この星の格闘技を追いかける

【UFC ESPN71】再起戦へ、中村倫也―01―「コーナーマンはマイク・ブラウンと恭司さんです」

【写真】この8月、初黒星からの再起というJ-UFCファイターが3人。先陣を切るのが中村倫也だ(C)MMAPLANET

2日(土・現地時間)、ネヴァダ州エンタープライズのUFC APEXで開催されるUFC on ESPN71に出場し、ネイサン・フレッチャーと対戦する中村倫也。
Text by Manabu Takashima

1月のムイン・ガフロフ戦でMMA初黒星を喫した中村は、3月に台湾に渡り武術、現地のMMAファイターの卵と交流しリフレッシュ、4月よりATTで練習の日々を送っている。

研究熱心、しっかりと考える。その長所が、考えすぎて自分を失うという経験を前回の試合でした中村は、今回は日本に戻らずATTからベガスに向かう。コーナーマンはマイク・ブラウンと堀口恭司、そして実弟・剛士氏だ。なぜ、マイク・ブラウンなのか。加えて今の中村倫也にとって、堀口恭司の存在の重要性をまずは尋ねた。


これまでの滞在ではマイクにとって僕は世界中からATTにやってくる1人に過ぎなかったはず。いうとATT所属のメインファイターの練習台ぐらいだった

――倫也選手、ご無沙汰しています。今はATTの宿泊施設ですか?

「ハイ。ATTの2階です。大きなリビングでインタビューを受けようと思っていたのですが、練習後で(ヤーソラフ)アモソフとか、PFLライトヘビー級チャンピオンの(ドブレジャン)ヤギュシュムラドフとかが飯を創り始めたんで、そこから逃げてきました(笑)」

――ウクライナやトルクメニスタンという旧ソ連の人達はつるむものなのですね。

「ほぼ、一緒ですね。ロシア人社会が存在していますね。リナット・ファクレトディノフ(※UFCウェルター級)とか、ダゲスタンのレスリング王者から最近、MMAに転向してきたヤツとかがいます。名前が分からない選手も結構いて。今はロシア系の人が多くて、あとは僕が出る大会のコメインで対戦するクリス・ダンカンとマテウス・レンベツキがいますね」

――えっ、試合をする両者が同じ宿舎にいるのですか。

「ハイ。クリス・ダンカンが8号室で、レンベツキが9号室で隣の部屋で生活しているんですよ」

――えぇぇぇぇ。それがATTということなのですね。そんなそこに倫也選手は打ち解けているのですか。

「最初は挨拶してもシカトされて、怖かったです(笑)。でも最近は凄く良くしてくれて、今も『メロンを切ったから、食うか』みたいな感じで(笑)」

――押忍、良かったです。では試合まで2週間、仕上がり具合はいかがですか(※取材は19日に行われた)。

「今までになく……やっと色々な経験、それこそ台湾で得た知識もそうだし、色々なモノを生かした中で全てを統合できてきました。その全てを強い相手にどんどん試してきました3カ月間でした。そうやってぶつけてきたことで、凄く自分の成長が感じられています。

やっと人にお金を払って来てくれる人に見てもらえるモノ。納得できるモノが自分のなかで出来ているという感覚がありますね」

――最初から次の試合は、ATTにステイして帰国せずに臨もうと決めていたのですか。

「試合は決まっていなかったですけど、こっちにいる間に試合を組んでもらえるように自分からも動いていました。ATTで創って、最後までATTで調整して戦うつもりでしたね」

――ではコーナーは誰が就く予定なのですか。

「マイク・ブラウン。そして(堀口)恭司さん。日本からは弟の剛士ですね。剛士は試合の1週間前に合流します」

――マイク・ブラウンが倫也選手のヘッドコーチという見方で間違いないですか。

「そうですね。試合が決まって、すぐにマイクにコーチに就いてほしいとお願いしました」

――マイク・ブラウンにお願いしたのは、なぜですか。

「自分はレスラーだということを忘れてはいけない。まずはそこがあります。あとマイクのドリルのクラスがあって。そこでテイクダウンに入るための打撃の散らし方、やってはいけないミスなんかを指導してもらって。それとマイクは毎週、毎週、試合のデータの統計を綿密にとって、練習にフィードバックしているんです。加えて、それを押し付けない。

例えば『俺はこう思うけど、人はそれぞれ考え方、体、ポスチャー、筋肉も違う。だから全員に当てはめることはできない。でも最低限、頭の位置はココだ。これは守ってくれ。それ以外は自由にやれば良いから』という風な指導方法なんです」

――従うだけでなく、自分で考えることもできますね。

「ハイ。わりと幅のある指導で、やってはいけないこと。リスクが高いのはこういう選択だと示してくれます」

――AとBという考え方があってAだろうがBだろうが、どちらかに正解を求めるのではなくて、AとBを行き来できるような。

「固定観念は怖いですからね。何かをするのに絶対はない。だから、幅を持たせてくれるマイクの指導を僕は対策なんかでも欲しいと素直に思いました。

『この足の位置を守っていれば、自由にやって良い』と言われると、色々とやれるじゃないですか。自分の考えをマイクにぶつけると『良いよ。やろう』っていう返答がある時と『でも、それはこんなリスクがある』と言われることもあります。そこでより理解が深まる。

やっぱり、これまでの滞在ではマイクにとって僕は世界中からATTにやってくる1人に過ぎなかったはずです。いうとATT所属のメインファイターの練習台ぐらいだったかと。それが分かったのも試合に向けて、僕の方から『就いてください』とお願いしたからで。試合に向けて一緒にやるようになると、声の掛け方からしてめちゃくちゃ変わりました。何より楽しそうに接してくれるようになりましたね」

生きる上で余計な思考みたいなモノを僕が口にした瞬間に、『そんなもん、考えなくて良いんだよっ!!』みたいにぶった斬られて(笑)

――そこが今回の仕上がり、そして成長として実感できる部分が増えたことに通じているのですね。では堀口選手の存在とは、倫也選手にとって今やどれぐらい重要なのでしょうか。

「恭司さんは本当に大きいです。今、毎日のように練習後に指摘してくれて。エビっていう基礎からも、教わることもあります」

――エビって、あのエビですか。

「ハイ。下になった時に『まだまだエビができていない』って恭司さんに言われました。それこそ、日本での練習だと下で固まることが余りなかったです。最悪、ブリッジからスクランブルに持ち込めてしまっていたので。それがATTに来るとダニー(サバテロ)もそうだし、それこそマイクがそうで。トップキープが上手いレスラーには通じない。恭司さんも、ハーフガードでのトップキープとか相当に強いです。

一つ、ミスをしてポジションを譲ると。その5分が身にならないような時間になってしまいます。それが5回続くと、自分のためになる練習が全然できない。最初はそういう風になっていました。そんな時に恭司さんに指摘されて、エビから徹底してやるようになりました。

本当に基本的なところからやることで、今ではスパーリングで下になっても自分の動きができています。恭司さんの言葉っていうそういう力があるんです。本質を見ているというか……生きる上で余計な思考みたいなモノを僕が口にした瞬間に、『そんなもん、考えなくて良いんだよっ!!』みたいにぶった斬られて(笑)。

恭司さんのこと本能のまま生きている人だと思っていたんですけど、本能のまま生きようとしているからこそ理性が育った人。そんな風に思うようになりました。これまでMMAを続けるうえで色々なことを経験してきて、そのうえで一番しんどいことを一番楽にやろうとする……」

――……。

「そうやって10年以上もトップに立ち続けている。それを間近にいると感じます。考えるというか、めちゃくちゃ見ていますね。人の言葉と行動を見ています。『本物って伝わり難いし、ビジネスにもなり難い。でも、本物でないことで食っていくよう人間にはなりたくないから、俺はこういう風にしている。俺がもっと自分を大きく見せると、もっとビジネス的にもデカくなる。それもデキる思うけど、俺は本当のコトで生きていたいから』って言う人で。

それが恭司さんの練習に対する姿勢にも、絶対的に表れています。とにかく真っすぐで。めっちゃ人のことを見ているのですぐに言葉にできる」

――海外から直行で取材に行った時など「疲れ切っていませんか。ちゃんと起きていてくださいよ」といって大笑いしたり。それも記者が50人ぐらいいるなかで、突っこまれるので油断がならないです(笑)。

「そう。本当に見ているんですよ。でも競技者としてもそうだし、人生という部分でもアニキができたような感じです」

<この項、続く>

■視聴方法(予定)
8月3日(日・日本時間)
午前7時00分~UFC FIGHT PASS
午前6時45分~U-NEXT

PR
PR

関連記事

Movie