【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:5月 中村京一郎×オジン「倒し勘と空間把握能力」
【写真】今年のRTUにおいて日本最後の希望となった中村。ポテンシャルの高さ×練り上げた技術と戦術で優勝を目指す(C)Zuffa/UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura
大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣氏が選んだ2025年5月の一番──5月22日に行われたRoad to UFC S04 Ep01の 中村京一郎×パク・オジンの一戦。日本人として唯一の一回戦突破を果たした中村の試合ぶりを振り返ってもらった。
――5月の一番では今年のRoad to UFCで唯一日本人として一回戦を突破した中村京一郎選手とパク・オジンの試合をセレクトしていただきました。
「まず今年のRTUは日本人が一人しか残っていないということで、中村選手が最後の希望になったなと。RTUは日本人にチャンスの大会ではあるんですけど、日本人が勝てなくなると出場枠が他の国に取られてしまうと思うんですね。そういう意味ではRTUで日本人がいい結果を残すこと、UFC本戦でも活躍することが必要になると思うので、中村選手のことをみなさんに紹介したいと思いました。中村選手の試合でいうと、比較的ここまで順調にパンパンパン!と勝ってきて、1RのKO勝ちも多いじゃないですか。もちろん強い選手ということは分かっていたのですが、これまでの対戦相手のレベルも含めて未知数の部分も多かったと思うんです。でもいざ試合を見たら、すごく輝くものを持っている選手だなと思いました」
――中村選手の試合を見ていて、堂々と落ち着いて戦っている姿が印象的でした。
「やはりセコンドに岡見(勇信)さんや高谷(裕之)さんがいて、チームとしてUFCや海外で戦う経験値が高いので、そういう意味でも安心感があるんだと思います」
――中村選手自身も中村倫也選手のUFCの試合でセコンドについていました。
「RTUのファイトウィークもUFCとほぼ同じだと聞いているので、そういう意味でも頼りになる先輩たちが周りにいると思うし、落ち着いて試合が出来たと思います」
――中村選手のファイトスタイルでどこに光るものを感じましたか。
「やっぱり打撃ですよね。リーチが長くて、1つ1つのモーションがすごく小さい。コンパクトかつノーモーション気味にストレートを当てることが出来ますよね。あと僕は際の打撃の意識が高いなと感じましたね。タックルを切った後に必ず手を出すとか、フィニッシュになったタックルに合わせるヒザ蹴りも、ああいう場面でパッとヒザが出るという部分にもそれ(際の打撃の意識の高さ)が出ているのかなと思いました」
――純粋な打撃スキルだけではなく、常に殴る・蹴る意識を持っているわけですね。
「それに加えて、相手も多少スイッチしてくる選手だったのですが、おそらく『相手がこういう感じだったらこういう攻撃をする』や『こういう構えになったらこういう攻撃をする』…など、かなり明確に対策しているんだろうなと思いました。もともと彼が持っているポテンシャルの高さとチームとしてのまとまりや統一感、そういったことが色々とマッチしているんだなと思いました」
――また中村選手は打撃で効かせるだけでなく倒し切る力を持っているところがいいですよね。
「そうなんですよね。初めて海外の選手と試合をすると、日本人とは感覚が違ったりもするのですが、特に問題なく戦って倒し切っていたじゃないですか。そういう“倒し勘”みたいなものがあると思いますね。改めてフィニッシュシーンを見直すと、オジンがタックルに入る直前に一瞬中村選手がサウスポーからオーソドックスにスイッチしているんですよ。最初は足が揃ってしまったのかなと思ったのですが、違うアングルの映像を見るとオーソドックスにスイッチしているように見えました。オジンも右足を踏み込んでサウスポー気味になって中村選手の前足=左足にタックルに入って、そこに中村選手が左のヒザ蹴りを合わせたのですが、僕は中村選手があえてスイッチして自分の左足側にタックルに入らせるように誘ったんじゃないかなと思ったんです」
――突然フィニッシュが訪れたように見えましたが、そこを狙っていたというのが水垣選手の見立てですね。
「はい。それがとっさの判断なのか偶然そうなったのかは分かりませんが、いずれにしてもそういう状況になってヒザを合わせる勘はすごいなと思いますね」
――水垣選手も色んな選手を見てきたと思うのですが、いわゆる天性の当て勘のようなものはあると思いますか。
「そうですね…教えて出来るものではない、何かがあることは間違いないと思いますい。ただその何かの正体はイマイチ分からないです(苦笑)。ただ空間の把握能力みたいなものはあると思うんですよ。相手の足や下半身の位置を見た瞬間に、おそらくこの辺りに頭があるだろう、次はここに頭が移動してくるだろうということを予測する能力。中村選手はそこが一つ優れていると思います。確か中村選手はもともと野球をやっていたんですよね?」
――高校球児として甲子園を目指していたそうです。
「以前、野球のバッターはピッチャーが投げたボールを見てバットを振っているのではなく、ピッチャーの投球フォームを見ながら過去の経験則でボールのコースやスピードを予測してバットを振っているという記事を見たことがあるんです。ようはピッチャーの手から離れたボールを目で追ってバットを振っても間に合わないと。打撃の当て勘はそれと似ているところがあるのかなと思いました」
――さて中村選手はRTU準決勝で リー・カイウェンと対戦します。どんなことを期待していますか。
「カイウェンは2度目の出場で、2023年は準優勝している選手なので、そのカイウェンにいい勝ち方をすれば中村選手の評価も上がると思います」
――中村選手以外の日本勢は初戦敗退となったわけですが、競り合う試合をして勝つ経験を積むことが重要だと感じました。水垣さんはどこをどう考えていますか。
「どこで競り合う経験をするかという意味では、例えばアマチュアで自分と同じレベルの選手と競り合う・競り勝つことが大事な気がするんですよ。そういうことは出来るだけ早い段階で経験しておいた方がいいと思います。プロになると戦績にも気をつけなければいけないし、黒星が増える=チャンスが減ることになると思うので。それを考えるとアマチュア時代にたくさん試合を経験して、そこで競り勝つ経験をすることが大事だと思います。」
――確かに競り合って勝つ経験に関しては技術レベルとは別の部分もありますね。
「そうなんです。競り合っている状況で自分が持っているものをどう出すか、どう冷静に戦うか、どうスタミナ配分して戦うか……それはアマチュアでも経験できることですからね。これは大尊敬する五味(隆典)先輩に言われたことなのですが、同じ相手と連続でスパーリングすることが大事だと。一般的にプロ練は選手が何人かいて、1本ずつ相手を変えて休みを入れながらやることが多いじゃないですか。でも五味さんはそうじゃなくて、同じ相手と5分3Rやった方がいいって言うんですよ。同じ相手と続けてスパーリングすると、相手がどこで力を使って、どこで弱って、この展開だったらこう動くということが分かってくると。僕はアマチュア時代に五味さんからそうアドバイスしてもらって、ずっとそれを意識して練習していました。プロになってからも同じ相手と連続でスパーリングすることは継続していて、そうすると相手のダメージや消耗を感じ取りやすくなるんですよね。試合をする上でそういう感覚や経験は本当に大事だと思います」