【Special】『MMAで世界を目指す』第8回:鈴木陽一ALIVE代表「UFCの減量食と海外での体重調整」─01─
【写真】RTU現地で主催者から選手に提供される食事。選手の状態によって量は異なるという(C)ISHITSUNA MMA
MMAワールドで勝つためには、フィジカル強化が不可欠となった。この連載では「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく。
Text by Shojiro Kameike
アジアからUFCとの契約を目指す戦い=Road to UFC season1が開催されたのは2022年。ここまで計3シーズンが開催され、2024年は日本人ファイターが準決勝で全員敗退という結果に。そんななかで注目を浴びていたのは、ファイターたちがSNSにアップしていた、現地で主催者から配給される食事だ。UFCは出場選手の食事や減量について、どのように考えているのか――そこから見えてくる、MMAファイターの体づくりにおいて必要なものとは。透暉鷹のRTU2024出場に同行した、林巧馬ISHITSUNA MMA代表に現地の状況について訊いた。
――今回は林巧馬ISHITSUNA MMA代表をお招きして、Road to UFCにおける現地の減量についてお聞きしたいと思います。
鈴木 今年、ISHITSUNA MMAから透暉鷹選手がRoad to UFCに出場しました。映像を視ていると――ALVEの日沖発が出場していた当時と比べてUFCも、明らかに減量や脱水、リカバリーに対するサポートが強くなったように思います。現地ではどのようなことが行われていたのかお聞きしたいです。
林 よろしくお願いいたします!
鈴木 前提として、最近は減量によって倒れる選手が増えています。その中でUFCは食事も含めて、減量をサポートしていますよね。
林 はい。透暉鷹が出場したRTUの場合、まず減量用の食事が主催者から支給されていました。初日は体重チェックとメディカルチェックが行われます。その結果「あなたの体重は今こうだから、こういうメニューで――」と、翌日から食事が支給されましたね。
鈴木 ただ食事が出るだけではなく、体調と体重に合わせたメニューが支給されるのですか。
林 そうなんです。だから透暉鷹と他の選手に支給される食事のメニューは違いました。透暉鷹は諸事情によりウェイトも重い状態で現地入りしたので――小さい野菜、プロテイン、お肉といった程度です。減量が順調な選手には白米も提供されていました。
――それは凄い! まずUFCが行う体重チェックとメディカルチェックは、かなり時間を掛けたものなのでしょうか。
林 いえ、それほどではないですね。現地入りは試合の約1週間前、土日どちらかに入る形だったかと思います。その日は体重とメディカルチェックで、体重計に乗って、スタッフさんから説明を受けて……。翌日から上海PIへ3食を受け取りに行きます。
――食事の提供スケジュールを教えていただけますか。
林 「何時までに取りに来てくれ」と決まっていて、確か朝は7時~9時までの間にマネージャーか選手本人がスタッフルームに取りに行きます。その時に1日3食分を受け取って、部屋の冷蔵庫で保管します。そのスタッフルームに行けば、電子レンジもありました。
――食事の提供はいつまで?
林 水抜き後、計量当日までですね。水抜き用のソルトや、テントサウナも必要であれば支給されます。現地で使わせてもらったテントサウナが良すぎて、日本で買いました(笑)。
鈴木 選手は提供されたもの以外は食べてはダメなのですか。
林 そういうわけではなかったです。果物とか自分が持ってきたものを食べている選手もいましたし。そこから体重を落とせるかどうかは自己責任でもあるので。体重を落とせていない場合は、「これ以外は食べないで」と言われたりします。
鈴木 塩分量とかも、しっかり計算されているでしょうしね。
林 はい。ほぼ味がない食事です(苦笑)。さらに水抜きに入ると、PIが24時間体制で構えてくれていました。残り1キロとか落とせないファイターは上海PIに行き、スタッフも協力するとストンと落ちたんです。
鈴木 それはスタッフのマッサージとか……。
林 サウナとか、そういう設備面ですね。もちろん体調が悪くなれば、すぐスタッフが対応してくれますし。
――それだけギリギリの状態でもストンと体重が落ちて、体調も維持できる設備が上海PIには整っているということですか。
林 これは聞いた話ですが、とある選手が計量直前まで減量で苦しみ、もう全く落ちなくなった。その選手が上海PIに行き、スタッフ総出でサポートしてくれたそうです。一方でウチは上海PIとラスベガスのUFC APEXでの試合も経験しましたが、APEXのほうは上海PIほどのサポートではなかったです。
鈴木 え、そうなんだ。
林 あくまで上海PIと比べて、ですけど……。そもそもUFC APEXも凄く良い対応でした。上海PIが凄すぎたんです。ラスベガスのAPEXは常に多くのファイターが練習に来ているんですよ。僕たちがいた時には、コーディ・ガーブランドが練習していました。だからスタッフも、そこまで手が回らないのかもしれません。
鈴木 そうか、ジムは通常営業中ですもんね。それと比べたら上海PIのほうが、その時練習している選手は少ないだろうし。
林 はい。だから上海PIは凄くサポートは手厚かったですけど、APEXもしっかりサポートしてくれました。ただ、それも文化の違いなのかもしれませんね。米国人の場合は付きっきりではなく「必要なら何でも言ってくれ」という感じで。
――本来はスポーツとして、出場選手の減量にそこまでスタッフが関わることは宜しくないとは思います。しかし上海PIでもラスベガスのAPEXでも、イベントを成立させるためのサポートは実施されているということでしょうか。
鈴木 そういうことですよね。
林 サポートについては日本人選手だけでなく、他の国の選手も同様でした。ただ、松井斗輝選手だけは体のフレームが大きすぎるので、これ以上の減量は無理だと判断されたようですね。
鈴木 そこも利尿剤とかで無理に落とさせるわけではなくてね。ちゃんとメディカルもついて。
林 はい。あとは寝られないとなると、医師に相談のうえで睡眠薬をもらえたり。全て医師を通したものなので問題はないです。
鈴木 まさにパフォーマンス・インスティテュート(PI)だ。
林 食事についても、受け取りに行った時にも体重を測り、その結果によってはメニューも減らされたりします。ちゃんと栄養の専門スタッフもいらっしゃいました。
<この項、続く>