この星の格闘技を追いかける

【Special】新連載『MMAで世界を目指す』第2回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAに適した体組成とは?」─01─

【写真】鈴木社長はスポーツクラブ運営委託会社勤務、健康運動指導士を経て1998年に名古屋で総合格闘技道場ALIVEを設立。現在は健康経営事業でも活躍中(C) ALIVE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。連載第2回目は「MMAと体組成」について考える。

Text by Shojiro Kameike

<連載第1回「MMAに必要なフィジカルとは?」Part.1はコチラ
<連載第1回「MMAに必要なフィジカルとは?」Part.2はコチラ


——MMAに必要なフィジカルを考える連載、第2回目のテーマは「体組成」です。運動生理学を学んでいないと聞きなれない言葉かと思いますので、まずは「体組成とは何か?」についてご説明をお願いいたします。

鈴木 今回もよろしくお願いします。「体組成」とは、体を構成する成分のことをいいます。その要素とは「脂肪」「筋肉」「骨」「水分」「その他」といったように分類されています。階級制のスポーツであるMMAにおいて、特に減量を考える際にはこの体組成を知ることが重要です。また、前回のテーマであった「フィジカル=体力」について、より認識を深めていくためにも体組成について考えることが大切なんです。

そこで今回は、理学療法士の所澄人君に来ていただいています。所君は病院勤務からパーソナルトレーナーとなり、経営者に対する健康コンサルタントも行っています。その彼に、外部から見たMMAファイターの体組成について意見を頂きたいと思っています。

 「パーソナルトレーニング&姿勢矯正スタジオ ディアローグ」の所です。よろしくお願いします!

鈴木 体組成の中で多くの方が気になるのは体脂肪であり、体脂肪率ですよね。それはMMAファイターも同じです。MMAでは、太短いマッチョパワー系もいれば細長い持久スタミナ系もいます。もちろん、どちらが良い悪いではない。ただバンタム級、つまり61.2キロまで落とすのに180センチのファイターがいたり、160センチ後半でもライト級(70.3キロ)で戦う選手もいるということです。ここで重要なのは——前回もお話したとおり、「いかにして自身の特性を競技ルールに合わせていくか」ということです。

原則として同じ階級であれば、体脂肪率が低い選手のほうが筋肉量と骨量は多いので、MMAに向いているとは思います。そこで今回は所君と一緒に、一般の方の体脂肪率や筋肉量、ならびに他のスポーツ——たとえば体重制限のないラグビーと階級制のMMAでは、何がどのように違うのかを考えていきたいんですね。

鈴木社長と所澄人氏(C)MMAPLANET

 なるほど。一般の方の体脂肪率は、男性の平均が20パーセントで、女性の平均が25パーセントといったところです。男性の場合は25パーセントを超えると「少し肥満ですよね」と言われますし、女性は30パーセントを超えた場合は体脂肪率を調整したほうが良いかと思います。一方で体脂肪率が10パーセント台というのは、一般の方であれば「瘦せ型」と呼ばれ、その上に筋肉がついているのがアスリートになりますね。

なかには「食べても食べても太ることができない」という方もいます。それは先ほど言われた高身長で低体重のアスリートは、もともと「痩せ型」の体質であることが多いです。反対に、いわゆる「ずんぐりむっくり」の体型の方は、放っておくと脂肪が増える。それを踏まえたうえで、MMAではスタミナを重視するのか、あるいは瞬発力を重視するかで調整方法も変わってくると思います。

鈴木 同じ階級制のコンタクトスポーツでもMMAとボクシングを比較すると——MMAはボクシングよりも1ラウンドの時間が長い。しかし試合の総時間はボクシングよりも短い。そんななかで、MMAだけではなく格闘技界全体でいえば、専門のパーソナルトレーナーをつけてフィジカルトレーニングをやったのは、魔裟斗さんが初めてだったと思います。魔裟斗さんはフィジカルトレーニングの中で、400メートルダッシュをやっていて。

一方、格闘技界では昔から「走り込み」が行われていました。毎日何キロと走り込む。しかし走り込みで鍛えられるのは「全身持久力」であり、5分3RのMMAや3分3RのK-1にはそぐわないのではないかと、海外では言われていたんですよ。

 あぁ、それはそうですよね。

鈴木 MMAはお互いに見合いながらドンと打つ、という攻防が多くなります。すると耐乳酸性=無酸素で、瞬発力を鍛えるトレーニングを行うほうが良い。先ほど挙げた400メートルダッシュは、MMAの試合時間に近いわけです。

 400メートルダッシュが一番キツい運動ですからね。無酸素の状態で走り続けるので。

鈴木 海外ではハートレートモニターを着けて心拍数を測ったり、血中の乳酸濃度を測ったりして、無酸素で働く乳酸性トレーニングの体力指数を出していますね。もっと言うと遺伝子検査で、遺伝子的に遅筋が多いか速筋が多いかを調べたり。それら科学トレーニングの土台になるのが体組成なんです。階級制のスポーツにおいては、体脂肪率の少ないほうが筋肉量も多いだろうと考えます。

もうひとつ、彼らのような理学療法士や、我々のようなフィットネストレーナーあるいはフィジカルトレーナーの場合「BMI」という数値を使うことがあります。BMIというのは「体重÷身長の二乗」ではじき出される数値ですね。BMIをもとに考えると、マッチョ系のMMAファイター……たとえばUFC世界フェザー級王者のアレックス・ヴォルカノフスキーは肥満になります。

 そのヴォルカノフスキーというのは身長が低くて、体重は重い選手ですか。

鈴木 そう。身長が167センチほどで、通常対決が82キロぐらいあります。

 一般的に考えると、完全に肥満の範囲ですね。

鈴木 だけど体脂肪率はおそらく15パーセントぐらいで、水抜き前だと10パーセントを切ると思います。多くのファイターは、それぐらいの状態で。お医者さんから見ると、体脂肪率が10パーセントを切っていたら「免疫が下がるのではないか?」と心配するでしょう。

 アスリートでも体脂肪率10パーセントを切る人は、そんなに多くないと思いますよ。でないと、試合で動ききれないスタミナの問題が出て来ます。ボディビルダーの方はスタミナがない。極端に「見せる体」に特化しているので、それはそれで間違いではありません。ただ、スポーツ選手の場合は実用的な体組成ではない。動き続けることを前提に、体力ベースをキープした状態で、瞬間的にハイパフォーマンスを出すことを考えた場合——体脂肪率が10パーセント以上ないと、簡単にいえば「力が出ない」「粘りがない」といった状態になることもあります。

鈴木 アスリート別の体脂肪率でいうと、まず野球選手=8~14パーセントなんです。サッカーの場合は、体脂肪率が6~14パーセント。サッカー選手は試合の中で走り続ける時間が長いので、体脂肪率は低いほうです。それがラグビーになると、ポジショごとに体脂肪率が大きく変わってきます。低い選手は6パーセントほど、ポジションによっては16パーセントになることもあります。結果、アスリートの体脂肪率は平均10パーセントぐらいだと考えられます。一般的には、10パーセントを切ると免疫が下がってしまいます。それがMMAの場合、計量時は10パーセントを切っている選手が多いと思います。決して健康的な状態ではないですよね。

——計量前日に水抜きで体脂肪率を10パーセント以下に落とした選手が、計量後にはどのような状態にあるのでしょうか。

鈴木 それが——体脂肪率の測り方にもよるんです。それは体脂肪を考える際の課題でもあって。たとえばインピー・ダンス法といって、体の中に電気を走らせて体脂肪率を計測するやり方があります。ただ、それは体の中にどれだけ水分を含んだ箇所があるかを測るものであり、脱水状態のなかインピー・ダンス法で測ると、内容も違ってきますね。

MMAでは5キロぐらい水抜きをするファイターもいるじゃないですか。同じ体脂肪率で水を含んだ状態の70キロと、サウナに入って水抜きで65キロまで落とした状態では、必ずしも比較できるものではないんですよ。

 後者は体重が減っているのに体脂肪率は高い、ということになりますね。

鈴木 そうですね。この場合、インピー・ダンス法で測ると「筋肉量が少ない」という結果が出てしまいます。計量の時は、みんな体がバキバキに見えますよね。しかしその状態をインピー・ダンス法で計測すると、体重は落ちているのに体脂肪率が高くなっていることがある。まさに数字のマジックに惑わされることもあります。

 練習の後に体重を測ったら、体重が増えてしまっていることもあるんですよ。あるいは朝と夜では体重が2~3キロ違ったりしますし、夜と翌朝でも変わります。何かといえば、まず体組成を考えるためには、毎日しっかり決めた時間に測り、記録をつけていく。こうした定点観測が必要になるんです。そのほうが体組成のムラはなくなりますから。

<この項、続く

PR
PR

関連記事

Movie