【Polaris31】世界へ、高橋Submission雄己─02─「納得して死ねる理由をグラップリングに求めている」
【写真】常に理路整然と語る高橋だが、時おり見せるファイターとしての本質が興味深い(C)Polalis
2月8日(土・現地時間)英国のドンカスター・ドームで開催されたPolaris31で、ジェイク・ゴールドソープを秒殺し、さらに1カ月後にはポラリスと独占契約を結んだ高橋のインタビュー後編。
Text by Shojiro Kameike
現役選手として活躍する高橋は、同時にグラップリング大会「Level-G」を開催している。これまでアマチュア大会から、MMAファイターも出場するプロマッチも行ってきた高橋に、日本と海外のグラップリング大会の違いは、どのように見えているのか。そんな高橋からは、ファイターとして燃えたぎる炎が感じられた。
世界がヤバいというより、ベイビーシャークがヤバい
――極真空手やブラジリアン柔術など、そうした成功の形で続いている競技はあるわけです。試合で技術を見せ、強さを証明し、指導で生計を立てる。それがある意味、武道の形でもあって。昨日(※取材は3月9日に行われた)は高橋選手が主催するレベルGのアマチュア大会が開催されましたが、その目標にはどれぐらい近づいていると思いますか。
「う~ん……、……現状は自分たちがレベルGを開催することで広がったパイというのは、まだ少ないと考えています。知っているMMAファイターが出ているからグラップリングを観る。そこでグラップリングがカッコイイと思ったから始めようと思った人がいるとしても、メチャクチャ多いわけではない。
そのなかでレベルGの立ち位置としては、『グラップリングが好きだけど、試合する場がない』とか『ヒールフックを習ったけど、ガチガチのMMAファイターが出て来るようなエキスパートレベルの試合しかないから、習ったことを発揮する場がない』と考えている人たちの受け皿になることはできていると思います。
だから前に進んでいるといえば、前に進んではいるんですかね? でもそれは重要なことで」
――はい。
「せっかく自分たちの試合を視て、教則動画を買って楽しんではいるけど、発揮する場がないから趣味として成立していない。そういう世界だったものを拾い上げられているのは意味のあることだと思っていますね。目標に近づいているかといえば――自分が現役を離れて、もっと運営に力を入れていく頃にならないと難しいかもしれないですけど(苦笑)」
――ポラリスと2年4試合契約を結んだ今、現役を離れることはもっと先になりますね。
「それで良いんじゃないかと思います。細く長く続けていくことも大事なので。まずはグラップリングな好きな人たちが退屈しないような場所をつくって、裾野を広げていくのは引退してからで良いんじゃないかと」
――その高橋選手にとって、IBJJFやADCCルールではなく、またサブオンリーでもないプログレスはどのように見えていますか。
「日本でグラップリングをやってくれていて、しかもYouTubeで無料視聴できることは、僕も含めて好きな人は楽しんでいると思います。たとえば僕もジムで練習を終えたあとに『今日は須藤拓真君の試合があるから視よう』という話になって。HEARTSの前にテラスでビールを飲める店があるんですけど、そこで皆で視聴しながら須藤君を応援したりとか。
プロモーターのハセケン(長谷川賢)さんからマッチメイクの相談があった時は、連絡先を繋いだりとか可能なかぎり協力させてもらっています。特に須藤君はグラップリングで世界と戦える選手だと思いますし、練習仲間というだけでなく一人のグラップラーとしても、プログレスでそういう相手と対戦が見たいですね」
――では選手として考えた時、高橋選手が出場しているポラリスと、ONEサブミッショングラップリングは同じものか、違うものなのか。あるいはリンクしているものでしょうか。
「え、それは考えたことがなかったですね」
――視聴環境から考えると、ONEは日本国内の大会を放送しているU-NEXTで視ることができます。一方でポラリスはUFCファイトパスで視聴できるとしても、格闘技に詳しい人でなければ敷居が高い可能性もある。MMAやキックボクシングの試合もある大会と、サブオンリーのグラップリングだけの大会という違いもありますし。
「競技者として、ONEから声が掛かったら――と考えることはあります。一番重要なルールですね。ポラリスとONEサブミッショングラップリングは、そこまでルールに違いはないので、隔てて考えているわけではなくて。
何らかの方法で何らかの実績を残した人が、何らかのプロリーグに出られる。その舞台を足掛かりに、また上に行く。行く先が人それぞれなんじゃないかな、というイメージです。
傾向でいえば、ONEはIBJJFの結果を重要視するから柔術家の出場が多い。ポラリスはサブオンリーの世界観を重要視しているので、僕みたいなタイプを引っ張ってきたりとか。自分のキャリアや得意な部分を生かして、どこを狙っていくかは考えると思います」
――たとえば一昨日にはONEで、石黒翔也選手がベイビーシャーク・ジオゴ・ヘイスに敗れました。その敗戦をどのように考えていますか。
「僕たちは結構いっしょくたで、今はどの階級で誰が強い――とか。グラップリングの世界はMMAほど契約の縛りが強くないので、いつかどこかで当たる可能性があります。そういう意味で、選手としては世界観が一元化されているかもしれません。もちろんIBJJF絶対主義、ADCC絶対主義の人もいますけど。それを抜きにして、先日の翔也さんの結果をどう捉えるか……。単純に『ベイビーシャーク、こんなに強いのか』と」
――最も単純明快な答えです。
「とにかく強かったです。『世界トップレベルとの差を感じました』というような翔也さんの発信を拝見しましたけど、それって『どこまでが世界トップレベルなのか』と捉えるかどうかの問題でもあって。世界のトップクラスといえば、翔也さんも自分もその次元にいると思います。ただ、ベイビーシャークのように、その次元にいる選手をボコボコにできるようなファイターがいるんですよ。今その域にいるのはジエゴ・バトとベイビーシャークでしょうね。だから『世界がヤバい』というより、ベイビーシャークがヤバいんですよ」
『この瞬間だけ、この1秒だけ俺が世界で一番強かった』と思うことができたら、成仏できます
――なるほど。
「そのうえで僕が何を考えないといけないか。ポラリスのタイトルは、世界最高峰のひとつです。そんな場所に出て来るのは自分と同じぐらいの世界トップクラスのグラップラーかもしれないし、もしかしたらベイビーシャークのように次元が違う選手かもしれない。そういう人たちと常に肌を合わせ続けないと、その域に辿り着くことができないのか――結論としては、作り込むためには日本にいるのが一番良いと考えています。
ただ、どれくらいの想定をしておかないといけないのか。試合の中ではいろんな修羅場があると思いますけど、高く見積もってビビるわけでもなく、低く見積もってボコボコにされるわけでもなく。正確に把握しておかないといけないなかで、たとえばマイキーはFPIと契約しているので絶対に当たらない。そういうレベルの選手と肌を合わせておくのは必要かなって思いました」
――様々な格闘技があり、様々なルールがあるなかで「この試合はこのルールだから」という選手や関係者もいます。そんななか高橋選手はベイビーシャークの試合を視て、ファイターとして燃えたぎるものがあるわけですね。
「燃えたぎるというか『準備しないとマズイかな』と思いました。自分の中でベルトについては、獲らないといけないっていう命題みたいなものがあって。その命題に対してミスすることなく、相手も含めて課題をクリアしてベルトを巻く。それは決まっていることとして、じゃあベイビーシャークのようなレベルの選手と相対した時、どうやって勝つのか。
もし自分が試合時間無制限で、ベイビーシャークとマットの上に立ち『生き残ったほうだけマットから降りてきてください』と言われたら、僕は降りられないかもしれないです。でも試合時間15分、ルールの中で自分が勝ちになる行動をする――それだけだったら可能だと思いますよね」
――はい。
「全ステータスが圧倒的に負けていたら、絶対に勝てないです。いろんな組技の局面があるなかで、どの局面だったら勝負できるのかを明確に見極める。勝負できるところだけ――7対3でなくてもいいです。5.5対4.5ぐらいの割合で15分続けることができたら、試合としては勝ちになりますよね。ベイビーシャークと翔也さんの試合を視て、そういう最悪の状況になる危機感を覚えました。それが『燃えたぎること』かどうかは分からないですけど」
――それが高橋選手にとっての燃えたぎっている状態だと思っています。常に理路整然と喋るなかで、以前インタビューで「レッグロックはまだ死んでいない」と仰ったことや、今回のお話の中に熱い炎を見ることができるのが、高橋選手の魅力でもあって。
「アハハハ、ありがとうございます。あぁ、なるほど。……そうですね、そうですよね」
――何をどう言おうと「結局は強いヤツと戦って勝つしかないだろ」という、ファイターとして持っていてほしい炎です。
「最終的には、そこですよね。そこに辿り着くために理屈ごねたり考えたりすることは、必要だからやるだけで。『この瞬間だけ、この1秒だけ俺が世界で一番強かった』と思うことができたら、成仏できます。
次の世代、次の瞬間にはもっと強いヤツが出て来るかもしれない。もう一度同じ相手と戦っても、次は負けるかもしれない。だからこそ、『この瞬間だけ俺は世界で一番強かったんだ』と思って死にたいですね。結局は死ぬ時に、自分の人生に納得して死にたい。僕の場合は、納得できる理由をグラップリングに求めているんですよ」