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【RIZIN DECADE】韓国ROAD FC2冠王キム・テインと激突、上田幹雄「心技体が全てMMAファイターに」

【写真】空手で世に出て10年以上--少年っぽさも残るが、抱いた夢も変わらない上田(C)SHOJIRO KAMEIKE

31日(木)、さいたまスーパーアリーナで開催されるRIZIN DECADEの第3部=RIZIN49で、上田幹雄が韓国ROAD FCライトヘビー級&ヘビー級2冠王のキム・テインと対戦する。
Text by Shojiro Kameike

上田幹雄は2019年に極真会館の全世界空手道選手権を制し、22年にMMAへ転向した。初戦こそ高阪剛を相手に黒星を喫したものの、その後は3連続KO勝ち。しかし今年7月にはポーランドのシェミスラブ・コバルチェクに腕十字で敗れてしまう。コバルチェク戦については「ぶっちゃけナメていました」と、上田は振り返る。そんな上田が大晦日に戦うのはROAD FC王者のストライカー、キム・テインだ。キム戦を控える上田に空手時代から現在に至るMMAへの想いを訊いた。


――上田選手を初めて取材させていただいたのは2014年、まだ高校生の頃に極真会館の全日本無差別で7位になった時でした。

「あぁ、僕の出世大会ですね!」

――あの大会で最大の衝撃の一つは、上田選手が放ったドロップキックでした。相手を場外に押し出しつつ、飛んで足が相手の顔面に到達した時、マットと並行になっていて。凄い身体能力だったという印象が強いです。もう一つはヒザ蹴りで、助走をつけず垂直に高く飛ぶことができた。あの時点で、K-1やMMAに進むことを考えていたのですか。

「いえ、その頃は全く考えていなかったです。まず空手の世界チャンピオンになること。それが小学1年生ごろから掲げていた夢だったので。だから世界大会で優勝することしか考えていなかったですね」

――初めて出場した2015年の世界大会では準々決勝で、フランスのジマ・ベルコシャに下段蹴りを受けて敗れました。もしあの時に優勝していたら、その時点でMMAに転向していましたか。

「あの時はまだ20歳で、正直なところ分からないですね。……いや、今考えるとMMAに転向していたかもしれないです。僕が20歳の頃――2015年のMMAって、どんな感じでしたか?」

――2015年の年末にRIZINがスタートしています。

「そうだ! 当時テレビで視ていました。そう考えると、世界大会で優勝したあとに視ていたら『こういうのもアリかもなぁ』と思っていたかもしれません。そもそも僕は『MMAをやりたい』という気持ちが強かったわけじゃないんですよ。空手の世界チャンピオンはMMAでも強い、やってやる――と考えてMMAに転向しました」

――それこそが極真空手の浪漫の一つでもありますよね。

「そうなんですよ。僕は自分について、良くも悪くも挑戦心があると思っています。やっぱり極真空手って顔面がない、組みがないとか――ルールが限定されている。だからこそ応援してくれる人もいれば、ある方面からは『顔面がないから弱いだろ』と言われている部分もあって。MMAを視て、居ても立ってもいられなくなる空手家は多いと思いますよ。

僕が小学校低学年ぐらいの頃、K-1が大人気で。フィランシスコ・フィリョ、グラウベ・フェイトーザ、エヴェルトン・テイシェイラといった海外の先輩たちがK-1でも戦ったじゃないですか。でも、やっぱりK-1やキックボクシングのルールだと勝てないことも多い。そういう姿を見ていて、小学生ながら僕も悔しかったです。今でも僕は極真出身の格闘家として、挑戦することを忘れちゃいけないと思っています。

もちろんプロのファイターとして有名になりたい、という気持ちはありますよ。でもそれ以上に、強い相手に勝ちたいからMMAをやる。そういう気持ちのほうが強いです」

――それは上田選手が初めて全日本無差別に出場した頃、道場の中には同じ意識を持っている人たちはいましたか。

「周りは――そういう考えを持っていたとしても、実際に口に出す人はいなかったです。僕はもともと、いろんなフルコン空手の流派や大会を転々としていましたから。その当時、極真会館は『一撃』を開催していたじゃないですか。それも含めて、フルコン空手の中で最強なのは極真会館だと思っていました。だから最後に目指すのは極真会館の世界チャンピオンだ――と」

――当時の上田選手は体重別であれば軽重量級(90キロ以下)に出場していました。そこから体重を増やしていったのは、やはり無差別の世界王者になるためですか。

「もともと体重を増やしたいと、ずっと思ってはいました。だけど増やした、というより増えてきたというのが正しいです。初めて出た世界大会で負けて、組手や体つき――自分の全てがダメだと思いました。そこで当時の師範に相談して、そこからジムにも通って体つきが大きくなっていきましたね」

――体重を増やしたことは結果として、自身にとって良かったですか。体重を増やすと最初に挙げたドロップキックや垂直跳びヒザも難しくなるわけで。

「世界王者になるためには絶対に必要でした。体つきだけでなく、とにかく過去に世界王者となった先輩たちがやってきた稽古を、一つひとつクリアしていったんです」

――その末に世界王者となった後、MMAに転向したことは驚きでした。

「これは批判じゃないけど――僕は子供の頃から空手が大好きで、空手のことばかり調べている子供でした。だから、世界王者になれば全てが安泰だと思っていたんです。オリンピックの金メダリストになるぐらいのイメージで。たとえば僕の前の世界王者がブルガリアのザハリ・ダミアノフで、優勝した時は地元のテレビ局でも凄い扱いだったらしいんですよ。でも僕が世界王者になった時は、理想には程遠くて」

――……。

「だけどそれは、別に誰かのせいじゃないです。もちろん極真のせいでもなく、僕自身に魅力がないだけで。であれば、皆が見ている舞台で戦って勝つ。自分は喋りとかキャラで売るタイプでもないし、勝って強さを証明するしかない。そう考えた時、日本の格闘技界で一番注目されているRIZINで勝つことが空手への恩返しにもなると思っています。何より自分が追い求めていた強さを――極真世界王者の凄さを見てもらうために」

――空手時代と現在のMMA時代では、体づくりも変わってきますか。

「全然違います。MMAだと寝技や組技――要は慣れていないことをやらないといけないですよね。空手の時は多少自分の体が重くても、それが鎧になってくれる時もありました。今は体重を増やすことだけを考えると、苦手なところで凄く疲れてしまうんです。たぶん立ち技であれば、体重を120キロに上げても動けるとは思います。でも寝技になると疲れを感じるようになるので、MMAを戦うために食事の面から体づくりを見直してきました」

――そうでしたか。MMAデビュー当時とスダリオ戦を比べると、明らかに機動力がアップしているように感じました。

「デビュー戦で高阪剛さんに負けて、グラチャンで試合をしたあたりで『あぁ、空手のやり方だけじゃダメなんだな』って気づきました(苦笑)。空手の大会って2日から3日間のトーナメントじゃないですか。当時、大会の2週間前から練習を止めていたんですよ。トーナメント当日まで疲れが溜まらないように。でもMMAは基本的に1日1試合で、試合前に休み過ぎると当日は体が動かなくなる。だからMMAの場合は多少ギリギリまで体を動かしていないとダメだと思いました」

――そんななか、今年6月にはシェミスラブ・コバルチェクに腕十字を極められ、黒星を喫しました。

「あれは僕が今まで寝技をやってこなかったとか、何か足りなかったとか、そういうことではなくて……。今は次の試合が決まったから言えるんですけど、あの時は気が抜けていたというのが正直なところです」

――気が抜けていた……、それだけ前年大晦日のスダリオ戦で勝利したことが大きかったのですね。

「大きかったです。僕の中では、スダリオ戦のKO勝ちの後だったので、もっと名前のある選手と試合がしたかった。誰と戦いたい――というわけでもないんですけど。それがあの外国人選手になって、ぶっちゃけナメていました。あの時の自分に『お前は相手のことをナメることができるようなレベルじゃないんだ!』と言ってやりたいです(苦笑)」

――アハハハ。それが今言えるというのは、とても大きいことかと思います。

「本当にもう……、あの時は『大丈夫でしょ』と思っていました。だけど相手は僕がやってくることも分かっていましたし、足元をすくわれた試合でしたね。去年のKO勝ちや前回の負けを経験していくなかで、自分の心技体が全てMMAファイターになってきているのは感じます」

――寝技とレスリングについては?

「ずっと練習しているものではあるので、あとは実際にその場面になってみないと分からない、という面はあります。今は岡見勇信さんや高阪剛さんから教わりながら、寝技を主にしたスパーリングもやらせてもらっていて、6月よりはレベルアップしています。

僕がスダリオ戦で勝ったことで、6月の試合までは『上田君の好きなようにやりなよ』という感じだったんですよ。だけど6月に負けて『やっぱりこうしたほうが良いよ』と言われるようになりました。今は対策を講じながら技術を上げていく練習もできるようになってきて、周りの皆さんにも感謝しています。次の試合は、僕からテイクダウンに行こうかと思っているぐらいの気持ちですね」

――おぉっ! それは大きな変化です。

「距離を取るだけが打撃ではなく、テイクダウンがあるからこそ自分の打撃が生きる。岡見さん、高阪さんにはそう言われています。それは最近、特に身に染みています。だから次は本当のMMAファイター上田幹雄を見てもらえる試合になると思います」

――特に相手がパンチを振り回してくる相手だけに、打撃戦だけではなく……。

「バコーンと当たって倒れることもあるのがヘビー級の怖さですし、ああいうファイトスタイルは、むしろその展開を狙ってくる。そこで自分が食らわずに倒す対策を練習しています。相手はROAD FC王者でMMA無敗ですから、決して侮ることなく一歩一歩、自分を高めているところです。ここでしっかりと勝ったあと、来年RIZINさんが新たにヘビー級のベルトをつくってくれるなら、それは僕が巻きます!」

■RIZIN DECADE 視聴方法(予定)
12月31日(木)
午後13時~ ABEMA、U-NEXT、RIZIN LIVE、RIZIN100CLUB、スカパー!

■RIZIN DECADE / RIZIN49 対戦カード

<RIZINフェザー級選手権試合/5分3R>
[王者] 鈴木千裕(日本)
[挑戦者] クレベル・コイケ(ブラジル)

<RIZINライト級選手権試合/5分3R>
[王者] ホベルト・サトシ・ソウザ(ブラジル)
[挑戦者] ヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)

<RIZINフライ級選手権試合/5分3R>
[王者] 堀口恭司(日本)
[挑戦者] エンカジムーロ・ズールー(南アフリカ)

<バンタム級次期挑戦者決定戦/5分3R>
元谷友貴(日本)
秋元強真(日本)

<女子スーパーアトム級/5分3R>
伊澤星花(日本)
ルシア・アプデリガルリム(アルゼンチン)

<フェザー級/5分3R>
久保優太(日本)
ラジャブアリ・シェイドゥラエフ(キルギス)

<ヘビー級/5分3R>
上田幹雄(日本)
キム・テイン(韓国)

<ライト級/5分3R>
矢地祐介(日本)
桜庭大世(日本)

<フェザー級/5分3R>
YA-MAN(日本)
カルシャガ・ダウトベック(カザフスタン)

<フェザー級/5分3R>
武田光司(日本)
新居すぐる(日本)

<バンタム級/5分3R>
大雅(日本)
梅野源治(日本)

<バンタム級/5分3R>
福田龍彌(日本)
芦澤竜誠(日本)

<ヘビー級/5分3R>
貴賢神(日本)
エドポロキング(日本)

<59キロ契約/5分3R>
神龍誠(日本)
ホセ・トーレス(米国)

<RIZIN甲子園決勝戦/5分2R>
横内三旺(日本)
斉藤健心(日本)

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