【RIZIN&DEEP】平本蓮戦の敗北を経て、弥益ドミネーター聡志―02―「練習ができなくなることが嫌だった」
【写真】初めてインタビューをした時から自分の考えを言葉にできた。ただし、取材慣れしておらず写真撮影でコーヒーを飲もうとして顔が隠れた――日の再現をあえてしてくれた弥益だ (C)MMAPLANET
2023年に向けて『2022年中に話を訊いておきたい』勝者、敗者を6人リストアップしインタビュー──弥益ドミネーター聡志編Part.02。
いわば多くのMMAファイターと同様に一般的には日陰のキャリア、さらにいえば東京近郊のプロ所属選手が何人も所属するジム所属でもなくMMA界にいても、メインストリームでなかった。関東圏から中京、関西と足を延ばし弥益はキャリアを積んできた。その結果、DEEPフェザー級の頂点に君臨し、トップ戦線で戦うようになる。
朝倉未来の対戦相手としてRIZINに出場したことでMMAファイター人生は大きく変わった裏で、実生活と格闘技の棲み分けという部分は変化がなかった。そして平本蓮戦の敗北により、弥益の格闘技への想いは純度を増したといっても過言でない――そう感じられる弥益ドミネーター聡志の敗因の追求と平本蓮評を書き記したい。
<弥益ドミネーター聡インタビューPart.01はコチラから>
――オーソで来るという一択、つまり賭けでもあったわけですね。
「その賭けの部分で負けました」
――それもベストを尽くした結果かと思います。
「ありがとうございます。それにしても、平本選手のパンチが全く見えなかったですからね。正直、パンチ力が途轍もなく強いとか全く感じなかったです。やっぱり見えなかったことが一番のキーですね。あの試合、打撃をもらって痛みを感じなかったんです。
パウンドは痛かったです。メチャクチャに。ただ倒れた時のパンチは、痛みを感じて倒れたということは全くなくて。ホントに記憶が途切れて、目が覚めてということが何度も繰り返されていました(苦笑)」
――だからこそ危険だったのですが、攻めるほうでいえばヒールを逃げられたことに関してはどのように考えていますか。
「正直、取れはするんですよ。スパーリングだと。特にMMAの選手だと。それがグラップリングを専門にやっている選手、そういう人からはやっぱり取れない。自分の足関は、そのぐらいの完成度でした。それでも平本選手を相手に使うことに関しては、いけると思っていました。『取れるんじゃないかな』というのは」
――結果として、取れなかった。
「あの直前にパンチをもらって効いていたのはあります。あと、平本選手は足が柔らかかったです。ちょっと曖昧なんですけど股関節回りを含め、ヒザも足首も柔軟さがありました。それになんだかんだ言っても、対処もちゃんとしていましたし。
あと平本選手、けっこう体型が特殊なんですよね(苦笑)。身長や脚の長さに比べて腕が長くて……」
――短足だと(笑)。
「いえ、そこは……(苦笑)。凄くスタイリッシュなんですけど、計量の時はビックリして。これはMMAに適した体型だと思いました。腕が長くて腰が凄く低い、そして足が太い。多分、テイクダウンしづらい体型です。下に入りづらいし、足関節も微妙に長さが合わなかったです。
そうですね……。あのあと、北岡(悟)さんと風呂に行ったんですけど、『足関はやっぱ極まんないスねぇ』みたいな会話になりました。その時に北岡さんが『試合でぶっ壊せるヤツは違うよ』と。『やっぱり足関の神様が下りてこないとダメだよ』って(笑)。確かにそうですよね。自分は全力でやりあうなかで、ヒールを極めたことがなかったです。
その感覚が身についてないというか……別に躊躇したわけじゃないんです。俺も本気で壊すつもりだったし。でも、そこのタガを外すことができていないのか……」
――須藤拓真にはなれない?
「アハハハハ」
――ケージサイドにいて、あの音を聞くと……。グラップラーがケガをしないのはタップをするからなんだなと再確認しました。
「そうですね。MMAはパウンドもあるし、我慢しますよね。あれって、ヒザが外れた音だったんですね」
――後藤丈治戦のあとに須藤選手は「あんなに捻ったのは、初めてです」と言っていたと、師匠の柳澤哲裕さんが教えてくれました。
「怖い……。そういう話を聞くと、ソレができるのは神様からのギフトなんだろうなと思っちゃいますね」
――ただMMAとしてキャリアを積み上げてきた弥益選手に対し、平本選手のキャリアの積み方は前例がなさ過ぎて。弥益選手にはあのような勝ち方をしてなお、実力が測れないところがあります。なんなんだろう、平本蓮って――という感じで。
「まず自分が平本選手と相性が悪いことは自覚していて。だから彼の7月の試合も全く参考にならないと思っていました。鈴木(博昭)選手って打撃が凄い方だし、打たれ強い。あの試合でも結構クリーンヒットを貰っていたと思います。でも生きのびられたというか、試合は判定まで行きました。
平本選手とああいう風に戦えるのは打撃が生きる、体の強さ有りきの戦いができるからだと思います。自分にはそこがないです。それは分かっていたことで。だから平本×鈴木のような試合にはならない。それを念頭に置いて組み立てないといけないと思っていました。
なんか当時の自分の感情が曖昧なので推測でしかないのですが、待たれると行っちゃう(苦笑)。そこは性格の問題もある。なんだかんだと自分、試合ではケンカっ早いので(苦笑)。待たれると行っちゃうし、効かされると悔しくて効かし返したくなる。
ただし平本選手の試合に関しては、全く打撃が分からなかったのでケンカしてやろうとまで思えなかったですね、最初は。どうにかテイクダウンをしたいと思っていたのですが、ちょっと厳しそうだし。力も入っていない。『もう殴るしかないな』と思ったのが3Rでした。それと……平本選手は自分の武器の使い方が分かってきたんだと思います」
――弥益選手は戦前から平本選手への評価が高かったですね。
「ハイ。自分は最初から平本選手は強いと思っていました。デビュー戦の萩原(京平)戦を見ても、変な試合はしていないです。『デビュー戦でこれは凄いでしょ』という試合だと思いました。
だからハマり始めたらグッと伸びる選手だと思っていましたし、結果として自分がハマる手伝いをしてしまったところもあると思います(苦笑)。かといって総合力でいうと、穴はいっぱいあると思います。自分とは相性が良かったというのもありますし、自分と同程度の力だと評価されている選手全員に平本選手が勝てるのかというと、違います(※取材は斎藤裕戦の発表前に行われた)。
相性次第でいくらでも変わってしまうぐらい、彼のパラメーターは不安定だと思います。そこは自分も『彼は天才だ』と手放しで評価するつもりはないです。ただあの感覚がハマった後の伸びに関しては、『どれだけなんだろう』って見てみたい。そんな自分がいます。
なんか……まぁ、そう思うこと自体が悔しいですよ(苦笑)。でも、もっと彼の試合を見てみたいという気持ちが、正直あります」
――そこが消化できていない現状で、今後の弥益選手のキャリアの積み方をどのように考えていますか。
「今後……頭がこんな風で『本当に格闘技を続けることができるのかな』って思った時に、そうなるのが嫌だと思ったのは大観衆の前で試合ができなくなるということではなかったです(苦笑)。もう1度、あの場に立って、勝って……歓声を浴びたいとかという気持ちは正直、一切ないです。結局、練習ができなくなることが嫌だったんです」
<この項、続く>