【Special】月刊、青木真也のこの一番:9月─その参─オク・レユン✖クリスチャン・リー「解がない」
【写真】期待に違わぬ好勝負だったオク・レユン✖クリスチャン・リー。ただし、ONEの裁定基準に大きなブレが生じたか (C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。
青木が選んだ2021年9月の一番、第三弾は9月25日に行われたONE Revolution からONE世界ライト級選手権試合=オク・レユン✖クリスチャン・リー戦について語らおう。
──青木選手が選ぶ9月の一番、最後の試合は何になるでしょうか。
「オク・レユンとクリスチャンですね。これはもう……判定が分からん。それに尽きます」
──急に北米判定になったのか。ニアフィニッシュ、ダメージより手数、アグレッシブネスの足し算が上回ったような裁定となりました。
「盛んに言っていたニアフィニッシュは、どうなるんだと。ニアフィニッシュで判断すると、ダウンとRNCがあったクリスチャンで明白なはずなんです。そこを追求してONE裁定だと思って戦ってきたんだから、クリスチャンやアンジェラがインスタでめっちゃ怒っているのは理解できます。その気持ちは分かります。
そういう風に判断されるなら、クリスチャンも最初から攻めないよって思ったはずです。1Rからフィニッシュを狙わず、ポイントゲームするわって」
──ONEはどうにも裁定問題が起こりますね。
「でも、これってどこのプロモーションでも起きていることだと思います。曖昧なルールにすると、こうなる」
──ONEに関して言うと、裁定基準の軸が北米ユニファイドと違います。北米ジャッジの論争は打撃&トップという軸があって、枝葉をどう見るのかで意見が分かれます。ONEはその北米の裁定基準を軸とした場合、裁定結果がおかしいという段階を経て、ニアフィニッシュ&ダメージ重視が浸透しました。そのニアフィニッシュとダメージという部分で明確な差がなくても、組みが蔑ろにされる。それがここのところの問題だったのが、今回はニアフィニッシュ&ダメージという軸がズレた。いよいよ、おかしい裁定になったかと。
「そこなんです。これまでも物議をかもした判定はありました。2度目の内藤(のび太)✖(ジョシュア)パシオ……でも、ダメージだというと合点がいかないこともない。
答え合わせができないこともない。
テイクダウンダウンはダメージを与えてないという軸があるなら、まぁ……そうなるか、と。
ビビアーノ(フェルナンデス)✖ケビン・ベリンゴンの2戦目、ビビアーノが負けた試合も、それです。
下にされてコツコツいれたら、勝てる。まぁまぁまぁおかしいけど、答え合わせはなんとかできるといえばできる。
和田(竜光)選手とヨッカイカーの判定もおかしいけど、ONEならあるか……というふうに諫めることもできる。
でも、今回の試合は答え合わせができない。どうなったんだ?って。これまでの流れだと、この試合はクリスチャンが勝って、オク・レユンじゃなかったのかという論議になるはず。そうでないと……それなら答え合わせができるけど、今回のは、もう解がない。
それと判定問題とは別に、これはヤバイんじゃないかと思うのが、このおかしな裁定が日本で1ミリも話題になっていないことなんです。なっていますか? なっていないですよね。これはヤバイ、これは終わったなぁと。選手もファンも、今試合を大して話題にしていないんだから」
──判定が話題にならないのは、試合前にクリスチャン・リーとオク・レユンのタイトル戦が話題になっていないということですよね。
「それって、一番ヤバイ。これは潮目が変わった。この日の大会自体がそうですよね」
──日本のファンには日本人選手の結果、成績を伝える。MLBからセリエA、ブンデスリーガ、プレミアリーグ、NBAと一貫して伝え方はそうで。チームの勝利、順位は伝えない。ただK-1やPRIDEの時は外国人同士の対戦も格闘技ファンは楽しめていたので、そこは違うと思うのですが……。
「今は海外のトップとか、気にしないですよね。MMAが好きだったら、クリスチャンとオク・レユンの試合は気になると思うんですけどね」
──つまり、専門メディアですら気になっている人が少ない。そこは本当にヤバいですね。終わっています。
「コツコツ伝えていくと、ある一定のファン層っていうのは獲得できるとは思うんですけどね。特にこの試合は、気になって欲しかった。そうあって欲しい試合だったんですけどね。
MMAは万人に見られるモノじゃないというのは、僕もずっと言ってきました。でも、好きな人間や専門メディアにはこの試合は気にして欲しかった」
──ONE判定基準で、判定結果はおかしかった。ただし、試合内容はそれだけのモノ、期待に違わないモノがあったと思います。
「究極的にいえばONEの戦い方って、これまでは北米的なポイントゲームを排してきた。ポイントで揉めるのは嫌だ。もっとエキサイティングなMMAが見たいということで。でも結果として5Rは究極のカウンター待ちになる。それがまた興味深いですよね。
いずれにせよ、5Rという波のある試合を──どっちか勝ったという風に勝敗を決めるのは無理がありますよ。ラウンドマストでなくても、このRはどっちが取った、ここはこっちだと採点し、その合計R獲得数の多い方が勝者になるとかしないと無理ですよ」
──5分✖5Rを戦って二者択一、これは強引な選択も起こり得ます。
「25分を5分割して、どっちだろう……ってやると、そりゃ最後の印象の方が強いですからね」
──ダウンとRNCが、その後のダウンを奪っていない打撃の攻勢に敗れた。この裁定により、判定になった場合の計算ができなくなると試合の組み立てに迷いは生じないですか。
「僕は最初から、そこは当てにしていないです。全てドミネイトするか、取っちゃうしかないと思って戦ってきたので」
──なるほど。そして……オク・レユン勝利により、再戦となるクリスチャンよりも世界戦に近づいたのではないでしょうか。望むと望まざると。
「望むと望まざると……というか、けっこう、どうでも良いです(笑)。来たらやるけど、どうでも良い。サイクル的に次はないし、また回ってきたらやります」