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【Breakthrough Combat03】チェ・ハンギと対戦、寒天マン「これは僕のメンタルトレーニングです」

【写真】インタビュー中に熱くなってきた寒天マンは、徐々に設定を忘れていきました。それも寒天マンらしさだと思います(C)SHOJIRO KAMEIKE

26日(水)、無観客&配信大会として開催されるBreakthrough Combat03で、寒天マンが韓国のチェ・ハンギと対戦する。
Text Shojiro Kameike

当初チェ・ハンギと対戦予定であった熊崎夏暉が練習中の負傷により欠場し、春日井たけしではなく寒天マンがチェ・ハンギと戦うことになったことは既報どおりだ。春日井は2022年5月のHEATで引退マッチを行った春日井が、その後「寒天マン」として戦ってきた理由とは? さらにチェ・ハンギとの対戦、今後の目標について語り尽くしてくれた。


自分が実際にやっていなかったら選手から信用してもらえない

――今回は寒天マンとして出場するということで、寒天マン選手にお聞きします。

「はい。春日井たけしと寒天マンは別人ですから」

――……まずは今回、ショートノーティスで試合を受けた時の心境から教えてください。

「これは試合というより、僕の個人的なメンタルトレーニングなんですよ」

――メンタルトレーニング、というと?

「マジで試合はしたくないです。でも『試合しないと何も始まらないな』と思って。NARIAGARIの時もそうですが、僕は引退して――いや、僕の友達である春日井さんの意見なんですけどね」

――はい。

「試合は怖いものだし、緊張するし、今まで大怪我もしてきました。でも傷が癒えてきた時に、体が動くうちは動かしたいという気持ちはありました。それと僕は現役の時から、ずっとメンタルトレーニングを勉強してきて、今はスポーツのメンタルトレーニングに関する資格も持っています。今回の試合は自分自身のメンタルトレーニングです。僕のトレーニングのために出ます」

――あくまで友人である春日井選手のお話ですが、現役を引退したあとケージに戻りたいという気持ちを持つ時もあったのですか。

「ありました。でも正直、今はその気持ちが全くないです。僕は自分の身の程を知っているんですよ。寒天練(NAGOYA TOP TEAM=NTT)に強い選手がたくさん来てくれているなか、僕は自分を追い込むような練習はしていません。僕は練習の回し役として、声は出していますけど。

寒天練で僕はもう勝てないです。『自分の強さはこれぐらいだな』って、自分の身の程を知っているから、現役復帰とかは考えていないですね」

――そんななかでNARIAGARIに春日井たけしではなく寒天マンとして出場した理由は……。いろいろな設定を崩すようで申し訳ないですが。

「それも僕のメンタルトレーニングです。格闘技ってメンタルスポーツなんですよ。今まで、いろんなメンタルトレーナーの本を読んできました。野球、水泳、テニス選手などのメンタルトレーナーさんの経験が書かれていて、実績を出されている方々の本を読んで勉強しています。そのなかで共通しているのは、トレーナー自身がそのスポーツをやっているのかどうか。僕は野球選手の気持ちは分かりません。でも格闘家の気持ちは分かる。格闘家には、自分と同じような悩みを持っている選手が多くて。だから現役を引退しても、絶対に選手の気持ちは忘れない。

2022年5月の引退マッチでは笹晋久とドローだった春日井。ではなく寒天マンが出場します(C)MMAPLANET

ただ、セコンドとして口では何とでも言えるけど、自分が実際にやっていなかったら選手から信用してもらえない。次の試合は、僕が自分自身を実験台にします。僕は口で何とでも言うし、自分でも体験したいんですよ。自分ができないことを、セコンドとして選手に言いたくないから」

――……。

「だから次の試合は、僕の個人的なメンタルトレーニングなんです。自分自身を成長させたくて。自分に不快感を与えて、そこから逃げてしまったら成長には繋がらない。不快感から脱するために戦い、乗り越えたら――結果が勝ちでも負けでも――絶対に経験値を得ることができる。

嫌なことから逃げていては、成長はないです。今回も長谷川賢さんから連絡が来たけど、僕たちの練習仲間の中から出場選手が見つかりませんでした。本来、それで終わればいい。でもそこで終わってしまったら現状維持なんですよ。俺は逃げたくなくて、自分が出ることにしました。でも条件は言いました。この期間でバンタム級には落とせないし、相手がその条件を飲んでくれるなら……。自分は逃げていない。これは本当に自分との戦いです」

――プロモーターサイドからは、マスクを着けて試合はできないという条件が出ました。

「はい。そこにこだわりはないです。僕もマスクを着けたまま試合はしたくないので」

――えぇっ!?

「マスクを着けていると周りは見にくいし、マスクの中はすごく痒いし――こんなのを着けて試合していたら危ないですよ。NARIAGARIの試合もキツかったです。ただ、それも『マスクを着けた状態でも自分は試合ができるのか』というメンタルトレーニングでした。

実戦から退いて3年、もうすぐ4年が経ちます。体力は落ちたけど、メンタルが挙がってきたんじゃないかと思っています。あ、寒天マンと春日井たけしは別人ですからね」

――……はい。試合が決まり、対戦相手の試合映像はすぐに視たのでしょうか。

「オーソドックスかサウスポーか、どんな感じの選手か確認したぐらいですね。そこじゃないんですよね。今回は自分との勝負だから、自分に集中する。必要以上に相手の映像は視ないし、研究もしません。

たとえば実力が拮抗しているトップ選手同士の対戦で、戦略によって少しでも展開が変わってくる試合であれば、相手の研究はしないといけない。昔の自分なら、今回も研究し尽くしているでしょうね。不安だから。もちろん今も不安です。大怪我するかもしれない。でも、そういうことじゃないんです。ここでまた研究し尽くしたら、昔の自分に戻ってしまう。それは成長に繋がらない」

――ということは今回の試合に勝って、その後……という流れもないわけですね。

「ない、ないです。自分にはやりたいことがあって、次の目標が決まっています。ただ今は、体が動くうちは動かしたい。あと10年、20年経って『あの時やっておけばよかったな』とは思いたくなくて」

メンタルトレーニングの勉強をしてきて、今は日本の教育に興味がある

――やりたいこと、というのは?

「ずっとメンタルトレーニングの勉強をしてきて、今は日本の教育に興味があるんです。メンタルトレーニングと教育には通じるところがあると思っていて。

今も子供たちの指導をやっている中で、僕自身が気づかされることは多いです。かといって僕が何も知らないのに教育について語るのは、おかしいじゃないですか。だから今、教育に関する勉強するための資料を取り寄せているところです」

――試合の話から逸れてしまいますが、格闘技とメンタルトレーニング、そして子供たちの教育との繋がりは興味深いです。

「僕自身、格闘技を通じて成長させてもらいました。こうしてマスクを被ったり、急なオファーを受けたりしても、格闘技をナメている気持ちなんて一切ない。格闘技って1対1で戦うことにより、人を成長させてくれるもので。他のスポーツにはない力が格闘技にはあると思っています

僕は格闘技を始める前、ずっと自分に自信がなかったです。もともとスポーツは苦手でした。走ることも、つらいことも苦手で。だけど、そんな自分が格闘技なら自分を追い込めました。格闘技と出会って、格闘技で成り上がってやると決めた。不快感と戦いながら格闘技で成長し、今はこうして格闘技一本に絞ることができています。

……ちょっと試合とは関係ない話になっちゃうけど、いいですか」

――もちろんです。

「ウチのジム(HEAT24中川店 寒天FIGHT SPIRIT)では週イチでバク転クラスを設けているんですよ。先日、名古屋に引っ越したばかりの方から問い合わせを頂いて。『息子がバク転をやってみたいから体験させてください』と。でもクラスの前日に親御さんから『体験をキャンセルしたい』という連絡があったんですよね。

引っ越したばかりで息子さんは新しい学校に馴染めず、友達もいなくて、それほど学校に行けていなかったらしいです。学校に行けていないのにバク転クラスに行くのも変だから、体験をキャンセルしたいということでした。

僕はその話を聞いて、それは違うんじゃないかと思ったんです。バク転クラスは、その子自身が参加したいと言ったわけですよね。子供の『挑戦したい』という気持ちを、大人が奪ってはいけない。だから親御さんに伝えました。『体験に来てください。ジムに入るかどうかは関係ないです。挑戦したいという息子さんの気持ちを尊重してほしい』と」

――なるほど。

「学校と同じように、クラスに参加しても初めて会う子ばかりですよ。でもその子は、バク転クラスに来たいと言った。もしかしたらバク転クラスに通って、いろいろ経験することで学校に行けるようになるかもしれない。

で、その子は翌日に来てくれたんですよ。僕も本当に嬉しくて、『よく来てくれた!』とメチャクチャ褒めました。格闘技を通じて挑戦する機会は得られる。別に格闘技でなくてもいい。僕は格闘技しかできないから、さらに教育について勉強して、子供たちに伝えていきたいと考えています。それが僕の第二の人生でやりたいことなんです」

――次の試合は、寒天選手が第二の人生への壁をぶち壊すための試合なのですね。

「そうです。勝とうが負けようが、僕は逃げずに挑戦することで、間違いなく成長します。次の試合は僕のメンタルトレーニングであって、スポンサーもつけません。自分のトレーニングだと言っているのにスポンサーを募集していたら、『何それ!?』となるでしょう。

試合をするにあたって長谷川さんから提示されたファイトマネーは、引退した選手には勿体ないぐらいの金額でした。その気持ちが嬉しかったです。だけど、お金以上のものを――自分の試合を視て『春日井、良かったな。勇気をもらった』と思ってくれる人がいたら、メチャクチャ嬉しいですね」

奥さんからは『体が動くうちは稼げ』と(笑)

――MMAを戦うことに対して、ご家族は心配していませんか。

「……奥さんからは『出ろ!』と言われました。『体が動くうちは稼げ』と(笑)」

――アハハハ。

「NARIAGARIだってキックのトーナメントなのに、奥さんが聞いて『出ない理由はないでしょ』と言われて、急いでエントリーしましたから。あれは奥さんがケツを叩いてくれなかったら、出ていなかったです。しかも言われたのがエントリー締め切りの前日で、『これは試合に出ろ、ってことなんだ』と思いました」

――素敵なお話です。もう1点、お聞きしたいことがあります。同じ大会ではトレント・ガーダム×竹本啓哉という、寒天練に参加しているファイター同士の試合が行われます。

「まさか試合することになるとは思っていなかったけど、僕たちは格闘家ですからね。特にお互い勝ち上がった結果の試合なら、やったほうが良いですよ。たとえばパンクラスのタイトルマッチで透暉鷹と山口怜臣が対戦することになったら、やったほうが良い。格闘家なんだから。僕としてはトレントと竹本君のどちらを応援するとかはなくて、2人をフラットに見ている。当日トレントには志村道場の選手がつくので、僕も戦うだけです。

竹本君は試合が決まったら、寒天練のグループLINEから一旦抜けました。それが彼の決意だと思うし、その意志を尊重したい。竹本君もトレントも試合ではベストを尽くして、後腐れなく、また寒天練に戻ってきてほしいですね」

■視聴方法(予定)
2月26日(水)
午後6時30分~THE 1 TV YouTubeチャンネル

■Breakthrough Combat03対戦カード

<Progressフェザー王座決定戦/5分3R>
竹内稔(日本)
須藤拓真(日本)

<フライ級/5分3R>
イ・ジュンヨン(韓国)
上田将年(日本)

<バンタム級/5分3R>
トレント・ガーダム(豪州)
竹本啓哉(日本)

<バンタム級/5分2R>
チェ・ハンギ(韓国)
寒天マン(日本)

<フライ級/5分3R>
ベ・ジョンウ(韓国)
山崎蒼空(日本)

<Progress60キロ契約/5分2R>
神龍誠(日本)
エリック・メネギン(ブラジル)

<Progressフェザー級/5分2R>
大脇征吾(日本)
中島太一(日本)

<Progress87.5キロ契約/5分2R>
グラント・ボクダノフ(米国)
二宮寛斗(日本)

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