【Special】月刊、良太郎の一番:3月 ペレイラ×アンカラエフ「前に出る姿勢と自信が生んだ左」
【写真】ペレイラに何かしらの異変があったにせよ、攻撃を散らして自信を持って前に出る――それがアンカラエフの勝利につながった(C)Zuffa/UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura
大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2025年3月の一番──3月8日に行われたUFC313のアレックス・ポアタン・ペレイラ×マゴメド・アンカラエフのUFC世界ライトヘビー級選手権試合。この連載でも触れてきたペレイラの圧倒的な打撃力&スキルに触れてきたが、アンカラエフがそこをどう乗り越えたかについて語らおう。
――今回はゴールデンウイーク特別企画として3月・4月の今月の一番を一気読み…ということではなく、取材そのものが遅れてしまって申し訳ありません!改めて3月の一番ではアレックス・ポアタン・ペレイラとマゴメド・アンカラエフの試合を選んでいただきました。良太郎さんはペレイラの打撃スキルを高く評価していましたが、そのペレイラに対してアンカラエフが打撃でプレッシャーをかける展開で勝利を掴みました。率直な試合の感想から聞かせてもらえますか。
「まず本人や外部からのコメントはなかったですが、調子が良いか悪いかで言ったら、間違いなくペレイラは調子が良くなかったと思います。ただオクタゴンに上がって試合する以上、正直そこは関係ないし、もしかしたらお互い怪我をしている可能性もあるわけで、オクタゴンに上がった時点でフェアな状態だったと思います。その上で打撃の理論や技術を抜いて考えた場合、アンカラエフがペレイラに対して恐怖心を持たなかった、ビビらなかったことは大きいです。今までペレイラにやられてきた選手はペレイラの打撃に引いてカーフと三日月蹴りを蹴られる→ペレイラの制空権に入ったところでパンチをもらっていたのですが、この試合ではアンカラエフが引くことなく自分から展開を作っていましたよね。
技術的なところで言えば1Rの時点でペレイラはカーフを空振りしているのですが、あれは距離が合っていない証拠です。基本的にペレイラはこのカーフが当たるところから三日月蹴りを刺してプレッシャーをかけて、自分の一番いい距離設定で相手を潰すところから試合を作っていくのですが、逆にアンカラエフがペレイラのカーフを空振りさせて左の前蹴りを当てていました。僕もリアルタイムで試合を見ていた時はペレイラはやっていて嫌だろうなと思ったし、インターバルの表情も良くなかった。ボディが効いたわけではなくアンカラエフの前蹴りをもらって腹に違和感があったんだと思います。それからアンカラエフの左の前蹴りがどんどん入り始めて、アンカラエフは打撃に自信を持ちましたよね」
――そして2Rにはアンカラエフが左のビッグショットを当てました。
「あの場面はアンカラエフが『俺の打撃も予想以上に当たるじゃん!』という手応えを感じて、腹を括って打撃でいったからだと思います。1Rはややペレイラにとって嫌な展開で、2Rはアンカラエフが確実に取った。3Rの大事な局面でペレイラはそれまでの流れ変えられなかったですよね。後半少しペレイラが攻撃を返し始めましたが、カーフも少ないし、三日月蹴りも刺せない。アンカラエフが試合をコントロールしていたので、5Rは無理に行かずに勝ちに徹していましたよね」
――アンカラエフは蹴りのバリエーションが豊富で、蹴りを多用したことがペレイラの強打を封じていたように見えました。あの蹴りはやはり効果的だったのでしょうか。
「アンカラエフはパンチと蹴りの散らしが上手いですね。ペレイラ自体、右の拳をそんなに振っていなかったし、万全のコンディションではなかったにしても、攻撃の潰し方もよくなかったし、制空権そのものも取れていなかった。アンカラエフのフェイントに引っかかっているからビッグヒットをもらっているわけで。結局、4Rまで試合をコントロールされていて、5Rで倒しに行くしかなかったけれど、そのエネルギーが残っていなかった。1Rが終わったあとのインターバルで椅子に座る時も、なんか元気がない顔をしてたんですよね。『今日はダメだ、動けない…』みたいな」
――確かにペレイラはいつもの覇気がなかったように感じます。
「ペレイラは不動心の選手で、何があっても動じないのですが、その不動心が少しぶれていたように思いました。逆にアンカラエフはペレイラを倒してやろうと気合い十分で、自分のゲームプランを全うしていたと思います。想定以上に自分の打撃が差し合えると思ったら前に出て、ビッグショットを当てたところなんかは自信を持って打撃を出してましたよね」
――今回のアンカラエフを見ていると、相手が強力な打撃を持っていたとしても、自分から攻撃する・前に出ることが大切なことだと感じました。
「打撃のスキルのことは置いておいてドリキュス・デュプレッシー×ショーン・ストリックランドでデュプレッシーが打撃で頑張って前に出たじゃないですか。あの姿勢は大事だと思うし、ペレイラ相手にそれが出来るというのはスキルもないと無理。アンカラエフは蹴りが上手かったし、アンカラエフの蹴りが当たる距離感で試合が進んでいたかなと思います。いつものペレイラだったら少しステップして蹴りを避ける、距離を外す、いなす…そういう動きをするんですけど、今回は蹴りをモロに受けて吹っ飛んでいましたよね。ペレイラはガードが下がり気味のファイトスタイルですけど、アンカラエフの蹴りに対する反応もあまりよくなかったし、アンカラエフの左も喰らうときには喰らってましたからね」
――ペレイラの異変を差し置いても、前に出て攻撃し続けるアンカラエフの勇気、技のバリエーション、攻撃を出し続ける…そこは評価される試合でしたか。
「僕はそうだと思います。バケモノのような攻撃を持った相手を捌きながら、25分間も戦わなければいけないので、相当精神的にもスタミナ的にも削られますよ。だから本当に(練習と対策を)やり込んでから、この試合に挑んだことが伝わってきます」
――結果的にアンカラエフは5分5Rを戦い抜きましたが、いつ倒されるか分からない状況でペレイラと25分間向かい合うことは計り知れないプレッシャーがあったと思います。
「攻撃力があるだけではなく、あのアレックス・ペレイラですからね。だからアンカラエフが『俺はペレイラと向かい合っても25分間爆弾処理し続けてやりきるんだぞ』という気迫を持って準備してきたということですよね。それがあったからこそペレイラがもう1段上の圧倒的な破壊力を出せなかったというのがあるかもしれないですね。ただ……ずっとペレイラの試合を見て来た僕からすると歯がゆい部分はありましたけどね。いつもだったら多少やりにくそうな展開でも強引にねじ伏せてきたじゃないですか。少し距離感が合わないようだったら強引に入るかカーフを蹴って、カーフを空振りするならミドルハイを蹴る。もしそれがダメだったらプレスをかけて右のパンチを振っていく。でも右の攻撃がほとんどなかったので、やっぱり何かコンディション的に問題があったのかなと思いますよね。そこは本人しか分からないことですけど。ここからまたペレイラがコンディションを戻して勝ち続けていけば、再戦の可能性も全然あると思うので、そういうところも楽しみにしていきたいです」