【RIZIN&DEEP】2022年中に話が訊きたかったファイター。6人目、弥益聡志―01―「全然消化していない」
【写真】取材のためにわざわざ途中下車をしてくれた弥益in東京メトロ某駅で(C)MMAPLANET
2023年が始まり、MMAワールドでは既に6日(金・現地時間)に米国でLFAが開催され、今週末にはONEのタイ大会、東京では修斗公式戦が行われる。
そんな2023年のMMAに向け、『2022年中に話を訊いておきたい』勝者、敗者を6人リストアップしインタビューを行った。第6弾は11月にRIZIN LANDMARKで平本蓮に完敗を喫した弥益ドミネーター聡志に話を訊いた。
あの敗戦から2カ月弱の時点で、MMAファイター人生において誰もが経験できない日々を振り返り、これからを──会社帰りのサラリーマン弥益が語った。
──弥益選手を初めてインタビューさせていただいた時も、仕事終わりでコーヒーを飲みながらでしたね(笑)。スミマセン、クリスマスイブ・イブに(※取材は昨年12月23日に行われた)。
「いえいえ、いつもありがとうございます。最初にインタビューをしていただいた時は2018年の10月とか11月だったと思います。もう4年も前ですね。あの時も今も頭が仕事モードで、ちゃんと話すことができるのか……」
──お忙しいところ、ありがとうございます。そんななか11月6日の平本蓮戦以降、どのように過ごされていましたか。
「あれだけ殴られたので、頭の方がそれほど宜しくなかったです。ただカットはあったのですが、頭以外で体がメチャクチャ痛いところはなくて。でも、ずうっとモヤモヤとしている感じが続いていました」
──あれだけ殴られて、倒されていると危険です。
「最近になって試合を見返したのですが、社会的責任がある人間がやってはいけない試合でしたね(笑)」
──会見後に少し話をさせてもらった時に、しっかりと殴られていたと聞いて。それまでは2度目以降のダウンは、食らうと同時にダメージよりも引き込んでいたのかと思っていました。
「そういう風に見てくださっている方も多かったのですが、全部効かされていました。効いているというか、全部記憶が途切れていましたね。気づいたら倒れていて……。試合後、顔に傷が無くて。それだけアゴをピンポイントで打ち抜かれていたんだと後から感じました。正直、自分はどういう種類のパンチをどういう距離で打たれているのか分からないまま、ボンヤリ戦っていたんです」
──ダウンしても、ガードポジションを取っていた。だからセコンドもレフェリーも試合を止めることができなかったのでしょうね。
「倒された時も、なんだかんだと相手のことは見てはいたので……」
──しかし、ダウンの度に記憶が途切れていたとは……。ならば3度目のダウンぐらいで、止めないと本当に危なかったということですね。
「そうですねぇ。でも自分が動いてしまっていたし、個人的にはストップされなくて良かったと思っています。競技としては分からないですが、止めないで最後まで戦わせてもらって良かったです」
──時間切れまで戦ったことが、頑張った結晶でもあるのですね。その後、診察などは受けたのですか。
「ハイ、MRIも撮って一応問題はないというか……そういう診断はされました。ただ正直、日常生活を送っているだけでフラフラすることが続いていました」
──えっ? どれくらいの間、続いていたのですか。
「1カ月ぐらいですね」
──ヤバいじゃないですか。
「ハイ。少し走るとふらつくというのは1カ月ほど続いて、でも先週には治まってきたので試合後、初めて東中野のトイカツ・グラップリングにお邪魔させてもらいました。本当に軽く、遊んでもらうみたいな形で動きました」
──大丈夫でしたか。
「ハイ、何か決定的に調子がおかしいということはなかったです。とはいえこの時期は仕事がメチャクチャ忙しくて。どうしても練習の頻度は下がってしまうのですが、また少しずつ復帰していこうかと思います」
──記者会見ではあれだけしっかりと話せていたのに。
「それも結構、記憶がないんですよ。かなり時間が経ってから会見の映像を視て『こんなこと話していたんだ』って(笑)」
──そうなのですね。しっかりとプロとして話しているように感じていました。
「まぁ、アレが素と言えば素です。ああいう風に自分の考えを発することができるのは、好きでもあるので」
──敗者の弁として100点満点で、ある意味株を上げたと。
「アハハハハ。自分でも傍から見ると『コイツ、やだな』って思うはずです」
──全くそんなことは言ってないですよ(笑)。ただ100点満点だったと。
「勝ち負けを優先している人からすると、ファンも含めて弥益っていう選手はいけ好かないヤツだと思うはずです」
──いや、あそこまで根性を見せて戦っている選手にそんなことを想う人はほぼいないはずです。それでもファイター弥益としては、傷つきまくりの試合だったのかと。対して、ファンの間でも最近のMMAの試合は消費社会で一時の快楽を与えて、すぐに忘却の彼方に消え去る。そんな気がしていたので、今年中に弥益選手の話を聞いておきたいと思った次第です。
「ありがとうございます。でも格闘技に限らず、何でも消費のスピードが速いです。それは良いことでもあり、悪いことでもあります。汚点、悪かったこともすぐに風化します。そういう意味で、やらかした人の社会復帰という面で消費スピードが速いことは良いかもしれないですけど、エンタメにしてもどんどん消費されると、新しいモノ、新しいモノという風に求められ、より過激なモノが必要になってしまいます。
自分の試合もせいぜい1週間ほど楽しんでもらえると、御の字で。そこから先はまた色々な話題でかき消される。でも、その裏には選手1人ひとりにだって私生活があり、皆がダメージを引きづって生きている。そこを発信してくれるメディアがあることはありがたいです」
──納得できないかもしれないですが、負けた試合の後に話を聞きたくなる選手。それが本当のプロの勝負師だと思っています。勝っている時は、誰だって話を聞きますし。そういうことで弥益選手は負けても話を聞きたい選手になっていた。そう私は捉えています。何よりも、あの試合は墓場まで持って行かないといけないことが試合前からありましたし。そこも踏まえて平本蓮戦を消化できましたか。
「自分は全然消化していないです。ただし試合に辿り着くまでのゴタゴタは、本当に自分はどうでも良いことだと思っています。逆に後から考えると、楽しい経験ができたなんて思うぐらいで。それは自分がMMAを仕事にしていないからだと思います。結局、格闘技で生活をしていないので、そこに至るまでのことって自分からしてもエンタメなんです。
自分の生活を脅かしていないので。本当にそんなに目くじらを立てて怒ることもないですし。心から悲しむことでもない。正直、自分はそこまで本気で向き合えていないんだと思います。ただ、試合に関してはこんなに『ああすれば良かった』という想いになる試合は久しぶりです」
──ああすれば良かったと想うことというのは?
「全部ですね。最初の接触の時、平本選手が自分のインローで大きく体勢を崩しました。平本選手が自分の打撃で崩れるなんて全く想定していなかったです。まさか、そんな態勢になるとは思っていなかったから驚いてしまいました。何よりも直後の距離感と平本選手のパンチのスピードが、自分の想定を遥かに超えていて。あの時点でリズムが崩れたまま、巻き返すことができなかった。戻れなかったです。
あとは試合前に『サウスポーで来る』可能性もあると自分で予測できていたのに、オーソ対策に振り切っていたことも……ですね。オーソドックスを想定してしっかり倒す練習をするのか。サウスポーもあると想定し、完成度はオーソ&サウスポーと共に低くなるけど分散させて対策をするのか。
そこで自分はサウスポーの可能性を捨ててしまったんです。『多分ない。オーソで来る』と思っていたら、試合が始まるとサウスポーでした(苦笑)。そこで動揺したのもあります」
──しかも右利きのサウスポーというべき、左に続く右で試合を支配していました。
「対策を立てる時点から、たら・ればを想定していなかったです。足を怪我した、その状態で慣れないことをしてくる──サウスポーで構えてくることはない。サウスポーで練習したり、ミット打ちもサウスポーでしているのはチャックしました。それでも試合当日はオーソで来る。サウスポーは練習用にやっているという認識でいたんです。ただし平本選手は自分の中で絶対に強い選手というのがあったので、半端な備えを両方にするよりも、一つは大丈夫という状況に、自分を持って行きたいということがありました」
<この項、続く>