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【ONE173】70キロ・キックが再燃!野杁正明・安保瑠輝也・和島大海が日本大会で揃い踏み

【写真】かつてのK-1MAXから形を変え、ONEの舞台で70キロ・キックが再び熱を帯びている(C)TAKUMI NAKAMURA

16日(日)有明アリーナで開催される「ONE173」。今大会では正規王者スーパーボン・シンハ・マウィン×暫定王者・野杁正明の王座統一戦をはじめ、マラット・グレゴリアン×安保瑠輝也、ナビル・アナン×和島大海とフェザー級(70.3キロ)キックボクシングで3試合が組まれている。
text by Takumi Nakamura

かつて魔裟斗と旧K-1MAXの存在により、ヒジなしのキックルールにおいて70キロは花形の階級だった。しかし魔裟斗の引退と共に旧K-1MAXが活動休止になると、海外勢に勝てる日本人が減り、次第にキックの中心は70キロよりも軽い軽量級へと移っていった。しかしK-1MAXからONEに舞台を移し、再び日本人を中心に70キロ=フェザー級のキックボクシングが熱を帯び始めている。


野杁正明、スーパーボンを倒してONEキック・70キロの頂点へ

その道を切り開いたのが現ONEキックボクシング世界フェザー級暫定王者の野杁正明だ。高校時代から“怪物”と呼ばれ、プロデビュー以降もK-1で輝かしい実績を残してきた野杁。新生K-1でスーパーライト級(65キロ)とウェルター級(67.5キロ)の2階級制覇を達成すると、2024年4月にONEとの契約を発表し、正式に70キロに転向を果たした。

ONE参戦直後はシッティチャイ・シッソンピーノンとリウ・メンヤンに敗れて、キャリア初の2連敗を喫したが、2025年1月にカーフキックでシャキール・タクレティの右足を折る衝撃的なKO勝利を収めると、3月のONE172では暫定王座をかけてムエタイ王座を保持するタワンチャイ・PK・センチャイと対戦。ムエタイ・キックの2冠を目論むタワンチャイとの一戦は、野杁が圧倒的不利の予想だったが、その下馬評を覆して野杁がタワンチャイをKOし、暫定王者のベルトを巻いた。

そして今大会では正規王座スーパーボンとの王座統一戦が実現。MMA・キック・ムエタイの各ルールで5つのタイトルマッチが組まれるなか、スーパーボンと野杁の一戦は早々にメインイベントとして行われることが発表され、これは野杁が名実ともにONE、そして世界の70キロのキックボクシングにおける主軸の一人になったことの証と言えるだろう。

スーパーボンは2020年からONEに参戦し、2021年10月にジョルジオ・ペトロシアンを右ハイキックでKOし、初代ONEキックボクシング世界フェザー級王者となり、一躍その名を世界に知らしめた。チンギス・アラゾフに敗れて王座陥落となるが、2024年4月にグレゴリアンに判定勝利して暫定王者に就くと、当時の正規王者チンギス・アラゾフの王座返上により、第3代王者に昇格となった。

ムエタイ王者タワンチャイと並び70キロのトップに立つスーパーボン。タワンチャイとはムエタイルールで2度対戦して2度敗れているが、キックルールでの実績はスーパーボンの方が上。ファン・関係者の間でも「キックルールではスーパーボンの方が強い」という声も多く、野杁にとってはタワンチャイ戦以上に厳しい戦いになることも予想される。

スーパーボンと言えばペトロシアンをマットに沈め、グレゴリアンのパンチ&前進力を完封した蹴りのテクニックが最大の武器。試合のハイライトとしてはペトロシアンやタイフン・オズカンをKOしたハイキックがクローズアップされるが、首相撲とヒジ打ちが禁止されたキックルールにおいても蹴りで対戦相手をコントロールする技術が秀逸だ。

野杁もグレゴリアンと同じガードを上げてプレッシャーをかけるスタイルだが、グレゴリアンとの違いは蹴り技の引き出しの多さ。野杁はミドルの蹴り合いだけでなくカーフキック、三日月蹴り、与座キック(相手の太ももへの三日月蹴り)など、ムエタイにはない蹴り技を使いこなす。蹴りで自分の間合いをキープしたいスーパーボンに対して、どれだけ野杁が蹴りの攻防で競り負けずにプレッシャーをかけられるか。そこがこの大一番のポイントになってくる。

そして野杁がタワンチャイに続いてスーパーボンも下して正規王者になれば、まさに野杁がONEフェザー級キックの頂点に立つことになる。日本人70キロのキックボクサーとしては、魔裟斗が2008年にK-1 WORLD MAX王者になったことに並ぶ快挙達成と言えるだろう。

野杁へのリベンジに燃える安保瑠輝也がONEの台風の目となるか

その野杁にリベンジするためにONE参戦を決意したのが安保瑠輝也だ。安保は新生K-1でスーパーライト級王者となり、2021年の第2代K-1ウェルター級王座決定トーナメント決勝で野杁にKO負けを喫した。

2023年以降はBreakingDown出場を経てRIZINに参戦すると、キックルールでブアカーオ・バンチャメークや宇佐美正パトリックと対戦。大晦日には久保優太とMMAルールで対戦してRNCで敗れた。2024年はスタンディングバウト特別ルール(ボクシングルール)のエキシビションマッチでマニー・パッキャオと引き分けるなど、多種多様なルールで試合を続けてきたが、一念発起してONEへの道を選んだ。

しかも対戦相手はグレゴリアン。ONEではベルトに手が届いていないものの、敗れた相手はタイトル戦で対戦したアラゾフとスーパーボンのみ。チャンピオン以外には取りこぼしがなく、現在はフェザー級キックボクシングはランキングが消滅しているが、もし今もランキングが継続されているなら、間違いなく1位に位置する選手だ。

試合としてはグレゴリアンのパンチ主体の圧倒的な圧力に対して、安保がどう戦うか。エキシビションとはいえパッキャオと拳を交え、ライアン・ガルシア戦やフロイド・メイウェザー戦を見据えてボクシングと真剣に向き合ってきた安保のパンチの技術は著しく向上している。そこに元来得意としていた飛びヒザや蹴りや二段蹴りといったトリッキーな蹴り技がミックスされれば、キックボクシングにおける安保のファイトスタイルは見違えるように進化しているはずだ。

安保がグレゴリアンの圧力に押し負けずにボクシングの攻防で上回り、そこに蹴りも織り交ぜて戦う。そんな試合運びが出来ればグレゴリアン攻略も見えてくるだろう。また安保が実質ランキング1位のグレゴリアンに勝利すれば、一気にタイトル挑戦の第一候補になってくる。

安保がグレゴリアンという壁を乗り越えることが前提ではあるが、野杁がスーパーボンに勝利すればONEのタイトルをかけてのリマッチも現実味を帯びてくる。仮に野杁が敗れたとしてもワンマッチでのリマッチ、野杁に勝利したスーパーボンの持つタイトルへの挑戦といったマッチメイクも見えてくる。ONE参戦時に「主役が遅れて登場しました」と語った安保だが、安保のONE参戦が今までになかった新たな流れと熱を作ることは確かだ。

70キロでの実績は野杁・安保を上回る和島大海もONE参戦

そして思わぬ形でONE日本大会に参戦するのが和島大海だ。和島は新生K-1の元スーパーウェルター級王者で、2025年10月にONEとの契約を発表。当初は日本大会ではなく、年内のONEデビュー戦を想定して準備を続けていたが、日本大会でナビル・アナンと対戦予定だったジョナサン・ハガティーの欠場を受けて、日本大会へのスクランブル参戦とアナンとの対戦が決まった。

この試合はフェザー級キックボクシングルールで組まれているが、アナンは一階級下=バンタム級(65.8キロ)でムエタイ王座を保持しており、あくまで今回は和島に合わせた形での試合出場となる。フェザー級でも規格外の195㎝という長身を誇るアナンを和島が得意の蹴り技でどう攻略するかも注目だが、やはり和島には今後フェザー級のトップ戦線にどう絡んでいくかを見てみたい。

2023年12月にオウヤン・フェンに敗れてK-1王座から陥落した和島だが、直近の試合(2024年12月)では現体制のK-1MAX王者ストーヤン・コプリヴレンスキーからダウンを奪って判定勝利。K-1時代の野杁・安保が65キロ~67.5キロで実績を積んでいたのに対し、和島はデビューから一貫して70キロで戦っており、70キロでの実績では和島>野杁・安保と言える。

和島が海外の強豪と戦うことはもちろん、K-1では実現しなかった野杁・安保らとの日本人対決も期待される。ONEで海外勢から勝利を収めた末に、こうした日本人対決が組まれることになれば、よりワールドワイドな形で盛り上がりを生むことになる。

旧K-1MAX時代から形を変え、ONEで再び盛り上がりを見せている70キロのキックボクシング。その舞台に立つ日本人選手たちの戦いぶりを有明アリーナで見届けたい。

■放送予定
11月16日(日)
午後12時00分~U-NEXT PPV

■ONE173対戦カード

<ONEキック世界フェザー級王座統一戦/3分5R>
スーパーボン・シンハ・マウィン(タイ)
野杁正明(日本)

<ONE世界フライ級(※61.2キロ)選手権試合/5分5R>
[王者] 若松佑弥(日本)
[挑戦者]ジョシュア・パシオ(フィリピン)

<ONEムエタイ・アトム級王座決定戦/5分3R>
吉成名高(日本)
ヌンスリン・チョー・ケットウィナー(タイ)

<ONEムエタイ世界フライ級王座決定戦/3分5R>
ロッタン・ジットムアンノン(タイ)
ノンオー・ハマ(タイ)

<ONE世界ライト級(※77.1キロ)選手権試合/5分5R>
[王者] クリスチャン・リー(米国)
[挑戦者] アリベク・ラスロフ(トルコ)

<キック・フライ級/3分3R>
武尊(日本)
デニス・ピューリック(カナダ)

<キック・フェザー級/3分3R>
マラット・グレゴリアン(アルメニア)
安保瑠輝也(日本)

<キック・バンタム級/3分3R>
与座優貴(日本)
スーパーレック・キアトモー9(タイ)

<キック・フェザー級/3分3R>
ナビル・アナン(アルジェリア)
和島大海(日本)

<キック・女子アトム級/3分3R>
スタンプ・フェアテックス(タイ)
KANA(日本)

<ライト級(※77.1キロ)/5分3R>
タイ・ルオトロ(米国)
磯嶋祥蔵(日本)

<サブミッショングラップリング・ミドル級(※93.0キロ)/10分1R>
ジャンカルロ・ボドニ(米国)
ラファエル・ロバトJr(米国)

<ムエタイ・バンタム級/5分3R>
ジェイク・ピーコック(カナダ)
スアキム・ソー・ジョー・トンプラジン(タイ)

<ヘビー級(※102.01キロ)/5分3R>
竹内龍吾(日本)
シャミル・エルドアン(トルコ)

<ライト級(77.1キロ)/5分3R>
青木真也(日本)
手塚裕之(日本)

<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R>
澤田千優(日本)
平田樹(日本)

<キック・バンタム級/3分3R>
ウェイ・ルイ(中国)
秋元皓貴(日本)

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