【UFC324】展望 UFC暫定世界ライト級王座決定戦。激闘王ゲイジー×上昇気流パディ・ピンブレット
【写真】ピンブレットのこの笑顔、対戦相手からすると神経を乱されそうだ(C)Zuffa/UFC/em>
24日(土・現地時間)、ネバダ州ラスベガス近郊にあるTモバイルアリーナにて、UFC 324「Gaethje vs. Pimblett」が開催される。2026年最初にして、米国内での新放映形式──Paramount+による配信──採用後初のナンバーシリーズとなる今大会のメインは、ランキング4位のジャスティン・ゲイジーと、5位のパディ・ピンブレットによるライト級暫定王座決定戦だ。
Text by Isamu Horiuchi
UFCはスポーツ専門局ESPNとの契約が満了した昨年度をもって、米国内における従来のPPV(ペイ・パー・ビュー)方式の放映を廃止。新たに巨大メディア企業パラマウントと7年間で77億ドル(1兆円以上)という巨大独占契約を結び、動画配信サービス「Paramount+」のサブスクリプションで全大会が視聴可能となる新形式での放映を今年から開始した。
その記念すべき初回大会のメインとして抜擢されたカードが、ゲイジーとピンブレットによる暫定ライト級王座決定戦だ。
この階級には、22年10月以来イスラム・マカチェフが絶対王者として君臨していた。しかしマカチェフは昨年5月、一つ上のウェルター級王座に挑戦するためにベルトを返上。半年後の11月にジャック・デラ・マダレナを倒して見事に二階級制覇を成し遂げた。
空位になったライト級ベルトを賭けて7月に行われた王座決定戦では、(フェザー級王座を返上して階級を上げてきた)イリア・トプリアがシャーウス・オリヴェイラを衝撃の1RKOに沈めて二階級制覇を達成した。しかし11月末、今度はトプリアが「現在、私生活における困難がある」(のちに本人は、それが前妻との間の法的&金銭的トラブルだと説明している)として休養を宣言。それを受けて今回、ライト級暫定王座決定戦が行われることとなった。
ツァルキャン「Make it make sense. (筋を通してくれ)」
実績と実力を考えた場合、誰よりもこの決定戦に出場する資格を持っているのがランキング1位のアルマン・ツァルキャンであるのは間違いないところ。が、アルメニアとロシアの二重国籍を持つこの超弩級のグラップラーは米国内で人気者とは言えず、パラマウント初回大会のメインには相応しくないと判断されてしまったようだ。
また2位のシャーウス・オリヴェイラと3位のマックス・ホロウェイに関しては、UFCは3月に後者の持つBMFベルトを賭けて両者戦わせることを決定。かくて今回──熱心なファン達から少なからぬ批判を集めつつ──英語圏で高い知名度&注目度を誇る4位ゲイジーと、5位のピンブレットが暫定王座決定戦に選ばれた。(ちなみに1位の座にありながら試合の舞台すら与えられない気の毒すぎるツァルキャンは、今回の暫定王座戦が発表されるとSNSに「Make it make sense. (筋を通してくれ)」とだけ投稿。忿懣やる方なき思いの全てを4語に詰めこんだのだった…)
UFCきっての激闘王ゲイジーは、2020年5月にトニー・ファーガソンを5RTKOに下してライト級暫定王座に就いた。が、この時は巻かれたベルトをすぐに放り投げ「the real one (本物のベルト)巻く機会を待つよ」と一言(ちなみにこの試合にて、UFC登場以来7試合連続でボーナス獲得という前人未到の記録も打ち立てている)。しかし、続く10月のカビブ・ヌルマゴメドフとの統一戦では2R三角絞めで完敗し、一番欲していた “the real one”の獲得に失敗している。2022年5月にはシャーウス・オリヴェイラに挑戦したが、序盤からお互いパンチを効かせノックダウンを奪い合う凄絶な攻防の末に1Rチョークで敗戦。またしても正規王座獲得はならなかった。
以後も激闘を重ね、2023年7月にはダスティン・ポイエーを2R右ストレートから右ハイのコンビネーションでKOし、BMF王座を獲得したゲイジー。2024年4月にはマックス・ホロウェイ相手に防衛戦に臨んだ。が、試合終了直前にホロウェイの呼びかけに応じて足を止めて打ち合った末、凄まじい右フックを受けて前のめりに失神し、このBMFタイトルも失っている。
が、昨年3月にはハファエル・フィジエフを相手に復帰戦に挑み、2Rに左手で首を抱えての右アッパーでダウンを奪い、判定3-0で激闘を制した。凄絶な敗戦を乗り越えた上で、36歳にして通算12度目の(二度のダブル受賞を数えると14個目)のボーナス獲得だった。
続く6月、空位のライト級王座決定戦に自分でなくトプリアとオリヴェイラが選ばれると、ゲイジーは大いに動揺したと伝えられる。その際、常に何かを企み言葉を操るマネジャーのアリ・アブデルアジズは「彼(ゲイジー)は侮辱されたと感じている。もし勝者とタイトルマッチと与えられないなら、もう引退するとすら言っている」と語った。実際その後、ゲイジー陣営は他のランカーとの試合を了承せずに待ちの態勢に入った。
この戦術が功を奏してか、11月のトプリアの休養宣言を受けたUFCは、上位ランカー3人を差し置いてゲイジーに今回の暫定タイトルマッチをオファー。10ヶ月間試合をしてこなかった37歳のベテランは、正規タイトル獲得に向けた3度目のチャンスを手繰り寄せたのだった。年齢的にもラストチャンスと見る向きも多いが、本人は「俺はパディに勝って、次はイリアも倒す(=正規王者となる)さ。そしたらマックスにもお返しするよ。絶対だ。そして(同じく過去に敗れている)シャーウスも倒さなければならない」と語っており、今回で終わる気などさらさらないようだ。
対するピンブレットは、英国リバプール出身の31歳。2021年のUFCデビュー以来、訛り丸出しの大言壮語と豪快な勝ちっぷりで一躍人気者となったが、2022年12月のジャレド・ゴードン相手に判定勝利を挙げたあたりから「無理に作られたスター」というイメージが付いてしまう。
その後もトニー・ファーガソンやキング(ボビー)・グリーンに完勝したものの、下り坂のべテラン相手に「勝たせるマッチメイク」を組んでもらったという印象は拭えず。そんなピンブレットが評価を大きく上げたのは、昨年4月のマイケル・チャンドラー戦だ。
チャンドラーと同階級とは思えないほどの大きさでオクタゴンに現れたピンブレットは、2Rにグラウンドで上を奪うと、トップからの圧力でチャンドラーに動く隙を与えず強烈無比なパウンドで大ダメージを与えた。続く3Rには右ヒザでチャンドラーの頬を切り裂き、背中に回ると豪快にリフトして叩きつけ、またしても完全に動きを封じた上でパウンドとヒジの雨を浴びせてフィニッシュした。
レスリング力と爆発力を武器に長年ライト級トップで戦ってきたチャンドラーを、逆に力でねじ伏せる圧巻の勝利を挙げたピンブレットは、試合後インタビューにて、自分の強さを疑う者たちに対し「これでもまだ(僕の強さに)疑問を持つ奴らはいるのか? お前らみんな笑って言うよな。僕はランカーになれないとか、トップ10になれないとか! 今度は何を言うつもりだ、このキノコ野郎どもが!(What now? You gang of mushrooms!)」と──アンチたちを「キノコの如くわらわら湧いてくるちっぽけな有象無象」と一刀両断する──卓越したワードセンスを持って捲し立てた。(ちなみにかく言うピンブレット自身も以前はマッシュルームの如き髪型をしていたものだが、最近試合時にはコーンロウを編んでいる)
さらにピンブレットは、ライト級上位陣の選手たちを一人一人名指しでコールアウト。アルマン・ツァルキャンのことをFワード付きで呼び捨てた後「奴はちっぽけなヘルメットだ! ソーセージ野郎が!」とこちらも日常用語を巧みに使って罵倒した。
「ヘルメット」は、首と頭が一体化したが如く体型と生真面目で頭の硬そうな性格を揶揄していると思われ、「ソーセージ」というのはリバプールでよく用いられる悪口で「(ソーセージの如く安っぽい)マヌケ」的な意味合いらしい。なお別の機会にピンブレットはこの応用で、トプリアのことも「チョリソー(スペイン発祥のソーセージ)」呼ばわりしている。(ただし、今回の相手のゲイジーに対してはリスペクトの気持ちしかなく、奇抜なあだ名を付けて煽るつもりはないとのことだ)
閑話休題。とまれチャンドラー戦で大方の予想を遥かに超える強さを見せつけ、スター候補の名に恥じない実力を証明したピンブレットは今回、Paramount+初回大会という大舞台にてキャリア最大の勝負に挑む。が、本人に気負う様子はなく
「タイトルを争うことに気分は高揚しているけど、いつもの試合と同じさ。ジャスティンは大好きな選手だからむしろ戦いたくないくらいだ。遺恨もないし敵意もないけど、僕の夢の前に彼が立ち塞がるなら、やるしかない。チャンドラー戦もそうだった。で、結果がどうなったかは知っているよね? 僕は戦争みたいな試合がしたいんだ。今までしたことがないから。でもジャスティン相手にそういう試合になるとは思えない。彼は3ラウンドは持たないと思う」と、静かに自信を漲らせている。
注目すべきは、お互いのカーフキック
3度目の正直に賭ける37歳のゲイジーと、上昇気流に乗る31歳のピンブレットの世代間闘争とも言えるこの試合。勝敗を分ける大きな鍵の一つは、スタンドの打撃戦における主導権の取り合いだろう。下馬評でも有利とされるピンブレットの最大の強みは、グラウンドにおける圧倒的な支配力と攻撃力だ。ゲイジーとしては一度たりとも寝技で上を許さず、スタンド戦をキープして打撃でダメージを与えたいはず。逆にレスリングベースのないピンブレットの方も、NCAA Division I オールアメリカン(全米ベスト8)レスラーであるゲイジーから上を取るためにも、まずは打撃で圧をかけてペースを握りたいところだ。
かくも重要なスタンド打撃の攻防において特に注目すべきは、お互いのカーフキックの使い方だろう。ゲイジーのスタンド戦での常套手段は、まず強烈無比な右のカーフで相手を削ること。今回の試合に向けても「まずは奴の足を痛めつける。頭のことを忘れさせてから頭を刈り取るのさ」と作戦を隠そうとすらしていない。
しかし近年、ピンブレットもまた同様に右のカーフを有効に使いこなしている。上がり気味の顎&低いガードという危なっかしい構えのピンブレットだが、遠い距離を保ち相手の動きをよく見つつフェイントを交え、綺麗なフォームではないが見るからに重いローを相手のカーフに蹴り込んでゆく。グリーン戦でもチャンドラー戦でも、序盤は強力なカーフを主体に遠間から攻撃してスタンドで主導権を取ったピンブレット。やがてスタンドを嫌がった相手がテイクダウンを仕掛けてきたところで、下からの三角で仕留め(グリーン戦)、あるいは相手を前に落として上を取りパウンドで大ダメージを与えた(チャンドラー戦)。
それはゲイジー陣営も十分に承知しているはず。独特の間合いとフェイントを用いて、単発だが重い打撃で圧力をかけてくるピンブレットに対し、いかに下がらずにその足を痛めつけることができるか。カーフを効かされたピンブレットが前に出られなくなった時、ゲイジーの拳がその空いている顎を撃ち抜く可能性は俄然高まる。「ジャスティンが僕に勝つ唯一の方法は、強烈な左右のパンチを当てることだけだ。でもScousers(リバプールっ子)は決して倒れないのさ」とうそぶくピンブレットだが、キャリア26勝のうち20KOを記録しているゲイジーの拳をモロにもらってなお、その言葉を発することができる保証はない。
もし、逆にピンブレットがスタンドの圧力でゲイジーを上回ることができるなら、チャンドラー戦同様に中盤から凄まじい制圧&破壊力を発揮する可能性が高い。3Rに打撃でチャンドラーが怯むと一気に距離を詰めてシングルレッグを仕掛け、背中を向けたところを高々と持ち上げて叩きつけたピンブレット。その後も一方的に攻撃を続けて圧巻のフィニッシュまで持ち込み、解説のダニエル・コーミエをして「マイケル・チャンドラー相手にこんなことをやれる人間がいるなんて!」と仰天させたのだった。
「僕はジャスティンをテイクダウンしたいと思った時に、そうするよ。僕のようなテイクダウンを使う選手はいない。僕はディヴィジョン I レスラーのようなレスリングはしない。MMAファイターのレスリングをする」と語るピンブレット。この大舞台で「MMAファイターのレスリング」をもって再び本格レスラーを蹂躙してみせたなら、今度こそ誰もがその尋常ならざる強さを認識することだろう。
激闘を重ねてきたゲイジーが、正規王者奪取に向けて三度目の挑戦権を手にするのか。それともピンブレットが激勝し、配信新時代の幕開けに相応しいニュースター誕生という(用意された)シナリオが現実となるのか。競技の頂点を決める王座戦としては不自然さが否めないマッチメイクではあるが、超人的な肉体、スキル、精神力を持ち合わせたエリートファイター二人による見逃せない戦いであることに変わりはない。
■視聴方法(予定)
1月25日(日・日本時間)
午前7時00分~UFC FIGHT PASS
午前11時00分~PPV
午前6時30分~U-NEXT
■UFC324対戦カード
<UFC世界ライト級暫定王座決定戦/5分5R>
ジャスティン・ゲイジー(米国)
パディ・ピムブレット(英国)
<バンタム級/5分3R>
ショーン・オマリー(米国)
ソン・ヤードン(中国)
<ヘビー級/5分3R>
ワルド・コルテスアコスタ(ドミニカ)
デリック・ルイス(米国)
<女子フライ級/5分3R>
ナタリア・シウバ(ブラジル)
ローズ・ナマジュナス(米国)
<フェザー級/5分3R>
アーノルド・アレン(英国)
ジアン・シウバ(ブラジル)
<バンタム級/5分3R>
ウマル・ヌルマゴメドフ(ロシア)
デイヴィドン・フィゲイレド(ブラジル)
<ミドル級/5分3R>
アテバ・グーティエ(カメルーン)
アンドレイ・プリエフ(ロシア)
<ライトヘビー級/5分3R>
ニキータ・クリロフ(ウクライナ)
モデスタス・ブカウスカス(リトアニア)
<フライ級/5分3R>
アレックス・ペレス(米国)
チャールズ・ジョンソン(米国)
<ライト級/5分3R>
マイケル・ジョンソン(米国)
アレキサンダー・ヘルナンデス(米国)
<ヘビー級/5分3R>
ジョシュ・ホキット(米国)
デンゼル・フリーマン(米国)
<ウェルター級/5分3R>
タイ・ミラー(米国)
アダム・ヒューギット(米国)













