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【ZFN ORIZIN02】河名マスト、チェ・ソンヒョク戦を振り返る「がぶりも抑え込みの一つだと思えるように」

【写真】極まらないと反撃される――という位置でないサブミッションは、MMAではとても重要。河名のキャリアにとって、決して小さくない勝利だろう(C)MASUTO KAWANA & GYO DUK LEE

6月7日(土・現地時間)、韓国はソウルのスポモチブで開催されたZFN ORIZIN02。河名マストはジャパニーズネクタイを極めてチェ・ソンヒョクから一本勝ちを収めた。
Text by Takumi Nakamura

昨年8月のRoad to UFC準決勝でのシェ・ビン戦、12月のZFN02でのユ・ジュサン戦と2試合連続でのKO負けを喫したなかでソンヒョクとの一戦に挑んだ河名。ソンヒョクの打撃でヒヤリとする場面があったものの、テイクダウンから蹴り足を担いでがぶり→ジャパニーズネクタイ(ワールド)を極めた。ジャパニーズネクタイまでの流れはがぶり・サイドバック・抑え込みの回転の中で生まれるものであり、レスリング出身の河名だからこそ得意に出来るムーブだという。

UFCを目指してZFNに参戦している河名にとって、今回のソンヒョク戦はまさに首の皮が一枚つながった勝利。それと同時にUFCを目指すライバルたちと戦うための切符を掴んだ勝利とも言える。連敗脱出、そして再びUFCを目指す道のりについて河名に話を訊いた。


がぶりからの攻防の幅はレスラーだからこそ広げられる

――先日のZFN ORIZIN02、チェ・ソンヒョク戦での一本勝ちおめでとうございます。連敗脱出となる勝利でしたが、試合が終わった直後はどのような心境でしたか。

「まずは一安心というか、連敗していることでの自分へのプレッシャーはなかったんですけど、勝ってケージから出られたことへの安心感は大きかったです」

――連敗中ということでケージへ向かう心境が今までと違ったのですか。

「試合内容にも繋がるんですけど、今回ウォーミングアップをして少し時間が空くというか、階段で入場を待つ時間が長かったんですよね。それもあって『いけるぞ!』という自信がある故に試合で落ち着き過ぎちゃいましたね。今振り返ると最初のコンタクトでテイクダウンしたあと、もっとがむしゃらにコントロール出来たんじゃないかなと思うし、コントロールが雑になって立たれた部分もありました。もっと自分らしくレスリングで捕まえて、マットに叩きつけて暴力をふるうというところまで、もう少しできたんじゃないかなと思いました」

――実際にソンヒョクと肌を合わせてみていかがでしたか。

「良くも悪くも相手に対する見積もりがそんなに高くなかったし、実際に戦ってみても想定内だったんですよね。だから試合としてはフィニッシュは出来たけど…みたいな。入場前のコンディショニングも含めてもっと出来たことはあったんじゃないかというのはありました」

――最初にテイクダウンを取ったあとに立たれてしまったのは、想像以上に楽にテイクダウンできたからだったのでしょうか。

「思ったよりも簡単に足を出してくれて(蹴ってくれて)、テイクダウンさせてくれたかなと思います。しかも相手は下になっても技を仕掛けて一本取ろうとしてきている感じがあって、余裕を持ってさばけた反面、いけると思ってしまったのが慢心に繋がった部分があったかもしれません」

――試合がスタンドに戻った後、ソンヒョクの打撃を受けて下がる場面がありました。あそこは過去2戦のKO負けを思い出してしまったのですが、今回はダブルレッグを合わせてテイクダウンを奪いました。

「何発かソンヒョクの打撃をもらって、シェ・ビン戦やユ・ジュサン戦を思い出すと、あの2人とやった時は打撃一発の威力がやばくて『これはちょっとやばいかも…』という気持ちが芽生えたんです。でも今回はそれがなかったので、心の余裕を持つことが出来たのかなと思います。その余裕があったからこそ、手を出しながら相手の斜線を捌いて、下がりながらダブルレッグに入る準備ができたのかなと思います。相手の打撃を見ることはできていたけど、逆に見ながらもらっていた感じです」

――あの場面でテイクダウンを選択できたのは過去2戦の反省や経験が活きたのでしょうか。

「過去の経験値からというよりも、試合序盤のテイクダウンの攻防で背中をつけさせたら絶対に勝てるという自信があったので、それで迷いなくテイクダウンに行くことができました」

――先ほどの話にもありましたが、ソンヒョクがガードからサブミッションを狙うタイプだったことはやりやすかったですか。

「そうですね。自分がグラウンドでトップを取って戦う練習グラップリングでもスパーリングでもずっとやってきていることなので、そこの対処に自信はありました」

――そして2度目のテイクダウンから蹴り足を担いでパスガード、がぶってジャパニーズネクタイという流れになっていきますが、あの流れは得意なパターンの一つですか。

「これはレスラーあるあるだと思うんですけど、レスリングの競技特性上、がぶりの体制になることが多いんですね。で、グラップリングや寝技をやってきた選手の場合はバック、マウント、横四方、上四方…など抑え込みに辿り着いてからサブミッションを仕掛ける流れだと思うのですが、今の自分はがぶりも抑え込みの一つだと思えるようになってきましたね。がぶった時に余裕を持って、いつも見えている景色を見ながら戦うことはできたかなと思います」

――河名選手にとってはサイド、マウント、バックと同じように“がぶり”というポジションなんですね。

「がぶりは落ち着けるし、MMAだったら叩くこともできる。がぶりからの攻防の幅はレスラーだからこそ広げられる部分もあるのかなと思います」

――ジャパニーズネクタイそのものは得意技なのですか。

「そうですね。がぶりからワールド(ジャパニーズネクタイ)でセットする形はずっとやってきていて、今回一本取ったパターン以外にも、相手のリアクション次第でどうやって次の技の繋げるかというところまで考えてやってきました」

――ジャパニーズネクタイはMMAを始めた当初から得意にしていた技なのでしょうか。

「スタートは技を習ったというよりは、基本的に僕のコントロールの仕方がサイドバックで抑えながら叩くことがベースだったんで、そことがぶり。がぶったらネルソンで返して抑え込む、相手が起き上がってきたらもう1回サイドバックに戻るとか、がぶり・サイドバック・抑え込み、この3つをぐるぐる回していれば、自分の落ち着いた景色の中で戦えるというのがまず1つあって。それプラス、がぶりはコントロールはできるけど、なかなかフィニッシュが見えないポジションでもあるので、そこでレスラーあがりの八隅(孝平)さんから得意技であるワールドを教わったことがデカかったですね。

がぶりからもフィニッシュを目指していいんだっていう。別にそこで一本を取れなかったらもう一度抑え込めばいいわけですし、ワールドという技を覚えて、その技が結局組み手の流れの中にあるという感じですね。その一発で終わらせるとよりは、仮に技を失敗しても次に行けばいいやという流れにすることができました」

――ジャパニーズネクタイが極まらなくてもトップキープは続けられますし、あくまで流れの中でのサブミッションの仕掛けという位置づけですね。

「そうですね、あそこからだと、相手が上を向ききらないようにダースチョークで取りにも行って、それでも上を向かれたら上四方か横四方で抑え込んで叩く、相手が起き上がってきたらがぶるみたいな感じです。ただ技をセットした時点で自分では極まっていないと思ったんで、極め直そうとしたところでタップを取れたというのがあって。

自分自身、サブミッションでフィニッシュして勝った試合が少ないので、1Rで相手も元気な状態で本当に一本取れるのかという、自分自身への信頼感が少し足りていなかったと思います。それで技をセットするまで少し不安がありましたね。最後も自分のお腹の前に相手の首を入れ直そうと思ったタイミングでタップを取れたんで、最終的にどこにストレッチがかかってタップしたのかは自分でも把握しきれなかったです」

ZFNの中でやる可能性がある選手で、一番強いというか山の上にいるのはチャンス

――試合前にインタビューした際に「これからZFNでUFCを目指す選手にとって僕はちょうどいい指標であり、噛ませ犬的な扱い。舐められたままで終われない」という言葉もありました。その状況を理解したうえで勝てたことをどう捉えていますか。

「一つ安心できたのは、あのレベルの選手を1Rでフィニッシュ出来たことですね。自分はここのレベルにはいないんだなという風に捉えることはできました。それこそ試合前のインタビューでも話していた、UFCと契約できる・できないの狭間にはまだいるというか。そこより下の選手には全然行けるという感じはあったので、もう一つ上の壁をぶち破るために次どうしていくかということを改めて考える機会になりました」

――言い方を変えれば首の皮が一枚つながった勝利だったと思いますし、次に進める勝利でした。次戦について現地で話したことなどありましたか。

「8月にイベントをやるかもしれないという話を聞いていて、ZFNのYouTubeにも出ている話なんですけど、全試合が終わった後にZFNチャンネル内のトークを収録することになって『次は誰とやりたい?』と聞かれたんですね。僕は韓国の選手の名前をそこまで知っているわけじゃないんで、12月に同じ大会に出ていたパク・チャンスの名前を出したんです。

そしたらたまたまチャンスがすぐ目の前にいて、チャンスも呼ばれて『河名がこういうことを言ってるけどうする?』みたいな感じになりました(苦笑)。8月に試合が決まっているわけではないですけど、これからZFNの中でやる可能性がある選手で、一番強いというか山の上にいるのはチャンスだと思っているので、ある意味そこを超えることが今の自分の目標であり、チャンスが一つのターゲットですよね。チャンスに勝つイコール間違いなくUFCに近づけると思っています」

――試合後のマイクでは亡くなったお母さんについて触れる場面もありました。そのことについても聞かせてもらえますか。

「基本的に母親はずっと自分のやっていることは応援してくれていました。母親だから勝つ姿を見せたいというのは特になかったんですが、母が亡くなった時が本当に急だったんです。夕方にくも膜下出血で倒れて、父親から今すぐ帰って来いと言われたのですが、その日はもう移動手段がなくなっていて。友達がリレー形式で東京から新大阪まで送ってくれたんです。母親は倒れた翌日の早朝に亡くなったので、ギリギリ間に合わなかったんですけど。

なんて言うんですかね、生きていることは当たり前じゃないし、母親のことで本当に大変な時に助けてくれる仲間たちが周りにいることに感謝を感じ、自分も周りに対してそうありたいと思いました。自分は死ぬ気で試合をやりたいとは全く考えてないですけど、そのギリギリのところで戦っているからこそ見せられるものがあると思うし、これからもそれを作っていくために、改めてこのままじゃいけないなとかもっと強くならなきゃいけないなということは考えました」

――連敗脱出を果たして再スタートした河名選手の次戦を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

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