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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。セルジオ・ペティス✖パトリシオ・フレイレ

【写真】 この圧力が、攻撃に繋がっていなかったパトリシオ(C)BELLATOR

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たセルジオ・ペティス✖パトシリオ・フレイレ戦とは。


──セルジオ・ペティス✖パトリシオ・フレイレ、この試合を見てパトリシオは倒す気持ちはあったのか。なぜ、前に出ても打たないのか──そこが気になりました。

「結論から申し上げますと、ペティスとフレイレの試合MMAというプロ興行の看板を背負っている──数字が取れるから、登用されている選手の試合でした。

加えて技術的な面でいえば、ペティスは蹴り主体で、後ろに回りながら距離を取っていました。これに対してフレイレは左足前の送り足で動いているので、距離が遠い時には追い切れないというのはあります。だから手が出しづらい」

──仮に空手の技術でそこを解決するには、どのような手段がありますか。

「基本的な移動稽古で既に距離を詰める稽古をしています。踏み足といい──後ろ足を出して、追い突きを繰り出す」

──それこそ三本移動ではないですか。

「そのままですね。出て距離を詰めると同時に、突きが出ている。とはいえ、送り足でも距離を詰めることはできますし、殴れます。ボクシングでも当然ありますし、フルコンタクト空手でもキックボクシングでもやります。倒すこともできます。

つまりフレイレは送り足でワンツーを繰り返していますが、どういうつもりで打っているのかということですね」

──と言いますと?

「あのマイケル・チャンドラーを一発でKOした時と、今回のフレイレが同じ状態だったとは思えないです」

──それはバンタム級に落とし、体調が完璧でないということでしょうか。

「いえ、そういうこともあるかもしれないですが、主に精神面──気持ちです。なぜ、KOパンチが打てたのか。引き続き、打つにはどうすれば良いのか。そこに着目して練習しているのか。何を追い求めているのか、ですね。

フレイレにパンチ力があるなんて、一目瞭然です。でも、そのパンチの強さを毎回のように再現できるのか。パンチ力を発揮して勝てるのか。そこを追求していないと、できないです。申し訳ないですが、無難にやっていこうとしたんだと思います。

思い切りいくのは、リスクがありますから。でも、本当は思い切りいった方が上手いく。ステップで詰めるのではなくて、エネルギーで詰めている時は。距離は同じでも質量が5のステップインと、質量が10のステップインではパンチを食らった側の感覚は変わってきます。フレイレにも、そういう頃がありました。

でも、今回の試合はペティスも含め、最初から5Rを持たせるようなファイトでした。そして、あのワンツーでは追い詰めることはできない。ジャブ、ワンツーから10で行かないとペティスを追い詰めることはできないです。

ただし、そういうギラギラしたファイトは、そう長くはできないです。あのマイケル・チャンドラーにKO勝ちした時と、今のフレイレは『倒すんだ』、『トップになるんだ』というギラつき度合は絶対に違います」

──確かに目標やモチベーションはペティスを倒すことでなく、3階級制覇の名誉だったかもしれないです。

「年齢、キャリア、生活環境が変わると、選手も変わります。UFCでもコンテンダーシリーズやプレリミに出ているファイターの方が、ギラギラしているように。この試合、Bellatorの世界バンタム級王者にフェザー級王者が挑戦するということで注目を集めていましたが、大晦日のクレベル・コイケ戦にしてもフレイレには。ギラギラしている部分は一切なかったです。

フレイレも大人になり、ピットブルでなくなっているんです──私生活で。でも、ファイトになれば切り替えることはできる。ピットブルに戻る練習を指導者がさせないといけない。それは、この送り足でのワンツーをやることではないです。そういう気持ちで稽古をするのではなく、MMAのパッケージで稽古をしてきたんでしょう」

──それで結果を残しているから、変えることもないかと。

「そう。その通りなんです。だから最近は勝っても、こういう試合が続いていた。ペティスも前蹴りとか、ああいう攻撃で。あの手数で、ラウンドマストで常にラウンドを取ったに過ぎない。戦いとして、優勢ということではなかったです。それに質量はフレイレが上でした。でも、いくら排気量が大きなエンジンでも、そのエンジンがかかっていなければ何も起こらない。キーすら入っていないという見方もできます。そうなると質量は関係ない試合になります。

どれだけのレジェンドでも、ここで負けるとUFCをリリースされるという状況ではあのような試合にはならないでしょう。倒されない試合にはならず、倒すファイトをするんじゃないかと。あの日の2人と比べると、そりゃあ若い選手の方がギラついた試合をするでしょう。でも、この試合のように注目を集めることはないから、ここまでの興行の看板にはならない。数字が欲しいから出て欲しいという立場になった選手は、やっぱり『でてやっている』という感覚にもなるでしょう。

五輪のように4年に1回のようなところで戦う人は『出してもらっている』という感覚だと思います。それがやはり興行に出る看板選手と、骨の髄まで競技というところで戦っている選手の精神状況は違う。違って当然なんだと思います」

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