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【TORAO37】50歳&プロ30年目の初戦、宇野薫「できなくなるに日は絶対にやってきます。だからこそ……」

【写真】絶対的に年輪を重ねた。同時に人生を謳歌していないとこの笑顔はない(C) MANABU TAKASHIMA

7日(日)、山口県山口市のKDDI維新ホールで開催されるTORAO37のメイン=68キロ契約3回戦で宇野薫が毛利昭彦と対戦する。
Text by Manabu Takashima

今年の5月に50歳を迎えた宇野。プロデビューは21歳、1996年10月だった。2023年11月のオーディン戦の敗北から2年振りの修斗公式戦は、キャリア30年目の初戦となる。

対する毛利も50歳のファイターだ。とはいえ宇野はUFC世界王座に挑むなど世界を知り、60試合も戦ってきた。同時に3人の子供たちの父でもある。知命の年を迎え、それでもケージ――殴りが有る戦い――に戻ることを決めた宇野に真意を尋ねた。

そこには、あの日と変わらない一人のとてもつもない格闘技好きの男の子がいた。


3連敗をして、どうしようかと考えました。正直『終わりかな』と思っていたところはあります

年輪を刻んでも、その表情はあの頃と変わらない

――一番最近、試合をしたのをいつになるのでしょうか。

「10月5日のJBJJF四国選手権ですね(アダルト茶帯ライト級で準優勝)」

――では闘男裸37における毛利昭彦選手との試合が50歳になってプロ初戦、そしてプロキャリア30年目の第1試合と。

「ハイ。そうなります(笑)。1996年の全日本アマ修斗で(桜井)マッハ(速人)に決勝で負けた時に、初めて高島さんにインタビューをしてもらって。あれから、もう30年です(笑)」

――長かったようで、あっという間でしたね(笑)。全日本アマ修斗のあと、もう1試合を大宮ジムで戦って。10月にマッハ選手を相手にプロデビュー。

「そうですね、アマ修斗で大内(敬)さんと戦ってプロデビューが決まりました」

――もちろん、そんなことはなかったと思いますが、50歳になってもMMAを続けていることが想像できましたか。

「ハハハハ。まるで、想像していなかったです」

――50歳を迎えた今、練習・指導・アパレルの仕事の割合は10で割るとどのようになっているのでしょうか。

「今も練習がメインなので6ぐらい。指導が2、洋服が2ぐらいですかね」

――30代の頃は?

「練習が8、洋服が2ですね」

――つまりアパレルの仕事は変わらず、指導が入ったと。どういう50代ですか(笑)。

「アハハハハハ。いや、世間的には仕事ができるように思われているかもしれないですけど、色々な人に助けてもらっています」

――では生活の60パーセントを占めている格闘技。その練習先は、どこになりますか。

「まずはロータス世田谷さん、グランドスラムさん、ソニック・スクワッドさん。柔術の練習を元慧舟會の小幡(太郎)さんのT-GRIPで。それと植松(直哉)さんのネクサセンスですかね」

――ネクサセンスに行くことが今もあるのですね。

「回数は少ないですけど、植松さんの所に行くとやっぱり気持ちがピリッと引き締まるというか。それとトライフォース五反田、ボクシングで大橋ジムですかね。大橋ジムはずっと変わらず通っていますね」

――宇野選手、生活の60パーセントではないですね。それは(笑)。

「アハハハハ。今は試合前ですしね。これで61戦目になります。ライセンスを更新するのに戦績を見ていて、気づきました(笑)」

――グラップリングでも闘裸男で戦うには、修斗ライセンスが必用なのですか。

「えっ、何を言っているのですか。次は修斗ですよ」

――えぇぇぇ。本当にすみません。今の今まで、グラップリングで毛利選手と戦うのだと思い込んでいました。

「ひどい。取材拒否しますよ(笑)」

――いやぁ、本当に面目ないです。いや、まさか現役を続けていても、もう殴り有りの試合を戦うことはないのだとばかり思っていました。

「闘裸男さんでは、去年2度グラップリングも試合をさせてもらいましたが、今回は修斗です」

――スミマセン。でも修斗と知り、鳥肌が立ってきましたし、緊張感が走りました。でも、なぜ再びMMAを戦おうと?

「オーディン選手に負けて、どうしようかというのは考えました。デビューの時から『3連敗したら引退』と言ってきたので」

――ハイ、それもあって……。

「その3連敗をして、どうしようかと考えました。正直『終わりかな』と思っていたところはあります。ただ日が経つにつれて悔しさが増してきて。大けがもしたけど、未練というのか……想いがMMAに残っていて」

――またMMAを戦うと伝えた時に奥さまの反応というのは?

「心の中では反対をしていると思います。好きなことをここまでやり続けてきたということは、家族の犠牲の上に成り立ってきた部分もあるので」

――ハイティーンの息子と娘を持つ父親ですし、3人のお子さんたちが好きなことをしたいというと、何も止めることはできないですね(笑)。

「そうですね(笑)。子供たちも人に迷惑をかけなければ、やりたいことをやれば良いと思っています。ただウチに関しては僕がやりすぎているのか、まだ好きなことが見つかっていないみたいで。僕が格闘技中心の生活で……結婚しても、子供ができても格闘技9という生活だったので」

――つまり格闘技は9だったと(笑)。年を重ねて平穏を求めたくならないでしょうか。

「そうなると戦えなくなると思います。だから、1日何もしない日を創るということはできなくて」

――宇野選手がMMAに向き合っていた姿勢を子供さん達も、しっかりと見てきたはずです。MMAで戦うのも、家族を守るためにですし。

「そうだと良いですね。男二人には口うるさくて、娘には優しい父親になっています(笑)。ただ、まだ本当に好きなことをやるという風にはなっていないので、もっともっとやってほしいですね」

今回の試合は、自分がまだMMAをできるのかという確認にもなると思います

――にしても50歳にしてMMAですか……凄いですね。

「凄くないですよ。毛利選手も50歳ですし、9月には郷野(聡寛)さんも50歳で、50歳の近藤(有己)さんと試合をしたじゃないですか」

――今、名前が挙がった選手ということでなく、50歳を過ぎて戦う選手で世界のトップファイターの経験があり、家庭を持って子育てをしている。この両方の条件を満たしている選手は、あまり記憶になくて。

「普段は子供の進学はお金が掛かるとか話しているのに、試合に出ていると。アハハハハ。本当にいつまでも、家族に迷惑をかけていると思います(笑)」

――柔術のトーナメントに参加料を払って出場するのと、プロの舞台で戦うことで心境の違いはありますか。

「う~ん、そこは余り変わらないですね。ただMMAは打撃がある。その緊張感はまた柔術とは違います。でも、オーディン選手に負けてからグラップリングや柔術にトライしてきた期間は凄く良い経験になっています。こないだの四国選手権も、グレイシーバッハJAPANの滝川直央さんの息子さんの滝川暁央選手と決勝で戦って。凄く強くて、勉強になりましたし」

――柔術のトーナメントでは宇野薫と手を合わせたい。食ってやろう。極めたいという気持ちでエントリーする人もいるかと思います。

「なんか僕がエントリーすると、その階級の参加者は増えるということはあるみたいです(笑)。

――やっぱり(笑)。同時にそういう風な選手たちと柔術で凌ぎ合う。それだけで良いじゃないかという考えもあるかと。

「アハハハハ。さんざっぱら酷い経験をしてきたんですけどね。ケガもしてきた。今回の試合は、自分がまだMMAをできるのかという確認にもなると思います」

――では2年ぶりのMMAに向けて、打撃を含めたMMAの練習はどこでやってきたのでしょうか。

「グランドスラムさんとソニックさん、ロータス世田谷さんですね。柔術をメインにしてきたのとは全く違うスケジュールで」

――ソニック・スクワッドでは井上直樹選手と拳を交わすこともあるのですか。

「ボコボコにされています。片手でやられています(笑)。他にも強くて若い選手もいますし。そうですね、以前は感じなかったけど、周囲が『若いなぁ』と思うようになりました」

――2年間MMAの試合をしていなかった影響を感じることはありますか。

「どうでしょうね……。本来は感覚的な部分では、難しくなっているはずで。ズレを感じたりしたときに、自分がどう合わせていくのか。確かに2年も離れていた変化は感じています」

――それはどういう点においてでしょうか。

「それは試合があるので(笑)。正直、オーディン戦はケガ明けの復帰戦で、試合をしたいという焦る気持ちがあって決めました。今回、これだけ試合間隔が空いたことで体に落とし込めた技術もありますし、相手云々でなく自分がどれだけできるのか。

自分にフォーカスを置いてやってきました。基本、柔術の時もそうですが……今回の試合は特にそうですね。でもMMAは一発でどうなるか分からないので、やはり怖さがあります」

結果がどうなるか分からないけど、良い試合ができれば。それだけですね

――怖さとワクワク、どちらの方がファイトウィークを迎えて大きいですか。

「これはもう、50/50じゃないでしょうか。怖さもあるし、楽しみでもある。3週間前ならワクワクの方が大きかったかと思いますが、僕の場合は1週間を切ると緊張感が増してきます。今の若い子なんて、笑って入場している子も増えて。もう、こんな風に思わないのかもしれないですね」

――キャリア30年目を迎えても、緊張する。そのようななか、試合で試合を見せたいと思っていますか。

「それは以前と同じで。動きのある試合ですね。それが僕のスタイルですし、その動きのなかで巧いと思ってもらえるようなモノを出せたら良いなと思います」

――勝利への拘りは?

「それは、勝たないと。連敗中ですから。勝ちたいという気持ちがなくて、戦うことはないですよね。真剣勝負なので。勝たないといけないという言い方はアレかもしれないですけど……勝ちたいです。この2年間積んできたことを試合で出したいです」

――今回は開催地が山口県ですが、MMAを東京で戦うことも考えていますか。

「MMAは柔術の時と違って、かなりエネルギーを使うことになるので。今回の試合にもよってくるかと思います。続けたいと思うのか、どうか。試合次第ですね。いつかMMAができなくなるに日は絶対にやってきます。だからこそ、できるところまでやりたい。気持ちもそうですし、体が続く限りやりたい……ですね。もっと練習したいです」

――40代前半の頃より、なぜか今の方が「思うままに現役生活を続けて欲しい」と思ってしまいます。究極の自分勝手、自己満足かもしれないけど、宇野薫を全うしてください。

「試合に出るのは、自分のためです。同時にMMAの試合前になるとUNO DOJOの方も、アパレルの方でも気を使ってくれる人が増えて。練習7、その他3ぐらいの生活になりました。

そうやって応援してくれる人達、家族を含めて皆に感謝をしています。本当に感謝の気持ちしかなくて。そして練習させてくれる全ての場所で――若い選手も、皆が良くしてくれます。それは素直に嬉しいです。

そうやって練習をさせてくれた人達、陰ながら支え応援してくれた人達、今でも応援してくれているファンの人達に練習の成果を見て欲しい。結果がどうなるか分からないけど、良い試合ができれば。それだけですね」


■視聴方法(予定)
12月7日(日)
午後2時30~ ツイキャスPPV

■TORAO37対戦カード

<68.0キロ契約/5分3R>
宇野薫(日本)
毛利昭彦(日本)

<フェザー級/5分3R>
宇藤彰貴(日本)
磯城嶋一真(日本)

<バンタム級/5分2R>
奇天烈(日本)
松岡琉之介(日本)

<フライ級/5分2R>
岡本一志(日本)
若宮龍斗(日本)

<フェザー級/5分2R>
大西佑磨(日本)
諸石一砂(日本)

<バンタム級/5分2R>
小見山瞬(日本)
彬大(日本)

<ウェルター級/5分2R>
SOKO(日本)
平尾大和(日本)

<バンタム級/5分2R>
藤谷敦史(日本)
八木祐輔(日本)

<バンタム級/5分2R>
波平コング(日本)
森本健介(日本)

<ライト級/5分2R>
大地(日本)
福田侑飛(日本)

<グラップリング フライ級/4分1R>
小嶋望(日本)
摩嶋晶

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