【DEEP125】海飛を倒し、フェザー級GP決勝進出。水野新太 「大塚さんとやっていれば問題ない」
【写真】末席からのファイナル。それだけノビシロがある水野だ(C)TAKUMI NAKAMURA
5月5日(月・祝)に東京都文京区の後楽園ホールで開催されたDEEP125。DEEPフェザー級GP準決勝で水野新太は海飛との大激闘を制して、決勝進出を決めた。
Text by Takumi Nakamura
フェザー級GPに向けて大塚隆史からレスリングの指導を受けていた水野。1回戦で芦田崇宏を飛びヒザ蹴りからのパウンドで下すと、本格的に大塚にMMA全体のメイントレーナーを依頼して海飛戦に挑んだ。
いざ試合が始まると水野はこれまで見せたかったことがなかったテイクダウン主体の試合運びを見せ、試合終了間際の海飛の右フックでダウンするピンチを乗り越えて判定勝利。まさに大塚とのトレーニングの成果が出た勝利につながる試合だったと言えるだろう。
今回のインタビューでは海飛戦を振り返りつつ、大塚との練習で水野がどう変化したのかを訊いた。
――フェザー級GP準決勝で海飛選手との大激闘に勝利した水野選手です。海飛戦では積極的にテイクダウンに行っていましたね。
「序盤から組みにいくことは最初から決めていたのですが、あんなに上手くテイク(ダウン)を取れるとは思っていませんでした。結構切られる想定をしていたんで。だから1発目でちゃんとテイクを取れたのは結構大きかったと思います」
――組み主体で行くというのは海飛選手のファイトスタイルを考えて事前に想定していたのですか。
「そうですね。海飛選手はキックボクシングがめっちゃ上手くて、トーナメント1回戦で奥山(貴大)さんとやった時も、キックボクシングの展開だったら5分3R本当に上手くやれる選手じゃないですか。ただ自分が海飛選手の過去の試合を見て思ったのが、海飛選手は相手に打撃と組みを混ぜられると結構疲れるんですよ。だから自分もそこを混ぜて消耗戦に持ち込めばいけると思っていました」
――今回から大塚隆史さんがセコンドについていましたが、いつから大塚さんの指導を受けているのですか。
「一回戦の芦田(崇宏)戦の前から練習を見てもらっているのですが、あの時は週1回大塚さんのレスリングクラスに参加するだけだったんです。でも今回から週4回レスリングだけでなくMMAやフィジカルも見てらうようになって、セコンドもお願いしました」
――芦田戦の前はレスリングコーチだった大塚さんが、今はトータル的なMMAコーチという立ち位置になったのですね。
「そうですね。今回も大塚さんが海飛選手に似たタイプの選手をジムに呼んでくれて、トータル的なコーチとして練習を見てもらっています」
――その選手というのは?
「格闘代理戦争に出ていた向坂準之助さんです。向坂さんは空手ベースで打撃のリズムが海飛選手に似ているんですよ。向坂さんはまだアマチュアなのですがめっちゃ強いんで、向坂さんと打ち込みもやり込みむした」
――そういった練習の成果がまさに1Rのテイクダウンにつながっていたわけですね。
「はい。ただ、最初に話したように、自分でもあそこまで上手く(テイクダウンを)取れると思ってなかったし、1Rは触れられるどうかも分からない。そのぐらい最悪のパターンも想定していたので、上手く触れた時は気持ち的にもいい感じでしたね」
――ファーストコンタクトでそれだけ手応えのあるテイクダウンが決まると、その後の展開もやりやすかったのではないですか。
「海飛さんは結構ガツガツ来るタイプだと思っていたのですが、最初に向き合った時、僕の打撃を警戒してくれていたのか、下がってくれたんですよね。それもあって最初からプレッシャーをかけて思いっきりテイクダウンを仕掛けることができました」
――テイクダウンに入ってからは立ち上がる海飛選手をバックコントロールする時間が続きました。あの攻防も想定していたものですか。
「バックの展開は得意なので、あの形になったら自分の方が強いと思っていました。ただ海飛選手もディフェンスが上手くて、思った以上に寝かせきれなくて、キツい展開になっちゃいましたね」
――1Rが終わったあとのインターバルでは大塚さんとどんなことをお話しされましたか。
「大塚さんからは『やりたいことはこれだぞ。それができているから、このまま続けていこう』ということを言われた感じです」
――作戦通りのラウンドだった、と。
「これ(1Rの動き)を3Rやるというのが自分たちのテーマだったんで。ポイント的にも1Rは取ったから、2Rもそのまま行こう、と。ただ相手も必ず出て来るから、それだけは気をつけろとも言われました」
――2Rも水野選手がテイクダウンを狙う展開でしたが、徐々に海飛選手も対応する時間が長くなってきました。それでもテイクダウンに行くことは自分の中で決めていたのですか。
「そうですね。僕らの中では2Rぐらいの展開を1Rに想定していたので、2Rに少しテイクダウンに入りづらくはなりましたが、慌てずに打撃をやりながら狙っていました。1Rにテイクダウンを取れたことで、2Rは逆にこっちの打撃も当たっていたので、打撃もやりつつ切られてもいいからテイクに入ることをずっと意識していました」
――見ている側からすると水野選手がしんどくなる展開かなと思っていたのですが、水野選手としてはもっとキツいことを想定していたんですね。
「はい。あと今回試合中に思ったのが、試合が進むと結構汗で滑るんだなと。想像以上に汗でポジションをキープするのが難しいんだなと感じました」
――先ほどは打撃もやりつつという言葉もありましたが、打撃でもいけるという手応えはありましたか。
「パンチと蹴りを混ぜたキックボクシングをしちゃうと相手の土俵なんで、僕としてはパンチ勝負で行こうと思っていました。パンチだけだったら負けないと思っていたので」
――パンチだけの攻防には自信があったわけですね。
「あと海飛選手のセコンドの大沢(ケンジ)さんが1Rか2Rに『パンチで勝負に行け』という指示を出していて、海飛選手の蹴りを警戒していた僕としてはラッキーでしたね」
――もしかしたら水野選手が1Rにテイクダウンを取っているので、変に蹴ってバランスを崩すよりは、ボクシング勝負しようとしたのかもしれません。その仮説が合っているとしたら、余計に1Rの攻防が2Rにも効いていたことになりますね。
「そう思います」
――2Rは水野選手がシングルレッグの攻防で、一度下になってしまった場面がありました。あの時は偶然水野選手コーナー側でしたが、大塚さんからの指示は聞こえていましたか。
「あの時はめちゃくちゃ大塚さんの指示を聞いていました。今回はシングルレッグでも倒そうと思っていて、練習では結構倒していたんですけど、汗で滑ってしまったり、まだ雑なところもあって、テイクダウンに失敗して下になっちゃったんです。ただ大塚さんが近くにいたので、大塚さんの指示を聞きながら慌てずに動けました」
――大塚さんの身振り手振りのアドバイスをしっかり聞いて、その通りに水野選手が動いていたのが印象的でした。
「今回試合前のスパーリングも5分3Rの試合形式で、大塚さんにセコンドについてもらう形でやっていたんですよ。だから大塚さんの細かい指示を聞きながら動くというのはずっとやっていて。試合で下になってしまったことは想定だったんですけど、練習ではああいうシチュエーションの練習もしていたし、パニックになることなく上を取り返そうと思って動くことが出来ました」
――ああいった場面でも簡単に下にはならない・必ず上を取るという意識を持っていたのはレスリング強化のおかげですか。
「僕は練習でも止まらずに動くタイプで、疲れても動くようにしているんです。そうやっていると相手も疲れてきて、最終的に自分が動き勝っている。そこは自分の強みでもあると思います」
――2Rを終えた後、3Rに向けてのインターバル中はどのような話をしていたのですか。
「1R終わりのインターバルと似たようなことだったと思います。2Rも取ったから、このまま3Rもやり切ろう。ただ相手が前に出てくるのには気をつけろみたいな感じでした」
――3Rは比較的打撃のコンタクトも多くなりましたが、実際にやっていていかがでしたか。
「海飛選手のスピードも落ちていたので、僕もパンチも当たっていたんですけど、HEARTSの選手特有の顎を引いて前に突っ込んでくるパターンがあるじゃないですか。海飛選手も覚悟を決めて打ち合いに来たので、あれが結構嫌でしたね」
――終了間際に海飛選手の右のビッグヒットをもらってしまいましたが、あの時のダメージはいかがでしたか。
「あれは見えてなかったので、ちゃんと効かされてしまいましたね(苦笑)」
――ダウン後のテイクダウン狙いは体が勝手に反応していたのですか。
「本能的に組みに行ったような感じです。ただ一瞬効かされたんですけど、組んでいる状態の意識はあって、試合時間が残り20秒ぐらいだったんで、あそこは耐えて終わろうと思いました。あの一発でひっくり返されたら、それまでやってきたことがすべて水の泡なので必死でした」
――終了間際こそピンチを迎えましたが、それまではゲームプラン通りに戦えた試合だったと思います。今回の試合は収穫も大きかったのではないですか。
「はい。あれだけ試合で自分から組みに行ったのは初めてだったし、海飛さんとやって選手としての幅が広がったと思います。自分自身、海飛さんとやるまではストライカーと戦うのが苦手だと思っていたんですよ。僕は自分から組むタイプじゃないし、打撃勝負になると相手の打撃をもらうリスクがあるわけで。だから試合前は不安もあったんですけど、海飛戦が決まってから約3週間、自分からテイクダウンに行くと決めて練習をして、試合でも自信を持って行くことが出来ました」
――練習ではなく試合でテイクダウンやコントロール出来たことは自信になったと思いますし、それを使って得意の打撃を当てることもできたのではないですか。
「テイクダウンを混ぜることによって、相手は下(テイクダウン)を警戒する分、思った以上に打撃を出しづらくなるし、逆にこっちの打撃も当たるんだなと思いました。改めて打撃とテイクダウンを混ぜることがいかに有効か分かりましたね」
――1回戦の芦田戦は飛びヒザ蹴りからのパウンドアウト、今回はテイクダウン主体の試合運びで判定勝ち。試合感覚は短かったですが、この2試合で成長で来ている実感はありますか。
「そうですね。相手のレベルも上がっていますが、試合前の練習での気づきも多くて、ものすごくレベルアップできているなと感じています」
――そして決勝の対戦相手は髙橋遼伍選手になりました。実績・キャリア的にもまさに高橋選手はトーナメントにおけるラスボスですよね。
「高橋選手のポスターの写真もラスボスみたいな顔をしているので、怖えなみたいな感じです(笑)。準決勝の五明(宏人)戦を見ても、本当にベテランの戦い方というか。本人も以前より打たれ弱くなっていると思うんですけど、戦い方そのものは前よりも上手くなっているし、いやらしい戦い方をするようになったなと思います。高橋選手のような相手に自分の良いところをぶつけて勝てるかどうか。そこも今後に繋がっていくと思います」
――準決勝の高橋選手はそれまでのイメージと違って、相手の良さを潰す試合運びの上手さも目立ちました。
「自分の得意なところを理解して、それを押し付ける試合をしますよね。おそらく決勝はお互いのやりたいことの押し付け合いになると思うので、どちらが自分のやりたいことを出せるかどうか。そこで勝ち負けが決まると思っているので、その攻防では負けないようにしたいです」
――決勝に向けても大塚さんたちと緻密に戦略を練って準備を続ける予定ですか。
「はい。こういう展開で行こうという作戦も練っているし、これから高橋戦用のスパーリングパートナーも呼んでもらって、色々と試合に向けて創っていく感じですね。大塚さんにはフィジカルも見てもらっているので、次の試合までに自分がどう変わるんだろうと思うとワクワクしています」
――新たな環境でのトレーニングが本当に楽しそうですね。
「大塚さんとやっていれば問題ないんだろうなという安心感もあるし、大塚さんと話すと本当に楽しいというか。いろんな知識を持っている人なので、話も合うんですよ。人としても尊敬しているし、いい関係でいられているのかなと思います」
――ここまでの勝ち上がりと、次の決勝戦の組み合わせも含めて、たくさんのファンが決勝戦を楽しみにしていると思います。最後にそういった方たちにメッセージをいただけますか。
「本当に激しい、どんな試合になるか自分でも想像つかないんですけど、決勝まで集中して練習して、人生かけてこのトーナメントを取りたいと思います」