【UFC321】アブダビで2年振りのオクタゴン、アモリン戦へ。魅津希「極められるもんなら極めてみろ」
【写真】現在は米国でなく東京のMe,Weで練習している魅津希。今回、村田夏南子がセコンドとしてアブダビに同行する(C)TAKESHI YAMAZAKI
25日(土・現地時間)、アラブ首長国連邦はアブダビのエティハド・アリーナで開催されるUFC321で、魅津希がブラジルのジャケリネ・アモリンと対戦する。
Text by Shojiro Kameike
2023年9月、魅津希は3年振りとなる試合でハナ・ゴールディに判定勝ちし、UFC2勝目をゲットした。しかし続いて2年のブランクを経て、今回アモリンと対戦することとなった。米国に練習の拠点を移していた魅津希は、ゴールディ戦後は日本のMe,Weを中心に練習してきた。そして迎えた復帰戦——全ての疑問に、彼女はいつもどおりの笑顔で答えてくれた。
「力を使わず技術だけで逃げられる練習をしろ」今もその言葉は頭の中に置いているんです
――約2年振りの復帰戦を控える魅津希選手です。
「お久しぶりです!」
――魅津希選手がブランクをつくっている間、弟の井上直樹選手はRIZINのベルトを巻きました。以前は直樹選手が「魅津希の弟」と表現されることもありましたが、現在は魅津希選手が「井上直樹の姉」と呼ばれることも多くなったのではないですか。
「アハハハ、どうなんですかね。日本でRIZINの認知度は大きいし、私のファンといえばコアな方が多いと思うので。私は私、弟は弟。弟もいろんな選手とせめぎ合いながらチャンピオンになって、ベルトを防衛している。お互いに認め合っているし、いちファイターとして自分がやるべき仕事をするだけだとは思っています」
――なるほど。まずはそれだけの期間、試合をしていなかった理由から教えてもらえますか。
「何かとタイミングが合わなかったんですよね。体調がそんなに良くない、でも練習をやめるわけにはいかない、それで試合のオファーが来た時には怪我をしていたり――とか。それで今回、私としては良い状態で来ていた時にオファーがあって。ここで断ってしまうとリリースされてしまうかもしれない、という気持ちもありました」
――そんな2年もの間、UFCとの契約が継続されていたのですね。
「リリースされていないだけ奇跡ではありますよ(笑)。周りの方にサポートしていただいて、今ここに辿り着いています。ここで勝って、次に繋げたいですね」
――「ここで断ってしまうとリリースされてしまうかもしれない」という気持ちもあるなか、今回のオファーを受けたのはコンディションに関して見切り発車のような部分もあったのではないですか。
「自分としては本当にコンディションが良かったです。でもイージーな相手ではないし、私は2年振りの試合で崖っぷちの状態であることを考えると、本音としては避けたかったといいますか(苦笑)」
――アハハハ、正直ですね。
「でも以前に一度、アモリン戦のオファーが来た時に私の怪我で断っていて。それで今回も断ったら良くないと思って、試合を受けました」
――とはいえ、立場としては魅津希選手がアンダードッグとなるマッチメイクです。
「それは間違いないですね。相手は連勝中のファイターで、私が負けるだろうと思われる試合を……そんな修羅場をくぐっていくしかないです。ただ相手が組みベースで、私は打撃ベース。『どちらが勝つんだろう?』という攻防の中で、自分の良いところを出せば認めてくれるというか、面白いと言われる試合ができるマッチメイクではあると思います。そう言われることを狙って、相手を喰っていきたいですね」
――アモリン戦に向けて国内で調整しているそうですが、活動の拠点を日本に切り替えたのですか。
「切り替えたというよりは、ビザが切れたから日本にいるという感じですね。2年前の試合が終わって日本に戻ってきた時、その数カ月後にビザが切れるという状態でした。次の試合が決まらないとビザが下りないので、その期間は日本で練習しておこうと思って。そうしていたら試合も決まらず……。
米国も観光ビザなら行けるから試合が決まったタイミングで、米国で練習しようかとも思いました。でもそれでは期間も短いし、日本滞在が長くなってコッチに慣れ過ぎてしまって、向こうで調整するのも難しい。そう考えて、今回は日本で調整しています」
――再びビザが下りるのであれば、米国に戻りたい?
「やっぱり米国で練習はしたいです。もちろん東京にもいろんなジムがあって、いろんな技術を学びに行けます。でも米国は米国で――向こうの選手と練習して初めて、肌で感じることができるものがあるんですよ。今の自分の技術に対して『これはできるけど、これはダメ』という確認ができる。試合で通用するものと通用しないものを見極めることができる。だからまた米国で練習したいとは思っています」
――ではこの2年、日本で練習している間に伸びた点はありますか。
「今パッと具体的に思いつくものはないけど、ここ最近はMe,Weに大島沙緒里さんや古林礼名が入ってきたりとか、いろんな方と練習する機会が増えました。もともと村田夏南子ちゃん、杉山しずかさん、東よう子さんたちと練習しているなかで、人それぞれ持っている技術も違うじゃないですか。さらに練習する人が増えると、常に新しい発見があり、自分の中でトライすることも増えてきます。トライしてダメなら自分で工夫して、極められそうになった時こう対処しなきゃいけない、という感じで。
たとえば大島さんなら寝技のレパートリーが豊富です。私は階級も違うから、力を使うと逃げることもできる。でも豊橋にいた頃からずっと、当時の先生に『力を使わず技術だけで逃げられる練習をしろ』と言われていて。今もその言葉は頭の中に置いているんです。だから大島さんが何を仕掛けてきても、しっかり技術で逃げられるようにする。うまく技術を使うことだけを頭に置いて練習してきました」
一度、ジェシカ・アイを呼んでもらってガチスパーをやったんですよ
――魅津希選手の試合について、以前から気になっていた点が一つありました。初めて試合を見たのは2010年、プロデビューの年で……。
「14、15歳ぐらいでしたね。今はもう31歳なので(笑)」
――その年齢にも関わらず、左ジャブで相手の顔面を破壊する姿が印象に残っています。
「いや、破壊って(苦笑)」
――自分がやったことを覚えていないタイプですか。対戦相手の顔は真っ赤な血で染まっていましたよ。
「アハハハ!」
――ただ、国内ではジャブを突き、圧をかけたら相手が下がっていました。しかしインヴィクタの試合では相手が下がらず、魅津希選手の手数も減っていく。結果、インヴィクタとの契約中に出場したシュートボクシングでは、そうした試合内容を研究したであろう高橋藍選手の前にリズムを掴めず、四度目の正直を許してしまいました。
「うん、そうでしたね」
――それが2年前の試合では、魅津希選手が左ジャブを当て、リズムにも乗って判定勝ちを収めました。それだけ左ジャブが当たると、試合のリズムも変わるのではないですか。
「そうですね。あの試合は当たっていました。やっぱりジャブが当たった瞬間に、相手の目がパチパチッとなってくれると安心します」
――米国での練習で、それだけ海外ファイターの圧には慣れましたか。ガチスパーは少ないと聞きますが……。
「いえ。ニューヨークでも、大きなグローブでも結構ガチスパーはやっていました。私はガチスパーをやらないと不安になる面もあって。一度、ジェシカ・アイを呼んでもらってガチスパーをやったんですよ」
――えっ!? ジェシカ・アイはフライ級どころかバンタム級でも戦っていた選手ですよね。
「はい(笑)。体が大きいうえ、ガンガン来てくれる選手でした。でも私のほうがスピードは速かったので、あまり怖くはなかったし、結構当てることができたんです。
その時、私が自分の確認用にビデオを撮ってもらっていたら、ジェシカ・アイから『それはどこかにアップするの?』と訊かれて……。たぶん自分が当てられているシーンを見られるのが嫌だったんでしょうけど、私としても最初からネット上にアップするつもりもなかったので」
――ジェシカ・アイとガチスパーできる状況も凄いですが、海外で戦うのであれば、それほど大きな相手から圧を掛けられるのも普通のことなのでしょう。米国で試合をし始めた時、相手の圧の強さの違いは感じましたか。
「そうですね。私が様子を見てしまうタイプというのもありますけど、それでもガンガン来るのは外国人特有ですかね? チャンピオンシップの5R以外で、最初に様子を見るという選手はいないと思います。打撃だけでなくガンガン組んできたりとか」
私は殴って殴って殴りに行きます
――この2年間で、UFCの試合内容もさらに進化してきました。そのなかでそのなかで自身の立ち位置、実力はどのように感じていますか。
「それを考えたことがなくて――アモリンに勝てばランキングに入ることができる、だから今はアモリンを喰うことしか考えていません。相手はどんどん極めに来るタイプで、私が様子を見すぎてしまうと、受けに回ってしまいます。自分で展開を創っていかなければ、相手も戦いやすくなってしまう。だから今回は、『極められるもんなら極めてみろ』というスタンスでいます」
――おぉっ!
「それぐらいのスタンスで殴りに行かないと、絶対に勝てないという相手だから。今回の気持ちは、様子を見ちゃダメ。自分から展開をつくっていく。そのスタンスを貫かないと、この先も勝っていけないですからね。ここでその壁を乗り越えたいんです」
――アモリンもMMAファイターとして変化してきましたよね。UFCデビュー戦の頃は、まだ柔術家というイメージが強かったのに対し、徐々に自分から打撃を出しながら、相手が出て来ると自分に得意な組み方で引き込んだりと。その点では魅津希選手も自分から展開をつくることで、相手が乗ってきたら得意のカウンターも再び……。
「フフフ、今回も出ますよ。相手は絶対に組んで来るし、なんだったら私から極めに行くぐらいの気持ちでいたほうが相手も嫌でしょうしね」
――一方、ここで負ければリリースされてしまうという不安や恐れはないですか。
「今は関係ないです。むしろ世間からすれば2年振りの試合で、私がどんなパフォーマンスを見せるのかと思っている人も多いと思うんです。それなのに1Rで極められるような試合はしたくない。ただ、アモリンが勝ってきた相手が、どれだけ寝技ができるのかも分からず……」
――というと?
「アモリンが強いことは分かっています。柔術が強いことも理解しています。でもテイクダウンについては、相手に対して『ここはもっと、こうできなかったのかな?』と考える部分もありました。そういうところをかいくぐって行けば、自分が勝てる要素もある。
たとえ私がアンダードッグではあったとしても『やってみないと分からないじゃん』という気持ちが強いです。相手の得意なポジションや圧の掛け方には注意しながら、私は殴って殴って殴りに行きます」
■視聴方法(予定)
10月25日(土・日本時間)
午後11時00分~ UFC Fight Pass