【UFC321】魅津希戦と対戦。柔術で勝ち続けるジャケリニ・アモリン「原体験は父と視ていたPRIDE」
【写真】116ポンドで計量をパスしたアモリン。魅津希は115ポンドで計量を終えている (C)Zuffa/UFC
本日25日(土・現地時間)、UAEはアブダビのエティハド・アリーナで開催されるUFC321「Aspinall vs GANE」。同大会のオープニングバウトで日本の魅津希と対戦するのが、ジャケリニ・アモリンだ。
Text by Takumi Nakamura
LFAで4勝0敗――女子ストロー級王者となり防衛にも成功している。UFCにステップアップを果たすと、これまで4勝1敗というレコードを残している。極めて勝つこと試合、2つのKO勝ちというパーフェクト・パニッシャーだ。
2017年にムンジアル黒帯で3位、色帯時代は紫帯でムンジアルとアブダビプロを制しているアモリン。ノーギでも黒帯でノーギワールド準優勝、紫と茶帯で世界王者になっている。世界最高峰において、今や見ることができなくなりつつある完全柔術ベースの戦いで白星を重ね、フィニッシュを積み上げているアモリンは、ブランクの長い魅津希との対戦も「経験豊かなファイターで、自分を試すことができる」という姿勢で挑む。
そんなアモリンのルーツと、思わぬ形で邂逅できるインタビューとなった。
――ジェケリニ、今週末に日本の魅津希選手と戦います。今の気持ちを教えてください。
「トレーニング・キャンプも凄く順調に終えることができたし、調子は最高ね。ミズキは私よりも経験豊かなファイターだけど、本当にキャンプが上手くいったから彼女とオクタゴンをシェアできることが楽しみだわ」
――アブダビ大会で戦うことに対して、魅津希選手が最初から対戦相手候補だったのでしょうか。現在4連勝中、4試合連続フィニッシュ勝利を挙げているジェケリニですから、トップ10、トップ15との対戦を望むことはなかったでしょうか。
「確かに彼女はランク外で、2年振りの試合よね。私も上の選手と戦いたい気持ちはあったわ。ただ、UFCということを考えると私はまだ経験が少ないファイターで、ミズキのような経験豊かな選手と戦うことは私にとっても良い機会だと思っている。それこそ、この試合に勝てばトップ15との試合も組まれるでしょうし。ミズキ戦は今の私の力を知る上で、良いテストマッチになるはずよ。そんな試合だからワクワクしているわ」
――ジャケリニの試合はLFAからチェックさせてもらってきましたが、日本のファンにはまだまだ分からないことが多いです。ただ、そのオクタゴンでの戦いぶりに加えて、2017年ムンジアル黒帯女子フェザー級銅メダリストという実績を見ても、ジェケリニのバックグラウンドは柔術だと考えて間違いないですよね。
「もちろん。2002年、6歳の時に父に連れられて柔術アカデミーに行ったのが私の柔術家人生のスタートよ。父はもともとMMAの大ファンで。それこそ柔術を始めた頃は、よくPRIDEを一緒に視ていたの。父は若い頃に柔術の練習をしていたけど、私が生まれた時に家族を優先するようになったの。そうね、私にとってマーシャルアーツの原体験は、父と一緒に視ていたPRIDEね。柔術を始め、それからの人生は柔術と共に歩んできたわ。
2020年、25歳になった時に次の段階へ進もうと決めてMMAに転向した。それこそ父がPRIDEと共に大好きだったUFCを目指そうと思って。柔術を十分にやりこんで、MMAのキャリアをスタートさせたの。そうそう父も最近、柔術の練習を再開したの」
――おお、素晴らしいですね。ところでムンジアルにはチェックマットから出場していましたが、2003年当時はチェックマットはまだなく。チェックマット総帥のレオジーニョ・ヴィエイラは、アリアンシから離れてBRAZAを起ち上げたころかと思います。
「私が柔術の始めたのは、マナウスよ。2014年、紫帯の時に最初に習った場所から、ファウスティーノ・ネト(マスター・ピナ)のアカデミーに移り、茶帯と黒帯を巻いてもらった。そして2016年にレオジーニョに誘われて米国に移り、フルタイムの競技者になれたの」
――柔術を始めたのは、マナウスだったのですか。実は2005年、もう20年も昔ですね。あの年にマナウスを訪れ4つほどアカデミーを取材しました。当時、アマゾナス州のソーシャル・プロジェクトでキッズ柔術家が、リオに遠征できるようになり、ジャカレやビビアーノ、キキ・メーロなどに続きマナウスが柔術界のパワーハウスに成長しました。
「私のそのソーシャル・プロジェクトで遠征ができるようなった1人よ」
――エェ、そうだったのですか!!
「リオデジャネイロで行われていたブラジレイロに出られることになって。それが私にとって、マナウスから初めて出た旅行だったの。本当にあのソーシャル・プロジェクトがあって、多くのキッズが柔術の道を進むことができるようになったわ。私も含め、人生の大きな分岐点になった。ところでマナウスではどのアカデミーを取材したの?」
――ノヴァウニオン・マナウス、サウロ・ヒベイロ系のパウロ・コヘーリョ、モンテイロ柔術……一番印象に残っているのはジャカレを輩出したASLE(アカデミア・センセイ・ルタ・エスポルチーバ)ですね。
「えぇぇぇ、ASLEは私が柔術を始めたアカデミーよ!!」
――そうだったのですか。エンヒッキ・マシャド師範の。
「そうよ!!」
――実はこれも10数年を経て、UFCミドル級ファイターのグレゴリー・ホドリゲスをインタビューした時に、当時ASLEで練習をしていたと分かったことありました。
「そう、グレゴリーはお兄さんと来ていて。えぇ、でも信じられない!! 私のアカデミーに来たことがあったなんて」
――とにかくキッズ・クラスに出ている子供たちの数がとんでもなかったです。
「きっと、私もその場にいたはず。あなたが撮った写真に写っていたかもしれないわ。でも、本当に信じられないわ」
――10歳の時のジャケリニに会っていたかもしれないですね。ただキッズ・クラスの間、私はマシャド師範のインタビューをしていてほとんど写真は撮影していなかったのですよ。
「そうだったの……。でも、凄いわ。ASLEに来たことがあったなんて、それだけも嬉しいわ。ありがとう」
※インタビュー終了後。ASLEを訪れた際、キッズ・クラス終了間際に壁に座っていた子供たちを撮影した写真をUFCのPRに通してアモリンに送ると。彼女から「この右から4人目が私。私の柔術を始めた場所、ルーツの写真を送ってくれてありがとう」とお礼のメッセージが届いた。ちなみに右から2人目の男子はグレゴリー・ホドリゲスのお兄さんだった。
――こちらこそ、です。いやぁ、心が豊かにになりました。ところで、そのソーシャル・プロジェクトからジャケリニは世界のトップ柔術家に成長していったのですね。
「18歳でアブダビワールドプロに出て、紫帯で優勝したわ。ムンジアルがリオからLA開催に変わり、米国に移り住んで。あなたが20年前に訪れた時、ASLEで練習をしていた10歳の女の子が今ここでUFCを戦っているわけよ(笑)」
――いや、そう思うと奇跡のように感じます。ところでUFCファイターになった今もジェケリニは道着を着て練習をしているのでしょうか。
「私は今もギの練習が大好きよ。もちろん、ノーギが中心になっているけど。それでもギの方が今でも上手く戦えると思う(笑)。UFCに集中しているけど、またギのトーナメントにも挑戦したいと思っているわ。道着が恋しくて」
――実は今やジェケリニほど、柔術でMMAを勝っているファイターはいないと感じていて。
「7歳の時から練習をしてきた柔術が、私の体には入っているから。攻撃だけでなく、防御面でもね。MMAで如何に私の柔術を効果的に使えるのか。そこに集中をしてトレーニングを続けている。パンチがあって、リズムもMMAと柔術は違う。完全に別ものと言っても良い。
私もMMAファイターとして、コンプリートファイターを目指しているわ。でも私のストロングポイントは柔術であって。柔術にはMMAに有効なテイクダウン、パス・ザ・ガード、テイク・ザ・バックがいくつも存在していて。だから私はオクタゴンのなかでも、柔術を駆使して勝利を手にすることができる」
――この表現が正しいか分からないですが、オールドスクール柔術の技術でジャケリニはMMAを戦っていますよね。そのオールドスクールな柔術が現代MMAで効果的だということが、最高にクールです。
「それが柔術の基本だから。基本がしっかりと身についていれば、MMAでも有効よ。もちろん柔術も変化して、モダン・テクニックが増えたわ。でも、その根底にあるのが基本。そこがないと今の柔術でも勝てないし、MMAでも当然勝てないわ。
それにオールドスクールっていう表現は間違っていないわ(笑)。私は2002年から今日の今日まで、ソレを続けてきたのだから」
――一時期、MMAはATTで練習をしていましたが、今はジャケリニのチームを創っていますね。
「ATTでは凄く良い経験ができたわ。あれだけの大きなチームで、多くの練習仲間に恵まれていた。同時にいつからか、その規模の大きさが自分の成長を遅くしてしまっていると感じるようになって。だから独立して、自分たちで私が強くなることに集中できる環境を創ったの。そんなところね」
――なるほどです。ところで今も柔術でMMAを勝っているという話をしておきながら、ジェケリニがLFAで挙げた4勝のうち1試合は右フックで10秒KO勝ちを収めていますね。
「イエース(笑)」
――LFAの時と比較して、UFCでは組み技に特化したファイトのように見えます。それは何か理由があるのですか。
「今も打撃の練習を続けているし、成長しているに違いない。と同時にUFCでは私の柔術を効果的に使うための打撃を頭に置いていて。レスリングも打撃もできるけど、私のストロングポイントじゃない。
だからこそ、私の打撃は柔術で勝つため。テイクダウンへのつなぎという意識が今は大きいわ。そうね、ボクシングの練習もハードにこなしているし。今週末の試合では、もっと使ってみようかしら」
――では魅津希選手に限らず、対戦相手がジェケリニのテイクダウンを防御したり、スクランブルでグラウンドの攻防を遮断したりするようなことがあれば打撃の腕前を披露することになる……ということですね。
「私はLFAの時と同じで、今もKOパンチを持っているわ。でも、それを見せる機会がなかっただけだから。私が打撃を使う時がくれば、如何にその打撃が進化しているのかも見てもらうことができるわね」
――そのような機会が訪れるのか。魅津希選手の印象を聞かせてもらえますか。
「彼女の試合はしっかりとチェックしてきた。ボクシングが上手くて、足の運び方も優れている選手ね。テイクダウンディフェンスも上手い。それにグラウンドになっても、柔術もしっかりと使うことができている。柔術は彼女のバックグラウンドに一つだといっても良いと思う。
もしテイクダウンが困難だったら、試合は打撃戦になる。そうなると私にとって、凄くチャレンジのし甲斐があるファイトになるはず。ミズキの強みはボクシングとステップワーク、ケージの使い方も上手い。絶対的にグラウンドでは私が有利だけど、これだけの要素が詰まっている試合だから凄く興味深いわ。
でも私が目指すのはフィニッシュだけ。そのために私の柔術に持ち込む。どの技で極めるか分からないけど、一本勝ちできるように戦うだけ」
――押忍。ところでUFC321では女子ストロー級王座決定戦が行われます。そしてマッケンジー・ダーンとヴィルナ・ジャンジローバという柔術の強豪同士のマッチアップです。もし良ければ勝利者予想をしてもらえないでしょうか。
「前の試合ではマッケンジーが勝ったけど……今回はどうかしら。2人とも本当にグラップリングが強い。ただMMAという点において、ヴィルナの方がマッケンジーより成長度合いが少し大きいかな。私にどちらが勝者になるのかって聞かれると、答えはマッケンジーよ。彼女とは同じ時代に柔術に情熱を注いできたから。でも少しだけヴィルナが有利……。マッケンジーは思い切り攻めるから、攻撃を受けることも多い。ヴィルナは冷静にコントロールして戦うことができる。凄く違う二人だから、それだけ興味深い試合ね。でも、本当に勝利者予想が困難なファイトであることは間違いないわ」
■視聴方法(予定)
10月25日(土・日本時間)
午後11時00分~UFC FIGHT PASS
午前3時0分~PPV(10月26日)
午後10時30分~U-NEXT
■UFC321対戦カード
<UFC世界ヘビー級選手権試合/5分5R>
[王者] トム・アスピナル(英国)
[挑戦者] シリル・ガンヌ(フランス)
<UFC世界女子ストロー級王座決定戦/5分5R>
ヴィルナ・ジャンジローバ(ブラジル)
マッケンジー・ダーン(米国)
<ライトヘビー級/5分3R>
イリー・プロハースカ(チェコ)
カリル・ラウントリー(米国)
<バンタム級/5分3R>
ウマル・ヌルマゴメドフ(ロシア)
マリオ・バウティスタ(米国)
<ヘビー級/5分3R>
アレキサンダー・ヴォルコフ(ロシア)
ジャイルトン・アルメイダ(ブラジル)
<ライトヘビー級/5分3R>
アレクサンドル・ラキッチ(オーストリア)
アザマット・ムルザカノフ(ロシア)
<ライト級/5分3R>
ナスラ・ハクパレス(ドイツ)
クイラン・サルキルド(豪州)
<ミドル級/5分3R>
イクラム・アリスケロフ(ロシア)
パク・ジュンヨン(韓国)
<ライト級/5分3R>
マテウス・レンベツキ(ポーランド)
ルドヴィット・クライン(スロバキア)
<ヘビー級/5分3R>
ヴァルテル・ウォウケル(ブラジル)
ルイ・サザーランド(英国)
<フェザー級/5分3R>
ホセ・デルガド(米国)
ナサニエル・ウッド(英国)
<ヘビー級/5分3R>
クリス・バーネット(米国)
ハムディ・アルデルワハブ(エジプト)
<フライ級/5分3R>
アザット・マクスン(カザフスタン)
ミッチ・ラポーゾ(米国)
<女子ストロー級/5分3R>
ジャケリニ・アモリン(ブラジル)
魅津希(日本)






















