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【Polaris31】日本人初の独占契約を結んだ高橋Submission雄己─01─「他の格闘技とは違う成功の形」

【写真】高橋は3年振りの参戦で快勝、そしてタイトル戦発言が独占契約に繋がった(C)Polaris

2月8日(土・現地時間)英国のドンカスター・ドームで開催されたPolaris31で、高橋Submission雄己がジェイク・ゴールドソープをわずか35秒、ショットガンアンクルで下している。試合から1カ月後の3月3日(月・現地時間)Polarisサイドから高橋と、日本人選手初となる独占契約を結んだことが発表された。
Text by Shojiro Kameike

高橋にとっては2022年6月にポラリス20でトミー・イィプを下して以来の参戦。ゴールドソープを秒殺したあとは、マイクを握りタイトルマッチをアピールした。結果、ポラリス側が独占契約を求めてきたのは、高橋のタイトル挑戦と勝利した場合の防衛戦を見越してのことだろう。日本人グラップラーとして快挙であり、新たなスタートを切った高橋に、ゴールドソープ戦とポラリスとの契約について語ってもらった。


グラップリングで世界一を目指すためのピラミッドが構築されていない

――ポラリスでの勝利と独占契約、おめでとうございます。

「ありがとうございます!」

――まず契約内容についていうと、これまでは試合ごとの単発契約だったのですね。

「自分もそうですし、過去にポラリスに出ていた今成正和さんも単発契約だったみたいで。ポラリスの中では『ヨーロピアン独占契約』というのが特別な枠のようですね」

――ヨーロピアンということは『欧州内でポラリスのみ』ということですか。

「そうです。契約内容を見ると、MMAの団体ほど縛りはキツくないですね。ただ、欧州内のアマチュアリーグ――IBJJFやADCCオープン大会はOKだと。出ないですけど(苦笑)。日本や米国の大会に出ることも問題はないけど、2年4試合契約なので、その契約内容を守れるようにスケジューリングしてくださいということでした。あとはファイトマネーの形態も変わります」

――形態が変わる、というと?

「もともとプレリミは幾ら、メインカードは幾らとファイトマネーが決まっていて。タイトルマッチのみ防衛を重ねていくと、交渉次第でファイトマネーが上がっていくようです」

――プレリミとメインカードではファイトマネーも違いますか。

「まぁ、それは(笑)。MMAのように一晩で何千万円という話ではないし、プレリミからメインカードに上がると生活が変わるというほどではないです。でも、お金はあればあるほど嬉しいですから」

――アハハハ。金額以上に、海外のプログラップリング大会と独占契約を結んだことの価値のほうが大きいでしょうか。

「はい。僕はレベルGのプロモーターをやっていて、僕の主張としては――グラップリングって強い柔術家とMMAでグラップリングが強い選手の対戦、ということが多くて。柔術家がノーギに転向するための『最初の一歩』になっているとは思います。でも今はピラミッドがない状態で。

そこで言うと今までポラリスには宇野薫さんや今成さんといったMMAのレジェンドが出場していましたが、そんななかで僕はグラップリングだけやっている。グラップラーとして国内で練習し、試合に出ています。そこから海外のプロマッチにも出て、少しずつステージを上げていきながらポラリスとの独占契約にこぎつけたことに意味があるのかな、と考えていますね」

――確かに。グラップリング専業のプロ選手が誕生しにくい日本の環境にあって、多くの選手が目指していながら実現できなかった状態でもあります。

「ギと並行してノーギをやる選手は、たくさんいると思うんです。競技として、グラップリングが好きな選手がグラップリングだけをやって、世界一を目指していくことができる。今の日本では、そのピラミッドが構築されてはいないわけですよね。

レベルGもそのピラミッド構築を目指してはいるけど、力不足で全然できていません。そんななかで僕個人が、ひとつモデルケースを創ることができたのは、今後の活動において説得力を持つだろうと思います」

――自身が海外プログラップリング大会と独占契約した選手が開催している大会、というのは説得力があるでしょう。この独占契約という形は、いつ頃から目指し始めたのでしょうか。

「いや、すごく寝耳に水のような話でした(笑)。もともと僕の階級である61キロのタイトルが空位であることは知っていて、ずっとプロモーターからも『次はいつ試合に出られる?』という話は来ていました。だから僕もベルトは意識していましたね。

でも前回の勝利から3年ぐらい試合が組まれていなくて――まず英国国内に同階級で相手がいない。3年前に勝ったトミー・イィプ選手は、61キロでは英国のベストグラップラーで。「軽量級で英国ベストのグラップラーにはアシュリー・ウィリアムズがいるけど、今は落とせても70キロぐらい。だからユーキとは階級が違いすぎるよね……」とポラリスからは言われていました。

ゴールドソープを秒殺したショットガンアンクルについては早速、教則動画を販売中(C)Polaris

そのため僕も他の大会に出ながら、時間だけが過ぎていって。そんななかで前回対戦したジェイク・ゴールドソープはポラリスのプレリミで派手な一本勝ちを見せている、グッとくる選手だったんです。その相手を秒殺して、もう他に誰も相手がいないなら……と思って、試合後にマイクで『タイトルマッチをやりたい』と言ったんですよ」

――なるほど。

「すると帰りにポラリスのプロ―モーター、マット・ベニオンさんが『ユーキ、すごく良い勝利だった。カッコ良かったよ。次はタイトル戦だ』と言ってくれて。だけど、その後マットさんからはタイトルマッチについて何の連絡もなく……ファイトマネーの振込に関する連絡と同時に、長文の英語でメールが届いたんです。何かサインしないといけないファイルの形で」

ポラリスは観客がグラップリングの攻防を分かって楽しんでいる

――えっ、何の前触れもなく(笑)。

「アハハハ。普通は『ユーキと独占契約を結びたいんだ』みたいな提案があると思うじゃないですか。でもそれが何もなく。僕もドイツでセミナーしていたし、ギャラの振込先確認とかだと思って、ビールを飲みながら中身を見ずにサインしたんですよ。そうしたらポラリスがSNSで僕との契約を発表していました(笑)」

――いや……、中身を見ずにサインするのは危ないです。

「変な詐欺とかだったら大変でしたが、今回だけは良い結果だったので良かったです(苦笑)。僕にとってもポラリスは最終目標だったし、契約内容も異論ないもので。結果オーライでした。アハハハ」

――何事もなくて良かったです。2年4試合契約というのは、高橋選手の意向を受けてタイトル挑戦プラス防衛戦までを考えてのことですよね。

「はい、そうだと思います」

――それだけゴールドソープ戦の秒殺劇はインパクトが高かったのでしょう。

「そうですかね……相手が英国のグラップラーであるために、相手の強さはなかなか伝わっていなかったし、分かりづらかったとは思います。それは僕も含めて。だけど結果をそれだけ評価してくれたことは良かったです」

――ポラリスの存在によって、英国国内でグラップリングが認知されていると感じますか。

「客層がどういう人たちか分からないけど、おそらくグラップリングをやっている人やジムで習っている人でしょう。たとえばRIZINだと、全く格闘技をやっていない人たちが会場に来て楽しんでいる。ポラリスは、そういう感じでは全くないです。観客がグラップリングの攻防を分かって楽しんでいるといいますか。

日本との比較でいえば、グラップリング大会としては日本よりもお客さんの数は多いです。多いけど、グラップリングがエンターテインメントとして、やっていない層にまで伝わっているかといえば、そういう空気は感じられないですね」

――ただ、スポーツとしては重要な要素ではないしょうか。グラップリングをやる人たちが増え、その人たちによってゲート収入が支えられている。それこそが競技としての普及であって。もちろん格闘技をやっていない、観るファンの存在も重要ですし、その両輪があってこそ業界が盛り上がっていくものだと思います。

「確かにグラップリングはボクシングなど打撃系競技と比べて、見て分かりやすいものではないと思います。ただでさえ難しい格闘競技の中でも、特に難しいジャンルで。一般の方がイメージする強さと競技内容がリンクしない部分もあるでしょうから、見る人が少ないのが妥当な感じはありますね。もちろん何かテコ入れをすることによって、状況を打開できる可能性はあるとしても。

一方で、グラップリングはキックボクシングよりも技術の再現性が高いと思っています。たとえば僕がゴールドソープ戦でショットガンアンクルを極めました。ジムに通っている人が同じ技を覚えたいと思って、僕の教則動画を視たりセミナーに参加したら、手順や形はできるようになるじゃないですか。でもムエタイの世界チャンピオンの試合を視て「あの左ミドルが速くてカッコイイ!」と思っても、その選手のセミナーを受けても同じスピードの左ミドルは打てないでしょう」

――打撃のスピードや威力については難しい面があるでしょうね。

「そう考えると他の格闘技よりも、Doスポーツとしては広まっていく可能性はあるんですよね。大会を開催してもMMAやボクシングほどビュー数は伸びないから、スポンサー収入をメインにするよりは、試合に出て名前を売る。試合で見せた技術を売って生計を立てることは、今のプログラップラーの在り方として確立されてきています。

グラップリングをやっている人たちがお客さんで、その人たちで会場が埋まる。つまり、それだけの人数が自分のお客さんになるというか、自分の技術にお金を出してくれる。そういう土壌の広がり、他の格闘技とは違う成功の形なのかなとは思いますね」

<この項、続く>

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