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【ZFN03】DoubleG二冠王パク・チャンスと対戦、河名マスト「自分は丁度良い選手じゃないですか(笑)」

【写真】随分とヒゲが伸びた河名マスト(C)SHOJIRO KAMEIKE

15日(土・現地時間)に韓国はソウルのコリョ・テハッキョ(高麗大学)ファジョン・チュユックァン(体育館)で開催されるZFN03。そのメインで河名マストがパク・チャンスと対戦する。
Text by Shojiro Kameike

昨年、Road to UFCトーナメントの準決勝で敗れた河名は、再びUFCを目指す道として韓国のZFN出場を選択した。コリアンゾンビことジョン・チャンソンが主催し、UFCファイトパスでも中継されるZFNの第2回大会で、ユ・ジュサンと対戦するも1RでKO負け。勝利したユ・ジュサンはそのままUFCと契約しており、悔しい敗戦であった。

続いて今年6月に、人材育成大会といった趣のZFN ORIZIN02でチェ・ソンヒョクをジャパニーズネクタイで下した河名。その際に名前を挙げたパク・チャンスと、ZFNのナンバーシリーズで対戦することに。これまでDouble GFCで暫定フェザー級とライト級の二冠を獲得している強豪との対戦について語ってくれた河名は「すみません。今日は何かフワフワした答えで……」と言いつつも、自身の様々な変化に手応えを感じていた。


コンディショニングで体をフラットな状態にすると――

――現在は平日の朝10時です。その時間に外出しているということは、お子さんを保育園に送った後でしょうか。

「いえ、今日は違っていて……田町でコンディショニングをして、今はその帰りです」

――コンディショニングというと?

「初動負荷トレーニングに近くて、ストレッチや体の動かし方を補助してくれるマシンを使ってトレーニングしたりしています。自分の体を動かしやすくするため、ストレッチに近い動きですね。『ゼロアイ(ZERO-i)』というマシンを取り扱っている株式会社ゼロイニシャライズさんのオフィスがマシンのショールームみたいになっていて、そこを使わせてもらっています。社長の全明伸さんがトレーナーさんでもあるんですけど、もともとは倫也(中村倫也)の繋がりからで、通い始めて1年ぐらいになりますね」

――この1年間で体の動きに変化はありましたか。

「全さんの目指すところというのが――もともとフラットな状態にある人間の体は、動かしていると不具合が出て来る。その不具合を、マシンを使ったりして元のフラットな状態に戻そう、ということなんですよ。

河名が通う、ZERO-i コンディショニングマシンの施設。故・山本KID徳郁さんがアンバサダーに就いていた(C)MASUTO KAWANA

そうしたコンディショニングをやってみると、体の調子だけじゃなくて……何て言うんですかね。心と体がマッチしていない時、ってあるじゃないですか。体も心も疲れている時もあれば、体は疲れているけど心は疲れていない時もある。そこで体をフラットな状態にすることにより、心と体のすり合わせができるようになりました。体の状態を、自分の心と同じ状態に近づける手助けとしてくれているのかな、って思います」

――体は疲れているけど心が疲れていない状態だと、試合中は何か起こしがちですよね。

「アハハハ、そうなんですよ」

――心が疲れていないから「まだいける、まだやれる」と思って無理に攻め続けてしまい、逆転のカウンターを食らったりしてしまう。

「それもあるし、日常もそうですよね。そういう状態の時は怪我もしがちで。心が疲れていないから『まだやりたいんだ!』とリミッターも外れてしまって(苦笑)。その逆もあります。まだ体は疲れていないのに、心が疲れているから自分でストップをかけてしまったりとか」

――コンディショニングによって心と体のバランスが取れるようになると、練習の量だけでなく質の向上にも繋がりますか。

「そうですね。もちろん体をうまくつくることができれば量も増やすことができるし、量が増えれば質にも繋がると思います」

――なるほど。そのコンディショニングに通い始めて1年ということは、RTUに出場している頃でしょうか。

「いや、準決勝でシェ・ビンにブッ飛ばされた後ですね。八隅さんと『ダメージもあるし、次の試合は年明けにしようか』という話をしていると、『12月のZFNに出ないか』という声が掛かった時期です」

――あくまで現在と比較すると……、RTU準決勝で敗れてZFNに出ることになった。その時点では心と体がマッチできていない。まだ戦う準備は整っていなかったですか。

「少なからず焦りはあったと思います。いや、焦りなのかな……。RTUは準決勝で敗れ、自分が行きたい場所に行くことができない状態でした。そんななかZFNでは韓国で無敗の選手とか、良い相手をぶつけてもらえる。これは実質的にRTU決勝と変わらない舞台だと思いましたよね。そういう状況で、目の前にあるチャンスに飛びつきたいという感じではありました」

立ち位置やプレッシャーの掛け方で、まず相手の武器の一つ目を潰してきたいですね

――当時はそう思っていなくても、結果的に「あの時は焦っていたな」と感じるものかもしれません。誰もがチャンスは欲しい。ZFNの初戦で勝っていれば、翌年のRTUにエントリーできていた可能性もゼロではなかったわけで。河名選手に勝利したユ・ジュサンが、そのままUFCと契約している以上は。

「はい、そうですよね」

――初戦はユ・ジュサンにKO負けを喫したものの、今回でZFN出場は3度目となります。初出場の時と比べて、ZFNの雰囲気みたいなものにも慣れましたか。

「だいぶ慣れてきたかな、と思います。1回目は今回と同じ大きな会場で、2回目はほぼスタジオのような感じの場所で戦いました。その両方を経験したおかげで大会の流れ、リズムも掴んできました」

――ただし、あくまでZFNは韓国のフィーダーショーです。どうしても河名選手がアンダードッグのような扱いになるのではないでしょうか。

「それは当然あると思いますよ。自分はRTU準決勝敗退なので――いわば丁度良い選手じゃないですか(笑)。韓国の選手をUFCに行かせるための対戦相手として自分が丁度良いんだろうな、という自覚はあります。

ただ今回に関しては、パク・チャンスはZFNに出ているフェザー級ファイターの中では一番強い選手だと思っています。そういう意味では、タイトルマッチではないけど『ZFNフェザー級の中で一番を決める試合になっているんじゃないか』と考えています」

――パク・チャンスのイメージとしては、フェザー級だけでなく韓国MMAの中でも他の選手とは違うタイプですよね。

「はい。剛腕を振るってくるタイプではないです。五角形のグラフをつくったら、すごく綺麗な形になるファイターだと思いますね」

――どうしても何か一つだけ飛び抜けている選手のほうが目立ちがちですが、パク・チャンスはそれだけバランスが良い強豪です。

「先々週、ZFNのプロモーションで韓国に行ったんですよ。韓国のコメディアン2人とパク・チャンス、そして僕の計4人でポッドキャストを撮るということで。その時に韓国のファンから挙がっている批判コメントに対する回答を求められて――パク・チャンスに対しては『試合が面白くない。判定決着ばかりで一撃がない』とか言われていました……」

――MMAとしてバランスが良い選手に浴びせられがちな批判ですね。ちなみに河名選手に対しては?

「僕は韓国のファンではなくパク・チャンスから『お前はまだMMAのビギナーだ』みたいなことを言われました(苦笑)。レスリング以外のことは何もできていない、という感じですよね」

――なるほど……。パク・チャンス自身はレスリングで勝負してくるわけでもなく、カウンターを狙いながら、相手が近づいてきたらレスリング以外の組み方を見せます。

パク・チャンスの特徴はカウンター&首相撲からのグラウンド戦。MMAとしてのバランスは高い(C)ZFN

「組みのアプローチについては、どちらかというと首相撲ですよね。打撃で距離をつくって、近くなったら上組みするという。その上組みは強いと思いますけど、スクランブルも――パク・チャンスはスクランブルに持ち込もうとして疲れてくれるので、そこにつけ入る隙があると思っています。足の裏以外がマットに着いた時の動きは、僕が上回ることができる」

――試合のキーポイントとなるのは、パク・チャンスのカウンターでしょうか。

「相手がカウンターのチャンスを待っていることは分かっています。だからこそ立ち位置やプレッシャーの掛け方で、まず相手の武器の一つ目を潰してきたいですね」

――もう1点、パク・チャンスはライト級で戦うこともあるだけに、フェザー級の中ではフレームが大きいファイターです。

「普段は82、83キロあるそうです。2週間前にプロモーションで会った時は『75キロまで落とした』と言っていて。試合まで残り2週間で10キロも落とすわけですけど、『今まで計量失格したことはないから安心してくれ』と言っていました(笑)」

レスリングとコントロールが主体だったものが、削りながらフィニッシュできる形が出来上がってきている

――今回も計量オーバーのないことを願います! 対して河名選手は定期的に大学のレスリング部で練習しているのですか。

「月1~2回、専修大学のレスリング部に行っています。まだコーチとして名前は残っているので」

――自身の練習というよりは、コーチとして?

「自分の練習もありますし、学生から求められればテクニックを指導したり、試合でセコンドに就いたりもします」

――MMAの世界の中でレスリングをするだけでなく、いわゆるピュアレスリングを月1~2回でも練習すると、自分の中で何か違ってきますか。

「まずMMAのレスリングとピュアレスリングでは、同じ部分もあれば違う部部分もあります。おそらく学生からすれば、今の自分とレスリングをやったら、やりづらいです。今は僕もピュアレスリングではないので。

一方で僕としては『レスリングのルールでは点を取られてしまうよな』という攻防の中でスクランブルの技術を確認しつつ、それをMMAで使えば――MMAの選手からすると、普段とは違う体の寄せ方などもあって、『これはやりづらい』と感じるでしょうね。そのあたりを上手くミックスさせていきたいです。

自分にとっては大学レスリング部で練習すると、原点にも戻れるし、また新しい閃きも生まれたりするんですよ。ショーン・ストリックランドがSNSにアップしていた、壁ローリングについてもレスリングをやることで、すごく興味深いものになりますし」

――ストリックランドの壁ローリング! マットの上でローリングするのと同じ動きで、壁を使ってローリングする。動き自体はピュアレスリングのものですよね。

「基本的に壁レスに持ち込まれると、自分は相手と壁=ケージの間に入れられた状態から、自分がケージの真ん中に押し出すことがセオリーじゃないですか。でも、あんな壁レスの抜け出し方があるんだと思いましたね。気になる方は、検索してみてください(笑)」

――アハハハ。河名選手にとって最大のストロングポイントはレスリングです。MMAを戦ううえで、レスリングの先にあるストロングポイントを生み出すことはできていますか。

「前回の試合で1Rにフィニッシュできたことは、自分にとって凄く大きな経験になっています。

得意のレスリングからフィニッシュに繋げる。前回の勝利に関する詳細はコチラから(C)GYO DUK LEE

これまではレスリングとコントロールが主体だったものが、削りながらフィニッシュできる形が出来上がってきている。ただ、フィニッシュに向かってファイトすることは頭に入れていても、状況によって取れる技と取れない技がある。そこで、ちゃんとブン殴るということも必要じゃないかと思っています」

――なるほど。今回勝てばもう一度RTU出場、あるいはDWCSなどUFCへの道が開かれると考えていますか。

「勝ったその先に何があるのか、まだ自分の中で明確には見えていないです。ただ、自分としては気楽に戦うことができるというか。ベルトも賭けられていないし、気負うことなく、勝つために自分を表現したいですね」

――では次の試合への意気込みをお願いします。

「ZFNまで追ってくれているのは、相当コアなMMAファンだと思います。その人たちが『ZFNを追っていて良かった』と思ってくれるような試合にしたいです。ぜひ注目してください」

■視聴方法(予定)
11月15日(土・日本時間)
午後6時30分~UFC Fight Pass

■ZFN03 メインカード

<フェザー級/5分3R>
パク・チャンス(韓国)
河名マスト(日本)

<90キロ契約/5分3R>
チェ・セフン(韓国)
ジャン・ボムソク(韓国)

<フェザー級/5分3R>
チェ・ソンヒョク(韓国)
ヘイナウド・エクソン(ブラジル)

<フェザー級/5分3R>
チェ・ハンギ(韓国)
ナビ・ナビエフ(ロシア)

<フライ級/5分3R>
ビョン・ジェウン(韓国)
ジェレミー・サンティアゴ(米国)

<ライト級/5分3R>
イ・ドゥリ(韓国)
イ・グニョン(韓国)

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