゃなくて、あえて入らなかった。僕はそういう風に見たんですよね」
――なるほど。テイクダウンを温存していたんですね。
「今回は5Rマッチなので1Rから5Rまでタックルに入り続けるというのは難しい。それが出来るのはマラブ・デヴァリシビリくらいじゃないですか。そういう意味でもどこかで組まないラウンドを作るというか、それをいきなり1Rに持ってきたのかなと思いました。ブレイディからすると1Rの時点でエドワーズに『意外と自分から組んでこないな』と意識させて、スタンドでもいけると思わせておいて2Rをスタートさせる。2R開始直後にいきなりブレイディがいきなり綺麗にタックルでテイクダウンを奪ったのは、そういう細かい駆け引きもあったのかなと思うし、それもMMAとしてすごく面白いなと思いました」
――水垣さんの1Rが伏線になっていて2Rにブレイディのクリーンテイクダウンが決まったという見立ては興味深いです。
「僕はそう思いました。エドワーズとしては『よし!2Rから打撃でいくぞ!』とギアを上げようとしたところでバーン!とタックルを取られたんじゃないかなと。もう1つはブレイディの相手をドミネートするポジションコントロール力が見ていて面白かったですね。試合としてはブレイディがバックを取って、そこに固執しないでバックを失っても上を取り続ける展開だったと思うんです。僕はMMAではそこがすごく重要だと思っていて、バックを取ったあとに頑張ってバックキープしようとして下になってしまうぐらいだったら、早めにバックキープを諦めてトップキープに切り替えれば、もう一度攻め直すことが出来る。そういう技術の選択が大事で、そこを上手くできているのがブレイディの良さですよね。これはベラルにも言えることなんですけど、その辺の上手さでエドワーズが漬けられちゃったなっていう風に感じましたね」
――イメージ的にはかっちり抑え込みすぎず、ある程度は相手を動かしておいて、そのなかでキープし続けている印象です。
「それがMMAの番面白いところで、必死に抑え込まなくてもいいんですよね。相手を動かして動かして、常に自分が有利なポジションにいればいい。5:5までは戻させずに自分にとって6:4のポジションをキープし続ける、みたいな。それは寝技でもそうですし、スタンドの組みでもそう。ここまでは相手に戻させてもいいけど、これ以上は戻させない……そういう自分なりのベースポジションみたいなところを決めて、そこを軸にキープするというのはすごく面白いですね」
――ブレイディの場合はギロチンチョークとキムラロックのプレッシャーがあって、サブミッションへのトライもポジションキープの一部だったように思います。
「ポジションキープが上手い選手は極めを餌にするのも上手いんですよね。ハビブ・ヌルマゴメドフもバックから殴っていて相手に逃げられそうになった時、背中がずれてRNCが極まりにくそうな状況でも首に手を巻いたりするんですよ。そうすると相手は巻かれた手を完全に無視することはできないから、最低限のディフェンスをしなきゃいけない。そうするとハビブはその動きに合わせてトップキープに切り返る、もしくはバックコントロールに戻る。バックコントロールから脱出されそうになった時にRNCのアタックを見せることで、次のポジションキープにつなぐんですよね。ブレイディもトップキープのなかでアームロックなど極めのプレッシャーを上手く使っているなと感じましたね」
――しかもブレイディは常にギロチンを狙っていたので、あれがあると簡単に体を起こせないですよね。
「そうなんですよ。ブレイディは一本勝ちが多くて、そういう相手にギロチンを狙われていると、下からシングルレッグに入って立つみたいな動きはやりにくいですよね。また寝技でエビするときに手のポジションを間違えて、そこで手首を持たれてキムラの形を作られるのも怖かったと思います。ブレイディは一本勝ちそのものも多いですからね。はそういったアクションを一度起こしておいて、どんどんエドワーズの動きを潰す。それを繰り返していましたね。このサブミッションの仕掛けがあるから動きたくても動けないんだなという見方をすると、よりMMAが楽しく見ることが出来ると思いますね」
――MMAにおいてサブミッションはフィニッシュにつながる武器であると同時にコントロールのきっかけ、もっと言えば抑え込みと言っても間違いではないですよね。
「そうです。本来エドワーズは立ち上がるのも上手いし、テイクダウンディフェンスの能力も高いんです。でもその相手をブレイディは一本勝ちそのものも多いですからね。は1Rの駆け引きから始まり、テイクダウン後は極めを散らつかせながらポジションをキープする。最後は極めきりましたけど、あのブレイディは一本勝ちそのものも多いですからね。の試合の作り方はよかったですね」
――最後はブレイディがギロチンを極めましたが、仮にあれが極まらなくても無限ループのような展開でエドワーズが消耗し続けていたと思います。
「ブレイディは相手の心を折る攻め方をしているんですよ。フィニッシュのギロチンも競っている状況だったら、エドワーズももうひと粘りしたと思うんですよね。でもあの時点で疲労もしていただろうし、もしギロチンを脱出できたとしてもトップキープされ続けて、またギロチンやキムラを狙われてしまう。逃げても逃げても逃げられないとなると気持ちが折れてくるんです。僕がアルジャメイン・ステーリングとやった時も最後はほぼ(肩固めで)落ちている状況で、タップした時も記憶もほとんどないんですよ。ただ肩固めを極められながら『ああ…もうダメだ、これはタップするしかない』みたいことが頭をよぎった記憶があります。ブレイディはそうやってエドワーズの心を砕いていくような攻め方をしていて、エドワーズを見ながらアルジャメインとやった自分を思い出しましたね」
――試合が終わった後のエドワーズも限界までギロチンを耐えたというよりも、その場に体育座りしてお手上げだよという状態のようにも見えました。
「いやぁ、あのエドワーズの気持ちはものすごくわかりますね(苦笑)。もう何もやれることができなかった、やりたいことできなかった。そういう心境だったと思います。でもブレイディの試合運びにはMMAの楽しさが散りばめられた一戦だったなと思います」