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お蔵入り厳禁【UFC311】来年1月ガフロフ戦決定=中村倫也のMMAファイター科学─03─「武術」&「掌底」

【写真】ここから左右の拳、同時に右を見た目ではチョコンと殴られたパンチが効いたという…… (C)MMAPLANET

来年2025年1月19日(日・現地時間)にサウジアラビアで開催されるUFC311でムイン・ガフロフ戦が決まった中村倫也。
Text by Manabu Takashima

8月のRoad to UFC準決勝大会に河名マストのセコンドとして渡米し、今月20日の帰国までATTでトレーニング中の中村は同インタビューが行われた7月下旬には10月、もしくは11月に北米のイベント出場を第一に試合機会を伺っていた。

渡米後は11月のマカオ大会を含め、年内に目標を再設定も結果として来年に中東で戦うことになった。対戦相手はタジキスタンのガフロフ──つまりはムスリム連合ということで、中村にとってはアウェイでの戦いとなる。

お蔵入り厳禁──そのストイックさと研究熱心さはJ-MMA界でも右に出る者がいないといっても過言でない中村倫也が語っていた科学と武術、そして掌底を修得したいという言葉の真意をお届けしたい。

<中村倫也インタビューPart.01はコチラから>
<中村倫也インタビューPart.02はコチラから>


科学を追求し続けて結論めいたモノが見えてくると、先にやっているのは武術なんです

──その通りかもしれないですね。レーシングドライバーと倫也選手の対談も面白そうですね。

「会って、話を訊いてみたいですね」

──横Gが懸かるなかで、時速300キロで爆走する物体をコントロールしながら、燃料の濃さを調節する。競争相手がいるなかでの、瞬時の判断が求められる。それがレーシングドライバーですし。

「ヤバいッスね。でも、究極のところはそういう脳の働きを求めているわけで。相手の殺気を感じながら、気にせず戦うというのはそういうことなんだと思います」

──倫也選手の面白きところは科学的な部分を追求しているのに、武術的な要素も同居できる。科学に進むと、武をファンタージに感じる人が大半だと思います。

「結局、科学を追求し続けて結論めいたモノが見えてくると、先にやっているのは武術なんです。『四股じゃん』、『型じゃん』って。日本人が時間を掛けて創り上げてきたものは凄いです」

──半面、伝えることが難しい。究極は感覚、体に入れることで書き記すどころか、口伝すらない。それも武術です。

「でも、そのなかに全て理由があって、繰り返すができるものなので」

──仰る通りかと。感覚、感性でいえばボクシングのパンチの方がそうだと思います。打ち方を教わっても、威力は違う。全員ができるモノではない。

「皆がメイウェザーのパンチを打てるということではないですからね」

──型という設計図があるのが武術で。再現性も実はある。それが全ての武術に当てはまるものではないでしょうが、2月の試合前に倫也選手と摔跤の話になり、台湾で八卦掌を教わりたいという驚愕すべき言葉も最近になって聞かれました。

「掌、掌底攻撃……パンチが乗らない時に、掌で壁を叩いてみたことがあったんです。掌底のシャドーをやると、気持ちがメチャクチャ良くなって。掌底に力が入る、そこで打てることができるからこそ延長線上にパンチがあるんじゃないかと。たまたまMMAグローブという便利なモノがあって、握って使っているけど。その前に掌に綺麗に伝えることが、まずは大事なことじゃないかと考えています。掌に力を伝えることが、拳を握った状態の攻撃に通じていると」

──断言してしますが、私は八卦掌のことはまるで分かっていないです。なので、倫也選手が何かを掴むことができるのかも全く目算は立ちません。

「いや、それでも台湾にいって体感できるなら楽しみでしょうがないです。やはり台湾なんですよね、中国大陸ではなく」

──私の知識でしかないですが、摔跤に関しては台湾と中国は別モノかと思います。中国の摔跤は競技ですね。摔跤ルールで戦うレスリング。対して、台湾では功夫の母であり最終形でもある。徒手格闘術と武器術、ツボを攻撃するような摔跤が残っている。その分、競技レベルでは大陸より低いかと思いますが。と同時に中国武術でいえば、著名な武術家は文化大革命期までに大陸を去ったという話もきいたことがあります。

「なるほどぉ。気をいやぁ、練って伝達させる武術に触れたいです。掌底の話になると、腕を伸ばす。真っ直ぐでなく、湾曲。曲げるのではなく、伸ばして湾曲の状態。それが一番強いんじゃないかとか思っていて、そういう視点で八卦掌では確認したいこともあります。

肩甲骨から、小指。その繋がり……遠くから引っ張って来ることができるパンチがありますが、それをワキを閉めて力の入る状態で出すことができるのか。気……というか、やはり『内なる力』という言葉に辿り着いて。力は内側で育てる。捻り、捩じりで創り出す力もあります。ただ、グラウンドでのパウンドを考えた時、グローブを握るとアンコがあってここに厚みが出ます。

その数センチが存在しているよりも、アンコない掌で打つと距離が出せる。だいたい15センチぐらい違ってくるんで、ダメージの与えられた方が全体違います。それは試合を戦いながらでも、思ったんです。特にグラウンドでは、めちぇくちゃ使えると踏んでいます」

──倫也選手、与え方で与えられ方という表現でしたが……。

「あっ、これは上から殴るということではないので違う話になってくるかもしれないのですが、ファーニー・ガルシア戦の2Rに上四方で抑えていて、ヒジから先を動かすような左右の同時パンチを出してきて。敢えて打たしていたら、3発目のヤツがメッチャ効きました」

──えっ、アレが効いたのですか!!

「ハイ、逃がすことができなかったです。『なんだよ、コレ。ふざけてんのか』って思っていたら、3発目に耳のところを同時に殴られるとグイーンって効かされて。そういう自分が受けたことだからこそ、逆に積極的に使っていく部分じゃないかと。あの左右両方パンチはどれだけパンチを逃がすのが上手い選手でも、逃がすことができないですよ。見栄えは良くないかもしれないですけど、効果があるなら取り入れたいと思っています。

MMAはまだ30年しか歴史がなくて、いくらでも可能性は残っているはずで。それに掌底を応用することもできます。無理に拳を当てて衝撃を当てようとするから体が開きます。でも掌底でインパクトを残すなら、体をベたづけのままでも打てる。つまりは内側からの攻撃を使いたい。だから武術なんですよ。ぜひとも次の試合を終えて、そういう武術を体験してみたいですね」

ずっと気を張り詰めていると、想像力が欠けてしまう

──その次戦は?

「10月、11月……ランカーはまだでしょうしトップ15を目指している勢力のなかで戦っている選手と、もう1、2回は戦うことになるはずで。次にタルボットだって全然あると思います。ただ数が多いので、目星をつけることもできないですし。言われた相手と戦う。そのなかで、どういう性格なのか見る目も養われてきて、研究もUFCと契約した当初よりも相手のことを研究できると思います。やはり、ファイトは人間性が出るものなので。

だからこそ普段から常識人でないというと語弊がありますが、鈴木崇矢や中村京一郎というちょっと外れているヤツらと接していこうと(笑)」

──2人は倫也選手からみて、イっているところがあるのですか。

「ありますね。それこそスタバだろうが、どこだろうがワキを差してきたり、カーフを蹴ってきますからね」

──それははた迷惑です(笑)。

「ああいう連中……純粋に格闘技が好きだからやっている人間のところに戻れるのは、自分にとっても凄く良いことです。僕も30歳手前なので、あのテンションに染まるのではなく選択をして一緒にいる。そういう風にしていられるのは、やはりMMAファイターとして良い環境にいることができていると思います。

息抜き……彼らと過ごす時間、そしてMMAに取り組むうえで武術もそうなんです。息を抜く瞬間、そこで発見がある。ずっと気を張り詰めていると、視野も狭くなり想像力が欠けてしまいますからね。力が抜けた瞬間、そこでインスピレーション──想像力を広げていきたいです」

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