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【UFC331】展望 UFC世界フライ級選手権試合 似て非なる王者ヴァンと前王者パントージャのリマッチ!!

【写真】平良戦で絶対に背中を許さないという作戦を実行し続けたヴァン。パントージャ戦も背中は譲れないの同じだが、そこで前王者にはどのような策があるのか非常に楽しみだ(C)Zuffa/UFC/em>

19日(土・現地時間)、カリフォルニア州ロサンゼルスにあるクリプトドットコム・アリーナ(旧ステイプルスセンター)にて、UFC 331「Van vs. Pantoja 2」が行われる。
Text by Isamu Horiuchi

(C)Zuffa/UFC

アルマン・ツァルキャン対マウリシオ・ルフィの試合をコメインとする今大会のメインイベントは、王者ジョシュア・ヴァンと前王者のアレッシャンドリ・パントージャによるフライ級タイトルマッチだ。昨年12月のタイトル戦の再戦――当時は4度連続防衛中の絶対王者パントージャに、24歳の新星ヴァンが挑む形だった。

試合開始早々、いつもの如く猛然と拳を振るって前進し右ハイを放ったパントージャ。首で受けたヴァンは、その足を肩で抱えて前に出る。

(C)Zuffa/UFC

バランスを崩したパントージャが体を翻しながら左手をマットに付けた瞬間、ヴァンに押された勢いでヒジがあらぬ方向に曲がってしまい続行不可能に。僅か26秒、王者の左ヒジ脱臼により試合は終了し、ミャンマー出身のヴァンがアジア人初の男子UFC王座に輝いた。


単に世界一の称号を獲るためだけに前に出るわけではない。共に「それ以上」のものを賭けている

(C)Zuffa/UFC

ベルトに相応しい力を示せぬままの王座戴冠となったヴァンは、今年の5月に平良達郎相手の初防衛戦に臨んだ。序盤は平良が何度もテイクダウンからマウントを奪うが、その都度ヴァンは巧みなディフェンスを見せ、やがてポジションを戻して立ち上がってみせた。そして2R終盤、平良のローのタイミングを完全に読んだヴァンが右をスマッシュヒット。マットに沈んだ平良の顔面がその衝撃で大きく歪むほどの凄まじい一撃で、試合の流れを一挙に取り戻した。

3Rにも数限り無い拳を叩き込みフィニッシュ寸前まで平良を追い詰めたヴァンだったが、色気を出したヴァンのチョーク狙いを脱出した平良は、恐るべき執念で組み付きテイクダウンを奪い返す。4Rもテイクダウンからマウントを奪う大反撃を見せた平良に対し、序盤の爆発的な動きができなくなったヴァンだが、それでも三角絞めを凌いで立ち上がった。

そして迎えた5R。顔面を血に染めた平良が余力を振り絞って仕掛けたテイクダウンを潰したヴァンは、ここぞとばかりに距離を詰めて怒涛の連打へ。平良が打たれるがままになったところでレフェリーがストップ。UFCフライ級史上に残る大激闘を制したヴァンが、初防衛に成功した。

かくして世界最高峰の実力を証明した24歳の若き王者と、ヒジの怪我が癒えた35歳の前王者による注目の再戦が、今回実現する。両者揃って相手の攻撃を一切恐れず拳を武器に前に出てゆくタイプだけに、序盤から互いに一歩も退かない激しい攻防が見られる可能性が高い。しかし両者は、単に世界一の称号を獲るためだけに前に出るわけではない。共に「それ以上」のものを賭けている。

両者の第一戦目が決まった時、当時の絶対王者パントージャは若き挑戦者を評してこう語っている。

「ジョシュア・ヴァンのことは、まるで僕のようだと思っているよ。僕と同じくきわめてアグレッシブな選手だ。もともと恵まれない出自を持ち、米国に移住してアメリカン・ドリームを生きている。僕がやってきたことだ」

ブラジルはリオに生まれ、幼い頃に父が家を去った後、経済的困難のなか母親に育てられたパントージャ。まずは柔術をはじめ、やがてムエタイの試合で連戦連勝したが、金にならないという理由でMMAに転向した。その後、米国にUFCランカーとなるも、それでも十分に家族を養えず、試合1週間前までウーバーイーツのドライバーとして働いていたのは有名な話だ。

タイトル獲得後も「僕は父親として、自分の子供たちに自分のような経験は絶対にさせたくない。家族のためなら何でもする。僕の人生の全てを、二人の子供に捧げるよ」と語り、前戦のヒジの負傷の二日後には、片腕で鍛錬を再開したという元王者。今回のタイトル奪還を目指すにあたり、家族の存在がモティベーションとなっているのは間違いない。

ヴァンの来歴はパントージャ同様、いやそれ以上に過酷なものだ。ミャンマーの山岳地帯に生まれ育つも、10歳の頃に紛争と宗教的迫害を逃れるため家族で祖国を逃れて、マレーシアの難民キャンプに。その後12歳で米国テキサス州に渡るが、英語を話せない小柄なアジア人として、学校や路上で毎日のように戦うことを余儀なくされたという。高校卒業後MMAと出会い、たちまち頭角を表してUFCに。ランカーとなった暁には、苦労して育ててくれた母親に念願の一軒家をプレゼントした。

自分を、そして最愛の家族をかつての境遇に戻さないための唯一の手段こそ、勝利──そんな両者が選んだのが、相手の攻撃を恐れず前に出て、技術と身体の圧と気迫で相手を制圧する戦い方だ。この試合は、単なるフライ級世界一決定戦ではない。非先進国の過酷な境遇から、生活の糧を求めて米国に渡り、MMAにて家族の未来を切り拓かんと進む両者の道の、残酷にして必然的な交錯だ。それぞれの拳が背負うものの大きさを心に留めて、この試合を凝視したい。

(※付け加えると、ヴァンは王座戴冠後、米国内の(自らの出自である)チン族コミュニティ主催の祝勝会にて「僕が最初だけど、決して最後じゃない。今後若い世代が僕に続いてくれるはずだ」と話している。さらに平良戦勝利後には──内戦が続く祖国ミャンマーには帰国がままならないなか──米国移住後はじめてマレーシアの難民キャンプを再訪し、また(チン州と国境を隔てて隣接する)インドのミゾラム州を訪れ、祖国を逃れて彼の地に生きるチン族及びミゾ族(インドにおける呼称で、チン族とほぼ同一民族)の人々と交流を行なった。「ミゾとチンの人々は僕の家族だ。双方を代表できることを本当に感謝している」と語ったヴァン。幼い頃に祖国を追われた若者が、同様に世界に流散して生きる同胞たちにどれほどの想いを抱いて戦っているのか、我々には実感し難いところだ)

似た者同士の両者には大きな相違点もあり、この試合をさらに興味深いものとしている

(C)KEITH MILLS

しかし、そんな似た者同士の両者には大きな相違点もあり、この試合をさらに興味深いものとしている。パントージャのMMAキャリアは、苦闘に続く苦闘の中で築かれたものだ。プロデビューから9年後の2016年、通算戦績15勝2敗でRFA王者となり、LFC王者との統一戦ともいえるAXSスーパーファイトでダマッシオ・ペイジを下すことでフィーダーショートップという肩書をもってTUF 24に参加した。

しかしながらパントージャは、準決勝で扇久保博正に抑え込まれて判定負けを喫し、絶対王者デミトリウス・ジョンソンへの挑戦権という千載一遇のチャンスを逃した。

それでも翌年UFC契約を決め、フロリダに移住しATT所属に。その後もダスティン・オーティス戦アルカントラ・フィゲイレド戦アスカル・アルカロフ戦では並みいる強敵に苦杯を舐めながらも、「闇雲に突進するのだけではなく、ときに冷静にラウンドを勝ちにゆく」戦い方の必要性を身をもって学びランキングを上げてゆき、2023年7月、33歳にして念願のUFC王座に輝いた

(C)Zuffa/UFC

その後も進化を続ける王者は、二度目の防衛戦でスティーブ・アーセグに苦戦を強いられたものの、続く朝倉海戦カイ・カラフランス戦は必殺のバックチョークで圧巻の一本勝ち。両試合とも、パントージャの最大の武器であるグラップリング、特にチョークを存分に研究してきた挑戦者の動きをことごとく制しての勝利だった。

長年の鍛錬と実戦を重ねるなかで、30代半ばにして別次元の技術的精度に達して世界の頂点を独走する。反応速度が重要となる最軽量級が舞台であることを考えると、パントージャが果たした4連続防衛は、数字が示す以上の偉業と言える。

対照的に、驚異的なスピードで成功の階段を駆け上がってきたのがヴァンだ。高校卒業後にMMAジムの門を叩くと、それから僅か3年ほどでプロ7勝1敗の戦績をもってUFCと契約。その後も凄まじいペースで試合をこなし、チャールズ・ジョンソンに一発をもらって敗れた以外は白星を重ね、UFCデビュー後2年半で世界の頂点に上り詰めた。英語メディアにてしばしば彼の台頭が”meteoric rise (流星の如き急上昇)”と形容されるのも頷けるところだ。

(C)Zuffa/UFC

若き王者は、主武器であるボクシングにおける天性の距離感とタイミングもさることながら、グラップリングにおける体捌きも出色だ。特筆すべきスポーツの実績もなかったヴァンが、幼少時からレスリングに親しみ、高校ではフリーとグレコの両方で全国トップレスラーだった鶴屋怜のテイクダウンを再三防ぎ、倒されても抑え込まれずに立ち上がったこと。また、桁外れの圧力で国内外の相手を蹂躙してきた平良達郎のマウントから何度も脱出し、バックも許さずに立ち上がったことは、ヴァンがいかに並外れた才能& 身体能力の持ち主であるかを如実に示している。

故にこの試合は、長年の苦闘のなかで磨き上げたパントージャの匠の技術と、ヴァンの恐るべき天賦の才のぶつかり合いでもある。特にパントージャが距離を詰めることに成功し、試合が組技の攻防に持ち込まれた時は注目だ。先述の朝倉戦の2Rでパントージャは、レスリングディフェンスを徹底的に準備してきた挑戦者に対し、二段階にわたってその足を刈り完全にバックを奪っている。特に二度目の動きは、斜め後ろに付かれてなお網に体を預けて守る朝倉の足を背後から刈って崩すという、レスリングでも柔道でも見られないMMAならではの妙技だった。常に相手の対策の上を行きポジションを制してきたパントージャは、鶴屋や平良のテイクダウンを再三防いだヴァンの盤石のバランスを、いかなる方法で切り崩しにかかるのか。 

恐るべきナチュラルタレントを誇るヴァンに対し、パントージャの最大の武器は長年技術を磨き続けた柔術家のみが得られるタイトなコントロールと、相手の先を往くポジショニング

もしパントージャがヴァンの背中をマットに付けることに成功したなら、その先の攻防はさらに興味深いものとなる。ヴァンが平良戦で見せた寝技でのエスケープは、ムーブ自体は特別なものではない。マウントを奪われても焦らず内側から相手の腕を押さえてパウンドを防いだヴァンは、機を見て腰で跳ね上げる等のアクションを起こすと同時に両腕でフレームを張って相手の腰を浮かせ、開いたスペースにヒザを入れてバタフライガードを作って抱きついて危険を回避。その後足を一本抜かれても、すかさずワキを差して立ち上がってみせた。

きわめてシンプルで基本に忠実な動きだが、平良にマウントを取られてこれを実践できた選手は日本には勿論、世界にもほとんど存在しない。不利な状況に動じない胆力と爆発力と無類の腕力と脚力、そしてスムーズな身体運用があってはじめて可能な業だ。また平良が低く抑えようとした時等に、フレームを作ったヴァンが、平良の腰を持ち上げながら背中を丸めて後転するような動きで平良のバランスを前に崩し、スペースができた瞬間にヒザを入れてみせたのも出色だった。

上の相手の重心移動を自らの身体で敏感に察知し、ずんぐりとした体型を活かして背中で転がりながら強靭な腕力で隙間を確保しポジションを回復する。MMA歴僅か5年強のストライカーが、ここまで自らの身体的特徴を効果的に活用し、世界随一の圧を誇る平良のトップゲームを凌いだのは驚嘆に値する。

恐るべきナチュラルタレントを誇るヴァンに対し、パントージャの最大の武器は長年技術を磨き続けた柔術家のみが得られるタイトなコントロールと、相手の先を往くポジショニングだ。マウントに拘った平良と違い、元王者はハーフで枕を取って首に圧力を掛けて抑え込むことも辞さない。そこから打撃でダメージを与え、相手が動いて来たところでバックを奪うパターンも得意とする。

朝倉をして「相手がどういう体勢になるかを全部計算していて、隙間もない。その辺りの読みが連動していた」と言わしめるほどに洗練を極めたグラウンドコントロールは、天から授かった才能が具現化したようなヴァンのエスケープを封じ、またその行く先すら読み切って、バックを制することができるのか。

自らの生活と、愛する家族の想いを背負った両者の拳の交錯と、究極の「鍛錬vs才能」たる組みの攻防。残酷にして、これ以上ないほど極上の軽量級世界最強決定戦だ。


■視聴方法(予定)
9月20日(日・日本時間)
午前6時30分~UFC FIGHT PASS
午前6時00分~U-NEXT

■UFC331対戦カード

<UFC世界フライ級選手権試合/5分5R>
[王者]ジョシュア・ヴァン(ミャンマー)
[挑戦者]アレッシャンドリ・パントージャ(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
アルマン・ツァルキャン(アルメニア)
マウリシオ・ルフィ(ブラジル)

<フェザー級/5分3R>
パトリシオ・フレイレ(ブラジル)
チェ・ドゥホ(韓国)

<ヘビー級/5分3R>
ゲイブル・スティーブソン(米国)
ショーン・シャラフ(米国)

<ライトヘビー級/5分3R>
イヴォ・バラニエフスキー(ポーランド
アロンゾ・メニフィールド(米国)

<130ポンド契約/5分3R>
チャールズ・ジョンソン(米国)
エドゥアルド・シャポリン(ブラジル)

<バンタム級/5分3R>
シャルル・ジョーダン(カナダ)
マルロン・ヴェラ(エクアドル)

<ヘビー級/5分3R>
タイ・ツイバサ(豪州)
ロベリス・デスパイネ(キューバ)

<フェザー級/5分3R>
マイケル・アズウェルJr(米国)
ユ・ジュサン(韓国)

<ミドル級/5分3R>
ヒアン・ガンドラ(ブラジル)
オジー・ディアズ(米国)

<ミドル級/5分3R>
エドマン・シャバジアン(米国)
ブルーノ・フェヘイラ(ブラジル)

<女子フライ級/5分3R>
ケイシー・オニール(英国)
エドゥアルダ・モウラ(ブラジル)

<フェザー級/5分3R>
ギガ・チカゼ(米国)
ジョアンデウソン・ブリト(ブラジル)

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