【Gladiator032】荒井銀二と対戦、ヅッキーニョスがモンゴルで感じたこと「力比べで勝つために技がある」
【写真】モンゴルで大きな経験を得たヅッキーニョス(C)SHOJIRO KAMEIKE
21日(日)に大阪府豊中市176BOXで開催されるGLADIATOR032で、チハヤフル・ヅッキーニョスが荒井銀二と対戦する。
Text by Shojiro Kameike
ヅッキーニョスは2025年に入り、フェザー級からライト級に転向。初戦の岩倉優輝戦こそ落としたものの、続く八木敬志戦は判定勝ちを収めた。さらに6月にはモンゴルMGL-1FCでエンフトルガ・ガンボルドに腕十字を極めている。ライト級で2連勝、モンゴルでの勝利でヅッキーニョスが掴んだものとは。
現代MMAの技術的な部分だけ吸収し、器用に戦えるようになったとて――
――モンゴルのエンフトルガ戦では相手の打撃に押される場面もありながら、最後は腕十字でフィニッシュ。試合後は現地でも「すごいフィニッシュだ!」と声を掛けられたそうですね。
「まず向こうの人たちもウェルカムな感じで迎えてくれました。試合当日も会場のお客さんも温かい感じで。試合が終わったあとも『写真を撮ってほしい』とか言われたり、お客さんにも喜んでもらえたみたいです」
――試合前のインタビューでは、もともと「もともとモンゴルに出稽古に期待と思っていて」と言っていました。
「そうですね、今回は試合だけでしたけれども」
――モンゴルで試合をして、他の試合も観たなかで、モンゴル人ファイターの強さや勢いの要因を見つけることはできましたか。
「まず感じたのは、モンゴルの人たちって基本的にワイルドなんですよ」
――ワイルド、というと?
「たとえば計量後の食事でも、モンゴルの選手は何でも食べているんです。リカバリー食とか、そういう小賢しいことを考えずに食べたいものを食べている。そういう食の面からも生き物としての強さ、エネルギーを感じましたね。そのワイルドさは日本人と違いますし、見習わないといけない面もありました」
――なるほど。
「あと控室が一緒だったモンゴル人選手のウォーミングアップを見ていると……試合前って、だいたいの人は怪我しないように気をつけているじゃないですか。だけどモンゴルの選手は試合直前まで、ガチでブン投げ合ったりとか(笑)。モンゴル相撲が基本にあるからだとは思いますが、しっかり四つで組み、投げ合っていたりしました。
おそらくモンゴルの人たちにとっては格闘技というものの根底に『力比べ』があり、その力比べで勝つために技があるという順番だと思うんです。日本は技ありき、といいますか。力に対して技で勝つほうが良いという風潮もありますけど、モンゴルでは逆で。その点が彼らの強さの要因なのかな、とは思いました」
――モンゴル遠征は自身のMMAというより、ファイターとしての根本を見直すキッカケにもなったのですね。
「はい。現代MMAの技術的な部分だけ吸収し、器用に戦えるようになったとて、モンゴルのようなファイターには力でねじ伏せられる。そういう試合もよく視ますし、根本的な意識を変えなきゃいけないですよね」
――試合内容はいかがでしたか。最初に言ったとおり、最初はエンフトルガの打撃に押される場面もあって……。
「もともと相手は打撃が強く、ブンブン振ってくることは予想していました。僕も本当は打撃に付き合いつつ、タイミング良く組みに行きたいと思っていたんです。でも何回か相手の打撃を受けた時に、『これはちょっと危ないな……』とは感じて。パンチも結構重く、これは早めに組まないとヤバい。それが組んでテイクダウンを切られ、離れ際に一発もらってしまう。また組みに行きましたが、自分が下になってしまいました」
――ヅッキーニョス選手としては、そうしてエンフトルガのほうから距離を詰めてくるほうが良かったという結果になりましたか。
「そうですね。相手も前に出る力は強いけど、前に出すぎて組まれるという展開は、過去の試合映像で視ていました。だから相手が前に出すぎていたらチャンスだとは思っていました。
でも下になった時は、もう必死でしたよ(苦笑)。最後の腕十字は自然に出ました。相手も僕を立たせず仕留めようとして、パンチを打ち続けたから僕にもチャンスが生まれたという流れでしたね」
――帰国は試合翌日に?
「いえ。翌日はプロ―モーターの計らいで、選手はいろんなところに連れていってもらいました。チンギス・ハン博物館とか、郊外のゲルキャンプみたいなところへ行って、そこでパーティーも行われて楽しかったです。終わったあとは敵味方なく、ブラジルや海外から来ていた選手も――カザフスタンの選手(※オトゴンバートルと対戦予定だったカイザール・ジャウガシャール)だけは、計量オーバーの問題もあって帰されていましたけど……」
――チャンスがあれば、またMGL-1 FCに出たいですか。
「出たいですね。機会があれば練習にも行きたいです」
最近はほとんどウェイトはやらずに、どちらかというと組みの練習を筋トレだと思うようにしているんです
――試合内容以外にも気になった点があります。まず計量時の体つきが、今までと違っていて。
「あぁ、MMAPLANETさんに掲載された写真――メチャクチャ写りが良かったですね(笑)」
――あの体つきは写りが良かっただけではないでしょう。正直なところ、ライト級転向後も「フェザーの時のほうが動きは良かった」という声もありました。対して八木戦とエンフトルガ戦では「ようやくライト級の体と動きになってきた」という評価も聞かれます。
「確かにライト級に転向してすぐは、試合で力んでしまっていました。相手が大きくなったことで、自分も力が入ってしまう。フェザー級の頃は僕もリラックスして戦うタイプで、そういう時のほうが調子は良かったです。ライト級の初戦は動きが良くなかったと自分でも思いますね。
体づくりに関しても、ウェイトトレーニングとかで体を大きくしようとしていました。実際、体重は増えていて。でも最近はほとんどウェイトはやらずに、どちらかというと組みの練習を筋トレだと思うようにしているんです。以前はなるべく力を使わずに倒す、極める練習していました。今はなるべく力でやることを増やすことで、ウェイトトレーニングを辞めても以前より必要な筋肉がついてきた気はします。
通常体重もライト級に上げたばかりの頃より、最近の通常体重のほうが低いぐらいです。フェザー級の頃よりも減量幅も小さいです」
――体つきに変化が起きることで、練習や試合内容も変わってきましたか。
「同じ相手と練習していても、僕が使う技も変わってきたと思います。体全体の力を使って倒すことで、技術的な面も変わってきますしね。一方で――僕の影響かどうかは分からないけど、ジムでは他の選手も組みが強くなってきました。以前はテイクダウンできていた相手も、今はなかなか倒せなくなっていたりとか」
――これも「たられば」ではありますが、ライト級に転向したばかりの頃にモンゴルで試合をするのと、今回のようにライト級で何戦か経験してからモンゴルで試合をするのとでは、内容や結果が違ったかもしれません。
「そうかもしれないですね。ライト級に上げてすぐだと、まだ体の使い方も身についていなくて、たぶん勝てていなかったと思うんですよね。すると『やっぱりライト級は無理だ』と思ってフェザー級に戻していた可能性もあります」
――それは一番良くない、悪循環ですね。だからこそ何か前に進んだ時、答え合わせとしての国際戦は必要だと思っています。日本国内で凌ぎ合った結果の答え合わせが……。
「それが今回、モンゴルでできたことは大きいです」
観る人が『なるほど』と思ってくれるような内容で勝ちたいです
――ライト級転向後、他に何か新しく取り組んでいることはありますか。
「以前は打撃に関していえばムエタイ系のものを取り入れたり、プライベートレッスンを受けたりしていました。モンゴルの試合が終わってからは一度ムエタイから離れて、どちらかといえばパンチ――ガッツリとボクシングを習っているわけではないのですが、パンチ主体の練習を多くしています」
――ようやくライト級の体になってきたなか、モンゴルでの試合後はどのようなキャリアの展開を考えていたのでしょうか。
「モンゴルに行って、向こうのベルトを持って帰って来ることも面白いなとは思っています。またチャンスがあれば行きたいです。グラジも継続参戦していて、今回と次あたり良い結果が出れば、ベルトのチャンスも見えてきますし――やっぱりチャンスがあればベルトを獲りに行きたいですね」
――正直なところ、次の荒井戦がグラジのベルト挑戦に向けたマッチメイクだと思いますか。それだけ両者の間にはキャリアの差があります。
「なるほど。もちろん僕自身のキャリアを考えると、旨味というのはないでしょうね。一方で、いつも格上とばかり試合できるとは限りませんし、まだキャリアは浅いけど実力がある選手と戦うのも自分の仕事だと思っています」
――旨味という点では、最も旨味がない相手ではないですか。まだキャリア3戦にも関わらず、ここ2戦は強烈なKO勝ちを収めている。自身のキャリアを計算しているファイターであれば、断る可能性もあるマッチメイクだと思います。ヅッキーニョス選手の中で、このマッチメイクを受ける意義とは何でしょうか。
「いやぁ、僕なんて対戦相手を選べるほど偉くないですよ(笑)」
――アハハハ。
「僕自身は正直なところ、『ここを目指している』という明確なものはないんです。もともとUFCに行きたくてMMAを始めたわけではないですし。今からRoad to UFCを目指すとしても、年齢(現在31歳)と戦績を考えたら……。可能性はゼロではないと思います。でも僕より行くべき人、UFCに対する気持ちが強い選手が行くべきかもしれない。
そのなかで僕はまず目の前の試合に勝つ。勝つことで大きなチャンスがもらえたら、そこに乗る。そんなに計算しながら『どこどこに行くために』と戦績を綺麗にしたいとかは考えていないですね」
――では目の前に立ちはだかる荒井選手について、どのような印象を持っているか教えてください。
「右でも左でも倒せる選手で、距離感について迷いがない選手ですよね。もともと柔道やグラップリングがベースで、全部できる。今はBRAVEジムに強い選手がたくさんいるじゃないですか。そのジムで真面目に続けているなら『そりゃ強いだろ』って思います。間違いなく強敵ですよ」
――距離感、ですか。荒井選手はパンチが強いうえで、至近距離ではなく中長距離で倒せるところが強みです。まさに互いの距離設定が勝負のカギを握るかと思います。
「今までは僕も蹴りを多用して遠い距離をつくるか、あるいは組むか。中距離はつくることが少なかったです。ただ自分は打撃が上手くなかったので、だいたい僕が下がって相手が出てくることが多かったですよね。でもそれだとこの先はキツイので、自分から距離をつくっていく。相手によって距離も変わりますけど、その距離を自分からつくっていく。組みへ繋げていくための出入りなどは、今までよりも意識してやっています」
――打ち合いとなれば、ハンセン玲雄戦や石田拓穂戦の経験もありますし。
「アハハハ。今まで勝った試合も、なんやかんや命からがら勝つという試合も多かったですよね。このへんでしっかり僕のMMAのスタイルを――まだ完成はしていないけど、観る人が『なるほど』と思ってくれるような内容で勝ちたいです」