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【PFL CS02】南アフリカでゼニュコフと対戦、泉武志「もう二度と、あの時と同じ想いはしたくない」

【写真】苦悩、葛藤—―オリンピックを目指していたからこそ、気づけることがある。まだまだ、これから(C)SHOJIRO KAMEIKE

19日(土)、南アフリカはケープタウンのグランドウェスト・アリーナで開催されるPFL Champion Series02で、泉武志がロシアのマカシャリプ・ゼニュコフと対戦する。
Text by Shojiro Kameike

昨年はMMAで野村駿太、プログレスルールで森戸新士を相手に2連敗を喫した泉。しかし今年3月にはRIZINでスパイク・カーライルに判定勝ちを収め、再起を果たしている。その泉に、南アフリカで開催されるPFL初出場のオファーが届いた。MMAでは初の海外試合となる泉が、昨年からの苦悩とカーライル戦の勝利に至る道程を語ってくれた。


レスリング時代に経験していることを、また繰り返すのか。また目の前のことから逃げるのか

――今回、PFL出場が決まった経緯を教えていただけますか。

「僕も驚きましたね(笑)。上田貴央さんから『試合が決まったよ』と言われて、RIZINかと思ったらPFLという話でした」

――やはり試合が決まったと聞くと、最初に思い浮かぶのはRIZINだったのですね。前回の試合は3月、RIZINでスパイク・カーライルに勝利していました。

「そうですね。流れ的にはもう一度RIZINに出たいと思っていました」

――カーライル戦後、どのようなキャリアを考えていたのでしょうか。

「僕の中で最高のプランとしては――ルイス・グスタボに良い勝ち方をして、あと1戦必要であれば試合をし、王者のサトシに挑戦させてもらいたいと考えていました」

――その試合ペースでいうと、ベストは大晦日にサトシ挑戦と。

「それが僕にとっては今年最高の流れでした。ただPFLの話が来て……もちろんRIZINでも戦いたいです。だけどMMAに転向した時に決めていたのは、海外で活躍できる選手になることで。そのためにはPFLって最高の舞台だと思います」

――昨年DEEPで野村駿太選手に敗れたあと、カーライルに勝利して1~2戦後にサトシへ挑戦するというプランを立てることができるのは、それだけ今年に入って自信が生まれてきたということですか。

「正直……今考えると野村戦の時は、MMAと向き合う気持ちがかなり低かったです。今はずっとMMAのことを考えていて、練習量も1.5倍ぐらい増やしています。かなり成長してきていると思いますね」

――これは柔道やレスリングからMMAに転向したファイターあるあるなのですが、泉選手ほどレスリングの実績があれば、MMAでも序盤はレスリング時代の貯金で勝つことができてしまいますよね。泉選手の場合はプロデビューから2連敗しているものの、その後は5連勝していて。

「……そうなんですよ。だから驕っていました。一番はプライベートの時間から変わったと思います。格闘技のことを考えていない、という時間は少なくなっています」

――MMAとの向き合い方に変化が生まれたのは、どのようなタイミングだったのでしょうか。

「まさに野村戦の負けがそうでした。このままじゃ普通の選手で終わるぞ、と思って。僕はレスリングでオリンピックに行けず――レスリング時代に経験していることを、また繰り返すのか。また目の前のことから逃げるのか」

――……。

「レスリング時代は、いろんなことに逃げていました。飲みに行ったり、いろんなところへ遊びに行ったりとか。野村戦で負けた時、その頃とまた同じことが起きると思ったんですよ。ここでちゃんとMMAと向き合わないと、同じことを繰り返すだけで。レスリングでオリンピックに行けなかったように、MMAでも上に行くことはできない。これは本気でやらないとマズイと思って、取り組み方を変えました」

カーライル戦では、組めば誰でも倒せるし、寝技でも勝負できることが分かったのは一番の収穫でした

――これも柔道やレスリング出身のMMAファイターあるあるかもしれませんが、ずっとオリンピックに行けなかったことを引きずっている自分がいるのでしょうか。

「メッチャあることですし、僕自身もそうですね。これは『たられば』になってしまいますけど、レスリング時代に上田さんと出会っていればオリンピックに行っていたんじゃないかと思っていて」

――というと?

「打ち込みの大切さ、栄養や体づくりなど全てMMAを始めてから知ったことが多かったんですよ。レスリング時代はとにかくスパーリングばかりで。毎日、練習メニューがスパーリングだけ。打ち込みや技の練習もありましたけど、その時間は少なかったですね。MMAを始めてから、スパーリングよりも打ち込みのほうが大切なことに気づきました(苦笑)」

――なるほど。

「でもこのことを太田忍(泉にとっては日本体育大学の後輩にあたる)に話をしたら、『いやいや先輩、ダメでしょ。僕はあの練習の中でも自分でシチュエーションを考えてやっていましたよ』と言われて。『マジかっ!?』と思いましたね。レスリングでも何でも、強くなる選手はどんな環境でも自分で考えて創り始める。自分で課題を設定し、自身で克服していく。そりゃ俺はオリンピックに行けねぇわ、と思いましたね。アハハハ、自分はただただ毎日頑張っていただけで」

――自分で課題を設定し、自身で克服していく。そこにオリンピックへ行く選手と、行けなかった選手の境目があったわけですね。

「日体大のレスリング部って、部員が80人ぐらいいるんです。大人数の中で、その点に気づいているヤツらだけが突出していくんだなって思いました。

もう二度と、あの時と同じ想いはしたくない。短い競技生活の中で、楽なほうに逃げたらまた同じことになってしまう。だから必死で向き合おうと思ったんです」

――本気でMMAと向き合った結果は、カーライル戦で出すことはできたのでしょうか。

「一番は、組んでも負けないという点が一番の自信になっています。カーライル戦ではテイクダウンできなかった場合のプランもありましたけど、組めば誰でも倒せるし、寝技でも勝負できることが分かったのは一番の収穫でした。

カーライルってRIZINライト級の中でもグラップリングが強い選手だし、体もデカい。そのカーライルをテイクダウンできれば、他の選手も全員倒せると思うんですよね。ただ、アイツは計量に失敗していて――勝っても素直に喜べないところではありますね。ちゃんとした形で勝ちたかったです」

――同じ大会に、前回敗れている野村選手も出場していました。野村選手がグスタボを下した試合については、どのような印象を持っていますか。

「あの時は現地で試合を観ていたけど、『グスタボはどうしたんだろう?』という印象を受けました。いつもより元気がない、覇気がないという表情で。2Rは完全に漬けられていて、『野村選手が相手でコレなら、俺はもっと漬けるぞ。テイクダウンも寝技も俺のほうが強いのに大丈夫か』と」

――それだけ自信が増しているということですね。野村戦の前であれば、そうは感じなかったかもしれない。

「それはそうですね。当時はまだ不安だったと思います。最近はグラップリングが一番伸びてきたので」

――グラップリングの面でいえば、昨年10月にプログレスルールで森戸新士選手と対戦した時は……。

「あぁ~(苦笑)。やっぱりグラップリングルールとなると、勝手が違いました。森戸選手もグラップリングで日本のトップクラスと思うんです。だからもっとスタンド勝負をやりたかった。もっとヘトヘトになって、泥沼でグチャグチャになってから勝とうと考えていました。でも最初に僕が崩していくと、森戸選手が引き込んで――そのまま極められる。『このパターンか』と思いましたよね(苦笑)」

――正直なところ、森戸戦の時はまだレスリングだけで戦っているような印象がありました。しかしカーライル戦では、言われたとおりレスリングではなくグラップリングを見せています。森戸戦とカーライル戦を比較すると、その違いがより分かるはずです。

「ありがとうございます。森戸選手とは、もう一度対戦したいですね。あの時よりも今はもっとグラップリングに自信があるので。森戸選手もMMAファイター狩りを続けているじゃないですか。MMAファイターにしてみれば、あのスタイルは嫌ですよ。だから次はプログレスのパウンド有りルールにしてほしいです(笑)」

――アハハハ、それはMMAです。

「でも海外に行けば、MMAをあのスタイルで戦うファイターもいますからね。そこで勝てるようにならないと」

相手が強ければ強いほど燃える。僕が日本人の可能性を切り開いてきます

――次に対戦するマカシャリプ・ゼニュコフは、まさにダゲスタンスタイルですね。

「いやぁ、メッチャ楽しみですよ。試合映像が少ないから分からない部分もありますけど、まずテイクダウンからパウンドを落とす。相手が嫌がったらRNCに行く。でも基本はグラウンド&パウンドという印象です」

――ゼニュコフに限らず、ダゲスタン系のレスリングMMAはどのように見ていますか。

「全然問題ないですよ。レスリングなら、僕のほうが強いです。彼らもピュアなレスラーじゃないけど、レスリングをやりこんでいるから強い。ただ、僕は五輪クラスのレスラーが相手じゃないと、レスリング勝負なら負ける気はしませんね。でもゼニュコフの場合、最近の試合を視ると打撃の割合が高くなっていないですか」

――確かに。結果、打撃にシフトチェンジしきれていない印象はあります。

「それならそれで、一番ありがたいですね。今回、相手との印象は良いと思っています」

――一方、チームメイトの渡辺華奈選手も勝つのが難しいPFLです。その様子は身近で感じていると思います。

「だからこそ僕はPFLでも戦いたいです。相手が強ければ強いほど燃えるので。華奈さんは僕がMMAを始めた時には、もうベラトールに出場していました。その華奈さんの背中を見て、自分も世界で戦いたいと思ってきましたから。RIZINにも出たいけど、やっぱり世界で戦いたいです」

――PFLとの契約状況は分かりませんが単発契約の場合、快勝すればPFLはもちろんRIZINも放っておかなくなるでしょう。ライト級の中で立ち位置がグッと上がるかもしれません。

「自分にとっては本当に、人生が懸かっている一戦です。まだまだ僕を知らない人も多いと思いますけど、ここでしっかりと勝ち、世界に通用する日本人がいるということを示していきたい。僕が日本人の可能性を切り開いてきます」

■視聴方法
7月19日(土・日本時間)
午後10時45分~ U-NEXT

■対戦カード

<PFL世界ミドル級選手権試合/5分5R>
[王者] ジョニー・エブレン(米国)
[挑戦者] カステロ・ヴァン・スティーニス(スペイン)

<女子フライ級/5分3R>
ダコタ・ディチェバ(英国)
スミコ・イナバ(米国)

<フェザー級/5分3R>
AJ・マッキー(米国)
アクメド・マゴメドフ(ロシア)

<ライト級/5分3R>
マカシャリプ・ゼニュコフ(ロシア)
泉武志(日本)

<ヘビー級/5分3R>
コーリー・アンダーソン(米国)
デニス・ゴルソフ(ロシア)

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