【Bu et Sports de combat】武術の叡智はMMAに通じる。武術の四大要素、先を取る─02─
【写真】先を取る、質量という状況は打撃の攻防だけでなく、テイクダウンにも当然のように関係してくる(C)MMAPLANET
MMAと武術は同列ではない。ただし、通じている部分が確実に存在している。ナイファンチン、クーサンクー、パッサイ、セイサンという型の稽古を行う意味と何か。
武術の四大要素──『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた』状態が存在し、無意識な状態で使える次元、レベルを高めるために型稽古が必要となってくる。そして先を取れている状態でと取れていない状態では、同じ位置関係にあるのにパンチが届く、届かないという場面を目の当たりにした。
なぜ、このような状況が起こるのか。そこには質量という物体を動かせにくい度合いを表す量が存在していた。
<先を取る──Part.01はコチラから>
水谷 変えていないです。だから、自分も驚いています。
「そこで、『なぜ、なぜ?』が出てくるので、説明が先に進まないんですよ(笑)。言葉で説明するのは……」
──いや、これはもう目の前で起こった怪奇現象ですからッ。それは『なぜか?』か知りたくなってしまいますよ。目から鱗状態ですが……立って実践していただくよりも、座っている方が2人の距離が全く同じ状態で、姿勢も同じだということが明白なので……。なぜ、水谷選手のパンチが届く時と届かない時があるのか、いや、まるで分からないです。
「それは……質量だったりしますね」
──座った状態でも、ですか!!
「重量ではなく、質量だから変わってくるのです。先が取れていると我の質量は上がり、相手の質量は下がります。取れていない時、相手の質量は上がり、我の質量が下がる」
──なぜ、先を取れている、取れない状態で質量に変化が起こるのでしょうか。
「先を取られると心理的、生理的にジェットコースターの急降下になったように浮ついて軽くなります。質量が下がっているからです。重い相手がスポンジのようになることさえあります」
──先を取る、取られるという事象と、質量が上がる、下がるという事象を結んでいるのは心理、生理的という部分になるということですか。なかなか質量と重量の違いが、やはり理解しづらいところです。
「例えばですね、精神面でいえば凄く重いパンチとそうでない拳が包丁を掴んで突き付けてきた。どちらが圧迫感を受けますか?」
──包丁です。
「ですよね。では包丁を突き付けられているのと、ピストルの銃口を向けられているのではどちらですか」
──ピストルです。
「そうなります。そこに重量は関係ない。つまり、それが質量だと考えてください。いってみればアメリカ合衆国と朝鮮民主主義共和のやりとりは、先の取り合いなのです。抑止力、専守防衛などという言葉を、先の意味が分かっていない人達が使っていますが、迎撃システムはカウンターと同じだから、失敗することがある。確率論の問題です。だから北朝鮮が頑なになっているのを対話による譲歩を持ちかける方がミサイル発射の確率を落とさせる。こちらの方が専守防衛になっているのです」
──核弾頭の有無にも関係してくるかもしれないですが、パンチ、ナイフ、ピストルにしても使い手が、それらの武器を突き付けないと意味はないですよね。
「そうです。だから真剣白羽取りなんてナンセンスで。素人が振り回す刀と、達人が使う刀は違うんです。使える人間が手にしている武器だから、質量になります。そこが重量とは違うわけですね。
質量という言葉を使うことで、あやふやになってしまうのかもしれないですが、そのまま技術レベルと置き換えて良いかと思います。つまり次元ですね。
昨年10月の澤田龍人と猿田洋祐選手の試合では、澤田は稽古で身につけつつある次元の動きができなかった。彼が持っている質量を試合で勝つようできませんでした。それは猿田選手の仕掛けに動かされてしまったからです。だから、稽古でいくら質量をあげても、試合で出せるかどうかは別問題なのです。それでも質量を上げるには稽古しかない」
──そこは反応する技も、質量も同じなのですね。
「臆してしまう。怯んでしまうと、そうなるのです。ただし、澤田の質量が下がったのは、猿田選手が澤田の質量を下げたからなのです」
<この項、続く>