この星の格闘技を追いかける

【UFC Freedom250】展望。暫定ヘビー級タイトル。比類なき集中力ポアタン×大らか&詰めが甘いガンヌ

【写真】ポアタンは113.85キ。純ヘビー級ファイターのホキットの104.75キロより、9キロも重かった (C)Zuffa/UFC

14日(日・現地時間)、米国ワシントンD.C.のホワイトハウス南庭(サウスローン)にて、UFC Freedom 250「Topuria vs. Gaethje」 が行われる。国家権力のど真ん中に格闘技が据えられる驚愕の大会のコメインは、ランキング1位のシリル・ガンヌに、ライトヘビー級王座を返上して階級を上げてきたアレックス・ペレイラの間で行われるヘビー級暫定王座決定戦だ。
Text by Isamu Horiuchi

(C)Zuffa/UFC

今大会は、アメリカ建国250周年記念プロジェクト「Freedom 250」の目玉企画の一つにして、ドナルド・トランプ大統領の80歳の誕生日を祝って行われるものだ。トランプ大統領とデイナ・ホワイトUFC代表の親交は、2001年2月、UFCを獲得したズッファ社(ホワイト社長)体制下での初興行となるUFC 30を、トランプ氏所有の「トランプ・タージマハル」で開催した時に遡る。以来ホワイト代表は「世間から全く認められていなかった我々に、ドナルドが手を差し伸べてくれた」と感謝の念を表明している。

ホワイト代表は、これまでトランプ氏が大統領選挙に出馬した際には(16年、20年、24年)、毎回資金援助に加えて応援演説も行なっており、24年11月の同氏の勝利宣言時にも壇上に同席し、その不屈の精神を称えるスピーチを行なった。さらに当選後トランプ氏が初めて公共の場に姿を現したのは、同月にMSGで行われたUFC 309。特別映像とキッド・ロックの「アメリカン・バット・アス」に乗って、大USAチャントのなか入場したトランプ氏は、ホワイト代表やイーロン・マスク氏とともに最前列で大会を観戦した。

またUFCの親会社であるズッファ社は、昨今ボクシング界への参入を開始。その際に足枷となる(権力分散を義務化した)モハメド・アリ法の修正案を議会に提出させた際にも、両氏の親交関係が大いに役に立ったと報道されている。今後この修正案が上院を通過してトランプ氏の署名が行われ次第、ズッファ社はボクシング界の(UFC式)一極支配に向けての動きを加速すると言われており、トランプ&ホワイトの結びつきはUFCを超えてプロスポーツ&エンターテインメント業界を揺るがす可能性がある。

そんな両者の蜜月関係の極みとも言える今回のイベントに向けて、南庭には「The Claw(猛禽類の鍵爪)」と呼ばれる巨大なアーチ状の(照明や音響設備、巨大LEDスクリーンを支える)天蓋を中心に、4000人以上収容できる屋外スタジアムが建設された。世界最強の国家の中枢たるホワイトハウスが、かつて誰も見たことのないような容貌を呈している映像&画像が、現在世界中に伝えられている。総額6000万ドル(約90億円)以上の費用はUFC側の負担だ。

これまでもトランプ政権は、首都DCにある国家的であるケネディ・センターを「トランプ・ケネディ・センター」に改称することを試みたり、250周年に合わせて大統領の顔写真を印刷した記念250ドル紙幣を発行する法案を提出したり、ホワイトハウスの由緒ある東棟を取り壊して巨大宴会場の建設を試みるなど、米国の歴史的公共財を好きに改造したり自身の存在を刻みつけることで、権力を誇示する傾向が目立っていた。

当然今回の大会もその延長線上にあるものとみなされ、現在イラン戦争によるガソリン価格上昇とインフレ加速に苦しみ、厭戦気分も広がっている米社会では少なからぬ批判の声が上がっている。数日前にロイター/イプソスが行なった最新の世論調査では、今回のホワイトハウスでのUFC開催計画を「適切である」と答えた米国人はわずか16%で、逆に「不適切である」と答えた者は46%を占めていた。

また実際、市民団体が先導の上で地域住民二人を原告として、大会中止を求める訴訟が起こされ、原告側は「国家の由緒ある場所を利用し、私企業に不適切な商業利益をもたらさんとする」、「正式の許可手続きを経ていない」このイベントのおかげで実質的精神的不利益を被ったと主張した。が、大会直前の12日に連邦地裁は、原告側はこの大会から大きな具体的損害を受ける根拠を示すことができていないとして、その訴えを却下した。

かくして、今や世界中に報道され波紋を広げ、良くも悪くもUFCの存在を世界中の非格闘技ファンにも知らしめることとなったこの大会は、予定通りに開催される運びとなった。

そんな未曾有の大会のコメインには、現在UFCのアクティブ・ロースターの中では突出してNo. 1の動員力を誇るアレックス・ポアタン・ペレイラが初めてヘビー級に挑む、暫定王座決定戦が組まれた。2022年11月にUFCミドル級王座を獲得したペレイラは、2023年末から2024年末にかけて、1年間で4度ライトヘビー級タイトル戦に出場。 その全試合にKO勝利するという破天荒な活躍を見せてUFC最大のメガスターに駆け上がった。


戦慄を覚えるほどの勝負強さ=ペレイラ

途轍もない威力の左右の拳を持つペレイラだが(ニックネームのポアタンは、彼のルーツであるアマゾンの先住民族の言語で「石の拳」という意味だ)、人気の秘密はそれだけではない。ひとたび試合開始して相手と対峙すると──正確には、その前の入場時の矢を放つパフォーマンスを行う際や、試合開始前に決して視線を逸らさずに無表情で相手を見つめる時も──他に類を見ないほどの強度で戦いに集中し、一瞬で危険な領域に踏み込み、あるいは出てきた相手にカウンターを放ち一撃で仕留めてみせる。見るだけで背筋にゾクっとした戦慄を覚えるほどの勝負強さが人を魅了する。

ペレイラが見せる、まるで人間的感情を一切遮断したかの如き人ならぬ集中力は、本人の生来の性格もあるだろうが、サンパウロの恵まれない境遇で育ち、今に至るそのライフ・ヒストリーとも関係があるのかもしれない。

12歳から学校を辞めてタイヤショップで働きはじめたというペレイラは、野卑な大人たちに影響されて飲酒を繰り返し、アルコール依存症に。キックボクシングはそこから脱却するためにはじめたという。生活のため、同世代と過ごす思春期を飛ばして過酷な大人の世界に飛び込んだ少年が、通常の人間が持ちえないような生の感覚を発達させることはありうるだろう。

さてペレイラは昨年10月、その約半年前に判定負けを喫してライトヘビー級王座を奪われたマゴメド・アンカラエフと再戦。慎重に構えてペースを譲ってしまった前回とはうってかわって、開始と同時に強力なワンツーと共に前に出て圧力をかけていった。やがてアンカラエフをケージに追い詰めると、強烈きわまる右オーバーハンド一閃。効かされたアンカラエフが試みたテイクダウンを押し倒し、パウンドと肘の雨を降らせてわずか1分20秒で仕留め、圧巻のタイトル奪還に成功した。

前回の敗戦について「体調が普段の40パーセントくらいだった」とだけ語っていたペレイラ。その後専属の理学療法士が、当時は左足の腓骨を骨折していて、またオーバーワークによる疲労の蓄積が原因で免疫が低下。感染症の抗生物質治療を試合2週間前まで受けていたことを明かしたが、さもありなんと我々に思わせるような圧勝ぶりだった。

その凄まじい集中力と勝負強さを改めて見せつけて王座に返り咲いたペレイラは、今大会に合わせてタイトルを返上。兼ねてから予告していたヘビー級への挑戦、そして(「暫定」ではあるが)UFC史上初の三階級制覇に挑む。

勝負弱さを見せてしまうガンヌ

対するランキング1位のガンヌは、ペレイラとは──同じ打撃系格闘技出身であり、劣らぬほどの才能に恵まれつつも──なんとも対照的な道を歩んでいる。ヘビー級離れしたスピードとフットワークを利してUFCデビュー以来連勝街道を進んだフレンチ・ムエタイ戦士は、2021年8月にはデリック・ルイスとの王座決定戦もスピードで圧倒して3RTKO勝利し、無敗のまま暫定王座を獲得した。

そして翌2022年1月には、フランシス・ガヌーとの正規王座決定戦へ。互角の攻防の末に迎えた勝負の5R、ガンヌはテイクダウンを奪取した。勝利に大きく前進したかに見えたにもかかわらず、ここでガンヌは自ら背後に倒れ込んでヒールフック狙いに行ってしまう。当然のように上を取り返されてこのラウンドを失ったガンヌは、「ヘビー級世界一(=地上最強)のMMAファイター」という至上の栄光を逃してしまった(片やガンヌの自爆に助けられてこの栄光を掴んだガヌーは、タイトルを防衛せず返上してUFCを離脱。タイソン・フューリーやアンソニー・ジョシュアとのボクシングスーパーファイトで荒稼ぎして数年で巨額の富を築いたのだった…)。

かくなる勝負への甘さは、レゲエ愛好者で普段からまったりした時間を好むガンヌの本来の大らかな性格もあるだろう。が、12歳でタイヤ店で働かざるを得なかったペレイラとは対照的に、もともとバスケットボーツのスポーツエリートにして、ワークスタディ(働きながら学ぶ学生支援制度)を利用してパリを訪れる等、彼がいわゆる健全な成長期を経験していること。そして格闘技(ムエタイ)を始めた理由も別に必要に迫られたのではなく、勤めていた家具屋の同僚に進められたからということも関係しているかもしれない。

さてその後復活を遂げたガンヌは、2023年4月に(上記のガヌーが返上した)ヘビー級タイトルを、ジョン・ジョーンズと争うチャンスを得る。が、ここでもガンヌは勝負弱さを見せてしまう。不用意に出した左ストレートを交わされて組みつかれてグラウンドに持ち込まれると、ケージ側に追い込まれてギロチンで絞め上げられてたまらずタップ。またしても大舞台で真価を発揮できなかった。

が、復活を期するガンヌはそこから2連勝を挙げ、昨年10月に三度目の正直を賭けてトム・アスピナルの王座に挑戦する機会を得た。ヘビー級離れした踏み込みとハンドスピードをもって圧巻の秒殺KOを繰り返して頂点に駆け上がった新王者に対し、ガンヌは華麗なフットワークで対抗。距離を制してアスピナルの突進を捌いては閃光の如きジャブを当てる素晴らしい内容で初回ペースを握り、今度こそ悲願達成の可能性は大きいと思われた──が、初回終了間際にまたしてもガンヌは痛恨のミスを犯してしまう。

左ミドルを出したガンヌは、前に出てきたアスピナルの頭を押そうと左手を前に。その指がなんと両目を抉ってしまい、王者は試合続行不可能に。試合はノーコンテストとなり、ガンヌは三度までも自らのミスで大チャンスを逃してしまう羽目となった。メインイベントのこの唐突な幕切れに観客はブーイング。痛みの中ブーイングを浴びたアスピナルは、(いつもの紳士キャラをかなぐり捨てて)放送禁止用語を使って観客に抗議してオクタゴンを去ると、その後両目を二度に渡って手術して長期離脱を余儀なくされることに。

ノーコンテストの裁定を知らされると両ヒザを付きうなだれたガンヌは涙に暮れる…と誰にとっても不幸な結果となってしまった。

ちなみにこの状況でオクタゴンインタビューを受けたガンヌは、しおらしく謝罪しながらもマウスピースを口から出して自分のトランクスの前の部分に突っ込み、さらに(金的カップがズレていたためだろうが)股間をしきりにいじりながらコメントを続けていたため、気の毒きわまりない状況ながらも妙にユーモラスな雰囲気が漂い、なんとも「常に大らかで、詰めの甘いガンヌ」らしい光景にも見えてしまったのだった…。

とまれ、この目の怪我によるアスピナルの長期欠場を受け、今回ガンヌは暫定王座決定戦に出るチャンスを得た。目指すのは3度にわたって獲得失敗している正規王座ではないが、舞台の巨大さ、そして対戦相手ペレイラの知名度を考えればそれを遥かに超えるチャンスと言える。今度こそその実力に相応しい結果を出したいところだ。

批判もある大会だが、選手たちにとっては人生最大の大勝負

きわめて対照的な天賦の才を持ったストライカー二人による決戦。距離を詰めて一撃を叩き込まんとするペレイラと、フットワークを用いて距離をコントロールし続けたいガンヌのせめぎ合いになることが予想される。「僕は動けるヘビー級だ。自分だけが当てて相手には触れさせない。アレックスの動きにも対処できると思う」と自信を持つガンヌだが、両拳に戦慄的な威力を秘めたペレイラが相手だけに、左右両方に回る必要がある。

対してペレイラは、ガンヌの進路を塞いで追い詰めたい。またサウスポーのガンヌの前足をカーフで削りもしたいところだろう。対するガンヌは(サバットの伝統を持つフランスの打撃系選手に相応しく?)オブリックキック(足への横蹴り)等も使って距離を保ちたい。拳を主武器とする両者だが、足運びと足技も見どころだ。「僕はヘビー級戦に合う戦い方を持っていると思うよ。僕の技術とファイトIQが違いをもたらすはずだ」と語るペレイラだが、初めてのヘビー級戦、今までで1番重い体であることがどう影響するのかは開けてみなければ分からない。

そして──これまでたとえ不利な展開でラストラウンドに持ち込まれても、尋常ならざる集中力と勝利への執念で相手を打ち倒してきたペレイラを、肝心なところで栄光を逃してきたガンヌは最後まで翻弄しきれるか。ガヌー戦における5Rの痛恨のヒール狙いは、勝ちを焦ったが故のムーブだったかもしれない。

これまでの失敗の全てを糧にして、最後まで自分の戦いを貫く強さをガンヌはこの究極の舞台で見せることはできるのか。あるいはペレイラがまたしても人智を超えた精神的肉体的強さを発揮し、驚愕の3階級制覇を成し遂げるのか。

「これは一生に一度の機会だ。光栄だしありがたく思う」(ガンヌ)

「この試合に勝てば、人々は300年後も僕の名を語ることになる」(ペレイラ)

批判もある大会だが、選手たちにとっては人生最大の大勝負だ。

■視聴方法(予定)
6月15日(月・日本時間)
午前9時00分~UFC FIGHT PASS
午前8時 30分~U-NEXT

■UFC Feedom250計量結果

<UFC世界ライト級王座統一戦/5分5R>
[正規王者]イリャ・トプリア(スペイン)
[暫定王者]ジャスティン・ゲイジー(米国)
(C)Zuffa/UFC

<UFC世界ヘビー級暫定王座決定戦/5分5R>
アレックス・ポアタン・ペレイラ: 251ポンド(113.85キロ)
シリル・ガンヌ: 248ポンド(112.49キロ)
(C)Zuffa/UFC

<バンタム級/5分3R>
ショーン・オマリー: 155ポンド(70.31キロ)
エイマン・ザハビ: 155ポンド(70.31キロ)
(C)Zuffa/UFC

<ヘビー級/5分3R>
デリック・ルイス: 265 ポンド(120.2キロ)
ジョシュ・ホキット: 231ポンド(104.75キロ)
(C)Zuffa/UFC

<ライト級/5分3R>
マウリシオ・ルフィ: 155ポンド(70.31キロ)
マイケル・チャンドラー: 156ポンド(70.76キロ)
(C)Zuffa/UFC

<ミドル級/5分3R>
ボー・ニコル: 186ポンド(84.37キロ)
カイル・ダウカウス: 186ポンド(84.37キロ)
(C)Zuffa/UFC

<フェザー級/5分3R>
ジエゴ・ロピス: 146ポンド(66.22キロ)
スティーブ・ガルシア: 146ポンド(66.22キロ)
(C)Zuffa/UFC

PR
PR

関連記事

Movie