この星の格闘技を追いかける

【UFC Freedom250】展望 UFC世界ライト級王座統一戦。感情の操作=トプリア×無の感情=ゲイジー

【写真】こんな大会は、もう2度とお目にかかることはないだろう (C)Zuffa/UFC & MMAPLANET

14日(日・現地時間)、米ワシントンD.C.のホワイトハウス南庭(サウスローン)にて、UFC Freedom 250: Topuria vs Gaethje が行われる。南庭=外国の元首や国王を迎える式典の舞台で使用される、最高峰の格式の場所で開催される史上初のプロスポーツイベント──まさに空前絶後の歴史的大会のメインを飾るのは、正規王者イリャ・トプリアに、暫定王者のジャスティン・ゲイジーが挑むUFC世界ライト級タイトルマッチだ。
Text by Isamu Horiuchi

この大会は、アメリカ合衆国建国250周年を祝うプロジェクト「Freedom 250」の一環として行われるもの。8月下旬、これまた史上初めてナショナル・モール(国立公園)の周りの公道を封鎖して行われるインディカー・シリーズ「Freedom 250 Grand Prix」と並ぶ目玉企画だ。6月14日はドナルド・トランプ大統領の80歳の誕生日でもあり、公私掛け合わせた国家的祝祭の中心に格闘技が据えられることとなる。

この歴史的大会に向けて、南庭には約4300人を収容する巨大屋外特設会場が建設された。さらに大会後の芝生の修復その他合わせて、総額6000万ドル(約90億円)以上の費用がかかると言われている。一昨年の9月にラスベガスの巨大球形建造物スフィアにて、前代未聞の演出費用をかけて行われたメガイベント「NOCHE UFC 306」の総費用が2000万ドル以上と伝えられていることを考えても、今大会のスケールの凄まじさが窺われる。


90年代後半に共和党の大物上院議員によって瀕死の状態に追い込まれた過去を持つUFC

ちなみに会場観戦ができるは招待客のみで、アリーナは現役の米軍兵士やトランプ大統領の招待客、その他VIPたちで占められるようだ。一般客に向けては隣接する国立公園(広場)のザ・エリップスにて最大8万人以上収容できるパブリック・ビューイング会場が設置され、事前登録により無料で観戦が可能だ。

UFCは、90年代後半に共和党の大物ジョン・マケイン上院議員によって「Human Cockfighting (人間を用いた闘鶏)」と呼ばれその野蛮さを糾弾され、多くの州で興行が禁止され各ケーブル会社もPPV放送から手を引いたことで、瀕死の状態に追い込まれた過去がある。

それから約30年後の現在、同じ共和党(世間に訴える思想や政策はまるで異なっているが)の大統領であるドナルド・トランプとの緊密な結びつきによって、ホワイトハウス内で史上初のスポーツイベントを開催するまでになるとは…まさに隔世の感がある。

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に、1985年から30年昔にタイムスリップしてきた主人公が、疑いの目を向ける若き日のドク(主人公が使うタイムマシンの開発者)に「じゃあ85年の大統領は誰だか教えてくれよ」と聞かれて「(当時はB級映画俳優だった)ロナルド・レーガンだよ」と答える有名な場面がある。それを聞いたドクは、馬鹿言っちゃいけないとばかりに「あの俳優の!? じゃあ副大統領は(コメディアンの)ジェリー・ルイスってか?」と失笑したのだった。

同様に、もし我々が約30年過去にタイムスリップして、90年代後半に全米で批判の雨に晒され風前の灯と化していたUFCの関係者やファンに向かって「あなたが大好きなそのイベントは、30年後にホワイトハウスにて建国250周年と大統領の誕生日を祝う国家的行事として開催されるのですよ。その時の大統領? ドナルド・トランプ(当時は大富豪タレント)ですよ」と伝えたら…誰も信じてくれないどころか、心配され医療機関への相談を勧められることだろう。

閑話休題。

(C)Zuffa/UFC

正規王者のトプリアは、17戦全勝15フィニッシュ。現在イスラム・マカチェフと並んでPFP(パウンド・フォー・パウンド)の頂点に君臨する存在だ。2024年2月に絶対王者アレクサンダー・ヴォルカノフスキーを2RKO、10月にはマックス・ホロウェイを3RKOと、フェザー級レジェンド2人に圧勝して同階級を制圧してみせた。

ベルトを早々に返上すると、昨年6月には階級を上げてシャーウス・オリヴェイラとのライト級王座決定戦に。開始早々、上背に勝るオリヴェイラの四つからのテイクダウンを切り返して上を取ると、MMAきっての寝技師から一瞬でパスガードを奪い、クルスフィクスの体勢まで作りかけた。その後試合がスタンドに戻ると、前に出るオリヴェイラに強烈無比な右フック。完全に意識が飛び倒れかけた顔面にさらに左フックも当て、1R完全KOに下している。

かくしてレスリング、寝技、打撃と全ての面で途轍もないスキルの高さを見せてフェザー&ライトの階級制覇に成功したトプリアは、進化を続ける現代MMAの最高到達点を具現化するファイターだ。昨年末には前妻とのトラブルのためしばしの活動休止を宣言したが、晴れてクリアして今回の大舞台に臨む。

対する暫定王者のゲイジーは、UFCで15戦して13試合でボーナスを(2度ダブル受賞なので合計15個)獲得。”The Highlight” というニックネーム通りの、UFCきってのハイライトリール(名勝負映像集)製造機だ。2020年5月にトニー・ファーガソンを5RTKOに下してライト級暫定王座に就いたが、続く10月の正規王者カビブ・ヌルマゴメドフとの統一戦では2Rに三角絞めで完敗。さらに2022年5月にはシャーウス・オリヴェイラとダウンを奪い合う凄絶な激闘のなか1Rチョークで敗戦。二度にわたって正規王座獲得に失敗している。

その後も2023年7月にダスティン・ポイエーを2R右ハイでKOしてBMF王座獲得し、翌年4月にはマックス・ホロウェイに終了残り10秒の殴り合いでKOされて王座転落する等、印象深い試合を重ねたゲイジーは、昨年1月に(上記の理由でトプリアが休養宣言したことにより組まれた)暫定王者決定戦をパディ・ピンブレットと争った。

(C)Zuffa/UFC

不利が予想されるなか、ゲイジーは序盤から前に出て強烈な右で二度ダウンを奪い、ピンブレットの組みも強烈ながぶりで完封。5Rの激闘を判定3-0で快勝し、37歳にして二度目の暫定王座を獲得するとともに、正規王者トプリアと統一戦を戦う権利を得た。

自身を「アメリカン・ドリームの体現者」と語るゲイジー

そしてその試合が、今回の歴史的大会のメインに決定。アリゾナ州の鉱山で成り立つ街の典型的なブルーカラー家庭からビッグスターに成り上がり、自身を「アメリカン・ドリームの体現者」と語るゲイジーが、この国家的祝賀行事のメインイベンターに選ばれたのはごく自然なことだろう。

この抜擢について「ホワイトハウスで戦うことは名誉なことだ。祖国アメリカの誇りをかけて戦うよ」と話すゲイジーだが、同時に「(事前にホワイトハウスの大統領執務室招かれた際に)特に何も感じることはなかったよ。もちろん今回は特別な舞台だ。俺は馬鹿じゃない。コーチにとっても家族にとってどれだけ特別なのかも分かっている。引退後の自分にとってもそうなることもね。でも今は、ただのケージでの試合だよ」とも語っている。

この姿勢はトプリアも同様で「とてつもない機会だと分かっているけど、同時にいつもと同じ試合だとも思っているよ。環境が少し違うだけだ」と語る。両者とも舞台の巨大さや歴史的意義を理解しつつも、あくまで一つの試合として勝利に集中する心づもりだ。

下馬評で圧倒的に有利と出ているのは、レジェンド3人を立て続けにKOで葬っている正規王者トプリアだ。初戴冠となったヴォルカノフスキー戦では「試合前から僕が勝つことは分かっていたから、試合前日の金曜日にチーム全員で祝勝会を開いたよ」という不動の自信の持ち主は、今回も自身の勝利を確信している。のみならず、勝ち方も自分の意志で選ぶと宣言している。

「今回の試合が寝技に持ち込まれることはないと思うよ。もちろんもし僕がそうしたいと思うなら、彼をテイクダウンしてやりたいことをやるんだけど、僕はエンターテイニングなショーをファンに見せたいんだ。マックス(ホロウェイ)戦と同じことだよ。やろうと思えば寝技でサブミットすることもできたけど、実際に起きたこと(3R完全KO)のほうがはるかにエキサイティングだっただろう? 今回のジャスティン戦も純粋な打撃戦になると思う。1ラウンドでKOするよ」

事前に勝利への道筋を完璧に描いた上で己を創り上げるトプリア

この絶対的な自信が、打・投・極の全てにおける圧倒的なスキルに裏打ちされているのは言うまでもない。加えて特筆すべきは、トプリア陣営が毎回、他のどのチームも及ばぬほど徹底的にして周到極まりない準備をしているという事実だ。

「まずはジャスティンが何を考え、どういう準備をするかを知る必要がある。だから僕らチームが最初にやることは、画面の前に集まって自分たちがジャスティンのチームになったつもりでイリャの試合を観て、イリャと戦うための戦略を練ることだ。そうやって向こうの戦略を考えてから、それに基づいてこちらの戦略とゲームプランを立てた上で、キャンプ全体のスケジュールを組むんだよ」

かくの如く、事前に勝利への道筋を完璧に描いた上で己を創り上げるからこそ、試合中にその心が揺らぐことはない。

「自分が何をすべきかを理解していれば、試合中に何が起ころうが関係ないんだよ。殴られようが何しようがね。僕は最後には目的地に到達すると分かっている。どんなことがあってもそこに行く。それが僕の考え方だ。どれだけ殴られようが、どんな展開になろうが、信じている。僕が最後に勝つと。一発当てる道を見つける。絶対に相手を仕留める。僕はそれができるというfaith(信頼)を常に持っているんだ」

瞬時に相手の間合いに入り込むと、目にも止まらぬ連打──その一発一発がこの上ない精度と一撃必殺の威力を誇る──を叩き込み、名だたる強豪たちを沈めてきたトプリア。卓越した技術と身体能力、綿密極まりない戦略、不動の自信と勝利への強固な意志を全て最高レベルで兼ね備えた新時代の帝王を倒すのは、この上なく困難なことと思われる。

この強大なる敵に対し、おそらく生涯最後の正規王者獲得のチャンスに賭けるゲイジーもまた「この試合はボクシングヘビーなものになる」と打撃勝負を予感している。そのための鍵は、立ちの攻防における位置取りにあるという。

「奴(トプリア)が戦ってきた相手は皆、ポジショニングで不利な状態に立たされた。奴は悪いポジションに相手を置くことにすごく長けているんだよ。だからいいポジションを保ち続けることに焦点を当てる。reactiveに(相手の動きに反応して)戦うけど、決してretractive(後退して守勢に回る)にはならない。後ろに下がらさせたらやられるんだ。だから前に出ないと。たとえ自分が危険な状態になるにしてもね」

かくてこの試合で注目すべきは、スタンドで圧力をかけて崩しにくるトプリアと、それに屈さず立ち向かわんとするゲイジーによる凌ぎ合いだ。

リーチに勝るゲイジーは、強烈無比なローやジャブでトプリアの出鼻を挫くことができるか。また中に入ってきたトプリアに対し、いかに姿勢を崩されずに迎撃するか。サイドに回りながらの左チェックフックや、数々の強敵を薙ぎ倒してきた右アッパー等、ゲイジーの拳も一撃で試合の流れをもってゆく破壊力を秘めている。

もっとも「まずゲイジー陣営になりきって考える」というトプリア陣営は、これらのゲイジーの手札の全てを想定済みのはず。その上でいかにゲイジーを崩してゆくか。フェイントに長けたトプリアは、序盤は圧力を掛けつつもゲイジーの反応を引き出して読み取り、練り上げた戦略のうち最良のものを見極めようとするだろう。この「現場合わせ」の作業をトプリアはどこで完了し、ゲイジーを「悪いポジション」に追い込んで仕留めにかかるのか。1Rから、どの瞬間に試合が終わってもおかしくない攻防が展開されることだろう。

またこの戦いが、二つの異なる形の精神のせめぎ合いであることにも注目したい。近年、冷静に勝負所を見極める戦い方を見せることが増えてきたゲイジーは、前回のピンブレット戦前には「ケージに向かう際、俺は何も感じないんだ」と語っていた。そして今回の試合前には、自身の感情の存在を否定する発言まで行った。

「このスポーツは俺の人生を変えたよ。もう俺は感情など持っていないんだ」

もちろんこの発言を真に受けるわけにはいかないが、試合で創ろうとしている心構えは見て取れる。今まで犯してきたミスを踏まえて、「俺はパーフェクトに戦う必要がある」と語るゲイジー。そのために邪魔になる感情は捨て去り、危険極まるトプリア相手にできる限り正確にreactiveに戦おうとしている。

対してトプリアは、全く違った形の精神の戦いを強調する。

「僕と戦うどの対戦相手も、今までに感じたことのないものを感じることとなる。プレッシャー、パワー、スキルと全てにおいてだ。ノックアウトするのもサブミットするのも僕のお好み次第だということを悟り、どちらに転んでもやられると分かり、パニックを起こすというわけだ。僕はまず精神的に相手を壊して、それからやりたいことをやるんだよ」

(C)Zuffa/UFC

感情を廃して正確に反応せんとするゲイジーが「機械の如く」戦わんとしているとするなら、相手の反応を読み取った上で動かし、その精神の乗っ取りを宣言するトプリアはさながら「AIの如き」戦い方を予告する。無の感情と感情の操作、格闘技において功を奏するのはどちらか。

もっともその裏で両雄とも、何人(なんぴと)にも劣らぬ強い想いをもって、己の全てを賭けてこの試合に臨むことは間違いない。

舞台の特殊さではなく、両者死力を尽くした内容の素晴らしさ故に、この試合が歴史的な戦いとならんことを。

■視聴方法(予定)
6月15日(月・日本時間)
午前9時00分~UFC FIGHT PASS
午前8時 30分~U-NEXT


■UFC Feedom250対戦カード

<UFC世界ライト級王座統一戦/5分5R>
[正規王者]イリャ・トプリア(スペイン)
[暫定王者]ジャスティン・ゲイジー(米国)

<UFC世界ヘビー級暫定王座決定戦/5分5R>
アレックス・ポアタン・ペレイラ(ブラジル)
シリル・ガンヌ(フランス)

<バンタム級/5分3R>
ショーン・オマリー(米国)
エイマン・ザハビ(カナダ)

<ヘビー級/5分3R>
デリック・ルイス(米国)
ジョシュ・ホキット(米国)

<ライト級/5分3R>
マウリシオ・ルフィ(ブラジル)
マイケル・チャンドラー(米国)

<ミドル級/5分3R>
ボー・ニコル(米国)
カイル・ダウカウス(米国)

<フェザー級/5分5R>
ジエゴ・ロピス(ブラジル)
スティーブ・ガルシア(米国)

PR
PR

関連記事

Movie