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【UFC ESPN71】ネイサン・フレッチャー戦へ、中村倫也―02―「ただただ目の前の相手と戦う」

【写真】堀内恭司、ダニー・サバテロ、ペドロ・ムニョスら錚々たるATTのメンバーが倫也を強くする(C)RINYA NAKAMURA

2日(土・現地時間)、ネヴァダ州エンタープライズのUFC APEXで開催されるUFC on ESPN71に出場し、ネイサン・フレッチャーと対戦する中村倫也インタビュー中編。
Text by Manabu Takashima

ATTでマイク・ブラウンをヘッドコーチに、良きアニキ分=堀口恭司の助言を受けフレッチャー戦に向けて調整を続けて聞いた。

身体と精神の一致が、オートに動く――無意識下の意識という状態を創る。その状態に練るのは、間違いを多分におかす対人練習というのが競技、スポーツの特色だ。勝つために、倒すために必要な動きを如何に自分に落とし込んできたのか。そしてフレッチャー対策について中村に訊いた。

<中村倫也インタビューPart.01はコチラから>


考えている時間って、その瞬間、瞬間で本当に体は止まっています

ケガがなければ、レスリングで倫也以上の結果を残していたかもしれない剛士さん。メンタル・コーチでもあり栄養学も知る。グラップリングの強さも相当という最高の相棒でもある

――ATTからマイク・ブラウンと堀口選手。

そして剛士さんが、日本から合流するのは?

「精神的な支柱というか。これこそ言葉にし辛いのですが、ATTというのはやはりチームなんです。コーチも僕だけを見るわけじゃない。恭司さんは現役のファイターです。そのなかで剛士は僕だけを見続けている」

――それこそ台湾を一緒に訪問した際に「アニキとの付き合い方も、しっかりと見えるようになった」というようなことを言われていました。

「ハイ。なんか、戦場で戦うときに、全てにおいて自分と同じテンションの人間がいる大切さを感じるようになって。それこそ父親がセコンドに就いている選手って、強いじゃないですか」

――奥さんやガールフレンドがその役割を果たすこともありますよね。「MMA、分かっているの?」という人をつける選手もいます。

「そうなんですよね。そのなかで弟は体を見ることもできますし、体を動かすこともできる。何よりもストレス・フリーなので」

――ストレスがないというのは、明らかにお兄ちゃんの立場ですよね(笑)。

「そうですね。自分もアニキができて『おい、ロイがうんこしたよ』という一言で、『ハイ』って掃除していますからね(笑)」

――アハハハハ。剛士さんは日本での盟友といえる中村京一郎選手ともつながっていますよね。そして「無意識下の意識、オート」という言葉を彼らが使う。内側と外側、精神と肉体の関係性を追求するうえでも、前回の敗戦を経験して今回の試合までどのように構築してきたのでしょうか。

「考えている時間って、その瞬間、瞬間で本当に体は止まっています。前回の試合では考えすぎて、動きも崩れてしまいました。そこを解決するには行動、行動、行動しかないなと。一つ、そういう答えに辿り着きました。ATTにいると毎日、高いハードルが用意されます。そこをクリアしようと、必死にやってきました。とにかく量をこなしていくことが大切で。それを積み重ね続けてきた感じです」

意識しているモノを、だんだんと無意識になっていくような感じで練習しています

――例えば武術の型、套路のようなモノはマイク・ブラウンの言う「やってはいけないこと」は入っていない。正解のみの設計図です。ただ相手があって戦う、動くとなると間違いはついて回ります。

「八卦掌のロ先生なんかは、もう体に全てを落とし込んで無意識に動いていると思います。それをMMAで実現させるには、とにかく正しいことを積み上げていくしかない。そこを徹底していると、恭司さんが向き合ってやっていくなかでフィードバックしてくれますね。

とにかく『最初は全力を出せ』と言われます。疲れて楽をしたいとか苦しくなってきてから動くことで、体を覚えると」

――疲れてしまうと、考えることなどできなくなりますしね。

「思考回路が飛んじゃう状況で、とにかく動く。それを毎日、毎日続ける。ATTのスパーリングパートナーは皆、体も丈夫なので。俺が多少、思い切りぶつかっても壊れない。だから好きにやっても、上手くかからない。じゃあ、どうやれば良いのか。『もっと、もっと』という感情が溢れ出てきます。

ただ強い選手と練習をして「疲れた」だけでは、正直なところ身につかないです。自分では正しいことをやっているつもりでも通じない。それをどう通じるようにするのか。通用しないことも多いですが、なぜ通用しないのかを相談できる人がいて。

そうやって通じるモノができてくると、それは何回やっても通じるんです。そこをどんどん使おうと思っていると、思わないでも使っているようになる。その形に自分が誘導できるようになってきます。

そうやって自分の動きになったところは、世界最高レベルに通じるモノだと自信を持って言えます。それが増えていくと、最高ですね。でも、考えて動けないとか。動きが止まるとか、そこを直していくのにも、前回の敗戦が凄く生きました」

――それはどういう部分ですか。

「それこそスパーリングもメチャクチャ強い相手とやっていると、自分の武器を信じられないような気持ちになりそうなことがあるんです。でも、そこで相打ちでも良いから出る。そのための気持ちのセットアップとかを意識しています。そこを意識しているモノを、だんだんと無意識になっていくような感じで練習していますね」

――戦意を無意識レベルまで高めると。

「攻める、攻めるという意識でいると恭司さんやジャビット・バシャラットとかは、もう簡単にカウンターを合わしてきます。恭司さんには『倫也君は来るときは、行くっていう顔をしているんだよ』って指摘されました。『分かりやすいんだよね』って。これはもう攻めるっていう意識が出ている表れですよね。

ただ冷静になるというのは、また違っていて。それこそロ先生が『クールでいるなんて、怖がっているんだ』と言われていましたけど、本当にクールなんて装っているだけだとATTでの練習で感じるようになりました。クールでいくなら、内心おちょくっているぐらいの余裕がないと戦えないですね」

――確かにそうかもしれないですね。

「だから、自分の力を一回緩ませたり。相手から、分からないようにする。一流が相手だと、もう力の入り具合で見抜かれてしまいます。そういう場所なんですよ、ここは」

――そういう風に積んできた倫也選手が、次に戦う相手はネイサン・フレッチャーです。

「見た印象はまぁまぁまぁ全体的にしっかりと基本ができたうえで、四つのボディロックの展開を好む。バックをとってからはしつこい」

――ボディロック&小外のテイクダウンが目立っていたような気がします。

「そうでね。しつこさはありますね。パディ・ピンブレットと同じチームで。似たようなところもありますね。ただATTには彼と練習したことがあるファイターも何人かいて。凄く力をつかってくるそうなんで、そうなった時はマイクからアドバイスを受けた対応策があります」

――試合が決まってからは、スパーリング以外でもマイク・ブラウンがフレッチャー対策などを授けてくれるのでしょうか。

「サーキットをやっているなかで、ミット打ちから相手の得意な形に入る。そうするとマイクが『ここを譲るな』、『そうは動くな』ということを言ってくれます。そこからまたミットを打って、次は壁に押し込まれた状態からのシチュエーション。そこでもフレッチャー戦を考えての指示がはいるような形です」

――そのなかで、中村選手はどのように戦おうと?

「相手は全てができた上で、飛びぬけているのはバックからのサブミッション。でもレスリングで負けることはない。そこは自分を疑い切ったうえで、もう疑っていないです」

――それこそムイン・ガフロフ戦が生きていると思われる言葉です。

「もちろん、打撃の使い方も変わりました。全部を捨てるわけでなく、全てを生かして進化しています。向うが前回の試合を見て、しっかりと研究してきてほしいですね。もう自分はあの時とは違うので。先に動いて、動き続ける試合にすれば良いかと。先手必勝と攻守一体ということですね。その上でフィニッシュがあるかどうかは、今回は分からないです。いえば対戦相手ではない。相手は皿で。自分がやってきたことをその皿にどのように盛り付けをするのか。

フィニッシュもイメージはしますけど、試合が始まるとそこも意識しないで戦います。ただただ目の前の相手と戦う。対処とかでなく、先、先に動いていくこということですね」

<この項、続く>


■視聴方法(予定)
8月3日(日・日本時間)
午前7時00分~UFC FIGHT PASS
午前6時45分~U-NEXT

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