【ONE FN38】復帰2戦目=ラクラン戦へ、マルセリーニョ「練習の目的は対戦相手に勝つためじゃない」
【写真】この笑みと金言。神童はまさに柔術の神になりつつある(C)MMAPLANET
本日6 日(土・現地時間)、タイはバンコクのルンピニー・スタジアムで開催されるONE FN38で、マルセリーニョ・ガウッシアがラクラン・ジャイルスとサブミッション・グラップリング戦を戦う。
Text by Manabu Takashima
今年の1月に約14年振りに実戦に戻ってきたマルセリーニョは、今成正和の足関節を完封しノースサウスチョークで一本勝ちを収めた。今回の相手はADCC2019の無差別級で3位を獲得している豪州のジェイルスだ。
そのADCCでは足関で名を馳せたジェイルスに対し、マルセリーニョは「僕は1人の対戦相手のための練習はしない。僕の練習は柔術を良くするためにある」と断言。この言葉に柔術家マルセリーニョの全てが詰まっていた。
古い柔術も、新しい柔術も関係ないよ。僕は自分の柔術をする
――マルセリーニョ、週末の試合を迎えて今の調子はいかがですか(※取材は3日に行われた)。
「今日はメディアデーで凄くバタバタしているよ(笑)。今回の試合に向けて、飛行機の旅も含め調整することは多かった。でも、凄く良い感じできているよ。試合まで2日、何も変わりなく過ごしている。計量が残っているけど、それほど大変ではない。でも、最善の状態を創って行きたいんだ。それには小さなことを、一つずつしっかりとこなしていかないとね」
――今年の1月にコンペティションに復帰し、生活サイクルなどは変わりましたか。
「何も変わっていないよ。試合があっても、同じようにしていたい。トレーニングも変わらない。トレーニングする目的が、変わらないからね。僕のトレーニングは、試合で勝つためじゃないんだ。トレーニングは、柔術が良くなるためにある。僕の柔術が良くなれば、どの試合にだって勝つことが可能になるんだよ。
ただし、その勝利は結果的に得るモノで。試合で勝っても関係なく、柔術をより良くしたいという気持ちで練習をしている」
――今回のラクラン・ジャイルズ戦もそうですが、試合が決まると対策トレーニングを行うという形でしょうか。
「ノー。対策練習はしないよ。彼のゲームを理解する必要はあるけど、1人の対戦相手のために練習をしているわけじゃないんだ。誰かがギロチンを仕掛けてくると、ギロチンを防がないといけない。ヒールフックを狙われたら、ヒールフックに対して正しい対処をする必要がある。
僕の練習は、たった1人に対戦相手のために行うより重要なことが目標だ。だから、対戦相手よりも良い柔術ができている。どのような場面でも対処できるように日々のトレーニングを欠かさないから、誰が何を仕掛けてきても対応できるようになるんだ。それが僕にとっての柔術だよ」
――今成戦の前のインタビューでマルセリーニョは「どれだけ柔術が変化しても目新しい技術はない。僕の戦い方に影響が出るほどではない」と言っていました。オールドスクール柔術で、ニューウェーブ柔術に勝つ。そして今成選手の足関節を一切封じ込みました。あの言葉は今回のラクラン戦でも当てはまるモノなのでしょうか。
「柔術は柔術だよ。オールドスクールと呼ばれようが、ニューウェーブと呼ばれようが、目的は相手に戦いを止めさせることだ。タップさせること、相手にギブアップさせることが目的で。トレーニングで身に着けた全てのテクニックを使って、自分の柔術をすること。相手がどうだからとか、相手のゲームを考えて動くことではない。
古い柔術も、新しい柔術も関係ないよ。僕は自分の柔術をする。試合場に上り、僕がやるべきことは自分の柔術。相手の柔術をしないことだ。10年前、15年前、20年前と同じことをする。そういうゲームができるように練習をしている。相手の計画通りには一切させない。それが柔術の楽しいところだよ」
僕が学習するのは自分の柔術であって、相手の柔術ではない
――映像を見て、相手のことは研究しますよね。ラクランの印象を教えてもらえますか。
「僕が学習するのは自分の柔術であって、相手の柔術ではないんだ。昔は対戦相手の映像なんてなかった。そういう環境で柔術を学び、育ってきた。トーナメントでは1日で5人の相手に勝たないといけない。
試合会場で、自分の試合に勝ってから次が誰かを探す。時には試合の序盤だけ見ることもあった。相手の体格をチェックする程度で、十分だったよ。最初から最後まで試合を見ようとは思わなかった。試合を見ても、僕の柔術が変わるわけじゃないからね」
――つまりラクランの試合映像もチェックしていないのですか。
「同じだよ。試合のさわりだけチェックして、全てを見ることはない。アレで相手のことを研究したとは言えない。とにかく彼の試合を見て、僕の柔術を変えるようなことはしたくないんだ。僕の柔術はそういうモノじゃない。もっと大きなモノだから。
僕の柔術は全ての対戦相手を極めること。ラクランだけじゃない。それが僕の柔術で、僕のトレーニングだから」
――日本の武術では、相手の動きを見すぎて自分の動きができないことを居着くと言っています。
「その言葉は知らなかったけど、言っていることは分かるよ。でも、それって柔術だけでなく人生においても同じことだよね。自分を知らないと。なぜハードな練習をするのか。正しいタイミングで、正しい動きをするためだ。それが、試合で有効になる。誰が相手でも、正しいタイミングで正しい動きができるようになる。
だからラクランの映像は見たよ。でも、彼のことを研究はしていない。そんなことはできない。そんなために僕の時間を使いたくないんだ」
多くのことを学んだユータが帰国して、東京にアカデミーを開く日が楽しみでならない
――いやぁ、最高です。そんなマルセリーニョを崇拝し、NYに移り住みMGヘッドクォーターで指導をしつつ柔術トーナメントに出場してきた嶋田裕太選手が、ハワイに引っ越しをしマルセリーニョと合流したそうですね。
「ユータは本当に良いヤツだよ。生徒だ、柔術家だという前に人間として素晴らしい。それが僕にとってのユータなんだ。そんなユータが『あなたに柔術を習いたい』と言ってくれるなんて本当に恵まれているよ。凄く光栄なことだ。ユータがNYに移住を決めたのは、コロナの直前だった。
誰も世の中があんな風になるなんて思っていなかった。一旦、日本に帰国したユータは僕が離れたNYのアカデミーを盛り上げてくれた。そして今、彼は僕の横にいてくれる。ユータは自分のクラスだけでなく、こうやって試合のためにアカデミーを空けた僕のクラスをカバーしてくれているんだ。今回の試合に向けて、練習量が増えた僕の代わりにクラスを受け持ってくれた。ユータが代役で指導をしてくれる。本当にスペシャルなことだよ」
――嶋田選手にアカデミーを任せて、安心できるだけの信頼関係が2人にはあるのですね。
「他にも指導を任せることができる者はいるよ。でも、ユータは質が違うんだ。僕がNYを離れた後、NYのアカデミーでずっとクラスを受け持っていてくれた。彼が如何に僕に代わって、教え子たちの面倒を見てくれていたのかを僕は知っている。ユータに任せておけば、大丈夫。アカデミーの指導を心配することはない。
彼は米国生活も最後の1年になったから、僕の近くにいたいと言ってくれた。本当はもっと長く、傍にいて欲しい。でも僕のことを信じて、僕から多くのことを学んだユータが帰国して、東京にアカデミーを開く日が楽しみでならない。僕が信じているテクニック、僕の柔術の有り方を日本の人々に広めてくれるようになるからね。
日本といえば、11月のONE日本大会に出たいとずっと言い続けていたんだ。でも実現しなかった。こからも、ONEの日本大会で試合をすることは僕の夢だよ」
――――ONEは2026年にも日本大会を予定しています。マルセリーニョの22年振りの来日が実現することを楽しみしています。その前に土曜日のラクラン戦ではどのような柔術を皆に見せてくれますか。
「可能な限り最高の技術を披露したい。その技術が十分であれば、僕は試合にも勝てるだろう。トレーニングで身に着けたテクニックを少しでも多く使いたい。それが今回の試合における目標だよ」
――マルセリーニョ、今日も素敵な言葉をありがとうございました。最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
「僕は物凄く日本に憧れてきた。いつか学びたいと思っている言葉は、日本語だけなんだよ(笑)。日本の皆は僕のキャリアの最初の頃から、凄くリスペクトしてくれていた。2001年に初めてADCCで優勝して数カ月後、日本から僕と練習するために一人の選手がサンパウロまでやってきてくれた」
――平田勝裕さんですね。
「そうだ!! それから、多くの人が僕のところに来てくれるようになった。本当に光栄なことだったよ。僕は日本の皆を愛している。来年こそ、日本で皆に会えると願っている」
■放送予定
12月6日(土・日本時間)
午前10時45分~U-NEXT
■ONE FN38対戦カード
<ONE世界バンタム級(※65.8キロ)選手権試合/5分5R>
【王者】ファブリシオ・アンドラジ(ブラジル)
【挑戦者】エンフオルギル・バートルフー(モンゴル)
<ムエタイ・フェザー級/3分3R>
シャドウ・シンハ・マウイン(タイ)
エンゾ・カルトゥーム(フランス)
<ONEサブミッショングラップリング・フライ級(※61.2キロ)世界王座決定戦/10分1R>
ジオゴ・ヘイズ(ブラジル)
米倉大貴(日本)
<ムエタイ女子アトム級/3分3R>
ペッディージャ・ルッカオポーロントン(タイ)
マルティナ・エルチェンスカ(ポーランド)
<サブミッショングラップリング・ライト級級/3分3R>
マルセロ・ガウッシア(ブラジル)
ラクラン・ジャイルズ(豪州)
<ムエタイ・ストロー級/5分3R>
アリーフ・ソー・デチャパン(タイ)
ラマダン・オンダッシュ(レバノン)
<ムエタイ・バンタム級/5分3R>
ドミトリー・コフトゥン(タジキスタン)
鈴木真治(日本)
<フライ級(※61.2キロ)/5分3R>
ジェレミー・ミアド(フィリピン)
アバズベク・ホルミルザエフ(ウズベキスタン)


















