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【Special】月刊、良太郎のこの一番:1月 プロハースカ×ヒル「対面して分かる懐の深さと独特の距離」

【写真】体の流れに任せたウニャウニャした動きの中には確固たる己のスタイルがある。それがプロハースカだ(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2025年1月の一番──1月18日に行われたUFC311のイリー・プロハースカ×ジャマール・ヒル、プロハースカの鮮やかな一撃が生んだKO劇を語らおう。


――1月の一番としてイリー・プロハースカ×ジャマール・ヒルの試合をピックアップしていただきました。この試合は日本でも活躍したプロハースカの見事なKO勝利でした。

「実は去年イリーが来日した時にミットを持ったことがあったんです。最初は1Rだけの予定だったのが、僕のことを気に入ってくれて、結局30分くらいミットを持ったんですけど(笑)。イリーのファイトスタイルは僕好みではあるのですが、正直試合を見ていて、彼のどこが強いのか分からない部分があった。でも実際に対峙してミットを持ってみると、技術のベースがしっかりしていて、ものすごく手が長くて懐が深い。またイリーはムエタイ上がりで首相撲もしっかり使えるので(打撃の)距離がゼロになっても首をロックしてヒジ・ヒザをガンガン入れてくる。僕がミットを持った時も首相撲からヒジをガンガン入れてきて、あの距離の打撃や攻防も上手かったですね

 ヒル戦で言うと、ヒルは基本的にはサウスポーでスイッチして戦うタイプ。イリーがダウンを奪った場面は、イリーがサウスポーにスイッチして相四つ同士になったところで、ヒルの右フックをスウェーバックして左ストレート→右フックのカウンターを当てて倒しました。ただ、そこまでのプロセスが完璧だったのかと言われると、結構ヒルの打撃を被弾しているんですよね。イリーは構えの左右関係なく、手で相手を触って距離感を取りながら戦うのですが、いかんせんスウェーバックが自分の首を後ろに下げるだけなので危ない避け方ではあるんですよ。現にそこを狙われてアレックス・ペレイラのKOされています。ただ今回はペレイラにやられたことをヒルにやり返したような形ですよね。

 打撃の距離感で言ったら、ヒルも良かった距離が何度かあったんです。でも、イリ―のように腰を落として手を伸ばして、いきなりパッと右ストレートで入ってくる。右ストレートを出しながら右足も前に出してサウスポーにスイッチする。そういう超変則型のスイッチャーとは相性が悪かったですね。もちろんイリーのフィニッシュブローは相当練り込んで打ってる打ち方だとは思います」

――プロハースカは武道家というイメージが強いですが、格闘技的にはムエタイのバックボーンが大きいんですね。

「相当ムエタイは活きていると思いますね。手の使い方とか、首相撲のロックとか、ケージ際でのヒジ・ヒザとか。自分の手を使ったボディワークのコントロールがすごく上手いです。そういうことも実際にミットを持った人じゃ分からないと思います。僕もそれまでは他の人たちと同じように『ウニャウニャしてるのになんか強いんだよな』と思っていたので(笑)」

――確かにウニャウニャしてますね(笑)。

「あれは自分がやられる可能性があるから、とてつもなく危険なんですよ。イリーのように色んなテクニックがあって、懐が深いからこそ出来るスタイルだと思います。ミットでも『そこから打つの?』と思うくらい遠いですし、イゴール(・タナベ)と目慣らしのスパーをやった時もやっぱり距離が遠いんですよね。それでいてあの技術体型なので、かなり独特の距離感だと思います。まだ反応速度もそこまで落ちてないですし」

――ガードを下げて一か八かで打ち合っているように見えますが、プロハースカ本人は相手のパンチが見えているのでしょうか。

「そこまで計算してやっているとは思わないですが、体の流れの通りにはやっていると思います。さっきも話したように、右ストレートを打ったら、そのまま右足を踏み込んでサウスポーにスイッチする。そうなった時にこれをやる…とか。ヒルの右フックに対してステップバックして左ストレートから返しの右フックを当てた場面も、あれは体に染みついた動きだと思います。で、展開的に相手が近づいてきたら首相撲を展開して距離をリセットも出来る、と。ペレイラと比べると、ペレイラはしっかり構えを作って、そのスタンスの中で戦う。イリーはスタンスを崩しながらも体の流れに合わせて戦う。その部分でイリーにとってペレイラは相性が悪いですよね。イリーがウニャウニャ動いても、ペレイラはそれを無視して同じ構えのままどんどん入ってきちゃうので」

――プロハースカのウニャウニャに動じないのがぺレイラだったということですね。

「そうです。ペレイラはイリーがいくらウニャウニャ動こうが、スイッチしようが、フェイントをかけてこようが、一切動じてなかったなので。逆にヒルに対してはイリーのウニャウニャした動きがばっちりとハマった感じです」

――ペレイラと同じようにプロハースカも自分の体型や持っている技術をミックスして自分のスタイルを作っているんですね。

「そう思います。僕はイリーがスイッチするのを知っていたので、ミットを持った時に『スイッチしてもOK』と言ったのですが、オーソドックスに構えた時に打つワンツーも綺麗なんですよ。試合ではウニャウニャ動くように見えますが、本人なりにしっかり統率が取れた動きがあるのだと思います」

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