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【UFC326】展望BMFタイトル戦。苦難の人生と度重なる敗北を経て。不死鳥対決=ホロウェイ×オリヴェイラ

【写真】その生い立ちから、まさにバッドアス決定戦 (C)MMAPLANET

7日(土・現地時間)ネバダ州ラスベガス近郊にあるTモバイルアリーナで、UFC 326:「Holloway vs. Oliveira 2」が開催される。カイオ・ボハーリョ対ライニア・デリダーのミドル級ランカー対決をコメインとするこの大会のメインイベントは、王者マックス・ホロウェイにシャーウス・オリヴェイラが挑戦する、UFC公認にして非公式のBMF(”Baddest Mother Fxxker”=「最高にヤバい奴」)タイトルマッチだ。
Text by Isamu Horiuchi

この試合は、昨年10月のリオ大会でマテウス・ガムロに2Rチョークで勝利したオリヴェイラが、オクタゴン上でマッチメイカーのハンター・キャンベルに向けて「僕とマックス・ホロウェイのBMFタイトル戦を組んでくれ!」と呼びかけたことが契機となり、実現に至った。

その前の6月、オリヴェイラは(絶対王者イスラム・マカチェフがウェルター級に階級を上げるため返上して空位となった)ライト級王座を、フェザー級タイトルを返上して二階級制覇を狙うイリャ・トプリアと争った。が、自身の最大の強みである寝技で瞬時にパスを許してしまい、さらにスタンドで強烈な右、左のフックを浴びて昏倒し、1RKO負け。35歳(当時)という年齢もあり、引退説も囁かれるような衝撃の敗戦だった。

そこから僅か3ヶ月半のスパンで、祖国にて敢行したのが前述のガムロ戦だ。ここでオリヴェイラは、ポーランドが誇るワールドクラスのグラップラーを組技で圧倒し、健在ぶりを見せつけた。その上で、すでにライト級のあらゆる強豪たちと対戦済みの鉄人オリヴェイラが新たな標的として選んだのが、もう一人の鉄人──BMF王者として生まれ変わり、そしてライト級に階級を上げてさらなる強さを見せつけるマックス・ホロウェイというわけだ。


オリヴェイラはUFCで24勝、ホロウェイは23勝

(C)Zuffa/UFC

2024年4月のUFC 300。

2019年にフェザー級王座を失って以来ベルトを取り戻せずにいたホロウェイは、階級上のBMF王者ダスティン・ゲイジーに挑んだ。優勢のうち迎えた最終Rの残り10秒、ホロウェイは、勝利が確定しているにもかかわらずオクタゴン中央で床を指差し、「俺と打ち合え!」と絶叫。

応じたゲイジーの拳を遥かに上回る回転力で連打を繰り出し、最後は凄まじき右フック──残り1秒でゲイジーが前のめりに失神するUFC史上最高のKOシーンをもって、ホロウェイは歴代のBMFたちを凌駕する”the BMF of BMFs”として、自らのレガシーをさらなる高みに引き上げた。

続く10月には、無敗のフェザー級新王者(当時)のトプリアに挑戦。左右のフットワークや関節蹴り等を巧みに駆使して超弩級の強打者とスタンドで渡り合ったホロウェイだが、3Rに狙い澄ました右をまともに受けてしまい、さらに詰められ左フックを浴びて万事休す。生涯初のKO負けを喫してしまった。

が、巷に流れる限界説を笑い飛ばすようかのように、ホロウェイはライト級に上げて新たな挑戦に乗り出すことを宣言。半年以上の準備&充電期間を経た昨年7月、地元ルイジアナで引退試合に臨むダスティン・ポイエーを挑戦者に迎えてBMFタイトルの初防衛戦に臨んだ。初回強烈な右ストレートでダウンを奪ったホロウェイは、その後も試合を優位に展開。残り10秒の時点でまたしても床を指して殴り合いを要求し、目にも止まらぬ連打でポイエーにクリンチを余儀なくさせて判定3-0で完勝。圧巻の回転力の拳に破壊力が加わった「ホロウェイ2.0 ライト級ver.」 とでも呼びたくなる強さでまたも復活を遂げた。

オリヴェイラは2010年、ホロウェイは2012年にUFCデビュー。ともに激闘を重ねてキャリアを築き、ライト級とフェザー級それぞれの頂点に立ち、王座を追われた後も進化を続け、超強豪たちと鎬を削り続けている。近年、次世代MMAの旗手を自認するイリャ・トプリアの驚愕の拳に沈められ、なおも不屈の精神をもって復活の狼煙を上げたところまで共通している。この二人の対決ほど、BMF戦に相応しい組み合わせもない。

さらに両者がこれまで残した数々の記録やデータも、この試合の「BMFぶり」を裏付けている。UFC公式サイトの記載によると、オリヴェイラは通算21回というUFC最多フィニッシュ記録を持ち、そのうち17の一本勝ちもやはりUFC最多だ。ボーナス獲得数も21で、以下(ジム・ミラー、ジョー・ローゾン、ポイエー、ゲイジーの4人が15で2位タイ)を大きく引き離している。

対するホロウェイは、当てた打撃数が3907発有効打撃数が3655発でどちらもUFCトップ、いずれも2位以下に1000発以上の差をつける突出ぶりだ。

また、これまでオリヴェイラはUFCで24勝、ホロウェイは23勝を挙げており、今度の両者の対戦は「これまで挙げたUFC勝利数の合計が歴史上最も多い二人による対戦」となる。質的にも量的にもまさにBMFなこの決戦だ。

ところで、この両者は今から10年半ほど前の2015年8月、一度フェザー級で対戦している。この時は試合開始から約1分半、テイクダウンを切り返されたオリヴェイラが左肩を押さえて戦闘不能に。攻防らしい攻防がほとんど見られぬまま試合が終わってしまった。そのまま救急車で運ばれたオリヴェイラは、左半身が完全に麻痺してしまい、点滴を受けた左腕の感覚もまったくなく、このまま自分のキャリアは終わってしまうのではという不安に襲われたという。

当時は医者もはっきり特定できなかったというこの突然の麻痺の原因は、それまでに蓄積していた頚椎の負担によるものだと本人は語る。実はオリヴェイラにとって、このような経験は初めてではなかった。7歳の頃にも、サンパウロのファヴェーラ(貧民街)で感染した溶連菌によるリウマチ熱が原因で歩けなくなるほど強烈な痛みに襲われ、医師には一生車椅子生活になるかもと警告されたという。さらに心雑音の存在も指摘され、幼きオリヴェイラはあらゆるスポーツを禁止されてしまった。

が、やがて健康を回復すると、12歳から柔術の練習を開始し、すぐに大会で頭角を現わした。その後も18歳まで治療を続けていたというオリヴェイラは「病気があるからといって、僕の夢を実現できないと考えたことなど一度もなかったよ」と語っている。

そんな男にとっては、傍目には幼少時のトラウマの再来に映る2015年のホロウェイ戦のアクシデントも、すでに倒した「かつての敵」に過ぎなかった。その僅か4ヶ月後の12月にはオリヴェイラは復帰し、マイルス・ジュリーを1Rギロチンで仕留めている。その後もしばらく苦闘が続いたが、ライト級に階級を上げ2018年6月から破竹の連勝を開始。2021年5月にはマイケル・チャンドラーの強打に初回ダウンを奪われつつも、身体に染み付いた柔術のガードワークで身を護り、2Rに逆転KO勝ち。

(C)Zuffa/UFC

2UFCライト級の頂点に立った。

巨大な困難に遭遇しては、不撓の魂でそれを打ち負かす過程の連続がオリヴェイラの人生だ。そのオリヴェイラは今回、2015年の初対戦が消化不良な形で終わってしまった際、ホロウェイが「フル・リカバリーを祈るよ」と語ったことを振り返って「マックスの言動は、当時から王者に相応しいものだった。神もそれを見ていたんだと思う。だから彼はその後、あれだけの成功を収めたんだよ。起こることには全て理由があるんだ」と、大いなるリスペクトと賛辞を送っている。

ホロウェイもまた、過酷な境遇を乗り越えて栄光を掴んだファイターだ。育ちは、ハワイのオアフ島のなかでも、日本語の観光サイトなどで「治安が悪く訪問をお勧めできない区域」として挙げられるワイアナエ地区。彼が15歳の頃に地元のテレビの取材を受けて語った言葉は、ファンの間では有名だ。

「父と母はともに重度のヤク中で、父はいつも母を殴っていた。母にとってはドラッグが医薬品みたいなもんで、ストレスを和らげる効果があったんだ。そんな母は自分より僕ら兄弟の人生のことを考えて、祖母に僕らを預けたんだよ。最後に父と会ったのは10か11の時で、それっきりさ。今でも父の幸運を祈るけど、もはや僕の人生には必要ない存在だ…諦めちゃダメだろ。それってなんだよ? 諦めたら負け犬確定だぜ。でも挑戦するなら、少なくとも自分の中では勝者なんだよ」

7日に我々が目撃するのは、幼少時からの試練の連続を克服し、辿りついた世界最高峰の舞台でも幾度も強大な敵に打ち負かされては不死鳥の如く復活し、かつての自己も人々の想像も遥かに上回る強さを見せ続けてきた超人同士の戦いだ。

二つの最高峰のMMAストライキングの交錯後の組技の攻防

試合開始直後から激闘必至のBMF戦。勝敗を分ける最初の鍵は、スタンドでどちらが自分の距離を作るかだろう。距離を詰めたいのはオリヴェイラだ。ゴングと同時にガードを上げて前に出て、前蹴り、ロー、飛びヒザ、ワンツー、アッパーと多彩にして精度の高い打撃を矢継ぎ早に繰り出してゆく。近づけば組んでの肘と膝もある。被弾上等で相手に迫り、超ハイペースの攻防に巻き込み疲弊させダメージを与え、やがてケージを背負った相手に(また打撃が来ると見せかけて)テイクダウンに入り、天下一品の極めで仕留めるのが常套手段だ。

それに対し、距離を保ちたいのがホロウェイだ。しかしその目的は逃げることではなく、その拳を最適な間合いから相手に叩き込むことにある。フェザー級王者時代からパンチの距離のコントロールに卓越していたホロウェイだが、近年は横のフットワークが加わり、また前蹴りや関節蹴りも巧みに織り交ぜる等、より立体的な動きへと進化が見られる。かつては圧倒的な拳の手数での判定勝利が目立ったが、「ライト級ver.」においてはゲイジーの顔面を破壊したバックスピンや、ポイエーの出鼻を打ち抜きダウンを奪った強烈な右等、殺傷力が目に見えて増している。

最短距離から直線的に迫るオリヴェイラの圧がホロウェイをケージ側に追い詰めるか、それともホロウェイが多彩なアングルとフットワーク、そして威力の増した打撃を駆使してオリヴェイラの前進を止め、自らの間合いに持ってゆくのか。前者はムエタイをベースに、後者は独自のボクシング技術に蹴りを加え、それぞれの流儀で進化しそれぞれのMMA用に最適化されたもの。二つの最高峰のMMAストライキングの交錯を堪能したい。

この打撃の攻防は、続く組技の攻防の行方も大きく左右する。立ちでオリヴェイラの圧が勝るなら、テイクダウンが決まる確率も俄然高くなる。逆にホロウェイの拳が前進するオリヴェイラのガードを貫通しその侵入を許さないようなら、テイクダウン狙いも苦し紛れとなり、ホロウェイに凌がれてしまう可能性が高い。10年前の初対決のように、ホロウェイがオリヴェイラの組みを切り返して上を取る場面も十分あり得る。当時はすぐに立ち上がったホロウェイだが、今回は寝技での攻防も厭わないとすら語る。

「みんな打撃なら僕、グラップリングならシャーウスが有利だと言うけど、これはMMAだ。今までクレイジーな光景をたくさん見てきた。そんな簡単な話じゃない。僕らはお互い世界の頂点に立った選手だ。僕は普段グラウンドをやらないからって、できないわけじゃない。サブミッションアーティストをサブミットすることこそ、BMFじゃないか」

時間を経るにつれ精度を増す拳を持ち、さらにライト級転向によって減量苦からも解放されたホロウェイに対し、オリヴェイラは近年常に過酷な減量を自らに強いている。ラウンドが経つにつれホロウェイが有利となる見込みは高く、傷を負ったオリヴェイラから、予告通り寝技でフィニッシュを狙う機会すら訪れるかもしれない。ただし組みの展開になれば、瞬時に全てを覆す極めを持つのがオリヴェイラだ。我々は、試合開始から終了まで一瞬たりとも目を離すべきではない。

三たび我々は「あの光景」を目にすることとなる──

(C)Zufffa/UFC

そして――。

もし試合が最終ラウンドの終盤にもつれ込まれたなら、三たび我々は「あの光景」を目にすることとなる──。

「シャーウスはハードファイトから決して逃げない男だ。もし試合が最後の10秒まで続くなら、絶対に床を指差すよ。それまでどんな展開であっても、だ」(ホロウェイ)

「もしマックスが床を指差したら、全てを出し尽くす時ということだ。誰が本当のBMFかを決める時だ。気持ちは最高に盛り上がっている。準備万端だ」(オリヴェイラ)

MMAファンなら、その全てを心に刻みつけたい戦いだ。

■視聴方法(予定)
3月8日(日・日本時間)
午前7時00分~UFC FIGHT PASS
午前6時30分~U-NEXT


■UFC326対戦カード
<BMF選手権試合/5分5R>
[王者]マックス・ホロウェイ(米国)
[挑戦者]シャーウス・オリヴェイラ(ブラジル)

<ミドル級/5分3R>
カイオ・ボハーリョ(ブラジル)
ライニエ・デリダー(オランダ)

<バンタム級/5分3R>
ロブ・フォント(米国)
ラウル・ロサJr(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
ドリュー・ドパー(米国)
マイケル・ジョンソン(米国)

<ミドル級/5分3R>
グレゴリー・ホドリゲス(ブラジル)
ブルーノ・フェヘイラ(ブラジル)

<バンタム級/5分3R>
コディ・ガーブラント(米国)
シャオ・ロン(中国)

<ミドル級/5分3R>
ドンテ・ジョンソン(豪州)
コディ・ブランデージ(米国)

<フェザー級/5分3R>
アルベルト・モンテス(ベネズエラ)
リッキー・トゥルシオス(米国)

<フライ級/5分3R>
コディ・ダーデン(米国)
ニャムジャルガル・トゥメンデムベレル(モンゴル)

<フライ級/5分3R>
スムダーチー(中国)
ヘスウ・アギラー(メキシコ)

<ライトヘビー級/5分3R>
ハファエル・トビアス(ブラジル)
ディアル・ニュルゴジャイ(カザフスタン)

<フェザー級/5分3R>
ガストン・ボラニョス(ペルー)
イ・ジョンヨン(韓国)

<ライトヘビー級/5分3R>
ルーク・フェルナンデス(米国)
ホドルフォ・ベラート(ブラジル)

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