【Pancrase356】松井斗輝と仕切り直しの一戦、山口怜臣「春日井さんの『今ここ集中』という言葉を――」
23日(火・祝)、東京都港区のニューピアホールで行われるパンクラスの昼夜二部興行。昼の部=Pancrase356で山口怜臣が松井斗輝と対戦する。
Text by Shojiro Kameike
IMMAFからパンクラスでデビューした山口は、現在はタイ・プーケットのタイガームエタイと名古屋の寒天スピリットを拠点に活動している。昨年はネオブラッドトーナメント優勝&MVPを獲得し、すでにベルトを目指すポジションに入ってきた。今回は7月に対戦が予定されていながら山口の負傷で延期となった、松井と仕切り直しの一戦に臨む。そんな山口が自身を変えた春日井”寒天”たけしの言葉について語ってくれた。
タイガームエタイで揃えた素材を持ち帰り、自分のテーマに沿ってMMAとして仕上げていきます
――試合を2週間後に控えてのインタビューとなります。現在はタイガームエタイではなく名古屋にいるのですね。
「はい。今は名古屋を拠点としていて、タイガームエタイはスポンサードファイターという形の契約ですね。僕がトレーニングパートナーを連れてタイガームエタイに行った時は、ジムを無料で使用できたりとか。僕自身も修行として2カ月ぐらい滞在して。それで年の半分か3分の1ぐらいはプーケットにいるというスケジュールが良いかなと思っています」
――そのスケジュールはタイガームエタイと契約した当初から同じですか。
「もともとはプーケットに移住するつもりで行きました。ただ、なにせタイガームエタイは選手の入れ替わりも激しいんですよ。みんなファイトキャンプでタイガームエタイを利用することが多いので。そこで試合前に見ず知らずの選手とスパーリングするのはリスクもあるじゃないですか」
――タイガームエタイは特に中央アジア勢がファイトキャンプで利用することが多いと聞きます。
「そうなんですよ。それで言えば寒天練は顔の知れた選手がいて、いろんなタイプの相手と練習できます。あと寒天練以外の時間でも、春日井さんがマンツーマンで一緒にトレーニングしてくれたりとか。特に試合前の時期は名古屋で練習したいと考えていますね。
もちろんタイガームエタイで練習する良さもあります。向こうはムエタイ、レスリング、ボクシングと各々専門のコーチが一つのジムに揃っているので、僕はオフの時期に行って各分野の地力を伸ばす。特にボクシングのコーチにはお世話になっていて。強い選手とも練習して自分の地力を上げていくことも大切だと思っています」
――そんななか、現在のスケジュールに移行したのはいつ頃のことですか。
「去年です。ネオブラのトーナメントは1年間のスケジュールが決まっていたので、日本でコンスタントに試合をしていくために。寒天さんにコーチをお願いして、他のトレーナーさんも見つけて日本で練習するようになりました」
――拠点を移す前と移した後で何か変化した部分はありますか。
「タイガームエタイで揃えた素材を名古屋に持ち帰り、試合が決まっていたら自分のテーマに沿ってMMAとして仕上げていきます。その中で春日井さんの存在は重要になってくるのは、試合に向けたメンタルの部分ですね。春日井さんも長い経験の中からアドバイスをくれるし、ある意味で自分のやりたい練習をさせてもらえるというか。
僕も集めた素材を全て春日井さんに投げるわけじゃなく、基本的には次の試合に向けたテーマも自分で組み立てています。春日井さんはそこにとことん付き合ってくれて、アドバイスもくれる。そういう密な関係性でやっています」
――山口選手はプロデビュー戦の頃には「なぜここで行けないのだろう」と思われる部分もありました。それがタイガームエタイで素材を集め、春日井コーチと密にやっていくことで、戦い方が幅広くなったのでしょうか。
「これはデビュー戦の振り返りになってしまいますけど、相手がレスリングで来たらこう、こう飛び込んできたら自分は――と、メチャクチャこだわってやっていました。でも対策を考えすぎて、自分が行けなくなった。蓋を開けてみたら相手も来なかったので攻防にならなかったんです。相手に対して申し訳ないけど、あの試合は自分に負けたと思っています。
でもそのあとに春日井さんが言ってくれたことを今でも大事にしていて。『今ここ集中だよ』という言葉なんですけど」
――「今ここ集中」というのは?
「たとえば勝ちたいとか、負けるかもしれないという感情を抜きにして、今ある展開に集中する。今ここにあるものの連続だから、『スタミナが切れたらどうしよう』とか先のことを考えすぎても意味はない。そう考えると自分主体で試合をつくることができて、相手のほうが対処のために疲れてくる。逆に自分が対処することがベースになっていると……相手がやってくることは無限にあるじゃないですか。そうなると自分から行かないのが一番正しい選択になってしまう。
だから一つやるべきことがあったら、まずそこに全て集中する。それは日常からもそうですし、格闘技を通じて人生が変わるレベルの言葉でした」
どんどん試合を受けて潰し合いでも競り勝っていく。UFCを目指すなら、戦績だけ綺麗にしていても意味はない
――結果、ネオブラの試合は常に山口選手のほうからガンガン攻めていました。
「そうですね。だんだんと自分の色が濃くなっているというか、『今ここ集中』で自分の世界観を押しつけていく。ネオブラの決勝でいえば、相手の組みが強いとしても、僕もレスリングの対処には自信があります。だから思い切って打撃を振りに行けるし。そこで『組まれたらどうしよう』とかは考えていなかったですね。荒田大輝選手も実力があるので競った試合になりましたが、自分のやりたいことはできた試合です」
――続いて7月には松井選手と対戦する予定でしたが、負傷欠場となりました。現在の状態は?
「プーケットの練習で骨折してしまい、1カ月ぐらいは安静の状態でした。ただ相手は決まっているわけだから、試合から離れている間に自分のテーマを煮詰めて行って、メンタルの強化はできました。それとやっぱり技術の前にフィジカルがあると思って。ちゃんとフィジカルをつくることができている人は、どんなシチュエーションになっても強い。強いヤツは何をやっても強い。次の試合では、それを体現したいです」
――では改めて松井選手の印象を教えてください。
「正直そんなに試合を視てつくりこんでいるわけではないですけど、ボクサーだなという感じです。アマチュアボクシングの綺麗なジャブを打って、距離感が上手いタイプですよね」
――対して山口選手にとっては、先ほどの言葉どおり相手がどういうタイプであろうと……。
「そうなんです。作戦の細かい部分は言えませんが、根本的には人と人のぶつかり合いなので。相手がボクサーだから自分は組みに固執するわけでもなく、パンチもガンガン振っていきますし」
――山口選手の中でもフィジカルとテクニカルな部分がマッチしてきている。その点で充実感はありますか。
「充実感しかないです。怪我の影響でフィジカルばかりやっていて、久しぶりにスパーリングした時は――しばらく競技練習から離れていたことなんて関係ないぐらい、シンプルに強くなっていました。『格闘技って、こういうことなんだな』と思いましたね。
もちろん技術的な下地も必要ですよ。でもそれはオフの時期にやっておくべきことであって。試合前のスパーリングは、自分が試合で出したいことの予行演習ですからね。そのスパーリングでも自分のイメージどおりに動くことができているので、本番も勝手にその展開になると思っています」
――現在パンクラスのバンタム級は透暉鷹がベルトを返上し、王座が空位となっています。ここで松井選手に勝てばランキングも上がり、王座決定戦出場なども見えてくるかと思います。
「今は5連勝中なので、ここで勝てば年末にタイトルマッチをやる資格はあるのかなと思っています。ちょっと角が立つかもしれないし、それでも別に良いんですけど――僕は上のランカーに試合を断られることも多くて。皆、おいしい立ち回りしかしたくないんだろうなって思うんですよ。
今回の試合も、若手同士の潰し合いと言われています。僕はファイターなので、どんどん試合を受けて潰し合いでも競り勝っていく。UFCを目指すなら、戦績だけ綺麗にしていても意味はないので。本来そういう選手こそベルトを巻くにふさわしいし、僕こそタイトルマッチをやれる選手だと思っています」
■視聴方法(予定)
9月23日(火)
Pancrase356 午後12時15分~U-NEXT
Pancrase357 午後4時55分~U-NEXT