【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:7月 金原正徳×YA-MAN「金原さんの引退は一つの時代の幕引き」
【写真】YA-MAN戦後に引退を表明した金原。同世代の現役引退について水垣が語った(C)RIZIN FF
過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura
大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣氏が選んだ2025年7月の一番──7月27日に行われた超RIZIN04の金原正徳×YA-MANの一戦。水垣氏と同世代の金原のラストファイトになった試合について語らおう。
――7月の一番は水垣さんと同世代の金原さんの引退試合にもなったYA-MAN戦を選んでいただきました。
「僕たち世代の一緒に練習してきた選手で、大きな舞台で戦っている最後の生き残りが金原さんだったので、その金原さんの引退ということで僕の想いもあってセレクトさせていただきました」
――水垣さんと金原さんは現役時代にどんな接点があったのですか。
「実は金原さんとはグランドスラムやHEARTSのプロ練で一緒になることが多くて、よくスパーリングさせてもらっていたんですよ。で、いつもボコボコにされてましたね(笑)」
――一緒に練習していたことも踏まえて、水垣さんはどこに金原さんの強さを感じていましたか。
「基本的には組み技が強いんですけど、打撃もめちゃくちゃ強いんですよ。しかも打撃の組み立て方が寝技脳の組み立て方というか。寝技だったらテイクダウンして、パスガードして、ポジションを取って、抑え込んで、極めるみたいな流れがあるじゃないですか。金原さんの打撃はそういう打撃なんですよ。言葉にするのは難しいんですけど、こうしたらこうしてこうするみたいな、すごく緻密に打撃を組み立てるんですよね」
――打撃でも手順を飛ばさない、ということですか。
「そうですね。例えば少しスパーリングの期間が空いて久々に金原さんとスパーすると僕のパンチも当たるんですよ。でもスパーリングの回数を重ねると、どんどん攻略されてパンチが当たらなくなる。そういうタイプですね」
――金原さんの攻防を端折らない、丁寧に一つずるやる…そういう戦い方がキャリアの長さにもつながっていたのでしょうか。
「そう思います。僕の打撃は金原さんとは真逆で、瞬発力と反射神経に頼って勝負する戦い方・スタイルだったんです。年齢とキャリアを重ねると最初にそういう部分から衰えていくので、僕が金原さんほど長く続けられなかったのはまさにそこだったと思います。ただ今回の試合で言えばYA-MAN選手のような現役バリバリのストライカーと打撃で戦うことにはリスクがあるので、早いタイミングで組んで展開を作っていこうとしたのだと思います。最後はスタミナも切れて苦しくなったんですけど、自分の現状を考えたうえで今の自分がやるべきことをやって戦っている姿は染みましたね。
スタミナが切れたのも、若い頃と同じようにたくさん練習できるわけではないし、限られた練習量をどこにどう配分するか。その振り分けがあった上での試合だったと思うので、どうしてもあのペースで戦い続けていたら、若い頃とは違ってスタミナ的にはキツくなっていたんだろうなと思います。大きな怪我じゃなくても蓄積で痛めていた箇所もあるだろうし、そのなかで出来ることを全力でやって試合をしていることは伝わってきました。それで引退宣言が飛び出したので、俺たちの最後の砦がここで崩れたか…という気持ちになりましたね」
――キャリア的に水垣さんと金原さんは2014年~2016年は一緒にUFCにも参戦しています。
「僕は最後のUFCの試合から3年後、35歳まで現役を続けたのですが、金原さんは約10年現役を続けた&RIZINで戦ってきたので半端ないと思います。しかも引退後のSNSを見ても、普通に今でもプロ練にも参加されているじゃないですか」
――一緒に練習した所英男選手も「引退したから弱くなるわけじゃない」と投稿していました。
「おそらくスパーリングで大きいグローブ着用でトップ選手と打撃のスパーリングをやってもやり合えると思うんですよ。ただそれが試合という場になって……となると、どうしても年齢的な衰えが出てしまったんだと思います」
――最近は10代でMMAのジムに入っている選手も多く、高校を卒業してから格闘技を始めてプロになるパターンは減っていくと思います。
「何かしらの格闘技のバックボーンを持っていたり、遅くても高校入学くらいにはジムに入って…というのがトレンドだと思います。僕自身もジムをやっていて、高校生くらいの入会者の多さは感じているので。今の選手たちはUFCやRIZINがあって、そこに憧れて強くなっていけば稼げるというモチベーションがあるじゃないですか。でも僕ら世代は軽量級=お金にならない時代だったと思うんです。華やかな舞台や大金を稼げる舞台があるわけではなかったので。だから僕自身もバイトをしながら格闘技をやって引退していくんだろうなと思っていたし、僕たちが本当に格闘技を好きでやっていたギリギリ最後の世代なんじゃないかなと思います」
――今の選手たちからすると最軽量級が70kgという感覚はないでしょうね。
「そうですよね。PRIDEで五味(隆典)さんやマッハ(桜井速人)さんが73kgでやって、K-1・HERO’SでKID(山本徳郁)さんや宇野(薫)さんが70kgでやって……という時代でしたからね。世界的に言うとジェンス・パルヴァーやユライア・フェイバーがWECで戦って、それがUFCにつながるわけじゃないですか。僕もWECに出ていたのでキャリア的には“初代UFCバンタム級世代”なんですよ。その最後の一人が金原さんだったと思うので、金原さんの引退=一つの時代に幕が下りたんだなと感じています。それと同時にDEEP JEWELSでは僕のジムの選手と金原さんのジムの選手が試合することもあって、そういう時代になったんだなと思います」