【Grachan75】イム・ドンファン戦へ、三上ヘンリー大智「強くなるために格闘技をやっているので」
【写真】武道家の空気を纏っているヘンリー(C)MMAPLANET
10日(日)東京都江東区のTFTホール500で開催されるGrachan75にて、三上ヘンリー大智が韓国Road FC元ミドル級暫定王者のイム・ドンファンと対戦する。
Text by Takumi Nakamura
今年1月、フランスのヘクサゴンMMAでミドル級王者マチュー・デュクロに敗れ、プロ2敗目を喫したヘンリー。海外調整ならではの調整の難しさもありつつ、自分の打撃のプレッシャーに手応えを感じる一方で、デュクロのMMAファイターの引き出しの多さを痛感する試合でもあった。
当初は6月22日のPOUNDOUT02でイ・イサクを相手に復帰戦を行う予定だったが、イサクの欠場で試合中止。今大会でドンファンを迎え撃つこととなったが、三上は「今回は相手どうこうより、前回の試合で色んなことを学んだ自分との向き合い方というか、ケージの中で自分をどう表現するのかということに集中したい」と話す。
さらにヘンリーは白星を重ねてレコードを整えることがすべてではない、自身が考える格闘家として進むべき道についても語った。
岡見さんは『計量失敗してもいいから救急車を呼ぼう』と
――当初ヘンリー選手は6月のPOUND OUT02でイ・イサク戦が予定されていましたが、イサクが胃腸炎により欠場。イサクとは過去に何度も試合の話が挙がっていたなかで、最終的に対戦は実現しないままでした。そのなかで今回のイム・ドンファン戦が決まったわけですが、イサク戦が流れた時の気持ちは?
「試合が決まらないこと自体はすごく辛かったですが、試合に向けた練習は気合いが入るので(試合が流れても)それができたことはすごく大きかったかなと思っています」
――ではイサク戦に向けてやってきたものにプラスアルファして準備出来ている、と。
「はい。いい準備や調整ができていると思います」
――直近の試合で言うと、今年1月にフランスのHexgone MMAでミドル級王者マチュー・デュクロに挑戦し、判定負けという結果でした。あの試合を振り返ってもらえますか。
「本当に色んな要素があって、それが結果に絡んだなと思います。1つは調整方法というか水抜きですね。あの時は1日で13キロ水抜きしたんですけど……」
――13キロ! 普段からそのくらい水抜きしているのですか。
「そうですね。デビュー戦は89キロから水抜きしたんですけど3時間で落ちたんです。それで岡見さんとも話して、もう少し(水で抜く)量を乗せてもいいだろうということで、95キロくらいから落とすようになりました。だから無計画に落としているわけではなくて、チームでも共有したうえで設定している量なんです」
――そうだったんですね。
「だから今まで体調を崩すこともなかったのですが、あの時はめちゃくちゃ水抜きがしんどくて、セコンドについていた岡見(勇信)さんは『計量失敗してもいいから救急車を呼ぼう』という感じになっていて(苦笑)。結局計量はクリアして試合はできたんですけど、フィジカルの部分でのコンディションがあんまり良くなかったと思います。試合当日は別に気にはしなかったんですけど、客観的に映像で見ても、やっぱりなんか自分の動きではなかったかなと思うので。
あとは気持ちの面でも、これも水拭きの影響だったのか分からないですけど、ちょっとネガティブになっていたというか。試合中にラウンドを取られると『やばい、このラウンドを取られた。どうしよう…どうしよう…』みたいな感じで、ものすごく焦ってしまいました。他に細かい技術的な部分は色々ありますけど、今あげた2つの部分が非常に大きく作用した試合だったんじゃないのかなと思いますね」
――水抜きに苦戦したのは海外遠征という部分が大きかったのでしょうか。
「そうですね。水抜きする前の段階で一度大量に水を摂取して、そこから本格的に水抜きに入るのですが、飛行機での移動や色々なスケジュールの影響で上手く事前に水を摂取できなかったんですね。その状態で水抜きをスタートしたので、そこが大きかったと思います」
――デュクロ戦は5分5Rでしたが、その部分で肉体的・精神的にもキツい試合だったという部分もありますか。
「特に5Rに関する苦しさみたいなものは感じなかったですね。むしろ5Rだったからこそ、各ラウンドをもう少しゆっくり戦えばよかったなと思いました。目の前の一瞬一瞬のことに精一杯になってしまい、せっかく5Rあるんだから余裕を持って戦ってもよかったんじゃないかなと」
――いい意味で5Rあることを活かしきれなかったんですね。またデュクロは打撃メインの試合が多かったにも関わらず、あの試合では組み技主体で攻めてきました。
「最初の立ち会いの時点でかなりプレッシャーをかけることが出来て、向こうもプレッシャーを感じていたと思うんですよ。おそらく最初は(デュクロも)ストライキングで来るつもりだったと思うのですが、試合が始まってストライキングでは分が悪いと感じたのかなと思います。ただそこでレスリング主体の試合運びにチェンジして、戦略を組み立て替えたというのは、さすがだなと思いました」
――ヘンリー選手としては想定外の部分もあったのでしょうか。
「いや、僕個人としてはその前にやった韓国の選手(アン・ジェヨン)も元々キックボクシングがバックボーンだったんですけど、試合の時は完全に組み来たし、デュクロ戦もそこ(ストライキング)のアドバンテージはおそらく自分にあると感じていたんで、なんだかんだで組みで来るんじゃないかなと思っていました」
――打撃のコンタクトそのものの時間は短かったですが、そこは手応えや自信を感じることもできましたか。
「今の自分のレベルの打撃であそこまで怖がってもらえるんだったら、もっと落ち着いてやってもいいというのは感じましたね。ただあの試合は10点にも満たないような試合だったと思います(苦笑)」
強くなるためには強い人と緊張感ある場所で戦って、そこで自分の内側から出てくる真水みたいなものがどんなものなのかを試し続けていくしかない
――試合そのものは約7カ月空くことになりましたが、自分のファイトスタイルや調整方法を作り直すことはできましたか。
「おそらくそうですね。水抜きの量も少し減らそうと思っていますし、メンタル面のアプローチでもいい意味で吹っ切れられたんですよ。試合は蓋を開けてみないと分からないですが、試合ごとにどんどん色んなことを試していきたい感じですかね」
――今回対戦するドンファンにはどんな印象を持っていますか。
「打撃はすごく思い切りがいいし、ステップも使えて組みもできる感じですよね。そうなると必然的に今回も相手が組んでくるのかなと思っています。ただ今回は相手どうこうより、前回の試合で色んなことを学んだ自分との向き合い方というか、ケージの中で自分をどう表現するのかということに集中したいと思っています。そこが今回のテーマですね」
――フランスでの試合を経て、国内で久々の試合となります。ここからはどんな展望を持って戦っていこうと思っていますか。
「もちろんやるからには、しかも自分の階級でいったら、UFCを目指すのは当然だと思います。ただUFCに行くだけじゃなくて、UFCに行って勝たないと意味がない。UFCに出て満足ではないので、UFCに行くにあたって自分のスタイルを確立したいというか、これなら自信を持っていけるぞというところを少しでも試合で見つけたいので、そのためにも勝ち負けだけにこだわらず、目の前の試合を1つ1つこなす、プラス自分自身をケージで何パーセント出せるかということにフォーカスしながらやっていきたいです」
――例えば短い時間のフィニッシュで勝ち続けて自分のスタイルが固まらない。それでは勝ち星が増えても意味がないということですか。
「そうです。僕は強くなるために格闘技をやっているので」
――例えば自分の理想のイメージが明確にあって、それを完成させるために何をすべきか。それはヘンリー選手自身、またチームとしても明確になっているのでしょうか。
「ある程度は、ですね。ただ今回の試合に向けて調整していく中で新たな課題も出てきて、その課題をクリアしたら、それこそ寝技でも攻められるというところも見えてきました。そうやって自分の選択肢が広がるのであれば、自分の今の理想の姿よりももっとウェルラウンダーになれると思うので、現時点での最高の自分を求めるけれど、自分の中でこれがベストだ!というものは固めすぎないようにしたいです」
――試合をすると新たな発見があって、そこを踏まえて自分の理想のMMAを創っていくという作業はやりがいがありますよね。
「そうなんですよね。だから昨今は戦績をすごく気にする選手も多いですけど、格闘技の本質的に強い人と戦わないのはどうなんだろう?と思います。格闘技もビジネスなので対戦相手を選んで白星を重ねる方がいいことがあるかもしれないけど、自分の心はそれを良しとしないというか。強くなるためには強い人と緊張感ある場所で戦って、そこで自分の内側から出てくる真水みたいなものがどんなものなのかを試し続けていくしかないんじゃないのかなと思います」
――UFCに“出る”ことだけが目標であれば、綺麗なレコードを維持するための試合をやることも一つの方法かもしれませんが、それはヘンリー選手が考える・求める格闘技ではないわけですね。
「はい。前回のイサク戦が流れてしまって、髙谷(裕之)さんが色々と気をまわしてくれて、今回はGrachanで試合が実現した形です。でも、この試合が決まらなかったら僕はまたフランスで試合することも考えていたところなので。本当に場所を選ばず、試合が出来るところで出来る相手とやるというのが、今の自分のやりたいことですね」
■視聴方法(予定)
8月10日(日)
午後5時30分~ GRACHAN放送局、GRACHAN YouTubeメンバーシップ