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【UFC323】展望 バンタム級選手権試合 年間4度目の防衛へ=デヴァリシビリ×大敗からのリベンジ=ヤン

【写真】神経とスタミナの削り合いになることは、決定的(?!)(C)MMAPLANET

6日(土・現地時間)、ネヴァダ州ラスベガスにあるTモバイルアリーナにて、UFC 323「Dvalishvili vs Yan 2」 が行われる。王者アレッシャンドリ・パントージャにジョシュア・ヴァンが挑戦するフライ級タイトル戦をコメインとする本大会のメインイベントは、王者マラブ・デヴァリシビリに元王者ピョートル・ヤンが挑戦するバンタム級タイトルマッチだ。
Text by Isamu Horiuchi

王者デヴァリシビリは今年すでに3度の防衛に成功しており、その内容も圧巻だ。1月は18戦無敗のウマル・ヌルマゴメドフと初防衛戦を敢行。序盤はテイクダウンを切られバックを取られる場面もあったが、意に介さず凄まじいペースでテイクダウンを仕掛け続け、最強の挑戦者を疲弊させて形勢逆転。後半は組みで圧倒し最後は強烈な右まで当てて快勝した。

続く6月には、雪辱を期した前王者ショーン・オマリーと再戦。その一撃必殺の拳を全く恐れずに前に出て何度も右を当てると、3Rにテイクダウンから抑え込んだ。そしてスクランブルを試みたオマリーを上からがぶり、首を絞め上げてタップを奪い返り討ちにした。

さらに10月には、コリー・サンドハーゲンと3度目の防衛戦へ。徹底的なテイクダウン対策を講じてきた挑戦者を抑え込むことに苦労したものの、2Rに距離を詰めて強烈なパンチのコンビネーションでダウンを奪取、追撃して大ダメージを与えた。完全に試合の流れを引きつけた王者は、その後挑戦者が何度立ち上がろうとテイクダウンに入り続けて完勝した。

人智を超えたスタミナの持ち主のみに可能なノンストップ・テイクダウン攻勢に加え、危険な距離に平然と入り込む勝負度胸と極め力、そしてトップレベルのストライカーをも打ち倒すパンチ力と、試合のたびに進化を見せるデヴァリシビリ。考えうる限りの対策を練って挑んでくる挑戦者たちを迎え撃っては、ことごとくその上を征く強さを見せつける王者は今回、僅か2ヶ月の間隔でオクタゴンに戻る。


2年半前ぶりとなる今回の再戦。下馬評は当然、前回全ラウンドを制し完勝した現王者が有利

しかもこれはUFCからの要請を受けてではなく、前戦の試合前から本人が希望していたことだ。キツくないのか、との質問にも「僕はファイティングが大好きだ。減量を除けば、試合自体には何の苦もないよ。あと15年、50歳まで戦いたいんだ」と語るデヴァリシビリ。世界の頂点を極めてなお尋常ならざる戦いへの意志を持ち続ける、あらゆる面で驚愕の王者だ。

ちなみに同一年度で4度のタイトルマッチはUFC新記録となる。もし今回も文句のない勝利を収めたなら、2025年のデヴァリシビリこそ「UFC史上、最も圧倒的な強さを年間通して示した王者」と言えるだろう。(※ライトヘビー級王者のアレックス・ポアタン・ペレイラも23年11月から24年10月までの11ヶ月間に4度世界戦を戦っており、しかもその全てでKOかTKO勝利を収めているが、年度をまたいでのことだ)

対する2歳年下のヤンは──いくら勝ち続けてもタイトル挑戦の機会が得られない不遇の時期が続いたデヴァリシビリとは対照的に──UFC初登場から僅か2年後の2020年7月、ジョゼ・アルドを5RTKOに下してバンタム級王座に輝いた。一流レスラーにも容易にテイクダウンを許さない組みの強さと、圧倒的な威力と精度を持ち合わせた拳による長期政権の樹立が予想された戴冠劇だった。しかし、以後ヤンを待ち受けていたのはまさかの苦闘の日々だった。

翌年3月にアルジャメイン・ステーリングとの初防衛戦に臨んだヤン。明らかに押し気味に試合を進めるも、4Rに力なくヒザを付いた挑戦者の顔にニーを入れてしまい痛恨の反則負け。全く不要な攻撃でタイトルを失ってしまった。続く2021年10月の暫定王座決定戦ではコリー・サンドハーゲンに判定3-0で快勝したが、2022年4月のステーリングとの統一戦では、2、3Rにバックコントロールを許してしまい、終盤は亀の姿勢を巧みに使いこなすステーニングにまんまと逃げ切られ、判定1-2で敗れ、正規王座返り咲きはならなかった。

復活を期するヤンは同年10月、当時バンタム級でKOを量産しスターダムを駆け上がっていたショーン・オマリーと対戦。お互いが強烈な拳で相手の顔面を撃ち抜きグラつかせ合う大激戦のなか、複数回テイクダウンを奪ったものの、判定は1-2でオマリーに。気の毒な形で2試合連続のスプリット判定負けとなってしまった。さらに2023年5月にはデヴァリシビリと初対戦。そのノンストップ・テイクダウン攻勢の前に攻撃の糸口さえ掴めぬまま完封され、判定0-3(全員45-50)で完敗を喫した。以後デヴァリシビリの勢いは止まらず、絶対王者として君臨して現在に至る。

一方、王座から追われた上に3連敗という崖っぷちに追い込まれたヤンは、昨年3月に下位ランカーのソン・ヤードンと対戦。ここもテイクダウンを取られて初回を失ってしまう。が、2Rは強烈な右アッパーを中心に近距離で打ち勝ち、さらに同じアッパーを見せた直後の見事なレベルチェンジからのテイクダウンを決めて取り返した。そして勝負の3R、ヤンは消耗したヤードンのテイクダウンを差し返して防ぐと、逆にテイクダウンを奪い、ハーフで胸を合わせて抑え込んで勝負あり。執念の逆転判定勝ちで悪夢の4連敗を回避したヤンは、慣れない英語で「I’m back!」と叫んだ。

さらに昨年10月には元フライ級王者のデイヴィソン・フィゲイレドと、今年の7月には6連勝中でランキング12位のマーカス・マギーとの戦いに挑んだヤン。両試合ともに近距離からの殴り合いと組みの強さを存分に発揮して判定3-0で完勝した。こうして3連勝を挙げた元王者は、デヴァリシビリへの雪辱とともに、4年9ヶ月ぶりの正規王座返り咲きのチャンスを手にしたのだった。

2年半前ぶりとなる今回の再戦。下馬評は当然、前回全ラウンドを制し完勝した現王者が有利と出ている。その後もあらゆる強豪たちを薙ぎ倒し続け、未だ誰もその攻略法を見出せずにいるデヴァリシビリの唯一無二の戦い方に、ヤンはいかなる形で立ち向かうつもりなのか?

「自分の戦い方を押し付けるよ。彼を倒すのに必要な全てを持っていると信じている」(ピョートル・ヤン)

そのヒントが伺えるのは、今回の試合に向けてUFC公式が作成したcountdown映像において、ヤンとコーチのカイラット・ヌルマガンベトフ(いわゆるヌルマゴメドフ一族とは別の姓。米国ビザを取れずヤンの試合に帯同できないこともあり世界的な知名度はないが、ヤンが大いに信頼するストライキングコーチだ)が、前回のデヴァリシビリ戦を初めて一緒に見直して検討する場面だ。

そこでヌルマガンベトフは「マラブと戦う際には、逆にプレッシャーをかけてアグレッシブに戦わなければならない。彼を相手に待ってしまい、戦況を感知する余裕を与えてはダメなんだ。その余裕を与えるとマラブはたちどころに勢いづいてしまう。それが彼の強さだ」と語っている。

いかにも的を得た指摘だ。「猪突猛進型」というイメージもあるデヴァリシビリだが、ヌルマガンベトフが言うように優れた戦況感知能力の持ち主だ。手数は圧倒的だが、決して闇雲に前に出るのではない。常に安全な距離を保ち、相手の動きをよく観察しつつ機を見るや攻撃を仕掛けてゆく。その際に誰よりも多彩かつ淀みない形で打撃の中にテイクダウンが織り交ぜられており、相手に何度振り解かれようが無尽蔵のスタミナをもって際限なく攻撃を繰り返す。やがて相手はもっぱら「受け」に回らされ、消耗し、呑み込まれる。

故に積極的に距離を詰め、受けるより先に攻撃を仕掛け続けてデヴァリシビリにその優れた感知能力を発揮する余裕を与えない、というヌルマガンベトフの戦法は理に叶っている。そして強豪グラップラーのテイクダウンに対処できる組み力と、近距離での打ち合いに無類の強さを持つヤンは、今年王者の軍門に下った3人以上に、この戦法を遂行するに相応しいスキルを持ち合わせていそうだ。

ヤン本人も「私はマラブの攻撃を防ぎ、自分の戦い方を押し付けるよ。彼を倒すのに必要な全てを持っていると信じている」と語る。

――前回デヴァリシビリの圧力の前に封じ込まれたヤンだが、前戦について「右手をパンチにもテイクダウン防御にも使えず、50パーセントの状態で戦っていた」と話している。どこまで真に受けていいかの判断は難しいが、あの試合でヤンが得意のアッパー等強烈な右の攻撃をほどんど出せなかったことは事実だ)――

そこでこの試合の大きなポイントは、これまでスロースターターと評価されがちだったヤンが、序盤から王者の圧力に屈せずに前に出て打撃を繰り出す戦いを貫けるかどうか、となりそうだ。試合が中盤以降に持ち込まれれば、誰にも及ばぬスタミナと圧力の持ち主であるデヴァリシビリ有利に試合が展開する可能性が高い。「前回の試合から修正して新しいアプローチで臨む」というヤン自身「早い回でのKOを狙いたい。そうすれば議論の余地など残らないだろう」と話している。

「本当は彼に対して怒りを燃やさなくてはならないのに、それが難しくなってしまったよ(笑)」(マラブ・デヴァリシビリ)

王者デヴァリシビリもまた、2年半前とは違った試合となることを想定している。入場時から凄まじいテンションで叫び、試合は5R止まらず攻め続け、一試合中のテイクダウンアテンプト(試み)49回というUFC新記録を叩き出して完勝した前回のヤン戦を振り返って、王者は「あの時の僕は怒り狂っていたんだ。当時のピョートルは傲慢で、アルジョ(チームメイトにして当時王者のステーリング)や僕を侮辱した。そして彼はロシア人だ。小国ジョージア生まれとして、僕はロシアの政治が嫌いだ。別にロシアの一般の人々に反感はないけれど、奴に絶対に負けるものかという強い敵意があった」と話す。

それが今回は「あの試合後ピョートルは謙虚になったし、応援していたんだ。彼が勝てば僕の価値も上がるからね(笑)。今の彼は好きだよ。僕に挑戦表明した時も敬意を表してくれた。本当は彼に対して怒りを燃やさなくてはならないのに、それが難しくなってしまったよ(笑)」、「前回に比べて、今回は断然リラックスしているよ。当時は勝つためにあのように戦うしかなかった。でも今はもっとスキルを見せたいし、打撃のテクニックの向上により力を入れている。僕がピョートルをスタンドの打撃かグラウンド&パウンドで倒したりしても、決して驚かないでくれよ」とコメントしている。

今まで以上に戦いを愉しみ、テイクダウンで確実に勝つのではなく、リスクを犯して相手の距離に入り拳を振るうことで、それまで以上に常識外れの強さを見せつけてきた2025年のデヴァリシビリ。UFC史上に残る圧倒的絶対王政を敷いた本年の集大成となるこの試合では、さらに進化したMMAを魅せる気に満ちている。そして対戦相手のヤンも、今までになく序盤から前に出て勝負に出る気構えを覗かせている。

政治的な背景が後退し、戦いの純度が高まった中で行われる両者の再戦。今年度の最後のUFCタイトルマッチ──また来年から米国では全てのUFCナンバーシリーズ大会がパラマウント+での動画配信に移行することので、この一戦は米国においてPPV形式で放映されるUFC最後の試合でもある──に相応しく、最高峰の打撃と組みが切り結び合う極上のMMAを堪能できそうだ。

■視聴方法(予定)
12月7日(日・日本時間)
午前8時00分~UFC Fight Pass
午前11時00分~PPV
午前7時30分~U-NEXT

■UFC323対戦カード

<UFC世界バンタム級選手権試合/5分5R>
[王者] マラブ・デヴァリシビリ(ジョージア)
[挑戦者] ピョートル・ヤン(ロシア)

<UFC世界フライ級選手権試合/5分5R>
[王者] アレッシャンドリ・パントージャ(ブラジル)
[挑戦者] ジョシュア・ヴァン(米国)

<フライ級/5分3R>
ブランドン・モレノ(メキシコ)
平良達郎(日本)

<バンタム級/5分3R>
ヘンリー・セフード(米国)
パイトン・タルボット(米国)

<ライトヘビー級/5分3R>
ヤン・ブラボヴィッチ(ポーランド)
ボグダン・グスコフ(ウズベキスタン)

<ライト級/5分3R>
グランド・ドーソン(米国)
マニュエル・トーレス(メキシコ)

<ライト級/5分3R>
テレンス・マッキニー(米国)
クリス・ダンカン(英国)

<女子フライ級/5分3R>
メイシー・バーバー(米国)
カリーニ・シウバ(米国)

<ライト級/5分3R>
フェレス・ジアム(フランス)
ナジム・サディコフ(アゼルバイジャン)

<ミドル級/5分3R>
マーヴィン・ヴェットーリ(イタリア)
ブルーノ・フェレイラ(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
エジソン・バルボーザ(ブラジル)
ジェイリン・ターナー(米国)

<ライトヘビー級/5分3R>
イボ・アスラン(トルコ)
イヴォ・バラニエフスキー(ポーランド)

<ミドル級/5分3R>
マンスール・アブドゥルマリク(米国)
アントニオ・トロッコリ(ブラジル)

<フェザー級/5分3R>
ムハンマジョン・ナミモフ(タジキスタン)
マリオン・サントス(ブラジル)

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