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【UFC】中村倫也のMMAファイター科学─02─「タルボットと戦うには、本気の嘘をつくしかない」

【写真】1時間の及ぶインタビューの終了をスタバのテラス席で待っていてくれた盟友=中村京一郎と。好きなことをやっている男は、子供みたいだ。この後、2人でシングルレッグをかけてじゃれあっていた (C)MMAPLANET

右の拳も癒えつつあり、オクタゴン3戦目を睨み河名マストのRoad to UFC準決勝のセコンドを務めた後、ATTで2カ月の出稽古に挑む中村倫也インタビュー第2弾。
Text by Manabu Takashima

自然治癒という選択の裏に体の構造を理解した中村のMMAとの向き合い方が理解できたうえで、今回はUFCで求められているアグレッシブ・フィニッシュMMAに関して尋ねた。この一点においても、心と体の繋がりという着眼点を持つ中村倫也の独特のMMAの捉え方が伝わってきた。

<中村倫也インタビューPart.01はコチラから>


──UFCでもRIZINでもファイターが『出たい』というのは自由ですが、そこで戦うには結果は当然として、何を求められているのか理解したファイトをしないといけない。

「ハイ。勝てば良いというのは、UFCではRoad to UFCだけだと思います。コンテンダーシリーズでは、それはできないです」

──コンテンダーシリーズに出るためのLFAやCombate Global、あるいはEternal MMAなどフィーダーショーでも同じことが求められてきます。結果としてコンテンダーシリーズから契約した選手は、安定性が欠けるのかという風にも見えます。

「勝って、負けてという風になるかもしれないですが、それでもそういうファイトを求められていて、そういう戦い方でも勝ち続ける選手がやはりいます。ショーン・オマリーなんかが、その最たるものですよね」

──その部分でいえばUFCバンタム級でもペイトン・タルボットがUFC303で19秒KO、UFC ESPN59ではモンテル・ジャクソンが18秒KO勝ちとDWCS出身ファイターが印象的な勝利を挙げています。タルボットにインタビューをしたのですが、勝ち負けが二の次でなく、そういう試合をして勝つというメンタルになっていると感じました。彼らのマインドと、倫也選手のマインドを比較すると、違いはあるのでしょうか。

「いや……それ、良いところをついてきますよね(笑)。そうなんですよ、そこは……。いやぁ……。今も言ったようにショーン・オマリーは、そういうスタイルで勝ち続けている。上の方はそういうヤツらばかりなんですよね。

本当に我儘なヤツしか、いないです。自由で我儘で、相手のことを考えないように生きている……からこそ、あの場にいて先に当てることができる。そういうことはあると思います。協調性なんて、ない。

同時にオクタゴンに入ってホーンが鳴った時に、本当に本当の準備ができているヤツなんて、なかなかいないんです。僕がデビュー戦で戦ったファーニー・ガルシアも、そこまでできていなかった。2戦目のカルロス・ヴェラも最初は、ちょっと準備ができていなかった。

試合開始が告げられた時、喧嘩のようにいつでもいけるという熱量があって、でも落ち着いている。そういう状態を対戦相手と共存している感じで、始めたい。でも、それってめっちゃ難しくて。こういうことは、UFCで戦うようになって分かりました。

第一その前段階でオクタゴンの出口に鍵がかかる。リングだと試合中のロープから頭が出たり、キャンバスから体を出すことができます。でもケージはドアを閉められると、逃げ道が無くなるんですよね」

──撮影をしていても、あのカチン、カチンと錠が掛かる時に『もう、この子たちは逃げるところなない』と感じます。

「それって、セコンドでも感じることなんです」

──それでもホーンが鳴った時でも、完全な準備はできていないということなのですね。

「あの音が本当に心の底から心地良い音に感じるのか。ワクワクする音になっているのか。名前が挙がった2人。特にペイトン・タルボットは『みんなに喜んでもらえる時間がやってきた』という風に心の底から思っている。そういうヤツ。100パーセント、ハリウッドスター並みになりきっている感じがあります」

──倫也選手は、そこまでの心境はなかった?

「そこを目指してはいますが、上手くカチーンとハマったかというとそうではないです」

──UFCで生き残るには、何をしないといけないか分かっていても、その心境になれるわけではないと。

「それができるかどうか。その差はデカいです。上の方にいるヤツら、下の方で今から上がって行くヤツら、ああいう風に天性でそういうモノを身に着けているヤツがいる。それがUFCですね。

そうでないと、いくら備わっているからといって、相手云々でもなくUFCでそれができるのかっていうことですよ。本当に難しい。落ち着いていると、利用できる体重の比重も多い。地に足が着いている。『相手、浮いてんな』って分かると、自分の方が根っこが張っているんだから『やってみよっ』と多分思える。逆に自分が浮いていると、『いや、ちょっと待って』という気持ちになる」

──自分が浮いていると自覚して、迷いが生じる選手が多くいるとも思えないのですが。スタンスと、腰の位置でなく。重心……心の位置を把握できるものですか。

「ハイ、ハイ。ハイ。そうですね。僕は足の裏の動きとかを見つめ直して、そういう心技体が繋がっていることが意識できるようになりました。体を見直すことで、心を落とし方が分かる。繋がっていることが分かったんです。ペイトン・タルボットが、そういう風に考えているとは思わないです。ただ、自然体でデキているのかと。

そういう意味ではモンテル・ジャクソンの方が、最初は固かったですね。そこを身体能力の高さでカバーできていました。ペイトン・タルボットは、そういうこともなかったです」

──いやぁ、興味深いです。

「モンテル・ジャクソンだと、あそこを外して合わせることができれば倒せる。ペイトン・タルボットはそこすら、いなしてくるイメージです。モンテル・ジャクソンは、自分より質量が高い相手に対して、攻撃を仕掛けてガツンとやれることはあるかと思います。彼には力みがあるので。それが表情、顔に出ています。歯の食いしばりがあったのがモンテル・ジャクソンで、ペイトン・タルボットは力みが無かったです」

──もの凄く高い殺傷能力があっても冷静、そしてその場が楽しめているのがペイトン・タルボットということですか。

「ハイ。体がスムーズに動きます。固まっている場所がない。感覚なんですけど、そうするとエネルギーが途切れない。力むと、そこで遮断されますからね。結局、水の中を走っている電気信号だから。どこかで止めちゃうと、走れなくなってしまいます。

だからペイトン・タルボットを倒すには、本気の嘘をつくしかないよなって」

──あぁ、浮気じゃないよ。毎回、本気だよっていうヤツですね。

「……。それと同じかどうかは分からないですけどね(苦笑)。本気の嘘に付き合ってもらうか。もしくは組んで漬けて、それまでの自分の考えを捨てよっかなという気持ちにさせるのか(笑)。そうしないと、ダメですね。タルボットを相手にした時は」

──騙し合いとか、そういうことでなく自己肯定すら利用するか、それを諦めさせるのか。いやぁ、それは凄まじいですよ。

「MMAだから、ここまで人間の生の感情が出ると僕は思っています。レースのことは分からないですけど、F1レーサーとか300キロ以上でドライブして、ずっと張り詰めたままだと思うんです。でも、全てが見えてないといけない。命が掛かっているからこそ、どれだけのハイスピードで走らせていても、ドライブは丁寧で。そういう究極の状態で、僕は戦いたい。そして、自分のアートを相手に押し付ける」

<この項、続く

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