この星の格闘技を追いかける

【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:4月 ジェフリー×ラマザノフ「ジェフリーの押し込みは……」

【写真】ジェフリーのクリンチワークがMMAの技術革命を起こす………かもしれない(C)PFL

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣氏が選んだ2025年4月の一番──4月18日に行われたPFL WT2025#03のアーロン・ジェフリー×ムラッド・ラマザノフの一戦。テイクダウンはしない…が、組んでコントロールし続けて勝つ。そんなジェフリー独自の世界観を語ろう。


――4月の一番ではPFLでのアーロン・ジェフリーとムラッド・ラマザノフの試合をセレクトしていただきました。この試合は私もライブで試合を見ていたのですが、ジェフリーがラマザノフをケージに押し込んで細かい打撃で削り続けてスプリット判定で勝つという試合でした。決して激しい攻防や動きがあった試合ではなかったですが、この試合を選んだ理由を聞かせてもらえますか。

「4月もいい試合がたくさんあって、正直どの試合を選ぶのかすごく迷ったんですけど、ジェフリー×ラマザノフはすごく印象に残って“しまった”試合というか。誤解を恐れずに言えば、面白い試合ではないです。ただジェフリーがあの戦い方をラバザノフ相手に対して出来るというのは、逆に言うとすごいことなんですよ。例えば試合のスタッツを見返すと、テイクダウンの数でいえばラマザノフが7でジェフリーは0。ほとんど組みの展開でジェフリーが1回もテイクダウンできなかったのに、勝ってるのはジェフリーなんですよ」

――ジェフリーが組みでコントロールしている印象だったので、テイクダウン成功数が0というのは驚きでした。

「そうですよね。つまりジェフリーがテイクダウンは出来なかったけど、トータル的な組みの打撃数で上回って勝ったということです。それだけジェフリーのダーティボクシング、クリンチ際のヒジ・ヒザで削る戦い方がハマった試合だったと思います」

――水垣さんがおっしゃられたようにジェフリーのファイトスタイルはかなり独特ですよね。大まかにいえばレスリングではあるんだけど、テイクダウンはしない。自分から深く組みにいかないんですよね。

「だから何とも言えない技術、ファイトスタイルなんです(笑)。ようは“押し込み”じゃないですか。で、押し込むだけだったら体力があればある程度できると思うんですけど、ジェフリーの場合はそこに打撃が混じってくるんですよね。グラウンドでもトップキープに徹するのと殴りながらトップキープするのでは後者の方が難しいじゃないですか。僕のなかでジェフリーはトップキープ&パウンドをケージに向けてやっているイメージなんですよ」

――それは分かりやすいです。

「しかもグラウンドで寝た状態よりもケージで立った状態の方がそれをやるのが難しいと思うんですよ。ケージに押し込んでいる方が簡単に入れ替えられるし、攻守の切り替えも激しいので。それでもジェフリーは相手をケージに押し込み続けてコツコツ打撃を入れられるというのは……………すごいですよ。今回のジェフリーVSラバザノフもラバザノフがテイクダウンを仕掛けるけど取り切れない、徐々にジェフリーが打撃で削っていくという展開でしたよね。これはもうジェフリーの職人芸です」

――誰かが教える・誰かに教わるという話ではないかもしれませんね。

「あの技術を教えられる人はいないだろうし、あの技術を教わりたい選手も少なそうです(苦笑)。仮に上手くいってもスプリット判定に勝ち負けを委ねるような試合になるし、きっとジェフリーも誰かに教わってやっているわけではないと思います。MMAをやっていくうちに自分のスタイルでやりやすいようにやっていたら、あそこに辿りついたんじゃないでしょうか。特異なファイトスタイルだと思います」

――表現としてはクリンチワークになるんですかね。テイクダウンできるわけではないので“組む”の手前の“触る”というか。触って相手の動きを制して殴る・蹴るですよね。

「先ほども少し触れましたが、壁をマットに見立ててトップコントロールしながらパウンドを打っているイメージだと思います」

――今はそこまで大きなダメージを与える技術ではないかもしれませんが、もっとこの技術が洗練されていけばケージレスリングの概念が変わるかもしれないですよね。

「ジェフリーを見ていて思ったのが、ベン・アスクレンっていたじゃないですか。彼のグラウンドでのトップコントロール技術はものすごかったんですけど、いかんせんパウンドの迫力がなかったので『アスクレンって強いんだけど……ね』という印象が強かった。でもそれからハビブ・ヌルマゴメドフが出てきて、コントロールしながら殴る・殴りながらコントロールするスタイルが確立されましたよね。

ハビブを見ているとリストの取り方や足の挟み方はアスクレンのコントロールに似てるんです。で、アスクレンとハビブの違いが何かといったらパウンドの強打があるかないかだったと思います。だからジェフリーの技術も今はつまらなく見えるかもしれませんが、誰かがこの技術を使ってダメージを与えられるように進化させたら、クリンチ・ケージコントロールの基盤を作ったのはジェフリーだというように評価が変わるかもしれません」

――なるほど。今のジェフリーの技術は押し込んでコツコツ打撃を当てているだけですが、この打撃で大ダメージを与えられるようになったら、ケージに体を預ける・ケージを背にして立つという技術は使えなくなりますね。

「そういう意味でジェフリーの技術は新しい進化につながる気がするんすよね。コナー・マクレガーがドナルド・セラーニに肩パンチでダメージを与えたことがありましたけど、ああいう打撃がミックスされるようなことになったら、ケージレスリングやスクランブルにおける新たな技術の流れが出てくる可能性があると思います。そう考えるとジェフリーはロマンがあるんですよ」

――確かにロマンがありますね。

「MMAは柔術家から始まって、レスラーが出てきて、テイクダウンディフェンスできるストライカーが出てきて、さらにテイクダウン能力に長けたレスラーが出てきて……そうやって進化を続けつつ、新しい革命的な技術は出てきにくくなっていると思うんですよね。そのなかでジェフリーを起点にケージレスリングでダメージを与える新しい技術革新が起きないかなという……ロマンですよね(笑)」

――昨年までPFLは予選リーグ&試合時間でポイントが変わるレギュレーションだったので判定勝ちが多いジェフリーには不利だったと思います。

「そうなんですよ。今までのレギュレーションだったらプレーオフまで進出できていないので、ある意味、ジェフリーに流れが来ているかもしれません(笑)」

――水垣さんの話を聞いていると段々ジェフリーのことが気になってきました(笑)。

「僕はジェフリーの試合をすごく楽しみに見ているのですが…現時点ではこれが伝わる人はまだ少ないと思います(笑)。こういう真面目な取材や酒を飲みながらの雑談のなかで『あれはMMAを変えるかもしれない!』と話題になった技術や展開はたくさんあったと思うんですけど、それがすべて成功するわけではないじゃないですか。これからジェフリーの技術が革命として生き残るのかどうかは見守っていきたいです」

PR
PR

関連記事

Movie