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【EBI24】2年振りのコンバット柔術トーナメント。高橋Submission雄己「ポラリスとEBIを獲って――」

【写真】自身が運営するLevel-Gの業務も行いながら、メキシコに旅立つ高橋(C)SHOJIRO KAMEIKE

27日(日・現地時間)、メキシコ第二の都市モンテレイのヒムナシオ・ヌエボ・リオン・ウニドにて開催されるEddie Bravo Invitational24で、高橋サブミッション雄己がコンバット柔術ルールのバンタム級16人制トーナメントに出場する。
Text by Shojiro Kameike

高橋にとっては、これが2023年以来2年ぶりのEBI出場となる。MMAPLANETではこのトーナメントのルールを「サブオンリー」と報じていたが、これは誤り。EBIではサブオンリーとコンバット柔術ルールの試合が行われ、後者のトーナメントは「Combat Jiu Jitsu Worlds(CJJW)」という名称で区別されていた。しかしEBIの名前で行われる大会は全てコンバット柔術ルールで開催されることになったという。

そんななか、高橋は英国のサブオンリー興行ポラリスと独占契約(※独占の範囲は欧州で行われる大会のみ)を果たした直後、米国でコンバット柔術ルールに挑むこととなった。2023年に高橋が出場したのも同ルールのトーナメント戦で、まずルカス・カントをオーバータイムで下し1回戦突破。しかし続く準々決勝でドリアン・オリヴァレズにRNCを極められている。

ポラリスと契約を結んだことから、今後はサブオンリーに専念するかと思われた高橋が、なぜここでコンバット柔術のトーナメントに臨むのか。それこそ、彼がグラップリングの世界を目指した理由だったからだ。自分の人生に納得するために――


僕はポラリスとともにEBIを視て育ったんです。だからEBIでもチャンピオンになりたい

――サブオンリーのポラリスと独占契約を結んだあとに、まさかコンバット柔術ルールの試合に出場するとは思いませんでした。

「そうですよね。僕は前回のインタビューで『結局は死ぬ時に、自分の人生に納得して死にたい。僕の場合は、納得できる理由をグラップリングに求めている』という話をしたじゃないですか」

――はい。

「もちろんポラリスのベルトは納得できる理由に値すると思いますけど、僕はポラリスとともにEBIを視て育ったんです。だからEBIでもチャンピオンになりたい。この2つを獲って終わりたいと思っていました。

そんななか今回もエディ・ブラボーからEBIのオファーが来ました。独占契約を結んだからポラリスのタイトルマッチに出る可能性もある。そのためにサブオンリーに集中する、という考えもあるかもしれない。でも自分の中でEBIのチャンピオンも同じくらい大きなものだから、オファーを受けてトーナメントに出場することを決めました。

そうしたらエディが『CJJWがなくなって、EBIは全てコンバット柔術になった』と言い始めて(笑)。自分もまぁ仕方ない――という感じで。コンバット柔術であってもEBIのチャンピオンになるためにオファーを受けたんですよ」

――なるほど。高橋選手にとってEBIとは、どのような存在なのでしょうか。

「MMAだと『PRIDEを視ていたからUFCよりもRIZINに出たい』という人がいますよね。僕にとっては、それがEBIとポラリスで。ジオ・マルチネスやエディ・カミングス、クレイグ×ゴードンの腕十字対決とかを視て『自分もココに出たい』と思って育ちました。やっぱりその当時から憧れがあります」

――ADCCでもIBJJFノーギでもなく。

「そうですね。ADCCよりポラリスやEBIのほうがときめきます(笑)。

僕がグラップリングを触り始めた頃って――ジョン・ダナハーがサドルロック云々と言い始めた頃でした。それはグラップリングらしいグラップリングが出来始めた時期で、自分の目にはEBIやポラリスが先進的でカッコイイと映っていた世代だと思います」

――ただ、それはサブオンリーのお話ですよね。憧れの中にコンバット柔術は入っていなかったのですか。

「コンバット柔術はもっと最近のものですからね。僕が最初にコンバット柔術を視たのは、今成正和さんが初めて出た時でした(2020年3月、CJJW2020)。ただ、僕も刺激を受けたコンテンツの一つではあったと思います」

――高橋選手も2023年、CJJWに出場して準々決勝敗退。当時と比べて、高橋選手自身はどのように成長したと思いますか。

「技術的にも大きく進歩したし、だいぶフィジカルが変わったと思います。それも前回、CJJWに出たあとなんですよ。CJJWでは明らかに4試合も体力がもつ気がしなくて。相手も強かったけど、それ以上に『オーバータイム込み、打撃ありのルールで走り切れるのか!?』という感覚が強かったです。

前回はフィジカルの面でいえば『全試合ポンポン一本勝ちしないと優勝できません』という状態で。そこでフィジカルトレーナーもつけて、ガッツリ変えてきました、4試合走り切れるだけの有酸素能力はつけてきたつもりです。そうして、やっと技術で勝負できる土俵に立ったと思うんですよ。

それがもう大前提ですね。勝負できる土俵に立つための前提が、フィジカル。今回の試合に関しては、それが一番大事なところかもしれないです。まだ不安はあるけど、今できるベストの状態はつくったと思います」

――2023年のEBIからフィジカルを強化し始めて、有酸素能力が高まったことを実感したことはありますか。

「CJJWの直後に出たフィニッシャーズのタイトルマッチですね(2023年11月、レイ・デ・レオンに勝利)。あの試合も10分フルタイム戦ったあとオーバータイムまで行きましたけど、オーバータイムで出せる瞬発力が全然違いました。オーバータイムがあるルールでは顕著に有酸素能力の差は出るかもしれないです」

――ちなみにオーバータイムについては、オーバータイム用の練習は積むのでしょうか。

「はい。練習していると、オーバータイム特有の技術や駆け引きは生まれてきます。ただ、そもそもバックのポジションや腕十字のエスケープとかは必要なものだから、練習としては有意義なものだとは思いますよ。

いずれにしてもコンバット柔術のルールで戦う時に、オーバータイム対策はマストになりますね。ヨーイドンの時にどう動かないといけないのか。相手の絞め手がどちら側にあるから、どちらに動かないといけないのか。バックを取った時のファーストアクションをどうする。絞められなかった時のキープはどうするか。腕十字でこう攻められた時はどうエスケープするか――とか、全て練習してきました」

――一般的なグラップリングの練習と繋がっているものではあるのですね。

「親和性がある、というぐらいじゃないですか。そう言われると確かに、1つの試合で2つの競技をやっている気はします(笑)」

優勝して、自分が納得して死ぬことができる理由の一つにしたい

――コンバット柔術はさらに掌底も加わり、とても難しい競技ではあると思います。掌底対策もやってきたのでしょうか。

「コンバット柔術ルールの対策はやってきました。どのポジションにいたら良くないのか。どういう展開になるかということを把握する作業は必要です。掌底の打ち込みとか、そういう話ではなくて。掌底がある場合にグラップリングの試合展開がどう動くのかをイメージし、理解する。いろんなタイプの相手と練習してみて、いろんな状況を可能なかぎり理解する。そうして試合の中の動きを決めていきます」

――国内のコンバット柔術だと掌底でKOする試合もありましたが、EBIだとまた違いますよね。

「はい。EBIはケージでなくマットですし、まずIREだと3点着いたら掌底を打っていいというルールでした。EBIは、たとえばレスリングの展開で一瞬だけ掌底を打つために3点の状況をつくり、打ってすぐ立ったりするのは禁止なんですよ。

だから基本的には寝技の攻防になります。さらに相手のガードの中に入っていると、腰を入れて掌底を打つのは難しい。ボトムにいてトップの相手をぶっ壊すような掌底を打つことも難しい。もちろんポジションを取ったらコントロールを優先しないと、相手に逃げられてしまいますからね。掌底の一発で試合をひっくり返すシーンは、あまり見たことがないです」

――反対に足関節を取り、相手の掌底が届かない距離とポジションにして極めにいくといったシーンがコンバット柔術の醍醐味の一つです。

「それこそ柔術が生み出したガードワークという文化の偉大さですね。ボトムから仕掛けると同時に、トップの相手に有効な打撃を打たせない。そのために凄く有用なものなんだなと、コンバット柔術の練習をしながら改めて感じました」

――高橋選手の中で、サブオンリーのコンバット柔術では足関節の取り方も変わりますか。

「あまり変えないほうが良いと思っています。ただコンバット柔術は、ボトムでのんびりしていることができない。相手を崩せるから掌底を食らわないだけで、崩していなかったら――たとえばリバースデラヒーバで組み、ニーシールドで止めながらゆっくりしていると、ボトムの人間が一方的に掌底をもらってしまいます。だから下になったほうは、入り方は変えないけど速く攻めないといけないですね」

――その試合展開でオーバータイムあり、1日4試合あり……壮絶なトーナメントですね。加えて、この取材時点でまだ出場選手が全員発表されていないという。

「えっ、16人出ていませんでしたか」

――取材前にEBIのSNSを確認すると、15人しか掲載されていませんでした。

「(EBIのSNSを見て)ゲイブリエル・ダフロンがいなくなっていますね……。最初に発表されていたのに今いないということは、直前で欠場になった可能性はあります(※本記事の掲載時点でもダフロンのバナーは復活しておらず、他の選手が掲載されている)。今、自分がやりづらいのはダフロンとマニー・ヴァスケスで」

――おそらく欠場になったであろうダフロンはともかく、ヴァスケスの強みを教えてもらえますか。

「ヴァスケスはサブミッション・ディフェンスが巧くて、かつオーバータイムで強いです。ボディトライアングルが強いので、対戦した場合に極め切れずオーバータイムに入り、競り負ける可能性もありますね。ヴァスケスのボディトライアングルからエスケープできるかどうかは、今回のトーナメントで優勝できるかどうかの大きなポイントになると思います」

――ヴァスケスとの対戦も含めて、トーナメントがどのような組み合わせになるのか……。

「2023年の時と同じように、トーナメント表も前日発表になると思います。だから考えすぎても、研究しすぎても良くないですよね。出場メンバーについてサラッと確認して、気をつけないといけない部分だけ頭に入れておく。あとは自分がやらないといけないことをパターン化し、そこに当てはめていくという感じです。

コンバット柔術は普段やっているルールとが異なるので、予測できない部分もあります。でも出場メンバーを見て、自分が一番強いんじゃないかと合理的な判断をしています。優勝して、自分が納得して死ぬことができる理由の一つにしたいと思います」

■視聴方法
28日(月・日本時間)
午前9時~ UFC Fight Pass

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