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【DEEP127】Fight &Life#110より。魚井と対戦、春日井”寒天”たけし「俺、マジで自分のこと好きだもん」

【写真】インタビューから40日、昨日の計量でしっかりと創り込まれてきた春日井を見ることができた(C)MMAPLANET

現在、発売中のFight&Life vol.110に、本日15日(月・祝)に開催されるDEEP127で魚井フルスイングと対戦する春日井”寒天”たけしのインタビューが掲載されている。
Text by Manabu Takashima

2023年5月7日、HEAT50における笹晋久戦で現役引退を発表した春日井が3年4カ月振りの復帰戦を行う。この間、寒天ファイトスプリットで、中部地方のプロ練習を率いセコンドとして活動をしてきた。寒天マンの活躍とともに、現役引退式を戦うまえでの自分と、今の自分――その心境の違いを語った。


寒天マンは寒天マンですよ

――9月15日、DEEPで魚井フルスイング選手と対戦。2022年5月に、笹晋久選手との引退試合をして以来となる春日井たけし選手の実戦となります。

「僕の中では2021年10月に今成(正和)さんに負けた試合で正直、最後で良いと思っていました。ただお世話になってきたHEATの50回記念大会で、引退試合をするのが筋だと思ったんです」

――あの時は、本当に区切りにしようと思っていたのですか。

「もちろんです。だって本当は引退試合すらしたくなかったです。今成さんとの試合で、格闘家としての自分は斬られたつもりでいたので。笹選手との試合は、HEATの記念大会だから無理くりでもやるという気持ちでした。ケジメをつけるために、やって良かったと思います」

――その後、いつごろからか寒天マンというファイターが現れてNARIAGRIで試合をしています。

「寒天マンはNARIAGARIで1R制のキックを4 試合、5 分2RのMMAを2試合やっています。トップを狙った人間が、それを諦めた。でも格闘技が好きで、もっと楽しくやりたいという気持ちで試合をしていたようです。

――それでまた痛い想いを?

「僕は引退前から、そして引退後も『なぜ、練習の時のような動きができないんだ』とメンタル面の研究をしていたんです。2割ほどはゾーンに入ったかのような感覚で試合ができていましたが、8割はそうでなかった。あれだけ練習したのに試合が終わると『もっと、アレをやれば良かった』、『もっとチャレンジすべきだった』という風に思っていました。そこを考えると、追い詰めすぎていたなっていうのがあって。トップを目指すことを止めたので、負けても良いというよりも、勝ちにこだわらない。でも自分の実力を出し切ると勝利に近づく。引退したらどうなるのか、それを訓練として寒天マンはやっていたようです」

――トップを目指さない。ケジメをつけた。だから寒天マンとして、戦っていたということですか。

「寒天マンは寒天マンですよ」

――……。キックだけでなく、ついにはマスクをかぶって5分2RのMMAも2試合戦いました。あとタッグマッチも出ていませんでしたか。

「2023年の1月ですね。あれは3分1Rで。でも真剣勝負。三宅輝砂と組んで、三宅が1回戦と準決勝は全部戦ってくれて(笑)。決勝はトム・サントスが相手のチームにいて、三宅が『トム・サントスは怖いです』とかいって寒天マンが戦ったんですよ。サントスはデカいし寒天マンも怖がっていましたよ」

――HEATフライ級&バンタム級王者と、ライト級王者が戦ったと。

「フライ級とバンタム級のチャンピオンは僕ですよ。寒天マンではなくて」

――……。勝利に縛られない。でも、怖いことはする。あまり、その心理状態が分からないです。

「怖いと思うところから逃げると、成長しないです。それは人生のどんなことでも言えます。格闘技はそこに加えて、体が動くときしかできない。だから今やっているわけです。そういう機会から逃げると、成長できないですよ。僕、人前で話すことが増えたのですが、本当に最初の頃はぎこちなくて。メモしたことを一言一句違わずに読む。百人とか五百人の前で話すのは本当に緊張していました」

――ハイ。

「でも、何度もやっているとカンペもなしで、スラスラ話せるようになって。それは場数を踏んだから。格闘技も場数は部分もあります。成長したいから、試合という負荷をかけるんです。失敗することもあるけど、それが経験になります」

―今年の2月には寒天マン選手は、BreakthRough Combatでチェ・ハンギと戦いドローでした。あの時はマスク無しで戦っていました。

「マスクがダメだったからです。あの時は試合の10日前に欠場した選手がいて。代役を探して欲しいと連絡を貰いました。でも、僕の周囲にはいなくて。その時に、自分が出るしかないと思ったんですよ。別に追い込み練習をしているわけじゃないけど、常にある一定レベルの練習を続けてきたので、体は動くという自信があった。あのタイキングで試合を受けたのも、自分の成長のためです。あの試合はマスクなしでしたけど、寒天マン君から教わったことは凄く多いです」

――もう寒天マンの位置づけが非常に難しくなってきましたが、何を学んだのでしょうか。

「1Rのキックの試合でも、畑違いの試合をして。相手も大きいんですよ。それでも寒天マンは勝ったわけです。トップでないけど、キックボクサーにキックボクシングで勝ったことで、自分の実力に自信を持つことができました。俺には実力がある。実力者だから、そう簡単には負けないぞと。でも、勝ちにも拘っていない」

格闘技って人生を豊かにするツールなんですよ。絶対に死んだらダメで。人生は格闘技が全てじゃない

――この間、プロ練習を率いるようになりました。プロ選手をリードするようになって、ファイター春日井たけしに与えた影響はありますか。

「練習会を仕切って、セコンドにも就いています。メンタル面とか、自分が感じたモノをシェアしています。次の試合に関しては、自分は実験台です。このような精神で、こういう調整をして出た結果がコレです――と、皆に報告したいんですよ。復帰戦とDEEPさんは言ってくれていますけど、魚井戦はメンタルトーレニングです。そこでした経験を若い選手に伝えて、生かして欲しい。必ずしも、正しいとは言えないかもしれないけど、チームの皆に参考にしてほしいんです」

――指導者として戦うのか。何か目標を持ったプロ格闘家として試合に出るのか。あるいは春日井選手のなかで、この2つは同じことなのか。

「興行に出るわけだし、チケットを買ったお客さんの前で戦うので、もちろん仕上げていきます。でも、スポンサーもつけずに真っ新なショーツで戦います。スポンサーをすると言ってくれる人がいてくれて、凄く嬉しかったです。「なら試合を見に来て欲しい」と伝えました。そうしたら高いチケットをたくさん買ってくれましたよ」

――つまりは……。

「それでも応援してくれるというなら、若い選手をサポートしてほしいと。俺が試合をするのはメンタルトーレニングで、自分のためだから。ただ、俺の試合は見て欲しい。この舞台を用意してくれた佐伯(繁DEEP代表)さんの顔を立てたいと思ったし」

――トレーニングだから、金銭的な部分は求めないということですか。

「いえ、僕も子供もできたし。次の試合が終わって、まだ続けようと思っているなら生活のためにもお金は稼がないといけないと思っています。お金がないと若い子の応援もできないですし、お金が欲しくないわけじゃないです。お金は欲しいです。ただ、今回はスポンサードよりも、試合を見て欲しい」

――では、これからも試合に出続けていく予定で?

「まだ分からないです、試合が終わるまで。続けていけるのであれば、続けて行こうと思います」

――今回、DEEPで戦おうと思ったのは? 志村道場に移籍しHEATを本拠とするまで、キャリアの序盤はDEEPで過ごしていた印象が強いです。

「デビューは修斗でしたが、そのあとはDEEPを主戦場にさせてもらっていました。初代フライ級王座決定トーナメント(2012年3月~7月)に出させてもらって。1回戦(※対村田卓実)は勝ったけど、準決勝をケガで欠場しました。準決勝と決勝が同じ日にあって、優勝したのは元谷(友貴)君でした」

――その元谷選手はATTから帰国した際は春日井選手と練習をし、セコンドにも就いています。

「アイツは僕のモチベーションなんです。試合をして勝ったこともあるけど、僕がケガで試合ができない時期に彼は一気に昇りつめた。僕自身は焦って東京に行こうと考えたけど、仕事とか色々あって。結果的に志村道場に拾ってもらいました。元谷君なら、強くなるために東京に出ていたと思います。僕は決断できなくて。でも、頑張って元谷君のところまで行くぞという気持ちでした。そういう気持ちをくれた選手なんです、元谷君は」

――つまり元谷選手がRIZINと共に主戦場にしている場所だから、DEEPで戦うと?

「俺も男だから、やっぱり負けたくない。もっと食らいつきたい。練習でも、そうなんです。そのタイミングで元谷君に相談して、佐伯さんをつないでもらいました。中途半端な形でDEEPに出なくなっていたので。そういうこともあって、DEEPなんですよ。あとDEEPでは1試合だけ負けていて、それが15年前の後楽園ホール大会だったんです。だから、後楽園ホールにこだわったのもあります」

――対戦相手はフルスイング魚井選手です。

「僕、魚井選手とやるけど相手は関係なくて、自分との戦いです。今成さんの時とは、気持ちが全く違っています。勝ちにこだわってしまうと、昔の春日井たけしに戻ってしまうので。それに若い頃は戦って死んでも良いとか、そういう気持ちでいました。今も若い選手がそういうことを言いますよね」

――ハイ。

「格闘技って人生を豊かにするツールなんですよ。絶対に死んだらダメで。人生は格闘技が全てじゃない。そこが引退試合をする前と、今回の試合の違いです。格闘技が全てじゃない。俺にはやれることがいっぱいある。同時に格闘技があって、俺みたいな人間が何とかやってこられた。格闘技に豊かにしてもらったんです。でも、もう何年も続けられるものじゃない。それに格闘技って、普通の人間じゃできないですよ。一対一で殴り合うって、凄いことです。そのなかでもMMAは究極の格闘技で。そんな凄いことをやっているんだから、もっと自信を持ってほしいと練習仲間のとのグループで言っています」

――簡単に使いたくない言葉ですが、春日井選手が試合で見せるモノは生き様なのでしょうね。

「そこに関してはファンの人にも見て欲しいけど、一番は仲間に見て欲しいです。青木真也選手が言っていたのですが、『生き様を見せると言っている選手ほど、試合しか見せていない』と。『勝った試合しか、YouTubeをアップしないだろう』と。俺、負けると挙げていなかったです。次の試合は負けても、アップします。リアルを見せる。それが生き様を見せるということで」

自己愛がある人間は、メンタルが強いです。自分を愛していないと、他の人を助けようとか……人のことを構っていられない

――春日井選手が試合で仲間に見せる生き様。その生き様は日々の姿勢から見えるモノかと。春日井選手は何を皆に見せたいと思っているのでしょうか。

「それこそ、皆に一番してほしいことで。僕が試合で見せる。それは……やり切るということです。俺は引退して、未練があった。だから復帰しました。現役時代に未練たらたらで『ああしとけば良かったなぁ』と言っているヤツに、教えて欲しいかってことなんです。俺だったら、そんなネチネチしたヤツに教わりたくないです。俺は、やり切るためにやるんです。さっきも言ったけど、子供もできたじゃないですか」

――ハイ。

「格闘技じゃなくて構わないです。でも、人生において全力でやり抜きたいというモノを見つけて欲しくて。やり切って欲しい。失敗しても構わないから」

――それをお子さんだけでなく、教え子や仲間にも求めていると。

「じゃないと、良いモノは生まれない。実はALIVEで少しだけ一緒に練習をしていた子が、34歳とか35歳になって、また格闘技をやりたいと一緒にここで練習するようになりました。3回、4回と試合に出て。この前の試合で負けて、『もう区切りをつけます』と」

――やり切ったわけですね。

「ハイ。(村元)友太郎も、(山口)怜臣も。他の練習仲間も、やり切って欲しいです。これだけの究極のスポーツをやり切れば、自信がつかないわけがない。そうすれば、それからの人生やっていけますよ。そのメンタルになれますよ。高島さん、メンタルが強い人の共通点ってなんだと思いますか」

――う~ん、他の人は分からないですが、我が身を振り返って強くなれたと思うのは、他人に何を言われても気にしなくなってからかと。

「それはなぜですか?」

――ずっと、コレをやり続けてきたからじゃないでしょうか。

「そう、それが自信なんですよ。自分に自信がある。愛があるんです。自己愛がある人間は、メンタルが強いです。自分を愛していないと、他の人を助けようとか……人のことを構っていられない。だから俺、マジで自分のことが好きなんです。自己愛は引退してからの方が増えました。自分が尊く思えます。37歳になって、40近いのに体が頑張ってくれている」

――いやぁ試合に出ることで、あの頃の春日井たけしが戻ってきた。話を伺っていて、本当に思います。

「選手を助けてくれる人たちもそうですよ。想いだけでなくて、お金があるからそれができます。愛も同じです。生活が安定するのは、経済力。メンタルが強くて、安定しているのは自己愛です。俺は今、寝る前に『本当に今日もありがとね』って自分を抱きしめています。俺、マジで自分のこと好きだもん。可愛いもん、自分のこと。尊い、長生きしてほしい。過去の戦績とか関係ないです。デビュー戦のつもりで……自分をもっと好きになるために、9月15日はやりきります」

■視聴方法(予定)
9月15日(月・祝)
午後5時30分~U-NEXT、DEEP/DEEP JEWELS YouTubeチャンネル メンバーシップ

■DEEP127計量結果

<ウェルター級/5分3R>
佐藤洋一郎:77.50キロ
ストラッサー起一:77.40キロ

<フェザー級/5分3R>
木下カラテ:66.40キロ→66.25キロ
相本宗輝:66.10キロ

<フェザー級/5分3R>
五明宏人:66.25キロ
関鉄矢:66.15キロ

<女子アトム級/5分3R>
大島沙緒里:47.70キロ
須田萌里:47.80キロ

<58.5キロ契約/5分2R>
力也:58.35キロ
濱口奏琉:58.45キロ

<73キロ契約/5分2R>
郷野聡寛:71.70キロ
近藤有己:72.15キロ

<バンタム級/5分2R>
魚井フルスイング:61.40キロ
春日井“寒天”たけし:61.70キロ

<ストロー級/5分2R>
中務修良:52.55キロ
杉山空:52.35キロ

<ライト級/5分2R>
石塚雄馬:70.65キロ
ケンシロウ:70.80キロ

<フェザー級/5分2R>
高橋正親:66.10キロ
佐々木耀:65.70キロ

<フェザー級/5分2R>
平石光一:66.15キロ
菊川イサム:65.75キロ

<アマチュア フライ級/3分2R>
RYOTA:56.95キロ
佐藤照栄:56.85キロ

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