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【SUPER RIZIN04】ヘビー級GP準決=ソルドキン戦へ、上田幹雄「死んでもベイダーまで辿り着きたい」

【写真】RIZNヘビー級全体像を見えている上田だ (C)TAKUMI NAKAMURA

27日(日)にさいたまスーパーアリーナで開催される超RIZIN04で行われるRIZIN World GP2025ヘビー級トーナメント。その準決勝で上田幹雄がアレクサンダー・ソルダトキンと対戦する。
Text by Takumi Nakamura

5月のRIZIN男祭りから開幕したヘビー級GP。1回戦で上田はシビサイ頌真を空手仕込みの下段=インローでKOし、日本人として唯一の2回戦進出を決めた。空手からMMAに転向して7戦を戦い、MMAの技術はもちろん、MMA仕様の調整・練習方法やラウンド制の戦い方を学び、あらゆる面でMMAファイターとして変貌を遂げている。

しかし期待と注目を集めたスタートしたヘビー級GPは重量級ならではの迫力が伝わらない判定決着が続き、ファンの間でも否定的な声も少なくない。ネガティブな空気もあるなか、上田は「決勝が終わった時にやっぱりヘビー級はすげえなと思ってもらえればいい」と静かに闘志を燃やしている。


――大会前のインタビューありがとうございます(※取材は14日に行われた)。いわゆる追い込む練習はいつまで続ける予定ですか。

「試合1週間前までは動きますね。昨日(日曜日)がオフだったので、今週いっぱいがラストの追い込み期間です」

――試合一週間前まで追い込むというのは空手時代と同じですか。

「空手時代は出る大会によって変えていました。例えば世界大会は大会そのものが3日間あるので、追い込み期間は初日の10日前くらいまでにしていました。少し失礼な言い方かもしれませんが、優勝を目指す選手は一回戦や二回戦をアップのような感じにして、試合をしながら徐々に上げていくイメージで作り上げてきましたね」

――数日間に分けてトーナメントを行う空手と1日1試合のMMAでは戦い方も調整方法も全く違いますよね。

「MMAは1日1試合に100パーセントを出しきるわけなので感覚は違いますね。あとは試合が決まってからの準備という部分でも、空手は11月に全日本大会があるんですけど、年間の試合日程が決まっているので、基本的に1年は準備期間があるんですよ。世界大会になると4年に一回なので年単位で予定を組むんですね。プロの試合は2~3カ月前に決まれば早い方なので、試合が決まってからの練習や調整スケジュールに慣れるのに時間がかかりましたね」

――なるほど。仮に3カ月前に試合が決まったとしても、空手の感覚からすると大会直前で決まるようなものですよね。

「そうですね。以前は試合が決まると『2カ月しかない』と思って慌てていきなり追い込んでいたんですけど、今は『2カ月あるんだ』と思って練習を組み立てて、冷静な気持ちで準備できるようになりました。追い込み機関の初期に相手をイメージした技術練習を多めにやって、それから対人練習で追い込んでいって…というサイクルが出来てきたかなと思います」

――トーナメント1回戦のシビサイ頌真戦はインローキックでのKO勝利でした。あの試合を振り返っていただけますか。

「シビサイ選手とは一緒に練習もしていて、練習仲間だからやりたくないというわけではなく(シビサイが)今回のトーナメントで唯一のグラップラーだったんで、そこに正直ちょっと不安がありましたね」

――ファイトスタイル的にシビサイ戦はは避けたかったのですね。

「僕がスダリオ(剛)に勝ったあと『まだ日本のヘビー級にはシビサイもいる』と言われていて、シビサイ選手に勝ってトーナメントで優勝することに意味があると思っていたんですね。それで僕はお互い勝ち上がって決勝でやりたいと言っていたんですけど、まさかの1回戦でシビサイ選手とやることになって。ここで来たかという気持ちもありつつ、シビサイ選手と戦えたことはよかったです」

――見ている側からすると日本人対決に勝って、日本代表としてトーナメントを勝ち進むという形になったと思います。

「だから結果オーライという感じですね。今回はお互い練習場所が被ることも多かったんで、時間をずらしてもらったり、色々と苦労したんですよ。でもそれも普段は味わえないことなので、いい経験が出来たかなと思います」

――フィニッシュについては色々な媒体でも聞かれていると思いますが、構えた時点でローが入るだろうという感覚があったのですか。

「とにかく寝技の展開には行きたくなかったし、仮に行ったとしても立てるような練習はしてきました。ただやっぱり試合は危なげなく勝つことが大事だし、今回はトーナメントだったので、怪我なく勝つことも大事だと思っていました。そういった意味で今回はとにかく1Rはジャブとストレート、ローキック。たまに少し上に打撃を振るぐらいにしておこうと。あまり(打撃を)入れ込むとテイクダウンされる可能性もあるので、そういう作戦でした。

それで逆に少しリラックスできたというか、すごく冷静に1発1発叩き込めましたね。下段が効いたのは、KOする少し前の下段だったんですけど、結構足が飛んでいて、効いてくれるかな?という感覚はありました。ただ、自分の悪い癖でもあるんですけど、早く仕留めすぎちゃうというか。今回は髙阪(剛)さんとも話をして『3R戦える体を作ってきたんだから冷静にやっていこう』、『2Rで倒すくらいのイメージでもいいじゃん』と。それで冷静にロー、ロー、ローでいったら倒れたので、結果的に良かったかなと思います」

――なるほど。余計なことはしない、と。

「そうですね。試合としては1分ちょっとだったんですけど、すごくMMAファイターとして成長できたと思います。空手の試合はラウンド制じゃないので、本戦3分間で決着をつける。それが出来なかったら延長→再延長と続くので、最初の3分=1Rで決着をつける癖がついていたんです。だからMMAの試合でもラウンドの最後に『ラスト30秒!』と言われたら、ここで仕掛けなきゃいけないみたいな感覚だったんです」

――MMAの残り30秒は5分間の最後の30秒ですが、空手ではその残り30秒でどう印象付けるかで勝敗が決まることが多いですからね。

「与えられたらラウンドをどう戦うか、3Rをどう組み立てるかという考え方は髙阪さんに教わったものですし、そういった意味でも、髙阪さんは僕をMMAファイターにしてくれたと思います」

――組み技・寝技があるというだけでなく、ラウンド制で戦うという意味でもMMAファイターになってきたわけですね。

「例えば追い込みで3R連続でスパーリングをやったりするんですけど、空手時代は序盤動きが多くて後半は失速するというのがよくあることなんですね。で、ちょっと今回は迷いもあってか、空手的な追い込み方をしてしまっていたんです。そうしたら先週末の土曜日にいきなりぱっと目覚めて『3Rの試合なんだからフルラウンドやるスタミナをつければいいんだよ』ということに気づいて冷静になれたんです。そうしたらここ数日間で一気に変わって、追い込みの最後の最後でそこに気づけたのはよかったです」

――SNSに「覚醒した」という投稿をしていたのはそういう理由があったのですね。

「試合までの追い込み方、ピークの持っていき方、試合の組み立て方…そういったことも含めて空手とMMAが全く違うということが本当にここ最近分かってきたなと思います。シビサイ選手とやった試合も1RKOでしたけど、あのまま判定になっても行けていたんじゃないかなと思うような試合でした」

――シビサイ戦を見ていても上田選手の打撃は捨てる攻撃がなく、一発一発に破壊力があってフィニッシュにつながるもので、空手で培った攻撃力がMMAに合っていると思います。

「すごく簡単な言い方をすると、試合はMMAルールですけど、空手ルールだったら僕は絶対に負けないわけですよ。だから自分が空手をやっていた頃のような冷静さを持って戦えたら、絶対に負けることはないという自信があります。当然MMAルールで試合をすれば、空手にない攻防や寝技で負けるかもしれないという緊張感を持ってやりますが、冷静に相手を見て1発1発蹴り込んでくというのは自分の強さが出せるところではあるので、それを出していけば自ずと勝利が見えてくるのではないかなと思います」

――連打やコンビネーションではなく、単発で効かせるという意味ではキックよりもMMAの方がやりやすいですか。

「そうですね。僕が空手からプロに転向するとき、みんなから『なんでキックじゃないの?』と散々言われたんですけど、どうしてもボクシンググローブがやりにくくて。もちろんMMAは組み技があるんで、別のやりにくさを感じることはありますが、打撃だけで言うとOFGやMMAの方がやりやすさを感じますね」

――対戦相手のアレクサンダー・ソルダトキンにはどのような印象を持っていますか。

「キックの試合にも何試合か出ていて、本当にバリバリのストライカーだなと思います。あとはロシア出身の選手なので体の素の力があるというか、技術がある・ないは別にしてパワーを使って組みに来るところもあるのかなと。お互いの相性的につまらない試合にはならないと思うので、倒し・倒されの試合になると思います」

――打撃の攻防が多くなるとは思いますが、そのなかでもMMAらしい攻防も混ぜて戦いたいですか。

「そうですね。ソルダトキンの一回戦の試合を見ると、スタミナに難のある選手だと思うんで、そこを突くために組みを使うこともあるでしょうし、それで相手にストレスを与えることもできると思います。その中で自分の強みで勝っていく。自分はMMAではストライカーなので、最後は立ち技で決着がつくと思います」

――昨年大晦日にキム・テインをKOしたヒザ蹴りも組みの攻防から繰り出したものでしたよね。

「ああいう技も含めてMMAは色んな打撃が使えるし、僕がやってきた空手がそこに上乗せされて、僕にしかできない技が増えてきていると思います。自分でもどういう打撃が飛び出すか分からないところがあるので、そこは自分も楽しみですね」

――いざ試合になると思わぬ攻撃が出ることもあるのですか。

「あのヒザ蹴りも僕の中では『ここでヒザが当たる!』と思って出したというより『ここでヒザが当たるかもな』と思ってヒザを上げたら当たった感じなんですよ。シビサイ戦も相手を見て下段を蹴って、ちょっとずつ効いているのが分かったからいけるというか。こうやって自分の蹴りが通用するんだというのを試合をやりながら分かった感じなんですよね。そうやって自分自身でも分からないところがたくさんあるので、試合をして成長出来ているところが自分でも楽しみですね」

――まさに空手時代はそういった技が無意識で出ていたということですね。

「そうですね。空手はMMAよりもやれることが限られているルールなので、その中で考えて考えて練習しつつ、それを無意識で出せていたんです。MMAも少しずつその域に達してきているんじゃないかなと思っています」

――ヘビー級トーナメントの1回戦は上田選手以外の試合はすべて判定決着となり、ヘビー級らしからぬ試合が続いてしました。トーナメントそのものに批判的な声もありますが、それについては率直にどう感じていますか。

「ふざけんなよって感じです(苦笑)。本当にムカつくし、悔しいですよ。でもなんだろうな……それだけトーナメントに対する評価や期待が高かったんだと思うんですよ。久々にヘビー級のトーナメントが開催されるということで、PRIDE時代を思い出してくれたファンの人たちもいたと思いますし。ただ1回戦はそれを裏切る試合内容が多かったと思います。準決勝はマイナスからのスタートになったかもしれませんが、逆にその低評価を利用して、すごい試合にすることで、1回戦は偶然ああなっただけだと思わせたいですね」

――僕も公開計量を取材していて、ヘビー級の選手が出てくると会場がどよめみますし、ヘビー級にしかできないインパクトはあると思っています。

「ヘビー級トーナメントはすごくいいスケジュールで試合を組んでもらっていると思うんですよ。1回戦が東京ドームの男祭り、準決勝がさいたまスーパーアリーナの超RIZIN、決勝が9月のIGアリーナ、そして大晦日に優勝者がライアン・ベイダーと戦えるわけじゃないですか。僕は決勝が終わった時にやっぱりヘビー級はすげえなと思ってもらえればいいと思うし、今はまだトーナメントの途中なので周りは言いたいことを言っておけばいいよという気持ちと、僕は僕なりに優勝とベイダー戦しか見ていないので、そこに向けて突っ走っていこうかなと思います」

――トーナメントの優勝者がベイダーと戦えると聞いた時は驚きましたか。

「最初はファンの人たちがSNSで『BellatorがPFLに買収されて、ベイダーの契約もフリーになったらしい。もしかしたらRIZINに来るかもしれない』と話題にしていて、そういう噂もあるんだと思って見ていたんですよ。そうしたら正式にベイダーがRIZINに出ることが決まって、ファンの人たちの読みは鋭いなと思いました(笑)」

――それこそ日本にいながらベイダーのようなヘビー級のトップ選手と戦える機会はなかなかないですよね。

「ヘビー級はどの団体も選手が少なくて、重宝されている階級だと思います。そんな中でずっとヘビー級のトップを走ってきて(エメリヤーエンコ・)ヒョードルにも2回勝っているベイダーが来るわけだから、ベイダーへの期待感も高まるだろうし、そこを超えることが出来たら空手を辞めてMMAに来た意味があるのかなと思います。だからこそトーナメントで必ず優勝して、死んでもベイダーまで辿り着きたいです」

――今年はグランプリも含めて、上田選手にとっては燃える1年ですね。

「めちゃめちゃ燃えいてます。ここまで目に見えて分かりやすいチャンスが来ることは人生で何回もないと思うんですよ。RIZINとしても今回のグランプリが盛り上がるかどうかで、これからのヘビー級の扱いが決まってくると思うし、日本人でこのチャンスを掴めるのは僕一人という状況です。だから調子がいい・悪いとか、そういう次元で戦っていないというか。本当に空手時代の世界大会前の感覚にすごく似ているんですよ。MMAではいかに自分の動きがいい状態で大会当日迎えられるか、自分が勝つことだけが人生だと思っていたのですが、今回は自分が勝つか負けるかではなくて、お前は負けちゃいけないんだよという期待やプレッシャーを周りからも感じるし、僕自身も色んなものを背負って練習できていて、すごくいい状態です。どんな体調や調子で当日を迎えるか分かりませんが、そんなことはどうでもよくて僕の覚悟を見てもらえると思います」

――確かにここまでタイミングがあった明確なチャンスはないですよね。

「勝ち残った日本人が1人ですからね。もちろんスダリオが勝ってくれた方が盛り上がったとは思うんですけど、別の言い方をすると僕1人になったことで、ある意味僕への注目度は上がっていると思います。そういうシチュエーションで試合出来ることが楽しみですね。今はずっとマグマの中にいて熱くてたぎっていて、たまに顔を出して空気を吸わないと苦しいみたいな感じで…。何とも言えない色んな感情がうずまいていますが、あとはプロとして試合という場で自分を見せるだけ。試合までの時間はもがいてもがいて、試合で最高の結果を見せたいと思います」


■視聴方法(予定)
7月27日(日)
午後1時00分~ ABEMA、U-NEXT、RIZIN LIVE、RIZIN100CLUB、スカパー!

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