この星の格闘技を追いかける

【Road FC75】無敗のキルギス戦士ドゥイシェフと王座決定戦、原口伸「自分は他の選手と違う」

【写真】笑顔で理路整然と語る中に、ファイターとしての自信と格を感じさせる原口だ(C)SHOJIRO KAMEIKE

7日(日・現地時間)に、韓国はソウルのチャンチュン体育館で開催されるRoad FC75で、原口伸がキルギスのエルデュカルディ・ドゥイシェフとフェザー級王座決定戦を戦う。
Text by Shojiro Kameike

ライト級とフェザー級で計2度Road to UFCに挑むも敗れた原口は、今年に入りRoad FCに参戦。2連勝を収め、3戦目でベルトを賭けた戦いに臨むこととなった。対戦相手のドゥイシェフは12戦無敗、しかも前回のキム・ヒョンウ戦以外は全てフィニッシュしている強豪だ。しかも2024年8月にはバンタム級トーナメント1回戦で原口の兄、央を下している。現在、日本国内のプロモーションではキルギスを始め中央アジア勢が猛威を振るっているが、原口は「自分は他の選手と違う」と言い切った。


自分のことをストライカーだと思い込んで打撃をやり込んでいます

――最近、テイクダウン最強説が流れている原口選手です。木村柊也選手がケラモフ戦後に「スピードもパワーもケラモフより伸君のほうが上ですよ。マジで凄いです」と語り、その言葉に対して水野新太選手が「メチャクチャ分かる! と思ったんですよ」と同意していました。

「その記事は読みました。僕としては、いつもと同じプレイスタイルをしているだけで……。テイクダウンに自信はありますけど、そこまで言われるほどなんですかね(苦笑)」

――練習仲間の発言ですから(笑)。いつもと同じプレイスタイルということですが、それでもRTUに出ていた時と比べて、今年に入ってからテイクダウンに入る時のリズムや入り方は変化していないですか。

「変わりました。どちらかというとRTUの時は勢い任せで、『俺ならいつ入っても倒せるんや』という感覚でした。そのために少し入り方が雑になっていて。今はタイミングでテイクダウンを取りに行くほうに切り替えてきましたね」

――水野選手も「原口さんって崩しとか、組んでくる前の打撃が巧いんですよ」と言っていました。つまり打撃とテイクダウンのバランスが良く、いつ取りに来るかが分からない。

「そうですね。最近はより打撃で崩してから入ることができるようになってきたと思います」

――その場合ジャブやワンツー、ローなどからテイクダウンに行く選手は多いです。ただ原口選手は左ハイからシングルレッグで入るという、珍しい形を見せていました。普段どのようなプロセスで、そのコンビネーションを構築していくのでしょうか。

「僕はひとつ試合が終わって次の試合が決まるまでの期間は、自分のことをストライカーだと思い込んで打撃をやり込んでいます。チームメイトに野村駿太さんをはじめ打撃のスペシャリストがいるので、そういう選手に少しでも食らいつけるように。その時はしっかりと当てて倒せる打撃を意識して練習するんです。ストライカーになりきって。

そして試合が決まり、『本当に自分が強い部分はどこだ』と見つめ直した時——それはレスリングですよね。じゃあテイクダウンに入るための崩しとして、やり込んできた打撃をどう使えるか。そこでフェーズを変えているような感じです」

――チームメイトのストライカーが伝統派空手や日本拳法出身であることも大きいように思います。同じストライカーでも接近戦ではなく、間合いを取って鋭い踏み込みから打ってくるタイプで。

「それはあります。野村さん、南友之輔、木村柊也は皆、距離で外すことが巧すぎて。たとえばキックボクシングスタイルのストライカーだと、どんな状態でも足を触ることができる感覚がありました。でもBRAVE GYMのストライカーは距離で外してくることが多く、なかなか足を触らせてくれない。だから、より打撃を散らして崩すことを意識するようになったんだと思います」

KTTで教わったマインドは今も変わらず、自分の中で続いています

――昨年のRTUを終え、今年に入ってROAD FCに出場するまでの間にすぐスタイルチェンジはできたのですか。

「自分の中でもいろいろ試行錯誤があって、それが繋がってきたかどうかは分からないです。でもひとつ大きなことがあって――2週間ぐらいKTT、コリアン・トップチームで練習させていただいたんですよ。そこで『レスリングに関しては良いスキルを持っているから、ひたすら我慢して打撃をやりなさい』と言われて。そこから自分はストライカーだと思い込んでやり込む練習を取り入れるようになりましたね」

――KTTですか!

「3年前にグアムでKTTのキム・サンウォン選手と試合をして(2022年11月、原口がTKO勝ち)以降、彼がDMで応援のメッセージをくれたりして仲良くなったんです。そこからお互いに近況報告をするなか、去年の夏過ぎにキム・サンウォン選手がBRAVEへ練習に来てくれて。彼はレスリングを強化したい、僕も彼から打撃を教わりたい。いつもとは違う刺激を受けたい。そう考えて今年4月、KTTに行かせてもらいました」

――キム・サンウォンは原口選手に続いて対戦したSASUKE選手とも連絡を取り合い、SASUKE選手のチームメイトである芳賀ビラル海選手がKTTへ出稽古に行っています。対戦相手ともすぐ交流し、何かを吸収しようと試みる。それだけ貪欲な姿勢は重要だと思います。

「キム・サンウォン選手も自分に負けたことは抜きにして、強くなるために学ぼうとする。その姿勢こそ自分に足りなかったものだなって、韓国に行って感じました。ジムも高校のレスリング部を思い出させるような雰囲気で」

――KTTに行った選手にいつも訊いていることなのですが、あの補強は体験しましたか。

「しかもマンツーマンで、コーチがずっと目の前に立っていて。しかも僕だけライトヘビー級の選手がやるのと同じ重さのものを持たされました(笑)」

――それはキツイ!!

「アハハハ。でもKTTで『ひたすら我慢して打撃をやりなさい』と言われて、自分がストライカーだと思って打撃の練習をすることは自分の中ですごく腑に落ちました。僕もレスリングについては絶対的な自信があるからこそ、そこに頼りがちな部分もあったんですよね。だから日本に帰ってきてからも――練習内容や技術は少しずつ変わっているかもしれないです。でも教わったマインドは今も変わらず、自分の中で続いています」

前回ホテルに着いた時のコメント撮りで『ドゥイシェフ選手のことは強いと思いますか』とか訊かれて、心の準備はしていました

――ROAD FC出場から3戦目でチャンピオンシップに辿り着きました。前回は各方面から対戦アピールがあり、結果パク・ヒョングンと対戦しています。今回のタイトルマッチに関しては、そのような煽り方はなかったのですか。

「何もなかったです。あれよ、あれよという間にチャンピオンシップが決まって……。でも何となくドゥイシェフ選手と対戦することになりそうな雰囲気はありました」

――というと?

「前回ホテルに着いた時のコメント撮りで『ドゥイシェフ選手のことは強いと思いますか』とか訊かれて」

――バレバレじゃないですか。パク・ヒョングンと戦うために行っているのに(笑)。

「そうなんですよ。だから心の準備はしていました。コメントを求められた時も『兄貴がドゥイシェフ選手に負けているし、自分もMMAで生粋のレスラーと対戦したことがないから戦ってみたい』と答えていて。だからまずドゥイシェフ選手とのマッチアップがあり、それが後からチャンピオンシップになったのだろうと思います」

――その時点でドゥイシェフ選手について訊くということは、「原口選手が勝ったら……」という期待感があったのかもしれません。

「今ROAD FCに出場していて、すごく手厚く扱ってくれているという印象はありますね。わざわざ日本に来て、煽り映像用に1日密着で撮影してくれたりとか」

――お兄さんの原口央選手と対戦した時、ドゥイシェフに対してどのような印象を持っていましたか。

「前々から『ラジャブアリ・シェイドゥラエフと一緒に練習しているヤバイ選手がいる』というのは聞いていたんですよ。実際、フタを開けたら兄貴も1Rで負けてしまって――そうだよね、キルギスの選手で強いよね、という印象ではありました」

――ドゥイシェフは央選手との対戦から10カ月後、キム・ヒョンウンに判定勝ちを収めています。この期間で印象が変わったところはありますか。

「穴がなくて全試合フィニッシュしてきた選手が、少し弱さを見せた試合だったと思います。その意味では先入観なく『ここを突けばいける』という部分は見えました。でもその部分を修正してくる強さもあるはずで。もしかしたら前回の試合は相手のことをナメて、1Rから強引に極めようとしたから、2~3Rはバテていたのかもしれないですし。間違いなくその部分は修正してくるでしょうから、僕としては変な期待はしないように心がけています」

――確かに、キム・ヒョンウン戦の内容をどう捉えるかで対策も変わってくるでしょう。

「スタミナ面のことでいえば、試合中のペースを考えるだけで修正される話ですからね。現にONEで3Rまで戦ってパウンドアウトした試合(2023年6月、マドメド・マゴメドフ戦)は、ちゃんと3Rまで戦うためにプランをつくってきていましたから。それが12戦目で、途中でバテてしまうような試合をしてしまったのは、慢心があったのか。でもあの内容を良い教材にして、つくり直してくるんだろうなと思っています」

――先ほど言われたとおり、MMAでドゥイシェフのようにガンガン組んでくるタイプとの経験は少ないです。そのドゥイシェフは、手が合う相手だと考えていますか。

「噛み合うと思っています。自分が負けた相手(ロン・チュウとチュウ・カンチエ)は2人とも中国の選手で、どちらも組みを完全に避けて距離を取るストライカーでした。今回は相手も組んでくるでしょうし、スクランブルも発生すると思います。そういう相手にこそレスリングの細かい技術が生きてきますよね」

――自身とドゥイシェフのレスリングを比較すると、どのような違いがありますか。

「これも感覚的な話になってしまいますけど、自分は大学までピュアレスリングをやってきました。だからレスリングに関しては、自分の中でしっかりとした理論があります。でもドゥイシェフのようなタイプは、要はフィジカルですよね。『ここでそんな力を出す!?』みたいな。そういう強さに対して皆は面喰ってっているんじゃないのかな、とも思いますね」

――ちなみにレスリング時代、キルギスや中央アジア勢との対戦経験はあるのでしょうか。

「高校の時に出場したアジア大会の1回戦で、キルギスの選手に負けた記憶があります。その時にフィジカルの強さを感じました。押し切る力というか。大学の時もモンゴル人選手に負けたことがあって。その時も技術では勝っているけど、ペースを掴むことができなかったんです。相手のほうがエンジンも掛かり切っている状態で、ペースを握られてしまいました。でもその経験があるから、自分としては外国人選手との試合でも面喰うことはないです」

『キルギスの選手は強い』みたいな空気に飲まれて、しょうもない試合をするぐらいならMMAを辞める

――それこそ国際的スポーツを経験している利点ですね。今回ドゥイシェフに勝利した後のことは、どう考えていますか。三度目のRTU挑戦か、それともコンテンダーズ・シリーズ(以下、DWCS)を希望したいか。あるいはZFNに出るのか……。

「まずは今回ベルトを巻いて、自分の中ではZFNという道筋もあるとは考えています。来年のRTUには間に合わない気もしますし、ZFNかDWCSなのかな――と。ただ、DWCSに呼ばれるためには、今回それだけの試合をしないといけないと思っています。勝つだけではダメで」

――現在、DWCSだけでなくDWCSを目指すフィーダーショーのチャンピオンシップでは「この先、現役を続けられるのか!?」と思うようなハードファイトが繰り広げられています。それだけの試合をしないと、まずUFCの選考に引っかかることもできません。

「僕は逆に――RTUというトーナメント制で、『とにかく勝たないと何も始まらない』という空気感の中で戦いました。今はROAD FCのワンマッチに出ていて正直、ワンマッチのほうが伸び伸びと戦える、思いっきりいけるという感覚を得ています。自分にはワンマッチのほうが合っているのかな、それならDWCSのほうにチャレンジしてみたいとも思っていますね」

――先の話ばかりしても仕方ないですが、もしZFNを選択すると、以前に対戦をアピールされたパク・チャンスと試合が組まれるかもしれません。

「アハハハ、そうかもしれないですね。今はドゥイシェフのことしか見えていませんし、正直言って『ドゥイシェフを超えたら――』という気持ちはあります。ドゥイシェフ以上に脅威となる選手はいるのか。それだけ強い選手ですよね。
そんなキルギスの選手と日本人の僕のタイトルマッチを韓国のプロモーターが組んでくれる。ありがたい限りです。僕としては最近の『キルギスの選手は強い』みたいな空気に飲まれて、しょうもない試合をするぐらいならMMAを辞めるというぐらいの覚悟を持っています。そんなことで怯むぐらいなら、最初から話にならないわけで。

最近は日本の大会に中央アジアの選手が出て、日本人選手が負けているじゃないですか。自分は他の選手と違う、というところを見せたいです」

■第2部 対戦カード

<ヘビー級/5分3R>
関野大成(日本)
ベ・ドンヒョン(韓国)

<Road FCウェルター級王座決定戦/5分3R>
ユン・テヨン(韓国)
ケムエル・オットーニ(ブラジル)

<Road FCライト級選手権試合/5分3R>
[王者] カミル・マゴメドフ(バーレーン)
[挑戦者] リズヴァン・リズヴァノフ(ロシア)

<Road FCフェザー級王座決定戦/5分3R>
原口伸(日本)
エルデュカルディ・ドゥイシェフ(キルギス)

<無差別級/5分3R>
ホ・ジェヒョク(韓国)
キム・ナムシン(韓国)

<フライ級/5分3R>
チョ・ジュンゴン(韓国)
チョン・ジェボク(韓国)

PR
PR

関連記事

Movie