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【XFC Young Guns08】「だよなっていう結果」。北米初陣を終えた鈴木崇矢に訊く、Road to UFCの惨敗

【写真】何が変わったのか、非常に言語化が難しい。しかし、絶対的に変わった鈴木崇矢(C)MMAPLANET

4月30日(水・現地時間)にフロリダ州ディアフィールドビーチのキルクリフFCで開催されたXtreme FC Young Guns07(Live中継以外の試合は1カ月のディレイで、Young Guns08として配信された)でガブリエル・ベロミニからTKO勝ちを収めた鈴木崇矢。
Text by Manabu Takashima

北米デビュー戦を見事な勝利で飾った鈴木は、Road to UFC前に一時帰国し上海に向かった。現地で日本勢の惨敗を目の当たりにしても彼は、「どうでも良い」と言い放った。

MMAは国別対抗戦ではない。自分自身が強くなることが全て。その強くなる道筋に正解はない。フロリダ、キルクリフFCに拠点を置き、来るべき日に備える20歳のファイターはMMAファイターとして内面を何よりも考えるようになっていた……。


未来、過去、現在、MMA……全部ですね。全部が変わります。意識の持ち方が変わったら、内側が変わる。だから外に出すモノも変わってきます

──先日のベロミニ戦の映像がなく、動いているところを見させてもらってからインタビューがしたく取材を申し込んだのですが、2日前にXDCの公式YouTubeチャンネルで試合が視聴できました(※取材は5月30日に行われた)。見事なパンチの合わせ方でしたね。

「ありがとうございます(笑)」

──そのうえで今日の練習を見て、動きが変わったなと試合以上に感じました。

「えっ、本当ですか。どういうところがですか!!」

──正確にいうと動き……やっていることが変わったというのではなくて。あえていうと、動きの質というか。神経があらゆるところに行き届き、集中力がある。ミスをしても、修正できる動きができている。結果、質量が上がっているというか……。上手く表現できないのですが。

「いやぁ、そうなんですよ。でも、これってあんまり僕もどう説明をしたら良いのか分からなくて……」

──以前は動きがキャピキャピしていた。今日の動きと比較すると。

「あぁ、ハハハハハハ。そうだと思います」

──そこが収まった要因は、何なのかと。

「これって話し始めると、エンドレスになってしまうところで。本当に自分でも成長は感じています。昔から見てもらっていると分かると思うんですけど、根本というか動きがズンと変わって……いや、やっていることは変わっていなくても……結果として、根本が変わったからズンと動きも変わるというか……。

どう、話せば良いんですかね(苦笑)。何だろう……色々なプロセスを踏んで今があるから、一言では言い表せないんですけど……。年齢を重ねて成長をしたというのもあるし、米国に行って手にした環境というのもあります。フロリダでは格闘技のことだけを考えていたっていうのもありますし。

そのなかでもメンタル・コーチングを採り入れたことが、大きいです。意識の使い方なんかの指導を受けているんです」

──それは米国で?

「いえ、中村剛士さんです」

──あぁ、倫也選手の弟さんの。

「マジで僕のパートナーという感覚です。1年ぐらいメンタル・コーチングをやってもらっていて。その前からずっと一緒で今、剛士さんが面倒見ている人のなかで僕が一番古くて。そういう意味でも、内側から話せるパートナーで」

──内面ですね。いやぁ、本当に以前は精神社会のことを話すとバカにされるような空気があったMMA界ですが、内面を気に掛ける選手が増えています。自分が取材させてもらっている選手が、そうなだけなのかもしれないですが……。

「本当に一緒にいる人たちが、変なんで。ハハハハハ、変なんでっていう言い方は良くないですよね。でも倫也さん、(中村)京(一郎)ちゃん、剛士さんと一緒にいて、そういうメンタルだったり、これからのことばかり話しているんですよ。どうUFCチャンピオンになるのか。どう、未来を切り開いていくのか。そういう話しかしなくて、意識の使い方が変わりました。

未来、過去、現在、MMA……全部ですね。全部が変わります。意識の持ち方が変わったら、内側が変わる。だから外に出すモノも変わってきます。元は変わっていないんです。変わっていないけど、出てくるものが違ってくるから、そういう風に見てもらえたのなかって……。精神面での成長幅も大きいし、それが動きの中身の変化に通じているのは絶対です」

──内側ができていると、ブレないですよね。心身ともに。

「精神性が変われば、ブレないっていうのは分かります。気持ちがブレないから、動きもブレない。さっき言ってもらったミスがあっても、すぐに戻せることもそうだし。だから特別な練習は何もしていないんですよ。MMAの練習をしているなかでの気付きや、深堀りすることはあっても本当にただキルクリフFCで練習をしていただけなので(笑)。

4月の試合に向けていくなかでキルクリフFCの強度の高い練習と、内面が変わったことが合致していった形です。ノンリニア式にまき散らしていたモノを試合という一つのポイントに向かっていくことで、どんどん自分のなかで繫ぐことができた。

『こういうことじゃん』、『あぁ、こういうことだったのか』という風になっていった。だから試合に勝ったことよりも、そこに辿り着けたことが大切なんです。これまでやってきたことが繋がって、一つステージを上げることができた。やってきたことがステージになっていたと気づけたことが、大きくて。そういう意味では、あの試合からが本当の意味でスタートですね」

日本は余分なことが多くてロスが多い

──そのタイミングでの一時帰国の意図は?

「単にビザの書き換えです。あとファイターズハウスにもう1人新しい選手がやってきて、かなり手狭に感じたのもあって。試合後というのもあるし、このタイミングで一度帰国して家族に会おう思ったんです」

──キルクリフFCで充実した練習をしていて、日本での練習は素直にどのように感じていますか。

「練習そのものとは違う部分で、日本は余分なことが多くてロスが多いです」

──??

「移動時間、移動距離が余分というか。あと、街に人が多い(笑)。今日の練習のように京ちゃんや松井(涼)さん、髙谷(裕之)さんといろいろな意見を出し合って、多くのことを考えて、整理するという部分では申し分ないです。

でも、それはEX FIGHTでしかできない。ここでしかできないことで。本当に、他の場所や他の人とはできないんです。これも言い方が良くないと思うんですけど、MMAを見る視点が違い過ぎて。

と同時に強度の違いは絶対です。やっぱりキルクリフFCでの練習は、そこが日本とは違います。朝・昼、朝・夕と毎日やり続ける。そこの土台創りが滅茶苦茶大変で。

それを日本でやろうと思うと、僕はEXFIGHTの近くに家を借りて住むしかなくなります。そうすると家賃は高いし、ごはんもとんでもなく高い。やっぱり、無理がありますよね。そこまでしても練習相手に絶対的な差がありますし」

皆、Road to UFCを頑張っていた

──その通りですね。そんなキルクリフFCで練習し、XFCというローカルショーで戦うことを崇矢選手は選択しました。その崇矢選手が上海で見てきた日本勢の結果に関しては、どのような想いでしたか。

「だよなっていう結果。京ちゃんだけが残ったのも、だよなって。『そりゃあ、そうだっ!!』って思っています。ただ(エフェヴィガ)雄志さんも残る力はあった」

──エフェ選手は青井人選手とともに韓国、豪州というところに後れを取った。加えてUFCは日本人選手に優勝争いを求めていない。残れば、それはそれでという風な選手のセレクトだったなと。

「あぁ、僕はそういうマーケットやビジネス的な見方はしていなかったです。これも精神的な話になってしまうのですが、ただただ器の違いが出た。実はこの後に雄志さんと会うんです。雄志さんも京ちゃんと同じ器の持ち主だと思っているので、何があってあそこを越えることができなかったのか。どういう壁が表れたのか、そこを尋ねようと思っています」

──エフェ選手の負けはショックでした。負けたショックなのはエフェ選手と青井選手というのが、本音中の本音です。それが昨年やその前との違いですね。

「皆、Road to UFCを頑張っていた。もちろん、その先にUFCを見据えた戦いではあるけど、そこを勝つための器と中身だった。そのなかで京ちゃんが違っていて。だから、中身が変われば皆が勝てた。そういう試合だったと思います」

──う~ん、Road to UFCを頑張ろうとしていた。考えさせられる発言です。

「でも正直、どうでも良いです。アハハハハハ。フライ級に関しては、自分ならどう戦うか。それはすぐに考えました。で『こいつらには勝つわ』って。『スゲェ』、『どんなんなんだ』とは見ていないので」

──山内渉選手に勝ったナムスライ・バットベヤルも、「こいつら」でしたか。

「あの試合も中身、内側だと思います。モンゴル人は気持ちがそうだった。山内さんの試合は技術的な部分では、色々と綾があったと思います。ただ外側からだけで見ていると、パンチ力があるなということでしょうけど、それを超越した部分で相手の気があった。『そうだな』って。山内さんは固くなっていなかったけど……。モンゴル人の気持ちの強さ、想いが乗っている。そこが見えたのかなって。でも、まぁ僕は勝ちますよ」

──これからという部分で米国に拠点を置いても、Road to UFCからUFCという道が用意されるかもしれないです。そのなかで崇矢選手は、UFCへの道程をどのように考えているのですか。

「僕がヘンリー(フーフト)と話しているのは、UFCを直接目指すことです。あと半年間、キルクリフFCにいることができるので2試合をして、8勝1敗でUFCに行く。それがヘンリーの考えで、僕はキルクリフFCにいる限りヘンリーに従います。あと2試合、最後の1試合は大きいのを狙うという感じです」

──大きいのとは、どこを意味しているのでしょうか。

「それはまだ全然、頭にイメージしていないです。まだ、ニュアンスで話をしている程度なので。✕✕でタイトルを目指すという具体的なことも言われていないから、そこはなんとも言えないのが本当のところです」

──コンテンダーシリーズでもないのですね。

「ヘンリーは『コンテンダーはダメだ』って言っています。コンテンダーシリーズからサインする時に契約内容とか、色々と考えてのことだと思います。それにコンテンダーシリーズのような戦いができるのも武器ですけど、一発屋感もあるので。今の僕の立ち位置と調子の良さ、世界で戦うという部分でヘンリーがどういう風に考えているのか。そこはヘンリーを信じようと思っています。

ここで2試合に勝っても契約はできなかった。だからRoad to UFCだってなっても構わない。ただただ試合数をこなしたいだけで。そうなっても僕は『Road to UFC、勝つぞぉ』という感じで挑むことはないです。

僕がやるべきことは、強くなることだけなんですよ。それ以外は本当に何も考えていなくて。驕りではなくて、僕はUFCチャンピオンになる男なんです。僕はUFCでチャンピオンになる男なんですよ」

──そこを2度続けて、強調したのは?(笑)。ひょっとして、DREMERSの面接のときのように「このクソガキ、舐めるな」と言わないことを確認していますか(笑)。

「アハハハハハ。その通りです。ありがとうございます。僕はUFC世界チャンピオンになるんですよ。だから、このタイミングでRoad to UFCだろうが、コンテンダーシリーズだろうが『お願い。出して』っていうのは全くなくて。強くなっていれば、UFCと契約するタイミングというものが訪れます。

そのタイミングが来た時に、乗っていけば良いだけ。楽観的に捉えているように思われるかもしれないけど、僕のなかでは地に足の着いたことを続けています」

僕はキルクリフFC、米国で練習しないとダメだっていう風に視野が狭くなっている状態

──20歳の強みですね。26歳になると、それは言えないでしょう。

「ヘンリーからも『焦るな』って言ってもらっています。正直、僕は今すぐにでも行きたいです。だからこそ、いつ声が掛かっても良いように強くなることが大切で」

──そうなると次戦はゴリゴリのレスラーで、パンチを振り回すような相手との試合を見てみたいです。

「ちゃんと組んでくるヤツですね。どんなヤツでも、本当に構わないです。それも縁で。対戦相手って縁でしかないので、誰とでも戦います」

──6月に入ってすぐにフロリダに戻ると伺っています。そのなかで次はいつ頃という考えでいますか。

「7月末か、8月の頭に試合をする前提で練習をしていこうと思います。それはヘンリーに伝えています」

──押忍。では次戦の決定と結果、パフォーマンス。全てに期待をして待っています。

「ありがとうございます」

──ところで先日、RIZIN LANDMARK11で安藤達也選手と対戦するアゼルバイジャンのマゲラム・ガサンザデをインタビューした時に、崇矢選手とは凄く仲が良いと言っていたのですか。

「マガですね!! マガめっちゃ良いヤツなんですよ。で、凄く強いです。僕はマガのバックスープレックスを食らって、ワキ腹をやっちゃいました。一緒に練習していた時、コンテンダーシリーズが決まっていたんですよ。『ここで勝ってUFCだね』って話していて。でも試合が流れて、帰国してからRIZINで戦うことにしたみたいですね」

──そのタイミングで、UFCアゼルバイジャン大会があるというのも……。

「でもRIZINで結果を残せば良いので。RIZINで強い選手と戦って、勝てば。強いヤツと戦うことが大切で、どこで戦うとかじゃないと思います。マガはマジで強いから、どこで戦ってもやっていけます」

──では安藤達也戦も、問題ないと?

「安藤さんの今がどうなのか分からないんですけど、あの勢いに巻き込まれると簡単じゃないです。ただマガは本当に強いです。そんなマガと練習がガンガンできる。そういう環境がキルクリフFCにはあるっていうことなんですよね」

──その強度に耐えるためには、話は元に戻ってしまうのですが内面の強さが必要になってくるのではないですか。

インタビュー中、終始笑顔だった鈴木崇矢。そのあたりは、ずっと変わらない

「そうだと思います。

同時に僕はキルクリフFC、米国で練習しないとダメだっていう風に視野が狭くなっている状態です。そこをもっとフラットに色々なモノを見えるようにして、そのなかでキルクリフFCだからできることに集中していければと思っています。それがここからのテーマです。

キルクリフFC、米国での練習に執着し過ぎない。でも、この環境で練習ができているのも本当に色々な人にサポートしてもらっているからで。この環境があることに感謝しながら、今できることをやる。そこにプレッシャーも感じているからこそ、めちゃくちゃ頑張ろうと思っています!!」

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